3-27. 力の本質
夜、陽夏からチャットが来て、柚葉ちゃんに聞く話がどうなっているのか聞いてきた。
私が、ショックなことがあって聞けてないと返事をしたら、何があったのか明後日に聞かせてとのことだった。
陽夏にどう話したものか悩んだけど、取り敢えず了解の返信をしておいた。
水曜日、撮影をして、陽夏と夕食を食べに出た。料理を注文すると、早速陽夏が聞いてきた。
「ねぇ、姫愛、何があったの?」
「アバターを使っても、全然力が増えてなかったの。大型の魔獣相手に手も足も出なくて、パニックになって、お師匠様に助けられた。そんな魔獣をお師匠様は、ほとんど一撃で倒しちゃって、力の差を凄く感じたわけ」
「それで落ち込んでいるんだ」
「それもなんだけど、これからどうするのが良いのか分からなくなっちゃって」
「お師匠様は、何か言ってくれなかったの?」
「こればかりは、お師匠様でも難しいって、私の心の問題だからって。巫女の力の本質を知らないといけないって」
「巫女の力の本質ね」
「正直どうしたら良いのか分からなくて、困ってる」
「そうなんだね」
陽夏は考える風になった。
「姫愛はさ、巫女の力が何かは聞いてないの?」
「護りの力だって聞いたことがあるけど」
「何を護るのかな?」
「それは、普通の人だと思うけど」
「じゃあ、何から護るんだろ?」
「魔獣から護るんだよね?」
「姫愛って、人を魔獣から護ったことあるの?」
「え?」
言われてみると、力を得てから、普通の人とダンジョンに入ったことは無かったかも知れない。
「無いような気がする」
「だったら、分からないんじゃない?」
「そ、そうかな?」
何か嫌な方向に話が進んでいるような気がしてならない。
「そうだよ。だからさ、私が一緒に行ってあげる」
「何処に?」
「勿論、ダンジョンにだよ」
やっぱりそうなったか。
「陽夏、ダンジョン探索ライセンス持ってないって、言ってなかった?」
「うん、まあ、そうは言ったんだけど、実は持っているんだよね。ダンジョンに行きたくなかったから、持ってないって言ってたけど、姫愛のためなら行くよ」
「そんな無理して行って貰うわけにはいかないよ」
「良いの、大丈夫。もう決めたから。明日の仕事前だとあまり時間がないから、明後日の朝ね。姫愛が良く行ってる戸山ダンジョンで。良い?」
「わ、分かった」
陽夏に押しきられてしまった。陽夏の言うことも分かるけど、今の状況で、陽夏を護りきれるのか、私はとても不安だった。
夜、家に帰ってから、柚葉ちゃんが起きていればと思って念話したら、返事があった。
『愛子さん、どうかしましたか?』
『明後日、陽夏をダンジョンに連れて行くことになってしまって』
『陽夏さん?』
『私の仕事上のパートナーなんだけど』
『ああ、はい、良いんじゃないですか?護る経験を積むことは愛子さんにとって良いことだと思います』
『そうなのかもだけど、心配というか、不安というか』
『愛子さんは強くなりたいのですよね?』
『なりたいよ。なりたいんだけど』
『だったら協力してもらえると言って貰っている以上、やらない手は無いですね』
『それでもさぁ』
『じゃあ、課題をあげましょう。どこのダンジョンに行くのですか?』
『戸山ダンジョンだけど』
『では、陽夏さんを第五層まで連れていって、大型の魔獣を一体斃してきてください』
『は?私、昨日全然歯が立たなかったのですけど』
『大丈夫です。第五層に着くまでに、巫女の力の本質に気付ければ勝てますよ』
『そんな無茶なぁ』
『愛子さんには無茶も必要だと思いますよ。あ、そうそう、途中で出会って斃した魔獣の処分については、私がいつもお願いしているところに話を通しておきますので、明日転送用の転移陣を教えますね。あと、武器と防具とヘルメットは、学校で皆が使っていたものを貸しますので、明日それも合わせて持って行きますね。明日の夜、家に帰ったら連絡ください』
ああ、あれよあれよと柚葉ちゃんに決められてしまった。何だかもう逃げ道が無くなってしまった。
『はい、よろしくお願いします。お師匠様』
私はガックリと項垂れて、シャワーを浴びてからベッドに入って寝た。
金曜日の朝、戸山ダンジョンに向かうと、陽夏はもう到着して受付を済ませていた。ミディアムの髪に、半そでポロシャツにキュロットスカートという動き易い格好だ。いや、そんな薄着で大丈夫なのかと不安がよぎる。武器と防具は貸せるものがあるのを伝えてあったので、手ぶらの状態だった。
「おはよう、陽夏。早いね」
「うん、まあ、ちょっと興奮していたのか、早くに目が覚めてしまって」
「え?そんなにワクワクしていたってこと?」
「そうだね。姫愛の活躍はどんなもんかなぁって、考えてた」
「やめて、陽夏に想像されていたかと思うと恥ずかしいから」
「はいはい。じゃあ、行くわよ」
「ちょっと待って、連絡しないといけないところがあるから。あとこれ、陽夏用のヘルメットに盾に剣ね」
「ありがとう。でも私、攻撃するつもりないから、剣は要らないと思うんだけど」
「お願いだから、安全のために持っていて」
「うん、分かったよ」
私は昨晩柚葉ちゃんから貸してもらった、武器と防具一式を陽夏に渡した。それから、陽夏に教えながら柔軟もやった。一通りの準備が終わると、私は柚葉ちゃんに念話でダンジョンに入ることを知らせてから、陽夏を伴ってダンジョンに入った。
「それで、姫愛、これからどうするの?」
「実は、お師匠様から課題を与えられてまして。陽夏を連れて、第五層まで行って、大型の魔獣を一体斃せとのことです」
「おお、いきなりその課題とは、お師匠様はスパルタだねぇ」
「感心している場合じゃないでしょ、陽夏。危険な目に会うってことだよ」
「でも、姫愛が護ってくれるんでしょ?」
「そうだけど」
何か、陽夏もお師匠様と同じくらい、私に厳しいんですけど。
「それじゃあ、第五層に向かって行くよ、姫愛。道は分かるの?」
「うん、探知で見えているから」
そうして私たちは進み始めた。
第一層では、魔獣はほぼ単独でしかいないので、苦労はなかった。第二層に降りると、ところどころ、魔獣の群れが確認されるようになった。でも、私はそんな群れを避けるように進もうとしていたのだけれど、そんな私の動きを察知したのか、陽夏に怒られた。
「ねえ、姫愛、あなた魔獣の群れを避けようとしていない?」
「え?そ、そんなことは無いと思うけど、どうして?」
「魔獣の群れに出会うことがほとんど無いから、何となくそう思っただけだけど、合ってるんでしょ?」
「い、いやあ、そのぅ」
「あのさ、姫愛、ここには何をしに来たんだっけ?」
「陽夏を第五層まで連れて行って――」
「そうじゃないでしょ。姫愛が巫女の力の本質を知ろうとして来たんでしょ。魔獣の群れを相手に私を護らなくてどうするの?」
「いや、ちょっと、危ないかなぁって」
「ここで避けていって、この先どうするつもり?どんどん群れが大きくなったり強くなったりするんじゃないの?」
「そ、そうだよね」
「駄目だよ、姫愛。逃げていたら、いつまで経っても問題は解決しないからね」
「わ、分かった」
私は渋々魔獣の群れの方に向かった。
まずは順番にと、魔獣が二体いるところから始めた。だけど、魔獣が二体の場合は、私が一体相手をしている間、陽夏にはもう一体を盾で凌いで貰えば良いので、そんなに問題ではなかった。けれど、陽夏的には問題だったらしく、陽夏の盾の前に私の防御障壁を張るように言われた。確かに一般の人が盾を持っている筈がない。
そうしてもう一度二体の魔獣がいるところに向かい、防御障壁を張りながら一体を攻撃したのだけど、もう一体の方に防御障壁を破られてしまった。




