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(我はこれより汝の鎧であり、魔法使いで言うところの『杖』じゃ。
故に国交決闘と同様に魔法が使える)
「つまり、増幅装置ってこと?」
(そちらの言葉はようわからん、まあそんなとこじゃろ、じゃが私の意識はあくまでもおぬしを差し置いて物事を決定せぬ……要所要所でアドバイスが出来るかどうかじゃ)
「何でまた?」
(腕だけとはいえ、鎧の状態を維持するのは色々大変なのじゃ)
(あの……き、騎士殿?)
別の声まで聞こえてきた。
(え?
シャルロット?)
(あの……こ、この状況は初めてなのですが、いったい何が)
武騎人は通常、武器としての形状に変化して戦神騎士と一体化しているときは純枠に意識まで騎士と同一化し、一種のサブシステムとなるから、人格は機能しないはず。
そして同一化している分だけ、明白にシャルロットが戸惑っているのが判る。
それが少し可愛らしいと感じて、慌てて薫は頭を振った。
こちらの意識も向こうに流れ込んでいないとも限らないのだ。
(おう、カオルの武騎人じゃな?
これは神の力じゃ。
故に汝も人としての意織を持ってこの戦いに参加出来る、せいぜい励め、もっとも立場的にはわたしと同じじゃが)
(そんな……わ、私はそのよくわからないのですが?)
(六割しか通常の能力が使えぬ故、おまえのがんばりに期待する、ということじゃ)
(?)
「えーと、何事も戦神のなされることだ、ってことで思考停止止したほうがいいみたいだよ?」
ともあれ、戦える状態になったのは間違いがない。
(油断するな、それでもあ奴は手強いぞ)
「了解」
(はっ)
薫は神によって遺伝子に刻まれた記憶と知識を総動員しながら、ゆっくりと低く剣を構えた。
「行くよ」
無言で頷き、サーシャも構える。
西洋剣である細剣はこちらから向こうへ「押して」、「突く」あるいは遠心力をフル活用して「叩き斬る」ことで威力を示す。
向こうから手前へ「引き」、「斬る」日本刀とは戦い方も違ってくるし、相手はフェンシングなどで使われる細薄剣で、「突く」だけではなく「しなる」ことで相手に受けさせながら回り込んでくる厄介な武器だ。。
だから、普通に戦っては勢い、手が限られてくるが、もちろん、相手もそのことは知っているし、こちらの剣の形を見ただけで大抵の攻撃パターンは予測できる。
また奇手、不意打ちの類の「最初の一手」も。
構えながら薫の脳内には相手の細薄剣の動きと攻撃パターン、その特性が浮かび、分析され消えていく。
難しいのは、相手の刀身はこちらよりわずかに……拳ひとつ分ほど、長いこと。
こちらの切っ先が届く前に心臓を貫くには十分な長さだ。
となれば、一番確実なのは「はらう」動作で迎え撃つことになるが、フルーレは「しなる」。
こちらが「はらう」動きをして相手の一撃を防いだとして、次の一瞬、あるいは相手が最初から「突く」のではなく「斬りつける」を選択していると、下手をすればしなった切っ先がこちらの首の頸動脈をちょん、と斬る。
たとえ六割に落ちていたとしても、戦神騎士の並列思考能力はその軌道計算までしてのけ、十分あり得ることだと請け合う。
だとしたら、「護りつつ」はかえって危険。
(一撃必殺、これしかない)
手の選択は終わった。
あとはそれを具体化するための「手段」の選択とそれを実行するための「手段」の準備だ。
意識を分離し、魔法の発動準備をしつつ切っ先に意識を集中する。
魔法と剣の技、どちらが欠けても成り立たない。
サーシャはゆっくりと片手で持ったフルーレの切っ先を軽く下げ気味にして、半身になって構える。
「私が焔使いなのは知っているな?」
呟くように言った。
空いた左手がからかうように空中を撫でる。
(左手が怪しい)
薫はそう見当をつけた。
サーシャの、軽く開いた左手に妙な「気配」がある。
だが、直感が「警告」を出した。
あまりにもあからさまに過ぎる。
(私も、怪しいと思います)
シャルロットが言う。
(でも、左手をわざと開けているのはなぜでしょう?)
(判らない、でも……)
左手をあけてバランス用に使うのはフェンシングなど、片手持ちの武器においては通常の構えだ。
(おぬしの一の太刀をかわせると確信して、二の手を考えておるのかもしれんな)
(神様でしょ、判らないんですか?)
(すまん、ここへくるまでに色々あって、この鎧を維持するだけでも大変なのじゃ)
すべて一瞬の出来事だが、自分以外の存在と意見を交換する間に、薫の中に別の推論が生まれた。
(そういえばサーシャは)
焔使いだと名乗っていた。
だが、それは本当だろうか?
もうひとつ、技があるのではないか?
あの仮面の騎士が空を飛ぶのを薫もシャルロットも見ている。
魔法の効果は必ずしも属性に縛られるものではない。
その知識はある。
だから「風」の系統魔法を使えないからといって空が飛べないわけではない。
だがもしも、最初からサーシャが真実を言っていないとしたら?
(あるいは、攻撃魔法じゃないとしたら?)
結界の中を風が吹き抜けていく。
足下に、地面の落ち葉が一枚当たり、かさかさと地表を転がっていく。
その音を聞きながら、振り子のように揺れていた薫の心が定まった。
(構うものか)
突く。
ひたすら早く、そして正確に。
全身全霊を切っ先に乗せて。
(騎士殿)
シャルロットの声も耳に入らない。
薫はぐっと腰を落とし、右に刺突の構えを取った。
幸い、剣の柄はチビバルの力のおかげで、金色のパーツにより延長されているので、両手で構えることが出来る。
相手が炎を出せば貫く、剣が心臓に伸びれば、そのまま貫く。
本当に自分に出来る精神があるかはともかく、そのつもりでかからなければならない相手だ。
魔法を組み立て、展開準備をする。
早く、早く、ひたすら早く。
たわむ発条のイメージ。
たわみ、圧縮され、爆発的に解放される。
じり、と薫のつま先が動いた。
剣状態のシャルロットもまた、主に呼吸を合わせるかのように黙り込み、集中するのが判る。
サーシャがゆっくりと切っ先を上下させはじめた。
誘っている。
だが、先に動けば負けになる。
同時。
早くもなく、遅くもなく。
いや、違う。
タイミングを合わせるとか、そういうものではない。
ただ、己の信じるがままに。
先の先、後の先、先の後、そんな言葉が泡沫のように浮かび、薫はそれをすべて無意識のうちに「捨て」た。
相手を傷つけるとか、そういう意識はない。
それほどにサーシャの身体から放たれる悽愴な気配は、少年を緊張させていた。
皮肉なことに、サーシャの気迫は、まっすぐで、それが逆に少年をも同じような集中力を得ることに寄与していた。
判っていることはひとつ。
一撃。
それで決する。
ひどく、頭の中が静まりかえり、静かで、冷たい。
なのに、ひどく背中からぞくぞくずる、心地よい感覚が上ってくる。
それもまた、静まりかえった意識が飲み込み、一体化させてしまう。
風が吹く。
再び木の葉が舞い、そのうちの一枚が、少年とサーシャの間に入る。
くるり、くるりと朽ち果ててからからに乾いた木の葉が舞い上がる。
ひどくゆっくりに見えた。
一回転、二回転、三回転、四回転。
五回転……六、
七回目に裏返る瞬間、 薫とサーシャは動いた。
一歩、二歩と薫は踏み出す。
三歩目を踏み出した爪先が、地面を離れ、限界を超えるほどに圧縮された空気が少年の背中を押す。
一気に加速する中、少年は身を沈めるサーシャの心臓めがけて剣を突き出し、サーシャの刃がその刀身ギリギリをかすめ、ヘビのようにねじれた。
こちらも心臟を狙うのか……違った。
圧縮された炎が細薄剣の刀身全体から吹き出し、こちらを吹き飛ばそうとその舌をのばすのへ構わず、薫はさらに魔法を第二段階へ起動させた。
先ほど以上の爆発的な空気の解放が少女と化した少年の剣の切っ先から身体全体を包み込み、半球体状に上下を対流して背中をさらに押す。
さらなる加速。
だが、炎も速い。
灼熱の炎が少年の衣を包み込む。
その中を逆袈裟にフルーレの刃が迸る。
薫の剣を握った手首が反転する。
打ち合う金属の音は、灼熱の中、氷のように涼やかに響いた。




