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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第3章 憧れに至る道 (姫愛視点)
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3-26. 成長の壁

転移と浮遊を教わった私は、柚葉ちゃんと戸山ダンジョンに行こうとした。そしたら、柚葉ちゃんは、箱を返してくるから待っててと言って転移していった。しばらくすると、柚葉ちゃんが転移で戻ってきた。

「お帰りなさい、お師匠様。どこまで行ってきたのですか?」

「ただいま、愛子さん。剣を借りていた東の封印の地です」

「東の封印の地って清華ちゃんの家ですよね。三鷹ですか?」

「三鷹は学校に通うための家で、清華の実家は伊豆半島ですよ」

「は?」

柚葉ちゃんは、伊豆半島まで転移してきたってこと?自分と違い過ぎて目が点になった。でも、藍寧さんもそれくらいやりそうだし、私の力不足ということですか。

「あ、いえ、良いです。ダンジョンに行きましょう、お師匠様」

柚葉ちゃんと私は戸山ダンジョンに向かった。私は転送できる剣を使えるようにはなったけど、相変わらずカモフラージュのために剣も盾も持って行く。

ダンジョンの入り口で受付を済ませ、中に入る。入る前に、柚葉ちゃんはどこかに電話して、お願いをしていた。これから斃す予定の魔獣の処理を依頼していたのだと思う。

「お師匠様、これからどうしますか?」

中に入ったところで、お師匠様に今後の動き方について確認した。

「そうね、適当な魔獣でアバターの力を見ましょうか。ちょうどクマみたいなのがいるから、そっちに行きましょう」

「ああ、はい、右奥ですね」

一応、私にも目標が見える。

10分ほど歩くと、目当ての魔獣が見える位置に着いた。

「愛子さん、アバターに変えて。アバターでも剣は転送できますよね?」

私は、身体と意識を切り替えてアバターの姿になった。そして剣を呼び出してみる。

「大丈夫です。剣はアバターでも転送できます」

「うん、それじゃあ、あのクマみたいな魔獣を斃してみて」

アバターの体に力を満たして身体強化を掛け、剣にも力を乗せながら魔獣に向けて駆ける。魔獣が私に気が付き、体を起こして前足で攻撃しようとしてくるが、余裕で掻い潜って後ろ足の付け根に一撃を加える。すると、魔獣の体勢が崩れ、倒れこんだので、後ろに回り込んで首筋を刺し貫いた。アバターの力に加えて身体強化し、力を乗せた剣を使うとこんなに簡単に行くのかと感動した。

「愛子さん、じゃあなくてロゼでしたっけ、鮮やかな斃しっぷりですけど、アバターの身体能力のおかげですね。見たところ、力の強さは変わっていないようですが」

「そうでしょうか」

「もっと分かり易くするために、今度は斃すときに光弾陣や防御障壁を使ってください。そうすれば、力が強くなったかどうか実感できるでしょう」

「そうですね。じゃあ、この先にいるイノシシのような魔獣で試します」

「はい、それで」

柚葉ちゃんは、いま斃した魔獣をどこかに転送してから、次の魔獣の方に向かって歩き始めた。私は、魔獣を斃したその場で、手応えを感じながらも、柚葉ちゃんの言葉を頭の中で考えて消化するのに少し時間を要して出遅れた。ただ、どこに行くのかは分かっていたので、走って柚葉ちゃんに追い付き、並んで歩き始めた。

イノシシのような魔獣のところまでは、それほど時間が掛からなかった。過去、このタイプの魔獣には、悉く防御障壁を破られてきた。確かにこの魔獣で試せば、力の変化は分かるに違いない。

私は魔獣の方に近づいていった。魔獣が私に気が付いて攻撃態勢に入ろうとしたとき、私は魔獣との間の前方少し離れたところに防御障壁を張るとともに、光弾陣を左手の指先に描き、力を込めて弾を撃つ準備をした。

魔獣は、そんな私の動きに構うことなく、私目掛けて突進してきた。そして防御障壁にぶつかり、破った。そこで私は力を溜めていた光弾陣を魔獣の鼻先に向けて撃った。しかし、魔獣に大きなダメージを与えることができず、魔獣は突進の勢いを削がれることなく、そのまま私に向かって走ってきた。

私は魔獣の突進をジャンプで回避しつつ、魔獣の背中側から首筋目掛けて力を乗せた剣を突き立てた。力の乗った剣を身体強化したアバターの筋力で押し込めば、余裕で魔獣の首の骨を断ち切り、魔獣を斃すことができた。確かに、向上したのはアバターになったことによる身体能力だけで、力の方は変化が無かったのかも知れない。

「ロゼ、どうでしたか?」

「そうですね、身体能力は上がっていますけど、力は増えていないようです」

「ええ、現状その通りなのですけど、何かがおかしいです」

「どういうことですか?」

「アバターの身体は、力の通りが良い身体と言って作ってもらった筈なので、本当は増えて良かったのです。でも、増えている様子が無い」

「最初から力が少なかったのではないですか?」

「いえ、創られし巫女は、アバターを創った存在の力を借りている筈なので、それが弱いとは考え難いです」

「じゃあ、どこに問題があるのですか?」

「たぶん、ですけどロゼの意識でしょうか。心の問題なのかも知れません」

え?私の心に問題あり?

「一度試してみましょう。手を繋いでください。転移しますから、体を楽にして」

私が柚葉ちゃんの手を握ると、柚葉ちゃんは転移陣を描いた。柚葉ちゃんの手に引っ張られて転移する感覚に身を任せると、ダンジョンの中の違う場所に出た。探知をしてみたが、私が来たことのない場所のようだ。

「お師匠様、ここは何処ですか?」

「ダンジョンの第五層」

「いきなり第五層ですか」

「ここまで来ないと、大型の魔獣がいないから」

「大型の魔獣と戦うんですね」

確かに、近くに大型の魔獣の気配がする。柚葉ちゃんは、最初からここを狙って転移したのだろう。

「はい、戦ってみてください。いざという時には、私がフォローしますから、好きなように戦って貰って良いですよ」

「やってみます」

私は魔獣の方に向かった。そこにいた魔獣は、大きなカメのような魔獣だった。体は象よりも大きく、堅い甲羅に守られて力が無いと攻めるのが大変そうだと一目で見当が付いた。

「さて、どうしよう」

相手を見ながらどう攻めるか考える。と言っても攻撃できそうなのは、顔か足しかない。足を攻撃してもそれほどダメージが与えられるとは思わないけど、頭を攻撃するにも時間が掛かりそうなので、まずは足を止めるべきか。

私は最初の攻撃目標を魔獣の右前足に定めて、剣に力を乗せて迫っていった。魔獣は足を上げて攻撃してくるけど、足を振り下ろすタイミングを見て、下ろした足に剣を打ち付ける。傷を付けることはできたものの、深手にはなっていない。私は何度も攻撃を繰り返した。魔獣の動きが遅いことだけが幸いだった。

しかし、ゆっくりでも魔獣は前に進み、その歩を阻めない私は、徐々に壁際に追い詰められていった。そして、攻撃が全然効かず焦っていた上に、背中がダンジョンの壁に当たってそれ以上後ろに下がれなくなった私はパニックになり、魔獣の前足に踏み潰されそうになった。

瞬間、私は手を捕まれたかと思うと、何かに吸いとられる感覚があり、気が付くと視界が変わり、魔獣の尾と右の後ろ足が見えていた。

「ロゼはここで見ててください」

私は、柚葉ちゃんに転移で助けられたことを悟った。自分で転移することも忘れてしまうなんて、私はどれだけパニックに陥っていたのだろう。

柚葉ちゃんは指先に光弾を出して飛ばし、魔獣の頭にぶつけた。その一撃で魔獣が柚葉ちゃんに気が付いたようで、ゆっくりと向きを変えている。柚葉ちゃんは、わざわざ魔獣が向きを変えるのを待っているようだった。

魔獣がこちらに向きを変え終わり、前に進み始めたのを見た柚葉ちゃんは、その手に剣を呼び出し、力を乗せた。その力の光は、私が剣に力を乗せたときよりも明らかに輝いていた。

柚葉ちゃんは、ゆっくりと魔獣に向けて歩を進めた。私とは反対に魔獣の左前足に向かっているみたいだ。

魔獣の攻撃圏内に柚葉ちゃんが入ると、魔獣は左前足を振り上げ、柚葉ちゃんに叩き付けようとした。しかし、柚葉ちゃんはスルリと足の後方に抜けるとすぐに振り返ってジャンプした、そして、剣を振り下ろす。そのとき、剣に乗っていた力の輝きが更に増したように見えた。剣は易々と魔獣の前足の皮を切り、肉を断っていく。その剣が足の下側に抜けたと思うと、足は胴体から切り離されていた。

柚葉ちゃんは、そのまま魔獣の頭に回り込んだ。そして、攻撃できない魔獣の鼻先で立ち止まり、剣を持っていない左手を持ち上げ、手を握り、人指し指だけをピンと伸ばした。すると、その指先に光弾陣が描かれた。光弾陣の先には光弾が現れるが、大きさは指先より一回り大きい程度でしかない。でも、その輝きは非常に眩しく、大きな力を秘めているように見える。

魔獣も私と同じように思ったのか、甲羅の中に首を引っ込めて防御の姿勢に入った。柚葉ちゃんは、そんな魔獣の動きに構うことなく光弾に力を込めている。そして、臨界に達したのか、柚葉ちゃんが十分と判断したからなのかは分からないが、光弾が放たれた。

弾は凄い勢いで魔獣の頭にぶつかり、頭の中にめり込んだ。次の瞬間には尾から光が飛び出して、散っていった。どうやら、魔獣の体を貫通したみたいだ。魔獣の残された足から力が抜け、斃したのだと言うことが分かった。

凄かった。実質、光弾の一撃で斃せていた。前足を切り落としたのは、私に力の差を見せるためだったとしか思えない。私は、柚葉ちゃんとの間に余りにも大きな力の差を感じて、落ち込んだ。

「お師匠様、凄かったです。自分の力不足を心の底から実感しました」

「本来、ロゼなら同じことができると思っています」

「え?私には、出来そうもないです」

「まあ、そう言っているうちは無理でしょうね」

「考え方次第ということですか?」

「まあ、そうなのですが、闇雲に考え方を変えれば良いと言うことでもないのです。ロゼは巫女の力の本質を知る必要があるでしょうね」

「巫女の力の本質ですか?」

「そう、巫女は本来護るために存在しているのです。それがどういうことかを理解しなければいけません」

「それはどうすれば理解できるのですか?」

「それは人それぞれなので、誰も教えることはできません。ロゼなりに模索してもらうしかないです」

「はい」

私は、壁に突き当たってしまった。どうやったら壁を乗り越えることができるのか、見当も付かず、茫然としていた。


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