第12話 トモカラ 後編
――曲名は三美神の『I'm the KING』
ラップ調なハイテンポでエレクトロニック楽曲
強気で自信に満ちた歌詞は正に“三美神”を象徴する。
その楽曲を篠宮エミィが歌唱しようとしていた。
彼女はその場から少し空けたスペース
正面のモニターに被るように佇む。
聞き終わった3人の反応は唖然としていて
圧倒的な“華”を感じた。
「エミィちゃん……歌うますぎ!!」
サキが立ち上がって、拍手をエミィに送る。
本人は、胸を張ってひと言。
「そりゃあ、そうでしょ!」
そのまま、ソファに上機嫌に優雅に座る。
「ホントに、上手だった……あのラップの歌詞とか
ワタシなら歌えないし、それに力強い歌声だし……」
隣のカコは鼻まで両手で覆って
驚愕を隠せずに喋り続けていた。
「当然!当然よっ」
落ち着かない様子で
エミィは緑茶の入ったコップを手に取り
ゆっくりと呑んでいく。
「そのエミィさんの自信というものが
しっかり楽曲にマッチし、尚且つエミィさん自身
相当、この曲を練習した結果でしょうかね」
イマはというと、冷静に分析をしつつ
懐からメモ帳を取り出して書き溜めていく。
「えっ、待って!カラオケ初めてなんじゃ!
なんでそんなに上手なの?!」
興奮を隠せないのか、立ったまま
疑問を口にするサキ。
「まあ、エミィの家には防音室があるし
練習をしたのは確かよ
音響機器やら何やらお父様が買い与えてくれたし……」
「なるほど……環境施設は完璧に揃っていた訳ですか」
イマが淡々と受け止めると、烏龍茶を口に含む。
「さ、流石、令嬢様〜」
カコがエミィの横顔を恍惚と眺めると
その目線に気づき一瞥した。
そんな彼女の耳は本の少し赤かった。
「今度、また家に連れてって〜
そだ、ゴールデンウィーク中にお願い!!」
机に頬杖を付いて、ほんのり言ったかと思えば
閃いたようにエミィの顔を覗いて
手を合わせて懇願するサキがいた。
「ま、まあ……しょうがないわね」
「え!ホントに!」
「お父様達のスケジュールとか見てから……
だ、だけれど、エミィは別にいい……わ……」
そんな懇願する彼女を見て、渋々返事をするエミィ。
「照れてます?」
イマが珍しく直球に突っ込んだ。
「なっ!、なにい、何言ってるの新岡イマっ!
エミナが喜ぶからに決まってるでしょ!
べ、別に……エミィ……はっ」
カコは必死に言葉につっかえさせながら
反論する姿を見て
誰よりも微笑んでいた。
「エミィちゃん、耳真っ赤だよ!
面白いのみ〜ちゃった!」
サキが煽りに煽った。
「あ、赤くなんかないわよ……!」
彼女はイマからサキへと目線を動かし反論し
胸の前で両手を組んで、口を尖らせる。
ただ、表情は何処か緩んでいて
それは、イマは見逃す事はなく
ひっそりと目を逸らしていく。
「よーし、次ワタシだから歌うね〜」
カコは選曲機器を操作して語尾を伸ばした。
「なに歌うのー!」
「何歌おうかなぁ〜」
サキが腰を浮かして彼女に擦り寄ってくる。
エミィは手に持ったままのマイクを凝視した後
「はい、櫟木カコ……さん」
「あっ!ありがとう!」
おずおずといった様子で彼女は
カコへマイクを差し出す。
するとカコはニッコリと微笑んでお礼を。
「よぉーし、じゃあワタシはこの曲歌うね!」
そのままの調子で彼女は機器を操作して
モニターの宣伝映像が
移り変わりイントロが流れ始め背景映像が。
「えっ!!あ、綾瀬ツムギ……ちゃん!」
サキがイントロが流れ始め、
そして背景映像でタイトルが出たその瞬間、放った。
「そうそう〜」
「カコのイメージ、ピッタリですね」
おしぼりで手元を丁寧に拭きながらのイマ。
その口元はいつもより柔らかく見える。
「い、……いいじゃない……選曲」
ほんのり呟き、自身の髪を指先で巻いて
モニターを横目でチラチラとするエミィ。
その彼女を一瞥するカコ。
――カコの選曲は
綾瀬ツムギの『可愛いだけじゃ終われない』
“J-POPアイドルの先駆者”と評される
綾瀬ツムギのヒット曲。
90年代風で可愛らしく明るい曲調の
ザ・王道アイドルソング。
本曲はアイドルとしての彼女の
覚悟と自信を綴った歌詞でもあった。
「可愛いだけじゃ終われない♪
私たちの今朝の夢の続〜きを♪」
カコの歌声は女の子らしいソプラノ。
息づかいの印象とタイミング・そして言葉の発音は
叙情的でありながらも、作為性を一切感じない
自然であった。
「皆んなも、歌って!」
カコが、それまでその場に立って歌唱していたのだが
モニターの正面に移動して3人を煽った。
「ラーラーラーラー♪ラララ〜♪」
最初に手拍子をし始めたのはイマ。
そしてそれと同時に一緒に合唱したのはサキ。
「ラーラーラーラー♪ラララ〜♪
ほら、エミィちゃんも」
共鳴しあった3人を傍から見つつ
ただ観客に徹していたエミィであったが
彼女の突然の名指しの煽りによってピクリ肩を動かす。
「えっ、え、エミィ……?」
自分自身の胸に指差した後
流れるように首を縦に振るパフォーマー。
「……ラーラーラーラー♪ラララ〜」
全然、悪い気はしなかったのか。
はたまた妹のエミナが好きな
綾瀬ツムギの楽曲だったからなのか
エミィは徐々に遠慮気味だった
合唱にいつもの自信を身につけさせた
曲は終了し、カコは歌い終わる。
熱気は個室全体に広がっていたみたいにヤケに
笑い声が広がっている。
カコは高いテンションのまま
サキにマイクを手渡し
このボルテージのまま彼女が歌い上げていった。
――1時間後
個室の中にはサキとエミィ、2人。
残りの2人は化粧室に趣いていた。
「はぁー、いっぱい歌った!」
サキはコップに入ったコーラをゴクゴクと呑んで
背や腕を伸ばしていく。
「アナタ……誰が歌っていても合いの手
全力でしていたわよね、よく興奮が途切れない物ね」
「途切れない!途切れない!ぜんっぜん!
それにまだまだ私は歌えるよ!」
エミィは真っ黒なスマホの画面を眼前。
黒の画面に反射で自身の前髪をササっと直していく。
「そ、そう……まあ、体力は
ライブとかで役に立つわ……」
その後ろには、モニターがピカピカと光っていて
アーティストらが宣伝する映像音声が聞こえる。
「エミィちゃんも、褒めてくれるようになったよね!」
サキが直球に放った。
「え、なっ!なによ突然。
エミィだって、ダメ出しだけじゃないわよ!」
テーブルの中心に置いてあった皿には
フライドポテトは僅か、小さくてカリカリの部分である。
「それに、あの時屋上でアナタ方と
初めて会った時は
視野が狭くなっていた時期だったのよ……」
サキは中央に置いていた皿をスーッと自身の元へ。
「ふーん……」
そうすると、チマチマと小粒なフライドポテトを
口に運んで行った。
「で、でも……これも言い訳にしかならないけれど」
エミィは足元の自身の黒のスニーカーを
ジッとして、伏せていた。
「あの時は確かにギスギスしてたかもだけど
だからこそ、ありがと……エミィちゃん」
エミィの髪が掛かった耳に、純粋に入り込んだ声。
彼女がゆっくりと顔を上げると
「……あり、がと……ね」
反芻した言葉。
理解しようと何度も脳内で再生しようと顎に手を添える。
考えた末に出たのが
結論か、感想か
ほろっと彼女は呟く。
「“品定め”…………なんて、馬鹿らしかったわ……」
――その時、扉が開いて2人が帰ってくる。
「ただいま〜イマいま〜」
カコがイマの背後に回って、彼女の肩に手を置いて
まるで運転するように揺らしていく。
「あっ、お帰り〜」
「……おかえりなさい……」
そのまま2人はモニターの前へ。
カコは背後からイマの横にスライドして
嬉々として放った。
「ねねっ、さっきイマちゃんと
2人で話ていたんだけどねっ!」
サキ、エミィは何事かと眼逸らさなかった。
「明日からのゴールデンウィーク!
一緒にショッピングモール行こうっ!」
イマは、いつもよりテンションの高いカコを
横目に腕組みしながら突っ立っていた。
「えっ、いよいよっ!何買う!何するっ!」
サキがその場で立ち上がって食い気味に。
ただ、そんな彼女の反応とは対照的なエミィ。
「あっ、エミィちゃんは……どう?」
エミィはカコを一瞬、一瞥した後
正面の壁を見つめていた。
「え、えぇ……とても嬉しいわ……
身内以外の人と初めて、そういう所に行きますし」
そう話す、エミィは目を閉じて
その後ゆっくりと3人の反応を気しながら放った。
「エミナ……も、一緒に連れてっていいかしら……
アナタにも会わせたいし、会いたがってた……から」
モニターの広告のなんて事ない映像音声が
奇しくも言い放った後の
たった数コンマを強調しているみたいだ。
「えっ、嘘……ホント!
ワタシ、早く会いたかったんだ!」
「え、えぇ!嬉しく思うはずよ!」
カコが鼻元まで手で覆って目を輝かせていた。
「嫌と言う方が可笑しな話だと思いますがね
取り敢えず、応募もG.W中には完了しておきたいですし
気張りましょうか」
イマはその場からゆっくり離れて
定位置に着くと手帳を開き始めた。
「てかてか!何する?何食べる!!」
エミィ、カコは一緒のソファに座り込むと
サキが子供みたいにはしゃぎ
言葉途切れずに候補を挙げて行くのだった。
『HAP SOUNDをご覧の皆さん、こんにちは私達
“一弦なくしたギター”です。私達の
2ndシングル“殉情の泡沫”は――――』
その背景音声に流れる、宣伝映像。
そこに映る四人組の女性バンドグループの声は
4人の耳や目には留まらなかった。
―――とある、ライブハウスの楽屋
長机に4人の奇抜なファッションのバンドマンと思わしき
女性らが騒ぎ立てていた
「いやいやいや笑えないって……辻……
アンタは“一弦なくしたギター”のボーカルで!
バンドの顔なんだぞ。勝手すぎるって!」
スマホを片手に弄る女性が
冷めた空気の中、低く唸った。
「だからこそ……バンドの名前を知らせる為に
やるんだろ、『Girls Storys!』」
◯ 『Girls Storys!』応募者 辻凛
次回更新は明日5月5日 20時!
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下記のYouTubeチャンネルにて
作中楽曲が実際に聴けます!
https://www.youtube.com/@%E7%A7%8B%E6%B5%A6%E3%83%A6%E3%82%A4




