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第16話 伯爵家からの治療依頼③

「早く旦那様にも報告をしなければいけませんね」


 嬉し涙を拭いながらミリーナが報告の為に部屋を出て行ってからほんの数分後、バタバタと廊下を走る音が響き大きな音をたてながら勢いよくドアが開けられた。


「サラ!!」


 そこにはミリーナの報告を聞き、信じられないといった表情のアーロンド伯爵の姿があった。


「なんという事だ……。まさか本当に完治させる事が出来るなんて……」


 あれだけ咳き込みで苦しんでいた妻の顔色がすっかり良くなり、昔のように優しく微笑んでくれる。一番見たかったその顔がそこにあった。


「あなた、ご心配をおかけしました。そして、彼を連れてきてくれたこと、本当にありがとうございました」


 夫人は涙ぐんだ目を拭いながらアーロンドにお礼を言った。


「何を言う。私の不注意で君の身体の不調も見抜けずに治療の手配が遅れ、もう少しで取り返しのつかないことになるところだったのだ。だが、こうして無事に私の前に居てくれる事で全てが救われた気持ちだ」


 アーロンドはサラにそう告げると俺に向き直って礼を言う。


「ナオキ殿。この度は妻の病気を治療してくれて本当にありがとう。まずはお礼を言わせて欲しい。そして、先程の暴言に対しての非礼を詫びたい。すまなかった」


 アーロンドが頭を下げるとサラやミリーナが驚いた表情をする。


「良いのだ。確かに貴族当主たるもの平民に簡単に頭を下げるものではないのだが、彼は『女神の祝福を授かりし者』であり、妻の不可能と言われた病気を治療してくれたのだ。その者に対する敬意を払うのは当然の事だ」


 僕は伯爵からのお礼を受け、治療完了の報告をギルドに出す為に帰ろうとしたが伯爵に引き止められた。


「まあ、待て。そう急いで行かずとも良いであろう。少し話がしたいと思うが応接室で待っていてくれんか?」


 伯爵にそう言われて断れるはずもなく俺は仕方なくミリーナに連れられて応接室で待った。


「――待たせたな。妻に治療の様子を聞いてから話したいと思っていたので遅くなった」


 伯爵は俺の向かい側に座り、ミリーナの出した紅茶を一口飲んでから話し始めた。


「引き止めたのは他でもない、今回の報酬についてだ。斡旋ギルドに依頼して来て貰ったのは良いが詳しい報酬まで決めてなかった事に気がついてな」


 そう言えばギルドで手紙を渡された時も報酬の話は出てなかった気がする。伯爵家からの依頼に対して報酬が決まっていないからと断る事は出来るものではないし、成功報酬としてその時の気分で変えるのもありがちな話だ。


「こちらも失念していましたので大丈夫です。奥様の病気を治す依頼は完遂しましたのでそれに見合う報酬を頂けましたら有り難く思います」


「もちろん、最大限の感謝の気持ちとして出すつもりだが、ただ金銭を渡すだけというのも面白くない。そなたから何か希望する報酬はないか?」


 アーロンド伯爵は俺の顔を眺めながら何を報酬にと言い出すか楽しみな顔をしていた。


「そうですね……」


 俺は少しばかり考えてアーロンド伯爵へ答えた。


「では、この街で活動する際のお墨付きを頂けたらと思います。ご存じの通り、俺の治療方法には大々的に宣伝できる内容ではありません。それでも、俺の治療を待ってくれている方は存在すると思ってます。そういった方々が安心して治療を受ける材料として、伯爵様のお墨付きを頂けましたら話がスムーズに行えると考えます。如何でしょうか?」


 俺の提案にアーロンド伯爵は予想外の答えだったのか少し驚いた顔で聞き返してきた。


「本当にそんな事で良いのか? 伯爵家専属の薬師や医者が誰も治療出来なかった妻の病気を治療してくれたのだ、平民にとっての一財産くらいの金貨を報酬として要求してもおかしくないし、伯爵家専属の治癒士となって多くの貴族や王族相手に名声を得る事も出来るのだぞ」


「いえ、俺はそれ程のお金も名声も必要としていません。お金は日々の生活に充てられるだけの物があれば十分ですし、治療をするために法外な治療費を貰うなんて女神様に対しての冒とくだと考えます。金銭は他の方々と同等で結構ですので、先程の治療を受ける方への安心としてお名前をお借り出来ればと思います」


「そうか、女神様に対する冒とくとまで言われたら無理に押し付けるわけにもいかぬな。よし、わかった。だが、私も領主として領内の発展に貢献出来る者を野放しには出来ん。そうだな……そなたにはこの街に診療所を開く事を許可しよう。そして、開業にかかる費用を全額伯爵家で負担してやろう。それでどうだ?」


 アーロンド伯爵は平民だろうが受けた恩は返さないと気がすまないタイプだったようで、破格の報酬を俺に押し付けてきた。


「本来ならば破格すぎる報酬はお断りするのですが、その内容ならば多くの領民の、俺を必要としてくれる人達にも治療の手が届きやすくなるのも事実ですね」


 俺は少し考えてから頷きアーロンド伯爵に答えた。


「分かりました。伯爵様の温情をありがたく賜ることにします。せめてものお礼に伯爵様のお知り合いで俺の治療が必要な方がおられましたら必ず治療する事をお約束致します。もちろん『女性限定』になりますが……」


 俺はそう言って、アーロンド伯爵に深くお辞儀をしたのだった。

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