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第17話 閑話 知略の伯爵夫人サラ

 治療を終えたサラの部屋ではアーロンド伯爵にサラが何かをアドバイスしていた。


「なるほど、分かった。ではそのように話をしてみよう」


 アーロンド伯爵は妻の話をじっと聞いていた後にそうひと言告げると部屋を出ていった。


◆


 腕の治療が終わった後で話があるので待つように言われたナオキはミリーナに連れられて応接室へ向かった。


「こちらで暫くお待ちください」


 ミリーナにそう告げられた俺は勝手に帰る訳にもいかずにおとなしくアーロンド伯爵を待つ事にした。


◆


「――だけど本当に治るとは思わなかったわ」


 サラはそう呟きながら胸に手を当てて窓の外に視線を向ける。


 今までの治療を施してくれた薬師や医者たちは痛みを抑えてくれるだけで自らの再生能力を超えた治療は無理だと言っていた。それを彼はいとも簡単に治療をしてくれた。


 サラはベッドから起き上がると両手を上げて伸びをした。胸を患ってからはベッド

で寝て過ごす日が多くなり、身体を動かす事さえ厳しくなっていた。


 ――コンコン。


「奥様、ミリーナです」


 ナオキを応接室へ案内し、紅茶の準備をすませたミリーナは部下のメイドに後を任せてサラの部屋に戻って来ていた。


「入って良いわよ」


「失礼します」


 サラはベッドに腰掛けてミリーナが入るのを待った。


「奥様、お身体の調子はどうですか?」


 ミリーナは部屋に入るとすぐにポットからお湯を注ぎ紅茶を淹れてサラの座るベッドの横のテーブルに置く。


「すこぶる良いわよ。病気になる以前よりも元気になった気がするし、それこそ肌の張りも凄く良くなった気もするわ」


 そう言うサラの肌は怪我をする前よりもいきいきしているのを感じていた。


「ところで、彼はカルカルの斡旋ギルド所属だと聞きましたが、昔から活動していたのかしら?」


「いえ、私の調べでは最近登録したばかりで実際に治療をした事例はほんの数件でほとんど実績はなかったそうです。まあ、治療方法がアレですし治療対象も女性限定でしたから仕方ないかと思いますが……」


「まあ、それで良く生活出来てましたね。何か他に収入に繋がる特技でもあったのかしら?」


「それについては詳細は聞き取れませんでしたが、どうやら荷運びや引っ越しの仕事を請け負っていたようです」


「力仕事ですか……。あれ程の能力をお持ちですのに勿体ない事ね」


「ところで、奥様。ひとつ伺っても宜しいでしょうか?」


「なあに? ミリーナ」


「奥様が彼に治療を受けられている際、旦那様との思い出話などをされていましたが何か意図がおありでしたか? 普通ではあまり他人に聞かせる部類の内容では無かったので少々気になりまして……」


「ふふっ。やっぱりミリーナも気がついていたのね。もちろんあれはわざと話を振っていたもの。でも、ああでもしなければ彼の魔力?の心地よさに負けてしまいそうでしたから……。もし、私がその誘惑に負けてしまっては彼が旦那様に厳しいお咎めを受けてしまう可能性があったから自分を御するために話したのよ」


「そうだったのですね。それ程の心地よさとは私も少しだけ興味が湧いて来ましたわ」


 ミリーナが少し顔を赤らめながらサラに答える。


「そうね。機会があれば試してみると良いかもしれないわね」


「機会ですか? 怪我や病気など伯爵家に勤め出してから一度もしたことがない私ですから、そういった機会はなかなか無いかもしれませんが……」


 ミリーナの言葉にサラはニコリと微笑むと話を続けた。


「それで、何とか彼をこの街に拠点を移して貰うために旦那様にお願いして少し策を仕掛けたの」


 そこでサラは話を切ってミリーナの淹れてくれた紅茶を口に運ぶ。紅茶の良い香りが部屋に漂う。


「今回の報酬として、普通に伯爵家に取り立ててもおそらく断られる事でしょうから彼の欲求を満たす方向で伯爵家に恩義を感じるやり方をお願いしたの。彼が相当なひねくれ者でない限りは受け入れてくれる筈よ」


 サラは妖しく微笑むとミリーナに言った。


「もし、この話がうまく行かなかったらミリーナ、あなた彼を落としてみなさい。彼は間違いなくこの国の重要人物になる筈だから色仕掛けでも何でも釣り上げた者の勝ちは決まりよ。今、彼に良い人がいないのならば有名になっていない今が最大のチャンスかもしれないわよ?」


 サラの勢いにミリーナは内心引き気味だったが『それも悪くない選択肢なのかも』と思い始めていた。


 その頃、当のナオキはそんな策略を巡らされているとは知らずに応接室でサラの描いたストーリーにまんまと乗せられている最中だったのは言うまでもない。

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