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女装してたら異世界の王女に戦神騎士にされました!?  作者: 神泉 朱之介


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「ああ、ようやく人心地がついたわえ」


 大量に食事をしたら寝て、また朝起きて「まんまー」と食事を催促したあげく、どんぶり二杯分の卵かけご飯と味噌汁を平らげ、急に二頭身の戦乙女はまともな言語を喋った。


 んーっ、とのびをすると、鎧が急にぴかぴかになって輝き始め、小さくなっていた兜と背中の翼が大きく、美しく広がった。


 ちまちました手をかざすと、どこからともなく、スケールの合った槍が飛んできて収まった。


 コレも薄汚れ、刃さえこぼれたものだったが、ひとふりすると真新しい輝きになり、刃こぼれも消えた。


 一気に中古品が新品ビニール入り状態に逆再生していくような光景に、楓は目を丸くする。


「あんた、喋れたの?」


 ジーンズと黒いセーターに着替え、さてそろそろ冷蔵庫の中身を洗いざらい使い尽くしてこの謎の二頭身生物に食事を、と思っていた楓が驚いた声を上げた。


 それまでは、まるで鳴き声のように「まんまー」と「おかーり!」しか言わなかった相手がいきなりそういうことをすれば、楓だって目を丸くする。


「あんた、何者?」


「我は戦神が娘、戦乙女(ヴァルキリー)じゃ、名前は……」


 こけ、と首が横に傾く。


「忘れてしもうた。

 じゃがまあ、あまり関係はあるまい」


「おいおい……」


「ま、とにかく、この世界の少女よ、世話になったな」


 ばたぱたと背中の羽を羽ばたかせ、小さなヴァルキリーは空中にあがった。


「この礼はいずれ必ず、な……」


 さわやかな笑みを浮かべて、くるりと背を向けたヴァルキリーの頭を、


「ちょっとまてコラ」


 むんず、と楓は掴んだ。


「さんざ飲み食いして風呂まで使って寝こけたあげく、『ではさらばじゃ』はないでしょうが、ええ?」


 都心の裏路地で、気弱なサラリーマンを相手に、ちょっと綺麗なお姉さん(経営者主観評価による)のお酌で、一本・十万円のビール(原価百二十円)や、一皿×万円のピーナッツ(原価は約十五円)を売りつける笑顔は優しいが言うことは厳しいお兄さん達もかくや、の声で楓は言った。


「投資はしたんだから回収はするわよ、この面白生物」


 くふふふふふふ、と三日月状の口元から凍り付くような笑い声が漏れる。


「いや、こらまて、離せ」


 じたばたじたばた。


 かつてロシア空軍の戦闘攻撃機のミサイル&バルカン攻撃すら受け、逃げ切ったヴァルキリーだが、この少女の迫力に飲まれてしまっていた。


「さあ、中華料理のツケが高くつくのは知ってるわよね、いや知らなくてもそういうことなのよ、だから色々話を聞かせてもらったあげく、しばらくウチにいてお母さんのための癒し系キャラとして居候してもらうわよ。

 そして食費分また居候、これで無限にオバQキャラね」


 普通、居候キャラというつのは勝手に居着くもので、無理矢理連れてくるものではないはずなのだが、その辺はこの斎京楓という少女に言っても無駄というものであろう。


「いやまて、ちょっと、ホントに急いでおるのじゃ!

 そなたは知らんであろうが、ソグディアナという国の戦神騎士に」


「あんた、薫君に用があるの?」


「おお、そうそう、カオルといった、カオル・シロサキとか」


 頭をわしづかみにされて宙ぶらりん状態のまま、二頭身チビっ子のヴァルキリーはぽん、と手を打った。


「ふぅん……そりゃ面白いわね」


 にやり。


 楓の口元にまた三日月の笑みが浮かぶ。


「さあ、ちびっ子ヴァルキリー……だと長いから以下あんたチビバルね……色々話してもらいましょうか」


「いや、急いでおるというのに!

 というかなんじゃその略称は!」


「大丈夫、これから一緒に行くわよ」


 そう言って右手にヴァルキリー改めチビバルをぶら下げたまま、楓はズンズンと玄関に向かって歩き始めた。


「と、とりあえず手をはなせ!

 わたしは小動物ではないぞーっ!」


「却下!」


 そう言って玄関を出ると、門のそばに止めてあった買い物かご付きの自転車にまたがり、かごの中へ二頭身のチビバルを押し込めた。


「さ、行くわよー!」


「な、なんじゃここは?

 ぐぎゃうぎゃ、こ、こら!」


 かごの中に押し込まれた上、上から盗難防止用のネットまでかぶせられて神の使いはジタバタあがいたが、


「ま、事情は道々お聞きいたしましょー!」


 元気よく楓はペダルをこぎ出した。




「僕は、決めたよファリイ」


 自分と同じほどに重い剣(シャルロット)を構えながら、薫は言った。


 視線はサーシャから外さない。


「サーシャ、僕は君みたいに人を殺す覚悟はない、でも、君に、君がやりたいように人を殺せない覚悟は出来る」


 言いながら、自分で自分の言ってることが他人にとっては薄っぺらに響くだろうな、と自己嫌悪になる。


 そうだ、自分は決めただけで、それを証明していない。


(これから証明しなくちゃいけないよな)


 言ったことをやらなければどんなに美しくても、言葉には何の重みもないままだ。


「ほう」


 サーシャの仮面の下、失笑の気配。


「ご大層なことを言ってくれるな、カオル」


 失笑の下から、怒りの切れ端が見え隠れする声。


「人ひとり殺す覚悟もないものが、私を阻むだと?」


 サーシャは、くるりと薫たちに背を向けた。


「見ろ」


 なめらかな表面を見せて、壁と天井、床の一部を含めた三角形がずるりと建物から「ずれ」た。


「え?」


 やや歪な三角錐の逆立ちした頂点が庭の地面に剌さる。


 そのまま転がりながら、三角錐は崩壊した。


「どうする?」


 崩壊した家の一部を背に振り向いたサーシャの声はどこか寂しげだ。


「君もこうなりたいのか?

 ソグディアナの騎士よ」


「これは最後の警告だ。

 こうなりたくなければ……」


 ぎりぎりと何かが鳴っているのを薫は聞いた。


 自分が歯を食いしばっている音だと気づくのにしばらくかかる。


 気がつくと、拳が白くなるほどに握りしめられていた。


「ふざけるな」


 あまりにも感情が大きく動きすぎていて、言葉にしないと思考がまとめられない。


「ここは僕の家だ。

 お祖父ちゃんの家で、お祖母ちゃんの家だ、勝手に……勝手に……」


 ぐっと拳を握りしめた。


 握りしめた剣の柄の堅さが、少年に正気を取り戻させる。


 ただの建築物なのに、自分の見慣れた風景、育った風景が「壊される」ことの衝撃は、少年の覚悟をひるませるどころか、ますます固くさせた。


「もっと広い場所に行こう。

 死に場所ぐらい選ばせてもらえるだろう?」


 それだけを言った。


 ここがどういう場所なのか、「敵」に言ってもますます利用されるだけで理解はされないことに、少年は気づいていた。


 ひどく寂しくて、冷たい認識。


「よかろう」


 さすがにそこへかさにかかるほど、サーシャも腐った騎士ではないようだった。


「どこがいい?」


「君と会ったあの公園」


「よかろう。

 先に待っている」


 サーシャのマントが翻って、仮面の騎士は大空へ舞い上がる。


「じゃ、行ってきます……シムトさん達はここに残っててください」


「しかし……」


 シムトは躊躇い、エストは「バカ言うな」と起き上がろうとして傷にうめくのへ、


「ここから出たら、あなたたちは何の保護も受けられなくなります。

 ファリイの考えを無にしないためにも、ここで待っててください」


 穏やかな声で少年は言い、


「カオル様」


 それ以上言葉を紡げないハーフエルフの少女に振り返り、薫は微笑んだ。


「ファリイも一緒に残ってて。

 あの家の補修、頼むよ。

 このままだと帰ってきたお祖父ちゃん達が腰を抜かすから」


「はい」


 その微笑みの中に決意を見て、ハーフエルフの少女は厳しい顔で頷いた。


「でも、修理が終わったらそちらに向かいます」


「うん」


「ちょっと待って」


 といきなりどこからともなく声がした。


「薫君、その格好のまま、戦いに行くつもり?」


 振り向くと、玄関先から庭へ滝沢真衣が歩いてくる所だった。


「滝沢さんどうしたの?」


「何か、こう予感がしたの」


「予感?」


「今日、何かあるんじゃないか、ってそれに次の次の決闘用の衣装の直しもあったから」


「え……」


 薫の顔が強ばった。


 そういえば、真衣の手には紙袋がある。


「はい、これ!」


 そう言って、真衣は紙袋を薫に押しつけた。


「戦いの衣装が間に合って良かったわ!」


「あの……えーと……」


「大丈夫、寸法はこの前の直しで完璧になってるから!」


「いやそうじゃなくて!」


「第一だって、その格好じゃシャルロットさんが力を発揮できないでしょ?」


 満面の笑顔で、真衣は親指を立てた。


 どうも類は友を呼ぶなのか、それとも朱に交わって赤くなったのかそれとも朱の方だったのか、この辺の押しの強さは斎京楓並である。


 そして、薫にこういうノリに抵抗する方向の気力はない。


「……せっかくまっとうな格好で、と思ってたのに」


 少年は、溜息をついてあきらめた。


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