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女装してたら異世界の王女に戦神騎士にされました!?  作者: 神泉 朱之介


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 そんなわけで、楓の仕切りで食事しながらの反省会となった。


 ピザにご執心のニファーリアだったが、さすがに王族の義務を放棄してまで、というわけではなかったので、一枚分をひとりで平らげたあたりで反省会を開くことが出来た。


 まず薫が戦っている最中自分の感じたことを(身体は動くはずなのに異様なほど装備と化したシャルロットが重く、動けなかったことをなるべく控えめかつ客観的に)説明し、シャルロットの説明になった。


「私も……その、武騎人として戦うのははじめて……いや、契約の時に一度やってはいるのだが、コレが正しいかどうか、あるいは間違っているかどうかの確信はないのだが……

母上に聞いた感覚や、最初に『契約』した時とは違って、何も感じられなかったのは間違いない」


「最初の時は、何か感じていたの?」


「うむ……」


 腕組みしてシャルロットは考え、言葉を選びながら答え始める。


「そうだ。

 柔らかい主の手に包まれ、その身体と一体化する嬉しさと、主の思考と完全にひとつとなって戦う高揚感がずっとあったのだが、それが……まるで鉄箱の中に閉じ込められたように何も感じられなくなって、気がつくと、主殿、いやカオルが負けて地面に転がっていて……」


 ぎゅっと唇を噛む。


「いったいどうしてこうなったのかは判らない……ただ、私が原因なのは、確かだと思う」


「いや、そう結論付けしちゃうのはまだ早いんじゃ、ないかなぁ?」


「だが、カオルの話では」


「いや、変身した君が武器として重かった、ってのは事実だけど、僕の側に原因があるかもしれないし……」


「しかし、我ら武騎人は遣い手に最適化するが故に最強の兵器たり得るのだ、それが成されない以上、問題は私で」


 気を使うタイプと思い込むタイプ、こういう状況になるとどっちも「いや自分が悪い」と譲らない妙な状況が生まれる。


「弱りましたわねえ」


 ニファーリア、シャルロット、 そして薫は思案投げ首で考え込む。


「少なくともあと二回は国交決闘を行うことになるわけですから……せめて五大魔法を使えればまだ勝機があるのですけれども」


「五大魔法?」


 楓の目が輝いた。


「騎士って魔法が使えるの?」


「ええ。

 焔、雷、水、土、風、この五つの系列からひとつを逃んで、騎士は武騎人と一体化したときに使うことが出来るのです。

 強い騎士ならば単独でも使えますけれど」


 通常の魔法と違い、術者の体力や精神力などの消耗はないが、無限に使えるわけではなく、手のひらよりも大きな発現範囲の物は一度使うとおよそこの世界で言う一分、本人の身体以上に大きな場合は三分の間は魔法が使えなくなる、とニファーリアは告げた。


「へえ……さすがファンタジーの世界」


「それであのスタンガンみたいな真似が出来たんだ」


 やられた瞬間を思い出して、薫が苦い顔になる。


「一番使いやすいのは焔と雷、遣い手を選ぶのは水、土は防御に適していて、風は……、滅多に選ぶ人がいません。

 大抵の場合加速系や浮遊の魔法として使われるので。

 あとは土埃を舞い上げての目くらましですが、これは水や土には無効化されてしまいますし」


 どうやら、この中では風が一番役に立たないらしかった。


「ふぅん……母さんは何を選んでたの?」


「カオリ様は焔でした。

 素晴らしい焔使いで、火炎龍斬、という大技がまた華やかでしたわ」


 少しニファーリアの目が遠くを見つめた。


「母さん、そういう派手なほうが好きだったからなあ」


 薫は苦笑いした。


 そういえば生前の母親がやたらとキャンプファイヤーとか、焚き火が好きだったのはその名残だったのだろうか。


「ふっふっふ……お悩みのようね?」


 斎京楓だけが余裕の笑みを浮かべながら、腕組みした右の指先で眼鏡を直した。


「私は、あなたたちふたりの不調の原因を推理……いや『知って』いるッ!」


 びしいっ!


 とシャルロットを指さして身体をくねらせ、ジャコメッティの彫刻めいたおかしなポーズを取る。


「なぜならばツ、あなたは『男嫌い』!

 そして教室に初めて現れたときッ、あなたは薫クンを女だと認識していたッ!」


 おかしなポーズを次々取りながら、不敵かつ迫力と説得力のある声で楓は続ける。


「それ故、薫クンが女ではないと判った今、心の奥底で嫌悪感が働いているのだッ!」


「……いや、それはどうなのかなぁ?」


 と薫が言うよりも先に、


「そうか、それ故の不調なのか」


 銀髪の少女は愕然と己の手を見つめた。


「わ、私の心が最大の原因だったとは……くっ」


 拳を握りしめ、シャルロットはすっくと立ち上がった。


「どこへ行くのですか、シャルロット?」


 首を傾げるニファーリアに、


「己の心に打ち勝っために修行を」


「時間がないですわ、大体、どこへ行くつもりですか」


 ニファーリアはあくまでも穏やかにシャルロットを説得する。


「第一、ここはソグディアナと違って歩いてすぐに森や山があるわけではありませんよ?」


「あ、あの公園の近くに林が……そこで寝起きし、基本から鍛錬を……」


「駄目だよ、そんなことしたらお巡りさんに連れてかれるよ」


 どうやら自主トレ兼キャンプらしいと理解した薫が溜息混じりに言う。


 真面目なのはともかく、どうにもシャルロットは思い込みが激しいらしい。


 ちら、と原因の楓を見ると、唇の端に面白がっているような笑みが見えた。


「続きがあるんでしょ、斎京さん?」


 あきれ顔で催促すると、


「……とまあそう仮定して、まずは試してみるのがいいんじゃない?

 実証と検証を繰り返して原因を探るのはこういう場合のイロハなわけで」


 と先ほどまでとは違う、普段の口調で言い、あっけらかんと笑った。


「やっぱり……でもどうやって検証するわけ?」


「大丈夫ッ!」


 眼鏡を輝かせながら楓。


「私にはッ!

 秘策があるッ!」


「何!

 それは誠かカオル殿のご学友!」


 シャルロットがはじめて楓に呼びかけた。


「楓と呼んで頂戴」


 ぬふふ、と人の悪そうな笑みを浮かべながら楓は仁王立ちになって腰に手を当てた。


「判った、カエデ殿、一体どういう秘策があると!」


「そうッ!

 それはッ!」


 言いながら、楓は自分の背後に右手を伸ばした。


 そして、何かを掴み出すように思いっきり手を前に伸ばす。


 ばっ。


 と、布が翻る音がして、どこからともなく現れたメイド服(まだビニールに包まれた新品)がその手に翻っていた。


「……手品?」


 首を傾げる薫の疑問には答えず、ぐいっとそのメイド服を突き出して、楓は勢い込んで続ける。


「これがッ!

 これこそがッ!

 シャルロットさんの心の意識の奥底にある意識の殻を打ち破り、全ての能力を全開にする勝利の鍵ッ!」


「つまり、僕にまた女装しろって?」


「他に!

 他にッ!

 道はないのだッ!」




 びしいいっ!




 無意味に迫力のある人差し指で、薫を指さす楓。


「さあ!

 着るのだッ!

 世界の平和と安全のためにッ!

 美しい王女と武器となる乙女のために!

 羞恥に頬を染め、エプロンドレスとひらひらスカートに身体を包みッ!

 恍惚と羨望と背徳の光に身をゆだね……」


「……」


 少年はしばらくきょとんとした表情で楓の口上を聞いていたが、不意に我に返った。


「やだ」


「そう言わずに着るのだよ薫君!

 君が女装するのが一番早い仮説の証明になるのだからネッ!」


「学園祭でも恥ずかしいのに、これからもアレを着けるのはヤダよ!」


 そういって少年は部屋から逃げだそうとしたが、その前に風のように現れたシャルロットが片膝をついていた。


「私からも頼む……カオル殿っ!」


 てっきり「そんなうわべだけの問題か!」とか怒りだすと思っていたが、どうやら完全に楓の言葉を信じ込んだらしい。


「カオル様」


 申し訳なさそうにニファーリアも言った。


「あの……どうか……」


「……」


 三人の少女からの「お願い(といっても約一名はただの強制であるが)」の前に、城崎薫の「意地」は十秒ほどしか持たなかった。


「……判りました、着けましょう。

 でも今日はもう遅いから、明日」


 せいぜいが、そう条件をつけるぐらいしか少年の「意地」の張り通しどころはなかった。


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