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とりあえずふたりを客間に通し、お茶を淹れると流石に汗臭い上に挨まみれの自分に気がついた。
何しろ薫としては朝っぱらからメイド姿でドタバタ走り回った挙げ句の今である。
さらに、どういうワケか身体中、細かい粉のような埃で真っ白で、メイド服であること以上に情けない格好である。
よくまあこの格好で電車に乗り、街中を歩いて帰ってきたものだと思い、少年は女装という格好とは別の意味で恥ずかしくなった。
しかも連れているのは美少女ふたりなのである。
実際には「契約」後の「戦神の調律」状態で飛来する岩を斬りまくったり、落ちてくる天井の埃を浴びたからなのだが、今はその間のことが心神喪失状態としての記憶しかない少年に判るはずはない。
「すみません、適当にくつろいでいてください」
ちょっと失礼な気もしたが、それなりの美少女達の前で、汚れた上に汗臭い格好でいるのはどうもかつてのデブだったころの記憶がブレーキをかけてしまうのだ。
じゃあ、と廊下に出た薫を、銀髪の少女が呼び止めた。
「どうしたんですか?」
「お、お願いがあるのです」
「はい?」
「私のことはどうぞシャルロットと呼び捨ててください。
私はあなたの武騎人ですから」
言われて、そういえば未だ自分も相手も名乗っていないことに気がついた。
「あ、あの……僕は」
「存じ上げております、カオ……くしゅん」
「あ、ご、ごめんなさい」
どうやら自分の身体から舞った埃が彼女の鼻腔をくすぐったらしい。
少年は真っ赤になった。
「でも……さすがに」
初対面の人を呼び捨てには、と言う前に銀髪の美少女は「判っております」という風に頷いて、
「お願いいたします」
じっとまっすぐに見つめられると、多少の礼儀の問題は無視してもいいような気がした。
「判りました……じゃあ、シャルロット、ということで」
「ありがとうございます。
それと……」
ぽ、と少女の貌が赤くなった。
「あの、その……お手を」
蚊の鳴くような小さな声。
「?」
言われるままに少年は慌ててポケットに入っていたウェットティッシュで拭いた後、己の右手を差し出した。
「?」
薫の手を取ると、シャルロットは自分のそれでそっと包み込むようにした。
「?」
まるでとても大事な宝物のように。
先ほどの笑顔とは別に、不思議な色っぽさを称えた表情で、銀髪の少女は薫の手の感触を楽しんでいるようだった。
「……」
なんか、自分がとてもいやらしいことをしているような気になってきて、少年は赤くなる。
不意に手のひらとは違う柔らかい、暖かなものが手の甲に押し当てられ、ついで、手のひらに押しつけられた。
「これが私の主様の手……」
シャルロットが、己の頬に薫の手のひらや手の甲を押し当てていると、眼では理解していても、脳が理解するのに二秒ほどかかった。
どれくらいそうしていたのだろうか。
実際には五秒ほどかもしれないが、少年には十分以上にも思えた。
やがて、名残惜しそうにシャルロットは手のひらを解放してくれた。
「ありがとうございました」
とても、嬉しそうに……華やいだ、少女そのものの表情でシャルロットは笑みを浮かべた。
「素晴らしい手です、優しくて、暖かくて……とても、とっても」
目が潤んでいる。
「私は、あなたの武騎人になれたことを誇りに思います」
ドキドキしながらも、薫は手を引っ込めた。
「う、うん、ありがとう」
悪い気はしないが、とにかく、訳が分からない状況なのは間違いがない。
ついでに言えば、奇妙な悪感というか、背徳感が少年の背中に張り付いている。
「で、では、失礼いたします」
そういって、そそくさとシャルロットは部屋に戻った。
そっと閉まった襖を、しばらく薫は見つめていたが。
「……お風呂にでも入って考えよう」
そう呟いて服だけでも着替えてと……思っていたら、祖父母達が帰ってきた。
「お前……薫か?」
「まあまあ、お祖父さん、まるで」
「そうだなあ」
自分の姿を見て目を丸くしたり、頷き合ったりするふたりへ、
「着替えるヒマかなかったんです」
と言い訳し、客間にいるふたりの異国人(?)の話をした。
「汗かいちゃったからちょっとシャワーを浴びて、それから着替えてきます」
幸い、このふたりもそういう意味では礼儀にうるさいので
「ではお客様は私達がお相手するから、シャワーではなくてちゃんと垢を落としておいで」
と元から世話好きの祖母、城崎妙子が言ってくれ、祖父も頷いた。
「ところで薫、そのお二人、まさかお前と同じ……」
「いや、あの女装じゃない……うん、多分」
何しろ出会って二時間も経過していない。
「なんじゃ。
まあ、ええわい。
せっかくお前が女の子を連れてくると言う記念すべき日じゃからな」
薫の祖父、城崎大介はうんうん、と何を誤解したのか感慨深げに頷いた。
「本当に……でもこんなに女の子の格好が薫に似合うなんて。
まるであの子が……」
祖母の妙子が目頭をハンカチで押さえた。
「いや、あのお祖父ちゃん、お祖母ちゃん」
誤解を解こうと少年は思ったが、とりあえず今は肩に乗っかっている肉体的&精神的疲労がそれを回避させることを選択した。
「じゃあ、お願いします……」
言い置いて、一階奥にある風呂場に入ると、少年は乱雑にメイド服を脱いだ。
ぼわっと白い埃が、今日一日のドタバタを証明するかのように舞い上がって、薫は顔をしかめた。




