3-25. 柚葉の目標
月曜日の放課後、私は意気揚々と学校に向かった。
「皆さん、こんにちはぁ」
ミステリー研究部の部室に入って皆に挨拶する。
「こんにちは、愛子さん。元気ですね」
皆机に向かって何かしている。
「うん、お蔭様で。ん?礼美ちゃん達は何をしているの?」
「試験勉強です。もうすぐ期末試験ですからね」
「あ、そうだったんだ。邪魔してごめんね。あれ、じゃあ、お師匠様もお勉強ですか?」
「私はは大丈夫。日頃から勉強していますし。愛子さん、着替えて行きますよ」
「はーい」
私は動き易いように、ジャージに着替えて、剣を持って部室から出た。
柚葉ちゃんも着替え終わって出ようとしていたけど、手に細長い箱を持っていた。
「その箱は何ですか?」
「これは愛子さんへのお祝いかな。外に出たら教えます」
「はい」
私は柚葉ちゃんと校舎の裏手に出た。まずは、いつもの通り柔軟をやって、体を解した。
「それで、この箱なんですが、中に剣が入っています」
柚葉ちゃんが箱の蓋を開けて見せてくれた。
「箱の内側を見てください。剣の柄の方の内側に作動陣があるのが分かりますか?」
「はい、これ、転移陣ですか?」
「そうです。これは、この剣を呼び出すときに使う転移陣です。覚えてください」
「はい」
「それから、この剣の柄のところに透明な石があるでしょう?ここに力を注いで利用者登録するんです。愛子さん、力を注いでみて貰えますか?」
「この透明な石って、転移石やアバターの利用者登録用の石に似てますね」
「アバターの利用者登録用の石?」
「ええ、アバターは最初に利用者登録するんです。胸の辺りに透明な石があって、そこに力を注いで輝けば利用者登録完了で、石が体に溶け込んで見えなくなるのですよね」
「そのときの石に似ていると」
「そう思います」
「あと、転移石というのは?」
「これです」
私は短パンのポケットから転移石を取り出した。
「これは本当に透明な石ですね」
「そうなんですけど、軽く石に力を籠めると、転移陣が現れますよね。この転移陣を使うと、普段は転移できないところとの間でも転移できるそうなんです」
「ああ、持ち運べる設置型の転移陣ということですね」
柚葉ちゃんは、頷いた。聞きたいことを聞いて満足したみたいだ。
「では、話を戻して。姫愛さん、剣の柄の透明な石に光るまで力を注いでください」
私は、言われた通りに透明な石に力を流し込んだ。利用者登録はもう何度かやったので慣れている。
「はい、できました」
「それでは、この剣を箱に入れます。転移陣は覚えましたね?手の中で転移陣を描いて、剣を呼び出してみてください」
私は転移陣を描いてみた。きちんと描けたようで、相手側の転移陣の光景が見えたので、剣を呼び出した。
「呼び出せました」
「はい、じゃあ、今度は剣の柄のところに転移陣を描いて、元に戻せますか?」
私はやってみた。そんなに難しくなく、剣を転送できた。
「これで良いですか?」
「良さそうですね」
「あの、お師匠様。お師匠様みたく、自分が転移するにはどうしたら良いですか?」
「転移陣の形は覚えていますよね。何種類か覚えていると思うけど、共通の部分があった筈です。実際に見せるとこんな形」
そう言って、柚葉ちゃんは、基本的な転移陣を描いてくれた。
「これだと他の人と同じになってしまうかもしれないので、この中心の部分に自分固有の絵柄を入れておくのです。中心以外の部分は、起動条件などが描かれているので、そこはいじってはいけません」
ふーん、そういう風になっているんだ。分からなかった。
「えーと、じゃあ、私のはこういう風にすれば良いですか?」
取り敢えず、基本的な転移陣の中央に、姫愛のサインを入れてみた。
「はい、そういうので大丈夫です。転移する時は、自分の足下と転移したいところの二か所に同じ転移陣を描けば良いです。前に多段の探知陣をやったと思いますけど、多段の探知陣の先に転移陣を描くこともできるので、遠くまで転移できます」
取り敢えず、私は学校の中の人けの無いところに転移してみた。それが出来たので、今度は多段探知の先に見えていた自室の玄関に転移した。目の前の光景がいきなり自分の部屋になり、一瞬で戻って来られたことを実感した。これは便利だけど、これしか使わなくなったら、途端に体力が落ちそうだ。
試した結果に満足した私は、再度多段探知と転移陣を併用して学校の裏手の柚葉ちゃんのところに戻った。
「ただいま。いや、これ、便利ですね」
「便利ですけど、使う場面は選んだ方が良いですよ」
「はい」
そして、私はお願いモードの顔になって、柚葉ちゃんを伺った。
「それで、お師匠様、お願いなんですけど、浮遊陣も教えて貰えませんか?」
柚葉ちゃんは、少し考える素振りを見せたけど、すぐに心を決めたように見えた。
「そうですね、これから街中での戦いで必要になると思うので、教えてあげます。でも、藍寧さんに教えて貰っても良かったのでは?」
「藍寧さんって、本当に必要最小限のことしか教えてくれないんですよね。お師匠様は丁寧に教えてくれるので、お師匠様に教わりたいんです」
「そう言ってもらえると嬉しいですね」
柚葉ちゃんは、ニッコリ微笑んだ。そして、目の前に作動陣を描いて見せてくれた。
「浮遊陣の形はこうです。そして、浮遊転移陣はこう」
浮遊転移陣は、転移陣の形と浮遊陣の形が重なったような形をしていた。
「浮遊転移陣って、なんですか?」
「浮遊しながら転移ができるんです。転移した先が空中でも落ちないで済みます」
「それって安全で良さそうですね。流石はお師匠様、何でも知っていますね」
「いいえ。私なんて、ほとんど何も知らないですよ。藍寧さんの方が余程色々なことを知っていると思います。だから、一度藍寧さんとは話をしてみたいと考えているんです」
「お師匠様が藍寧さんと話したいのなら、呼びますけど?」
「いえ、今はいいです。放っておいてもいずれ話をする時があると思いますから」
「藍寧さんも同じことを言ってましたよ」
「以心伝心かな?」
柚葉ちゃんは、笑った。
「藍寧さんは目的を持って動いている、私も目標がある。何となく目指すところには重なりがあるんじゃないかって思うんですよね。そうなら、いずれどこかで一緒になることがあるだろうって」
「お師匠様の目標って何ですか?」
「この世界から、ダンジョンと魔獣を無くすこと」
知らなかった。そもそもダンジョンや魔獣は生まれた時からあったもので、あるのが当たり前だったので無くせるとか思ったことが無かった。
「無くせるんですか?ダンジョンも魔獣も?」
「分からない。でも、無くしたいでしょう?」
「無くせるなら、無くしたい」
「そう。元々私たち封印の地の巫女が生まれたのも、ダンジョンと魔獣を抑えるためだと言われています。つまり、その前にはダンジョンや魔獣は居なかったんだろうと思うんです。だから、以前の状態に戻せれば、ダンジョンも魔獣も無くなるだろうと考えてます」
「お師匠様の目標は分かりましたけど、どうして藍寧さんも似たような目標で動いているって思うんです?」
「藍寧さんは創られし巫女なのでしょう?」
「うん、主様に創られたって言ってた」
「私は以前、その主様と思われる存在に助けられたことがあるんです。そして助けられた時に言われた。東に向かえって。そうしたらこちらでは藍寧さんが動いていて、私は愛子さんと会いました。これは偶然には思えないんです」
「なるほど」
柚葉ちゃんの考えは分かったような気がしたけど、でも同じようなことを目指しているというのなら、どっちも勿体ぶらずにとっとと会ってしまえば良いのにと思ってしまったけど。まあ、そこまで急ぐ必要はないということなのかな。




