第8話 ファーデン
―――『Girls Storys!』の応募要項と概要―――
4月6日のオーディション開催発表を皮切りに5月31日の約1ヶ月の間、応募者募集。
応募資格
年齢;15歳〜20歳までの夢見る少女
(2023年4月時点)
経験;不問 (ダンス経験、歌唱未経験も可)
所属;プロ•アマ、事務所所属の有無は問わず
その他;オーディション開催期間の長期的な審査の為、施設への宿泊が可能の方。
応募後の審査の流れは以下の通り。
①応募
②書類選考
③一次審査(実技、面接)
④二次審査
⑤三次審査
⑥最終審査
5月31日の締切後、運営側が責任を持って
次世代のガールズアイドルを選考する
「書類選考」を行います。
結果は事前に通過者には個別で連絡した上で
6月19〜30日にて都内某所で一次審査を致します。
書類選考通過者は後日、運営が送信する案内メールに指定された日時と会場にお越し下さい。
一次審査通過者は「候補生」として公式ページに指名と顔写真を掲載させて頂く運びになると同時に
『Girls Storys』の密着ドキュメンタリーの主役として出演していただきます。
なお、4月28日、事務所公式動画配信サービス
各生放送枠にて一次審査以降の
“オーディション全容および宿泊施設の詳細”
を発表いたします。
応募方法
WEB応募フォームにて下記の情報を入力して下さい
•氏名、年齢、身長、体重
•お住まいの都道府県
•自己PR(趣味・特技や意気込みなど)
•写真2枚(バストアップ・全身)
※写真は3ヶ月以内に撮影したもの。
加工などの使用は控え、顔がはっきり分かるもの
注意事項
•審査過程での交通費は自己負担となります
•オーディション参加費、所属費、施設使用費、宿泊費、レッスン費は一切かかりません
・未成年の方は必ず保護者の同意を得てから応募ください。
ご自身の登録アドレスに
応募完了メールが届きますと
応募は無事に完了しています。
―――――――――――――――――――――――
――――4月24日 いつもの屋上
3人は円を作り、お互いのスマホを中央に差し出す。
どうやら改めてオーディションの応募要項を確認していた様だ。
「……二人とも、理解できましたか?」
二人に内容の是非を問うイマ。
どうやら応募要項を説明していたらしい。
彼女はスマホをポケットに戻すと
他の2人もゆっくりと手を引いていく。
「うんうん……なるほど」
サキが口をすぼめて、渋々と声を漏らす
カコはというと
「ワタシは何度も読み返しているから大丈夫!」
と口角を上げて、イマを見つめ
人差し指と親指で輪っかを作り
オッケーポーズを取った。
「サキは……?」
「あ、うん!分かってるよ!本当に!」
イマがまた訊ねるとサキは首を大きく縦に振る。
それを見てもイマは目を細めている。
「でも、これでやっと応募できるね!」
「ええ、そうですね……
思えば色んなことが起こりましたね」
「アハハ……なんかごめんね2人とも」
カコが頭を2、3回、2人に下げた。
だが、その謝罪は重っ苦しい物ではなく
過去の事としてスッキリとした雰囲気であり
一種の濁しだ。
「何言ってるんですか、時間が掛かったのは
アタシやサキも変わりはないですし、それが前提としてアタシは提案しましたから」
「いや〜でもエミィちゃんとのはビックリしたよねぇ〜いきなりドンッて屋上に来て〜」
サキがニコニコと半笑いになった
その瞬間
――ドンッ!!
「あら、呼んだかしら?」
「うわっ!エミィちゃーん!」
篠宮エミィが屋上にやってきた。
派手な登場をしたエミィに歓迎するサキ。
ハグをしようと彼女が擦り寄って行くが
それより速く一目散にカコの元へ
神妙な顔で近づいていくエミィ。
「……本当にあの時は
ごめんなさい、櫟木カコさん!」
エミィはカコが座っていたベンチの目の前に立って、丁寧に謝罪をした。
「エミィちゃん……」
ゆっくりと顔を上げるエミィ。
しっかりと向き合うカコ。
「許してなんて言わない
ただ謝罪をさせて欲しいの……」
「うん……」
「エミィが愚かだった、本当に
誰かの……アナタの夢や理想は誰にも
否定されるべきじゃない……」
自身の胸に手を置き彼女に心境を伝える
エミィの顔には微かな哀愁が。
「深い傷を付けてしまったこと……
そして無神経で最低な事ばかり言ってしまって
ごめ――」
その時、カコが少し顔をほころばせ
フフッと小さく笑みをこぼした。
その様子を確認したエミィは自身が何か変な事を言ってしまったのではないかと、不安な顔を覗かせた
「気にしてないよ、エミィちゃん!
もう、吹っ切れたからさ……」
「吹っ切れ……た?」
「うん、その時は確かに傷付いて塞ぎ込んだけど
そのお陰か、ワタシに何が足りないのかとか
自分の現在地を確認できたんだ……」
カコはそう語りながら
サキとイマを順々に目にして
絆や想いを分かち合う様に笑顔を見せた。
その2人もまた微笑んでいた。
「だからさ……むしろ、ありがとエミィちゃん!」
エミィは、その晴々しい姿を見るや否や
呆気に取られていた。
自分自身の最低な発言で酷く心に
傷を付けてしまった女の子が、こうも立ち直れて
――そして今、笑顔を見せている事に。
「って事ですので
身軽になって下さいエミィさん」
「そっ!次はエミナちゃんにカコを紹介しようね!
いやいや!やっぱ今すぐ紹介するべきだね!」
イマとサキが温かい空気を乗せて間に入る。
「そう……なのね……」
3人の恨みや憎しみの無い寛容な姿勢に
エミィは胸撫で下ろして、安堵の表情だ。
「ワタシもエミィちゃんの妹ちゃんに会いたいなぁ〜良い子でアイドルに物凄い愛がある子だって
聞いて楽しみなんだ〜」
「ええ、もちろん、エミナも喜ぶわ……きっと」
そんな約束を交わすと
暖かい陽だまりが徐々に広がり
遂には屋上にいる4人を照らした。
「よいしょと……」
カコは、その場に立ち上がり屋上のフェンスまで
ゆっくり練り歩いていくと
するとサキが理由もなくカコに飛び付いて行った。
「エミィちゃん、今ねワタシ達ね」
出入り口付近で固まっていた2人が
その彼女の後ろ姿を見る。
「『Girls Storys!』の応募要項を読んでいて
応募するぞぉ〜って意気込んでいたんだ」
「そそ!色々と読んでいたんだ〜」
エミィはその場で動かず。
イマはそのまま懐からコッペパンを取り出して
何を言うわけでもなく
ハムッハムッと自動的に食べていく。
――カコは、とある提案をエミィに持ちかけた。
「よかったらさ……
“仲間”として“友達”として……
ワタシ達と一緒に目指さない?」
カコが一拍子、空を見上げてから
エミィに振り向き尋ねた。
「オーディションの“頂点”へとさ」
再び雲の隙間から顔を覗かせた太陽が
彼女を照らし余計に眩しい。その自然現象に
黒目を大きくし照らされた表情を注視するエミィ。
「……仲間…………」
ポツリと呟くエミィ。
その一言は彼女が長年追い求めていた存在であり
「…………友達……」
彼女達といつかはそんな関係になれたらと
密かに願っていた事が漏れ出た結果である。
「エミィちゃんは、ワタシ達とは違う方向性で本気の熱量があって、考えがあって……これって、もしかしたらお互いに研鑽できるんじゃないかなって」
カコが続けると、サキが近寄ってくる。
「そそ!私は大賛成!その方がもっと楽しく
皆んなで夢を追えるんじゃないかな!?」
強引にも、優しくサキは考え込むエミィに握手する
一押しするような綺麗で真っ直ぐな目線が
またエミィの目を細めるばかり。
「アタシも賛成ですね……」
イマがコッペパンの袋を折り畳みながら
サキの興奮の最中、さり気無く告げる。
「そう……3人共、歓迎してくれるのね」
「もちろん、ウェルカム!ウェルカムだよ!」
それぞれ3人の嘱望が懇願が
そして自分自身が感じる
彼女達への一種の安堵感のような物が
「なら……なら!」
――エミィは手を胸を張った。
「此処からは、遠慮なくいかせてもらいますわ!
エミィが入ったからには――」
エミィは心に区切りを付けれたのか
「――豪華客船に乗った気分で!
エミィと横並びで駆け抜けるわよ――」
柔らかな顔色で強気な自信家で野心家の
彼女が現れた。
「『Girls Storys!』完全制覇までね!
なにせ、天下を取る篠宮エミィなのだから!!」
本来の彼女。最初に出会した時の様な調子の彼女。
その姿を3人は見合って喜び暖かく迎えた。
――――――サンセット事務所 会議室
時は遡り2月末のこと。
白い壁に長机、キャスター付きの椅子。
そこにズラッと座る数多の会社の重役達。
正面にはホワイトボードにプロジェクターで映し出されたスライド資料の1ページ
“大型施設ファーデン”の文字が。
その場には鉛のような重い空気が漂っていた。
「“ファーデン”ねぇ……
前々から建設していたんでしたっけ?
結構、掛かりましたけどもねぇ」
サンセット事務所が『Girls Storys!』にスポンサー協力を要請した会社各位であり
今回はスポンサー向けの
最終説明会によって招かれた。
「はい、今回の施設は『クローバー芸能事務所』『エルファーズ事務所』と弊社の令和を代表する芸能事務所が共同出資で建設を担いまして」
多人数の大人を前にボード前に立ち
「実に5年も前から水面下で行っていました」
彼らにプレゼンをするのは
「それだけオーディションにて大きく活用する施設であり、重要な存在であります」
取締役会長の“立浪小次郎”である。
短髪で清潔感があり、細身のフレーム眼鏡。
知的な雰囲気と生真面目さが同時に味わえる。
これで齢53才であり会社に欠かせない砦だ。
「ま〜あぁ対したもんだよね?
東京ドーム2個分の敷地面積だって?」
1人の重役が事前に渡されていた資料を持ちながら
放った。それは皮肉なのか純粋な賞賛なのか。
「はい、そうなんですありがとうございます。
今回のオーディションは、ただの次世代を発掘し育成する。そんな次元ではございません……」
一つ間を取って、プロジェクターに映る
スライド画面が切り替わると
――彼らが口々に言う
“ファーデン”の全貌が明らかになった。
「これは、まだ完成ではないのですが
こちらが“ファーデン”です」
部屋には、ザワザワと震える。
その声は事前に渡されていた本件の完成予想図とは
斜め大きく上を行く、壮大かつ存在感を
放っていたからだ。
「これは……私達がアイドル業界や芸能界に関わらず全てのジャンルのエンターテイメントを席巻し大きく賑わす、社運を賭けた儀式でございます――」
次回更新は来週24日金曜日20時!!
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下記のYouTubeチャンネルにて
作中楽曲が実際に聴けます!
https://www.youtube.com/@%E7%A7%8B%E6%B5%A6%E3%83%A6%E3%82%A4




