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女装してたら異世界の王女に戦神騎士にされました!?  作者: 神泉 朱之介


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「まあ、そういう美味しいものもありますの?」


 シャルロットを待つ間、ニファーリアはすっかり女子にとけ込んで甘い物の情報収集に目を輝かせていた。


「ええ、あの店のクレープって、ホント、 美味しいんですよー。

 黄色いクレープにちょっと甘みを抑えた生クリームが」


「まあ、まあ!」


 子供のようにデザートやら何やらの話に目を輝かせる金髪のエルフ美少女は、クラスの女生徒達はすっかり警戒心を解いて色々と教え合ってたりする。


「でもあたしはアレかな、駅前のたこ焼き屋の横にある……」


 とかスウィーツ談義に話が弾んでいるのを横に、隣に座った薫は妙に微笑ましい気分になってきていたが、


「……もう、よいのか?」


 シャルロットが入ってきた途端、クラスの女生徒達は一斉に黄色い声を上げた。


「銀髪のおねーサマー!」


「格好いいっ!」


「きゃー!」


 まあ、大別するとこの三つの言葉の言い換えでその声援は成り立っていた。


「な……?」


 現実にしては妙に受け入れがたい要素で成り立っている光景に、いささか薫も「引き」かけたが、女生徒達はともかく、こちらは観客ではいられない。


 何よりも自宅という日常そのものの場所で女装しなければならないこの羞恥プレイを誰が責任取ってくれるのか。


(ま、結局自分がOK出しちゃったわけだから自業自得ではあるんだけどさ)


 溜息ついても始まらない。


「で、えーと、この格好で……」


「とりあえずはシャルロットに剣になってもらう、というのが最初の実験ですわね」


 スウィーツ談義のおかげか、ニファーリアは完全にしゃっきりしていて、道場に出されたパイプ椅子にちょこねんと座って頷いた。


 ふたりは気まずいというか、多すぎる観客に躊躇しながらも近づく。


 またそれを見てキャーキャー声があがるのを、楓が「しーっ!」と一喝して鎮めた。


「じゃ、じゃあ……えーと、前と一緒に」


 不思議なことにこの時、ふたりの間にアイコンタクトが成立していた。


 こんな衆人環視の中でのキスはやめとこう。


「そ、そうだな」


 シャルロットは薫の手をぎこちなく取る。


「これで大丈夫?」


「な、何とかなる……目を閉じて意識を集中しろ」


 小声の早口で素早く会話すると、ふたりは慌てて目を閉じた。


 光が少女の身体を包み、そして不定形化すると女装メイド姿の薫の右手から肩口にかけてまとわりつき、鎧と化す。


 ぐら。


「わわわわ!」


 思わず剣の先で床板を貫きそうになり、慌てて薫は踏ん張った。


「駄目ですか?」


 ニファーリアの声に、


「どうも、そう……みたい……です」


 異様に重くなった剣を何とか鞘に戻そうとしながら、少年は答えた。


 楓はその背後、女子生徒達を配下のごとく従えて腕組みしたまま考え込んだ、が、その背後ではまるで彼女の代弁のようにクラスメイト達が騒ぎ始める。


「ねーねー、今の見た!?」


「おねー様がぴーかーって光ったら薫ちゃんの剣と腕だけ鎧になったよねー?」


「凄い凄い!」


「おねーさまとつまり薫ちゃんってば一心同体?」


「うわー背徳のにほひがするー!」


「きゃー!」


「……ウチのクラスの女子って、斎京さんの集団みたい」


 ブツブツいいながら、それでもようやく少年は剣を腰の鞘に収める。


 かちり、と剣の鍔と鞘の入り口が合わさる音がして、光が再び少年の腕を包み、そしてその隣に人型となって元に戻る。


「……駄目か」


 がっくりとシャルロットは肩を落とす。


「……そういえば」


 ふと、それまで言葉を喋ることすら忘れ、キラキラ輝く瞳でシャルロットを見つめていた滝沢真衣が口を開いた。


「最初に薫ちゃんとシャルロットお姉様が会ったとき、お姉様、薫ちゃんに……」


「わー!

 駄目、それはぜーったいに駄目!」


 と大声を上げたのはなぜか薫ではなく、斎京楓の方だった。


「それ却下、ぜーったい却下!」


「えー?

 でも最初の時、おねー様、薫クンとキ……」


「真衣、それは夢!

 あなたの思い込みアーンド錯覚!」


 がっし、と真衣の肩を掴み、眼鏡に物を言わせて強制催眠術でもかけるかのように楓は言う。


「幻、ドリーム&カムがトゥルーしないネバーエンディングストーリーなの!」


「でもー」


 真衣は「楓ちゃん何言ってるの?」という顔で続けた。


「キスしたのは事実だし、夢でもないわよ、ねー?」


 と周囲の女生徒数人に確認するように視線を投げると、「そういえば」「そうだったわよねー」という声が上がり、楓の強制催眠は失敗に終わった。


「あ、いや、あの……」


 薫は真っ赤になり、シャルロットはうつむいて声も出ない。


 こちらは耳まで真っ赤になっていた。


「ぐぬぅうう……」


 必殺の一撃をかわされた手練れの格闘家のように、楓は拳を握ってわなわなと震えた。


「我、真衣の記憶に勝てず!」


 がっくりと膝をつく。


「でもキスは困る、困るのよ!

 なぜならば……」


「?」


 自分よりも拒絶反応が強いクラス委員に、薫は首を傾げた。


 さすがにそれは可哀想だ、となどと言い出すタイプでは絶対にない。


「それでノーマルの女の子に目ざめちゃったらどうするの!

 せっかく女装を習慣化させてジェンダーの垣根を少しずつ崩しつつ、リストアップした近所の男子校の生徒と引き合わせてそこから……というアタシの壮大な計画が、ロマンが!

 このままでは!」


「斎京さんは腐女子なんでしょ?

 そういうのこそ脳内補完でやってよ」


 少年の溜息混じりの言葉に、


「んーとね、そこ間違いだと思う」


 と真衣が注釈を入れた。


「私もそーだけど、楓ちゃんも腐女子とはちょっと違うの。

 アクティブでリアリティのある、実戦型小説家なのが楓ちゃん。

 んで私はその読者……で、薫君は現在もっとも楓ちゃんが力を入れている妄想触媒というか取材対象というかなの」


「え一と、それってつまりどういうこと?」


「薫君、面白い楓ちゃんの小説が読みたいから犠牲になって」


 にっこりと笑って、真衣は恐ろしいことを口にした。


「薫君が楓ちゃんの言うとおりになればなるほど、楓ちゃんの書く小説はノッてくるの面白くなるの、だからヨロシクね!」


 芸のためなら女房も子供も、とはよく語られる芸談の典型であるから、クラスメイトの男子ぐらいならそれこそ、ということらしい。


「ほら、科学と文明の発展のためには犠牲は付き物だし」


「小説のためにはまず自分を犠牲にしてから他人を犠牲にしてくれーっ!」


「何言ってるの。

 ちゃんと自分の時間とお小遣いを犠牲にしてここにいるんでしょうが!

 第一薫君、あれだけダイエットに苦労して、せっかく手に入れた美貌でこの状況、生かし切らないとこの世の無駄!

 つーか勿体ないオバケが出るわッ!」


「いや、それ絶対費用対効果、じゃない収支のバランスが圧倒的に僕にとって悪すぎるんですけれど!」


 少年の抗議を完全に無視して、実は小説家であるらしいクラスの委員長は、今度は少年の横で飛び交っている会話の意味が判らずきょとんとしている銀髪の少女を指さし、


「それに、どう見てもシャルロットもヅカ系なんだから、やっぱりノーマルは駄目なのよ、だめだめだめのだめー!」


 楓は奇妙に身体を傾け、右手を腰に回し、左手で顔を隠すようにしてポーズを決める。


 どう見ても前衛舞踏にしか見えない。


「カオル殿、ひとつ伺いたいのだが」


 どうにも判らない、という顔でシャルロットが小声で少年の袖を引っ張った。


「カエデは一体何を言っておるのだ?

 翻訳魔法が上手く作用していないようにしか聞こえぬのだが」


「えーと、彼女たちの種族の言語らしいよ」


 投げやりに薫は答えた。


 斎京楓と滝沢真衣の思考回路は少年の手には負えない。


 まして言語感覚ともなれば。


「ともあれ、これで仮説がひとつ消えたのは間違いないですわね」


 ニファーリアはのんびりと、しかし冷静に事態を捉えていたらしい。


「やっぱり条件はきちんとそろえたほうがいいのではないでしょうか?

 服装も、という考えも悪くないと思うのですけれど……」


 じー。


 ニファーリアの視線はシャルロットの唇に集中していた。


「やはり、最後まで条件は一致させるべきだと思いますわ」


「いや、で、でもそれは……」


 なぜか本人よりも早く、またも楓が抗議する。


「絶対にその辺は避けていただけるとありがたい。

 あたしは薫君で高校在学中に実録のBL小説を書いて人気作家になる予定なもんで」


「びいえる?」


「あー、えーと、男同士の恋愛小説のコトです」


 真衣が要らん解説を付け加えた。


「まあ、そんな文学がこの世界にはありますの?」


 ニファーリアが驚いた顔になった。


 その瞬間、鼻かけ眼鏡がキラリとまるで楓のそれのごとく光ったような気がしたのは薫の気のせいか。


「小説だけじゃないですよ、漫画とかドラマとかアニメとか……」


 と真衣は付け加えたが、さすがに昨日今日来たばかりではそのジャンルの単語は翻訳できても意味までは無理らしく、


「?」


 とニファーリアは小首を傾げた。


「まあ、芝居もあれば絵巻物もあるということで」


 楓が言い直すと、


「ああ、そういう意味なのですか。

 なるほど……」


 とハーフエルフの王女はぽん、と手を打って納得した。


「姫様、その話はどうか後で」


「そうですわね。

 ……えーと、どこまでお話ししましたかしら?」


「条件は前回と同じ、ってトコまでです」


 真衣が言う。


「でしたら、これはもう、やっぱり……」


「……」


「……」


 ニファーリアと真衣、そして薫のクラスメイトの女子三十人弱の視線が一斉にシャルロットと薫に向けられる。


「やっぱり……」


「だ、駄目です、姫様!」


「だ、だめですよ!

 ホント!」


 二人はほぼ同時にそう言った。


「だ、だって彼は男で」


「そ、そうですよ、僕は男でシャルロットは男嫌いなわけですから!

 それにこういう大勢のいる場所でやることじゃないですし……」


 追い詰められた者同士のシンクロニシティというやつか、ふたりは息の合った漫才師のように互いを指さして言い訳をした。


「まあまあ。

 ふたりとも色々ご意見はあるでしょうが、ここはひとつ……」


「いや、アタシだって……ほがふがほががが」


 楓がさらにややこしいコトを言い出しそうなのを、滝沢真衣が後ろから羽交い締めにして、ハンカチで猿ぐつわを噛ませた。


 そのまま女生徒達の山の中へ引きずり込まれ、しばらく人だかりは揺れていたが、やがて「どす」という鈍い音と「う」という短い声でそれも止んだ。


「あ、さっきの意見は無視して結構ですから」


 真衣がにこやかにフォロー(?)を入れる。


 今さっきの言葉とは裏腹だが、面白さ優先ということか。


 どうにも少年は自分が「見てはいけないもの」を見ているような気分になってきた。


(ひょっとして、女嫌いでホモに走る人って、こういうのをずーっと見せつけられてるんだろうか?)


 思ったところで状況が変わるわけではなく、


「では、薫クン、シャルロットお姉様、よろしくお願いいたします!」


 じっとこちらを見つめる一同の目は、女装美少年と男装の麗人のキスシーンというこの上もなく「美しい」図に対する期待で一杯だ。


「……」


「……」


 ふたりは顔を見合わせる。


「あの……えーと、どうしてもやらないと、駄目?」


「わ、私も、できれば……」


 双方共に、吹き荒れる嵐の中の木の葉のように可憐な抗議をしてはみたが、


「まあ、最初の時はもっと人が多かったわけですから、これぐらいでひるんでいてはいけないと思いますわ」


 ニファーリアがにこにこと、ふたりのささやかな抵抗にとどめを刺した。


 確かに、学園祭の時は女生徒だけではなく、男子生徒も客もいた。


「あ、で、でも……でも、その人が見ているというのは、その」


「だーいじょーぶ!

 私たちは味方ですよ!

 何を恥ずかしがることが!」


 真衣の言うのは額面だけで言えばその通りなのであった。


 少年も少女も、顔を赤らめる。


 突発事態&勢いと、準備万端舞台の上に引きずり上げられて「さあ」というのでは行為は同じでも意味が違う。


 だが、やらなければ意味がない。


「……し、仕方があるまい」


 シャルロットが先に決断した。


「え……い、いいの?」


 少年は並んで前を向いた状態のまま、聞いた。


 とてもじゃないが、真っ正面から少女の方を見る勇気が出ない。


「仕方が……あるまい」


「いや、あの、そりゃそうだけど……」


「ただ、私に少し、ひとっきりになる時間をくれ……にひゃ……いや、六百数える間でいいから」


「……あ、う、うん」


 明らかに不満そうな雰囲気が漂う女子へ、慌てて薫は、


「と、とにかく、何をするにもこ、コンセトレーションっていうか、あーと、えーと、コンディションっていうか、モチベーションっていうか、とにかくその、気合い入れるのは大事だもんね!

 いいよね、みんな?」


 別に観客(女生徒たち)にコンセンサスを取る必要はないのだが、そう言って少年はギャラリーをなだめる。


「ね?」


「んー、仕方ないよね。

 キスって大事だし」


 と滝沢真衣が言うと、全員が頷いた。


 そこまで図々しいわけではないあたりが十代の少女なのであった。


 もっとも、ただひとり「むごー!」という斎京楓のくぐもった抗議の声というか何かが聞こえたような気がしたが、その場の全員がそれは無視する。


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