第11話 相互評価
――5月2日 空き教室
高校の空き教室に4人が集まる。
篠宮エミィは黒板に文字を軽快に鳴らし書いていく。
書いたそれは彼女が提唱する『五要の心得』である
仁・華・芸・心・運。
「んで、仁と華は昨日話した通りよ」
エミィが黒板の前で空き教室全体を見渡し
自信気に語尾をあげていた。
仁と華と書かれたその下には前に彼女が
話していた通りの事が書き残されていた。
【“仁”】
人柄、人格や愛想
【“華”】
存在感貫禄性、視覚的の有無
前列の真ん中にはイマ、サキ、カコが
机をくっつけて席に各々座っていた。
「エミィ先生〜続きお願い〜しまーす」
サキがゆるくエミィに尋ねる。
その右隣のカコもゆるーく席で
お弁当の蓋をパカっと開けていた。
「えぇ、いいわ……“芸”これは文字通り
歌やダンスの技術、そして話術などの事よ」
イマはというと、いつも通りに
コッペパンを食べて黒板の文字を凝視していた。
エミィは言ったことを書き出していく
チョークの音が淡々とタンタンタンタンと
鳴り続けて、まるで授業中のようだ。
「それで……“心”」
エミィが少しトーンを落として
自分が書いた“心”の文字を神妙に見つめる。
「心って単純にメンタルのことかなエミィちゃん?」
カコがお弁当の中のタコさんウィンナーを
箸で捕らえて口に運んで言った。
「ええ、そうよ……この時代に関わらず、そしてアイドルに限らずに心は大切よ、これから
どんな道に進んだとしても必ず付き纏う物ですし」
サキは口を曲がらせながら、耳に通すなり
大丈夫でしょ、と言わんばかりにカコの弁当箱を
チラチラと見てアピールしていく。
「少なからずネット社会ですから
自身のケア、リテラシーそして扱いを学ぶのは
必須事項になりつつありますからね」
イマがハムハムとコッペパンを千切って
咀嚼を繰り返しながら応対。
その横のサキは頬を抑えて
「うまっ!なにこの卵焼き!さすがカコっ!」
「よかったぁ〜、甘めに作ったんだ〜」
どうやらカコはサキに弁当の卵焼きを
食べさせてあげたみたいだ。
エミィはその3人を見るなり
眉をピクピクさせると
気の抜けた溜息を吐いて若干の肩の力を抜き
密かに微笑んだ。
「んで……最後の要素は主観的で
他の要素と比べて断然、測りを持ち合わせてないし
上振れも下振れも個人差あるわ――」
3人が黒板を見つめた先。
そしてエミィが、その部分をコンコンと
ノックする様に強調させた。
「――だけれど、これが高ければ
極論、他の四つの要素が低くても
やってのけれる……五つ目は“運”よ――」
説明口調が一層に深まるような
そんな彼女の語りが3人のフンワリとした
空気感を一瞬、震わせた。
「運かあ〜私、結構くじ運いいんだけど
そういうのじゃない?」
サキがその震えた空気の隙を縫うように
口を開くと、両腕を上方に伸ばしていた。
「“運”は人によれば突き放した言い方にしか聞こえないと思うけれど、見方を変えれば機会の幅や成功の道は誰にでもあるというポジティブに変わるわ」
イマがコッペパンを食べ終えて
胸の前で腕を組んで呟いた。
「面白い解釈ですね……」
エミィはその彼女を一瞥して口を緩ませた。
「こう見ると……」
カコが席から立ち上がると
考えるように後ろに手を組んで黒板の文字列を見る。
「五要の心得って芯を丁寧に、それも的確に捉えてるね」
「え、ええ……そりゃ、エミィですから」
そうカコは言うと振り向いて優しく微笑んだ。
そして微笑まれた彼女は戸惑いながらも鼻を高くした。
空き教室の窓から差し込まれた日照は
窓側の席の全てを照らすと、その範囲内に徐々に
4人も飲み込れていく。
「んで、今日の本題は“五要の心得”を実際に自分達に当て嵌めた時にどういう評価になるかですね……」
イマはそのままの態勢で尋ねると、黒板にいた2人は
ゆっくりイマに注目する。
「そうね、評価記号は高い順にA+〜E-かしらね」
「おおっし!じゃあ、私は仁は……あれ、なんだろ?」
サキがドゴっと椅子を後ろに下げたと思えば
その勢いが急激に衰えた。
「当然、自分自身の評価じゃ正確性には欠けますわ。
ですから相互に評価し合った結果に総合評価が決まるわ」
「はぁーい、先生〜」
エミィは答えながら
五つの要素の説明の下にそれぞれの名前を
書き出していくと、隣でカコも倣って手伝っていく。
「まずはエミィからの美鴨サキの評価をするわ……
一応、非難の意図はないですからね」
「はぁーい」「わかりました」「了解です」
エミィは3人の重なった声を聞くと
3人の顔を静かに一瞥。
すると信頼の目を全員自身に向けていたのを理解すると
胸を張って次々に綴っていく。
◯サキ(エミィ評価)
仁B 華B− 芸B 心C 運U
「補足すると、UはunknownのUです。
つまり、不明または曖昧でエミィが
まだ、現段階では捉えられていない部分ですわ」
その評価を目にしたサキは
「なるほどなるほど」と呟き、しっかりと
受け止めていた。
次にカコとイマがチョークを手に取った。
カコは申し訳なさそうに書いて行った。
イマは淡々と書き綴る。
◯サキ(カコ評価)
仁B + 華B 芸B 心B 運B
◯サキ(イマ評価)
仁C 華C+ 芸B- 心B 運B
全員の全ての評価を見たサキの反応は
「案外、無難……?」
3人の評価はあっさりとしていて思っていたよりも
良い結果だったのか嬉しかったのかドヤ顔を披露した。
「まあ、現段階ではそうですね……」
イマが淡々と黒板前で
呟くとエミィがその横で総合評価も書いていく。
◯サキ(総合評価)
仁B 華B 芸B 心B- 運B
「まあ、こんな感じで決まるわけだけれど
ドンドンやっていっていいわよね?」
エミィが指揮を取ると、そのまま形式は変わらずに
黒板に4人がそれぞれに相互評価と総合評価を
まとめていく。
◯エミィ(総合評価)
仁C+ 華A 芸U 心B- 運U
◯イマ(総合評価)
仁C 華C 芸E+ 心B- 運E
◯カコ(総合評価)
仁B+ 華C 芸B- 心E 運B
その結果を黒板の一歩、二歩下がったところで
全体を俯瞰している4人。
全員、苦虫を噛んだような渋い表情をしていた。
「なんか……アレだね
現実的だなあって」
サキが少し笑い声を堪えてるように言い放った。
「で、でも、伸び代とか弱点とか
何をするべきか分かった気がするなあっ〜……って…」
カコが誰をフォローする訳でもなく
この空気感を察して手を胸の前で合わせて言い放った。
「いえ、それより問題なのが――」
イマが黒板の前で全員の前に出て確信突いた。
「お互いの、深い技術的な部分などが見えて
いなかった事ですね――基準も皆、それぞれですし」
「んね〜なんか、微妙だなあって〜
皆んなに真っ直ぐな評価もらってもなんかなぁって」
サキがぶっきらぼうに。
そのままブラブラと身体を揺らして見せる。
「アハハ……仲良すぎちゃったのかなあ〜なんて……」
カコが控えめに。
そして揺れるサキを遊ぶように掴んで揺れを抑える。
エミィはというと
顎に手を添えながら眉を下げていた。
「エミィとアナタ方とは期間が短いのも
起因していますわね……
当然、それも含めての評価ですが――」
いつもの強気な彼女の雰囲気が鈍く感じる。
それを察知する3人は彼女を見取る。
「これは、まあ……エミィの一つの考えとして
提案しただけに、すぎませんから……」
肩を落としながら黒板消しを
持って、書き出した全てを消そうとする彼女は
どこか煙を出していた。
「じゃあさ!!それならさ!」
日照が退いて、本来の空き教室の暗さが
際立ったタイミングでサキが爽快にパッと
その声を響かせた。
「お互いに知ろうよ!今日からでも今からでも!」
エミィが振り向く。
その突然な提案に期待を寄せる様に……
または、驚く様に。
「なんとっ皆んな!
明日からゴールデンウィークだぞぉ!」
「あぁ!そうだねサキちゃん!」
カコが不意を突かれたみたいだ。
段々と明るい物が伝染する様にイマも
今までのシリアスな面持ちが緩和していく。
「そうそうそう!今日の放課後からが
ゴールデンウィークって言っても過言じゃない!
行こう、カラオケ!いや、行くぞっカラオケ!!」
エミィは黒板消しを不意に落としてしまった。
そして目を閉じて
深呼吸をして
ゆっくり目を開けた。
「カラ…………オケ……ですって……」
次回更新は明日5月3日 20時!
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