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もっと的確に言えば、その顔は髪型も含めれば女性化してない時の薫とそっくり同じなのである。
「き、君は……」
「おまえ……」
ふたりは今の状況も、肉体的苦痛も一瞬忘れ、互いを指さし合った。
「誰なんだ?」
「誰なの?」
鏡合わせ、とまでは行かないまでも、同じ顔をしたふたりは、しばらく呆然と見つめ合うしかない。
薫にしてみればサーシャの身体に怪我を負わせないために仮面の方を斬ったら意外なものが出てきたという驚きがあり、サーシャにしてみれば、自分と同じ顔がある驚きがある。
「うおおおおおおおっ!」
大声がして、結界の中から飛び出し、その場に転がり出てきたのは斎京楓だ。
「燃える!
燃える!
これよこれよ、これ!
コレなのよ!
アタシが欲しかったのはこれーっ!
自分そっくりな顔をした美少年の敵!
しかも仮面の!」
「楓ちゃんっ!」
その口もとを手で覆い、これ以上何かを喋らせるよりも先に真衣が再び楓を結界の中に引きずり込む。
「うそだ……何で、私そっくりな人間がここにいる?」
「君こそ……いったい、どうして?」
だが、現実復帰はサーシャの方が速かった。
「どうでもいい!」
そう言って、顔を憎悪にゆがめてまた剣を構える。
「おまえは敵だ!
ダリアム陛下に仇なすものの仲間だ!
斬る!」
(カオル、逃げよ)
ヴァルキリーの声が脳裏に響いた。
(そろそろ時間切れじゃ)
「でも……」
薫はためらう。
「カオル、覚悟!」
そう言ってフルーレが少年の喉を今度こそ切り裂こうとした瞬間、
「待て、サーシャ」
静かな声が間に割って入った。
「貴公は誰の許しを得てソグディアナとことを構えているのだね?」
サーシャの背後に飄然と、目の細い、若い男が舞い降りた。
小脇に槍を抱えているが、マントに詰め襟風の軍服という服装はサーシャと同じ。
薫からすれば頭ひとつ……つまり一九十センチ弱の長身で、温厚そうな、教師とか、聖職者に雰囲気は似ている。
「ヴァリアルド……」
唇を噛みながら振り向いたサーシャと、肩を押さえて立つ薫を見比べて、ヴァリアルドと呼ばれた青年騎士は目を丸くした。
「これは……」
「構うな、私はこいつを倒す!」
「待て、サーシャ」
声の温度を下げて、ヴァリアルドは言った。
「我らの役割は今回シムト殿下を説得し、殿下に預けられた我が国の財産の半分を回収することだ……もっとも、それはバルート補佐官によって持ち逃げされたようだが」
ずいぶんと調べ上げているらしい。
「ともあれ、我らの任務はいったん終わった。
これは不名誉な失敗ではない。
引き続きバルート補佐官を捜索し必ず資産は回収するが、王子はおろか、無関係なソグディアナの騎士を殺すことは任務に入っていない」
「しかし、陛下に仇なすものだ、今倒さねば後顧の憂いを!」
「君は臣下であり、私の部下でもある。
陛下のご命令は『私とともに任務を遂行せよ』ではなかったかね?
これ以上の君の行動は、陛下のご勅命を裏切ることになるが?」
サーシャは薫と同じ容貌を横に向け、うつむいた。
そうすると伸びた髪の毛に隠されて顔が見えなくなる。
ようやく薫は人心地がついた気分で溜息をついた……ついでに激痛が走り、どくどくと未だに自分が出血中であったことを思い出す。
「つまり、我々が為すことは先にあり、ここにいる必要はどこにもない、今は」
「……承知、した」
食いしばった歯の隙間から押し出すようにサーシャが言った。
それから、顔をあげ、キッと薫をにらみつける。
「覚えておけ、 カオル……この屈辱は、お前の命で償って貰う」
その目は、自分と同じ顔をしているだけに信じられないほどの激情の色に烱々と輝いて、少年を貫く。
「……」
思わずたじろぎそうになりながらも、少年は何とか両足を踏ん張り、こっくりと頷いて見せた。
「行こう」
ヴァリアルドが促す。
「ああ」
サーシャはそう言い捨てて、踵を返した。
「では皆様、お騒がせをいたしました……ニファーリア姫、シムト殿下、残念ですが、今度お会いするときには、お覚悟をしていただくことになるでしょう」
ヴァリアルドが優雅にニファーリアとシムトへ向けて挨拶をすると、マントが翻り二つの影は次の瞬間には大空の彼方に点となって消える。
「……はあ」
大きな溜息をついて、薫はその場に座り込んだ。
「カオル様!」
結界の中からニファーリアが飛び出してくると、カオルの傷ついた肩を掴み、なにやら魔法の呪文を唱え始めた。
「すぐに血を止めて治癒魔法を使いますから、もう少し我慢してくださいませ!」
「カオル!
死ぬな!」
半泣きになってエストがそのよこでおろおろする。
「あ、う、うん」
されるがままにしていると、両腕の装甲がゆっくりと存在そのものを希薄化させながら消え去り、手から剣が離れて切っ先を下にして空中に浮かび、輝きながらシャルロットへと変わる。
「カオル殿!」
シャルロットも駆け寄るが、少年は「大丈夫だから」と笑うばかりだ。
ふと左手を見る。
指先には、いつもの性転換魔法発動用の大地母神の指輪。
それが一瞬金色の光に包まれたかと思うと、銀の指輪の周辺に黄金の枠がはめられていた。
「ちっ、追加パーツによる変身グッズの変化って、デザイン的にもわかりやすいし出費面でご両親の財布にも優しいけど、それまで本体でハードに遊んでた子にとってはきっついのよねー。
創作意欲にあふれてる子だと、すでにあちこち削ったりとかしてパーツはまらなくなったりするし、本体は買ってもらえないのに追加パーツだけ安いから、って買ってもらって途方に暮れたりとかはつらい……」
妙なことを口走る楓の頭の上に影が落ちた。
いつの間にか実体に戻ったのか、ぱたぱたた、とチビバルは背中の羽をはためかせつつ腐女子な少女の頭の上に舞い降りると、「はー」と大きく溜息をついた。
「あ、こらチビバル、あんたねえ」
と楓に何か言う暇を与えず、
「まんまーっ!」
と泣き始めた。




