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女装してたら異世界の王女に戦神騎士にされました!?  作者: 神泉 朱之介


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「……」


 ニファーリアとは逆に、不安と焦燥の中で朝を迎えたのはエストの方だった。


 ドタバタとホテルに帰ってくる途中で、アドネの携帯に入ったメールにより、事情が判明したのである。


 ルートはシムトと同じ、カスティア王国の調停王女のラインからだ。


 そこの武騎人が、アドネと親しかったのである。


 ホテルに帰れば、それを裏打ちするかのように、シムトは部屋に引きこもり、バルートは阿呆のように座り込んだまま食事さえ取ろうとしなかった。


 そして、エストはベッドに入って眠ったものの、一時間もしないうちに抜けだし、ずっと紅茶を飲み続けている。


「さて、どうしたもんかね」


 数時間ぶりに、エストは口を開いた。


「私は、エスト様に従うだけです」


 そばに控えて給仕をしていたアドネが静かに答える。


「いいのかい?

 あたしの……いや、あたしたちが仕えていた国は消えちまったらしい。

 つまり、あたしたちも戦神騎士じゃなくなるってこった、わかってるのかい?」


「はい」


 静かにアドネは顔をあげ、じっとエストを見つめた。


「私は、エスト様の『剣』です」


 きっぱりと、言い切った。


「……ったく、馬鹿だねえ」


 柔らかい声でそう呟くように言うと、エストは目を閉じ、寝そべっていたソファーで大きくのびをした。


「しかし、ご家族は……」


「母上様なら大丈夫さ」


 微苦笑を浮かべながらエストは言った。


「あの貧民街であたしを娼婦にしないで何とか家を切り盛りしてる人だったんだよ?

 病気さえなければきっと三年前にあそこを出られていたさ……だから国がひっくり返ったぐらいではビクともしないよ……それに、なんの『直感(しらせ)』もないしね」


「信じてらっしゃるのですね」


「親子だからね……それに、妹や弟もいる……あの人は、だから大丈夫」


 くすっと、エストは少女のように微笑んだ。


「おまえだって妹を信じているだろう?」


「……はい」


 アドネも微笑んだ。


「さ、あたしは寝る……シムト様の様子見てさしあげてくれ、ちょっと寝たらあたしが交代するから。

 どっちにせよ、これからが勝負になるかもしれないからね」


 新しい王が、それまでの王の一族を皆殺しにする、という状況は珍しい話ではない。


 調停王子、調停王女は神職でもあるから、あまりこの手の騒動に巻き込まれることはないのだが、内乱は神々でさえ関知しないことだから、どうなるか判らない。


「はい」


 とアドネは頷き、目だけを微笑ませて付け加えた。


「ところで、ソグディアナの騎士様にご伝言とかはございますか?」


 沈黙。


 世にも情けない顔で、エストはアドネを見つめた。


「……アドネ、おまえまで!」


「いえ、今後のことを考えれば、我々の行き先としてソグディアナは選択肢に入れてもよろしいかと」


 すまし顔でアドネが答える。


「カスティアじゃあないのかね?」


「あの国は少々大きすぎますし、我が国との『いきさつ』も多すぎます。

 下手をするとシムト様もろとも、取引材料に使われる可能性が」


「ああ、そういえば国境問題で一度揉めたっけね……なるほど、王族の生き残りの首と引き換え、しかも『元』なら良心もさほど痛まないってわけだ」




「タイハンの魔法騎士?」


 朝食の席で、薫に昨日の夜のことを告げられて、シャルロットは首を傾げた。


 ちなみに、ニファーリア共々、すつかり箸には慣れて、今や薫よりも器用に使いこなしている。


 今朝の献立は豆腐の味噌汁に目玉焼き、スライスハム数枚、およびポテトサラダ。


「うん……確かに、空から落ちてきたけど、直前でふわっと飛び上がって勢いを弱めてから着地してたから、魔法使ってたし戦神騎士とは違うの?」


「はい、カオル殿。

 戦神騎士というのは戦神や他の神々の力を持って国交決闘の場でのみその魔法の力を振るう存在です」


 唯一の例外は「初期化」であるところの、一番最初の能力起動「戦神の調律」の時だけである。


「ですが、彼ら魔法騎士は、己の精神力だけで魔法を使うことの出来る『才能』の持ち主なのです。

 神に関係なく、その力を振るうことが出来ます……もっとも、神の加護がない上、『才能』の効率として専門の魔法使いより劣化するため、どうしても消耗が激しいという欠点がありますが」


「なるほど」


 その辺の知識は戦神騎士としては必要のないものなので、薫は教えられていない。


「しかし、何故にタイハンの魔法騎士がこの世界に……何しろ彼らは貴重な戦力ですから、国防の要に配備され、滅多に動かされるものではないのですが」


「ふぅん……やっぱ、昨日の延期のこともあるし、何かそっちの世界であったんじゃないのかな?」


「とりあえず、何とか本国と連絡が取れないか、やってみようとは思っているのですが……うまくすれば、今回の延期願いが『国交決闘の一時中止』と判断され、我々の通信封鎖も解除されるかもしれませんし」


「何か、道具とかはいるかね?」


 大介が訊く。


「いいえ、 大丈夫です、ダイスケ様」


 シャルロットは微笑んだ。


「魔法がありますので」


「なるほど」


 大介は頷いた。


「それと、引っかかるのはその騎士の仮面ですね……たぶん、魔法を使うための補助としての『杖』の変わりなのでしょうが」


「杖?」


 魔法の杖、というと細長い棒、というイメージのある薫としてはどうもぴんと来ない。


「ええ、魔法を使わない時に、精神の力を魔力に変換して、ためておく道具です。

 神々の補助のない純粋魔法ならではの技術ですね」


 ちなみに神聖魔法はそれすらも神が与えてくれるのであまり意味がないのだという。


 しかし、普通は「魔法を使いやすくする」だけの道具のはずだ、とシャルロットは続けた。


「代わりに視界を封じている、というのではまるで呪物(カース・アイテム)です」


「呪物?」


「呪いのかかった品物というやつです。

 この世界にも履いたが最後踊り続ける赤い靴とか、見たら三日以内に他の人間に見せないと死ぬ巻物とか、取っ手を握ったが最後、人をひき殺さずにはおかない呪われた自動馬車とか、見たら最後死ぬまで自分の妄想を書き連ねていかねばならぬてれびとかがあると伺っておりますが?」


「まあ……確かに」


 最初のはともかく、それ以後の事例は何を言っているのかよくわからないが、日本人らしいファジーさで「おおむね筋が通ってるからいいや」と薫は納得する。


「普通は、そんなものを着用しているものを魔法騎士としては使わないのが常なのです。

 呪いの品物というのは、必ずしも当人にのみ影響を及ぼすわけではないですから」


「なるほど。

 じゃあ偽物……?」


 自分で言ってみて「それは違う」とすぐに思う。


「でもどう考えてもあのサーシャって人は違うように思えたんだけど」


「まあ、実際タイハンの魔法騎士であるとこの世界で名乗っても何の意味もないですし、多分その者は嘘をついていないと思います」


 会話をしながらもしっかりちゃんと食事していたシャルロットは、最後にぱた、と箸を置いて、


「逆に考えれば、そういう怪しい人間を遣わさねばならない事態がタイハンに起こっているという可能性があるわけですし」


「どっちにしても情報待ちかあ」


「はい」


「それについてなんだけどね」


 不意に薫の背後から声がした。


「わっ!」


 食卓から転がり落ちそうになりながら、薫はいつの間にか後ろに立っていた斎京楓を見やった。


「い、いったいいつ生えたの!」


「んな松茸みたいに人を言わないでねー」


 あはは、と眼鏡をきらめかせつつ、楓は笑った。


「ちゃんとお婆さまに案内してもらってここまで来たわよ」


「え?」


 どうやら起き抜けでぼうっとしている&会話に夢中で気づかなかったらしい。


「薫ったら、シャルロットさんとのおしゃべりに夢中なんですからねえ」


 にこにこと祖母が言うと、薫は申し訳なさそうな顔になった。


 向かいに座っているシャルロットも恥じ入ってうつむく。


「いや……私も今朝は姫様がお休みなので気がゆるんでいたようだ」


「ま、誰もが朝は眠いから仕方がないわよ」


「で、何かあったの?」


「うん」


 と楓はスマホを取りだした。


「今朝、犬の散歩から帰ってきたらこういうメールが来たのよ」


 ぱかりと開けると、すでに液晶画面にはメールが表示されていた。


「どう思う?」


「?」


 首を傾げて、薫はメールの内容を読む。


「えーっと『背景、親愛なるカエデ様。お問い合わせの件ですが、数日前、タイハンで大規模な内乱が発生し、皇帝が斬首、貴族も大量に粛正された上、神聖型タイハン王国と名称を変えたというう一件が深く関わっているものと推察します、現在各国では非常会議が招集され、今後の方針についての決定が行われる予定です』って、このメール、どこから?」


「ウチの愛読者。

 ディセファラスの調停王女やってるリュニミルさん(二十二歳)からよ」


 カエデは胸を張った。


「姉上ではないのか?」


「そっちのおねーさんからはまだ。

 まあこれが事実ならそれどころじゃないでしょうしね」


「……」


 シャルロットが複雑な表情を浮かべた。


「ともあれ、この状況だと、しばらく国交決闘は中断、ってことでいいかもね……ところで、その場合お姫様とかどうするの?」


「いや我々は喧嘩をふっかけた側だからな。

 神の裁定をお待ちするしかない。

 この場合は戦神と調停神の両方ということになる……だから、結果が出るのは早くても一ヵ月先だ」


「やっぱりその、帰るの?」


 聞きにくい話だし万が一の答えが出たら聞きたくはなかったが、それでも聞かねばならないという相反した感情を抑えつけて薫が決死の覚悟で尋ねると、


「いや、それはない」


 あっさりシャルロットは首を振った。


「我々は戦争を仕掛けた側だからな。

 相手が完全に放棄しない限りは、我々からこの場を去ることは出来ない」


 溜息が薫の口から漏れる。


「だが、問題なのは滞在費用だな……国交決闘が行われていない以上、我々の費用は必要経費にはならない。

 だいぶ切り詰めねばならぬ」


 そのことには気づかず、シャルロットはじっとテーブルを見つめながら考える口調で言った。


 この少女は少女なりに、今度のことを考えているのだ……それも日常レベルで。


 大事件のさなかにそれが出来るというのは実はかなり大したことなのである。


「それなら心配することはないよ」


 それまで黙って話を聞いていた祖父の大介が口を挟んだ。


「お前さんたちから預かった金貨はそれなりの利潤を生んでいるからね。

 まあ半年分ぐらいは何とかなるだろう」


「本当ですか、ダイスケ様?」


 シャルロットが目を輝かせる。


「うん、ニファーリアちゃんが運用をこっちに一任してくれたからね」


 にっこりと老人は頷いた。


「じゃあ、予算は何とかなる訳かー。

 ま、よかったじゃない!」


 ぼんぽん、と楓はシャルロットの肩を叩いた。


「人間、お金に固執してもだめだめだけど、ないのはないので威張れる話じゃあないしね」


「うむ」


 重々しくシャルロットは頷く。


「じゃ、あたしはこれでー」


「あ、斎京さん?」


「いや、この情報を知らせたかっただけだから、んじゃ!

  お婆さま、おじいさま、お先に失礼いたします!」


 しゅた、と片手をあげると楓はさっさとダイニングを去っていった。


「……実はいい人、なのかなぁ?」


 ちょいと薫は小首を傾げる。


「あ、そうだ、ひとつ忘れてた」


 と、楓がまた急に戻ってきた。


「?」


「ところで薫君、ニファーリアのお姫様と何かあった?

 もしくはタイハンのエスト姐さんと」


 ぎく。


 後者はともかく、前者はまさに図星だったので、薫はその場で硬直した。


「な、何かあったというか、ないというか……て、なんでエストさんの名前が出てくるの?」


「そう、エスト姐さんは違うのか……ふんふん」


 と納得して頷いた楓だったが、すぐにニファーリアは否定していないことに気づき、はっと目を見開く。


「……まさか、薫君、お姫様に惚れて告白してそれで関係がぎくしゃくしてるとかじゃないでしょうね?」


「!」


 図星というか的中というか、まさにその通りな事実をずばりと当てられ、薫は完全に固まった。


「駄目よ、ソレは駄目!」


 肩を掴んで揺さぶる楓。


「ぜーったいに駄目!

 あなたには素敵な男の子をおかーさんが見つけてあげます!」


「だからいつからそーなったの!」


「何!

 騎士殿、それはまことか!」


 この状況をさらにややこしくする存在が加わった。


「いやあのだからそのそういうことはプライベートで!」


「いかに戦神の騎士殿といえども姫様は主筋、しかも普段の騎士殿は男ではないか!」


「いやだから、それはプライベート……」


「やはり、身も心も本格的に女になっていただくのが一番よろしいようだな!」


 じゃき。


「わー!

 鉄砲禁止ーっ!」


「こら、逃げるな騎士殿!

 正確に撃てぬではないかっ!」


「ちょっと薫君!

 まだお話がありますーっ!」


 とたばたと薫は逃げ出し、少女ふたりが後を追う。


「まあまあ、薫ったらすっかりモテるようになって。

 やはりダイエットはするものねえ」


 と祖母がにこにことその背中を見ながら言う。


「いや、アレはモテてるというのとは違うような?」


 祖父は首を傾げる。


「お祖父さんは鈍いからそう思うんですよ。

 ふたりとも、気になる相手でなければああやってじゃれついたりはしませんって」


「そういうものかねえ?」


 大介はそういって食後のお茶をすすった。


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