64 セイビアの思い
パン! パァン!
蔵の前まで来ると、セイビアはベインジャーを下ろし、頬に数発平手打ちを入れた。
「……い、痛いわねっ。ってここどこよ? そうだパパは、あれは夢!? ねぇパパは!」
「これがあんたのパパだよっ! この真っ赤な血がなっ」
ベインジャーは血でべっとりと赤く染まった自身の手の平を見ると、ギョッと目を見開き、途端に顔が青ざめた。
「……ゆ、夢じゃなかったの。ねぇ、パパは、パパは今どこにっ!」
「パパパパうるさいっ、可哀そうだとは思うけどね、同情してる暇はないんだよっ! あの魔導兵器を止めるには、強力な武器が必要なんだ! あんたんちの蔵だろ、武器はどこにあるんだいっ」
「うるっさいわねっ、パパを心配して何が悪いのよっ。もういいっ! パパもいない、計画も失敗、もう全部終わりよっ! 私もこのまま死んだって――」
スパァッン!
セイビアの強烈な平手打ちが、乾いた音をたてて、ベインジャーの頬を赤く染めた。
自暴自棄に半狂乱したベインジャーだったが、その衝撃に目を丸くし頬に手を触れるも、その痛みよりも、目の前のセイビアの必死な顔に意識を奪われた。
「あんた領主の娘だろっ! 領民の心配くらいしてみろっ! 父親の仇討ちでもなんでもいい、ちったぁ踏ん張れっ!」
「……仇討ち、エスタにとっては、パパが仇……。もう、何やってんのよ……。私はただパパが喜んでくれると思ったから協力したのに、そこまでやるなんて思ってなかったわっ! もう、死んじゃったら文句も言えないじゃない……」
ベインジャーは次第に視線を落とし、地面を一点に見つめ体を硬直させた。
「どちらにしろ死罪だったのじゃ。ベインジャーよ、お主も同じ道を辿るか? 今ならまだ新しい道を選ぶこともできるのじゃ」
「……ピオ司祭、お願い助けて下さいっ。こんな所で終わりたくない、でもどうすればっ」
ベインジャーはピオのローブを掴み、悲痛に訴えた。
ピオは動じず、突き放すような口調で冷静に言葉を発した。
「償いの機会は常にあるとは限らんのじゃ。目の前のその機会、掴むかどうかはお主次第なのじゃ」
「アーシたちの大事な人も死ぬかもしれない! あんたが頼みなんだ、武器のある蔵はどこにあるんだいっ!」
セイビアの切実な瞳に、ベインジャーは息を飲んだ。
「……これが、償いの機会。……こっちよ。鍵も私が持っている、ついてきなさい」
ためらいながらも、ベインジャーは1人で立ち上がった。
伏し目がちに上げた視線がセイビアの目を捉えると、まつ毛を微かに震わせた。
逃げるように視線をそらしながらも、ベインジャーは歩みを進めた。
「……ここよ。好きに使いなさい」
重苦しいため息を吐くと、ベインジャーは傍にあった木箱に腰を下ろし、自分の体を抱いた。
「すっごぉー、杖に、魔導剣に、魔石もいっぱいー!」
「あぁ、これだけあれば」
「うむ、杖ならこれかのう。魔導剣も、これなら今のジールにあうのじゃ」
ピオは数ある装備の中から、戦闘状況と人選に合わせた武器を見繕い、マイネとセイビアに渡していった。
「なぁマイネ、この木箱、見覚えがないかい」
「んー、あっ! 鉱山都市で見たのに似てるねー」
「なぁあんた。これ、どこから仕入れたやつだい」
「えぇ……? わかんないわよ。あぁ、でもそれは、シャウゼン殿下が欲しいって言ってたやつかも。……ハァー、もう帝国に行くどころじゃなくなったのね……」
「マイネ、アーシはちょっと調べてから行く。先にこれもってルジャンたちのとこ戻ってくれるかい!」
「わかったー! なるはやでねー!」
セイビアから装備を受け取ると、マイネは両手で抱きかかえて蔵を後にした。
「で、セイビアは何を調べるのじゃ」
「出来るかわかんねーけど、やれることはやっておきたいんだ。ピオ司祭も一緒に調べてくれ」
ドォッンッ!
闘技場から聞こえる破裂音に、セイビアの気持ちは急いた。
その今にも駆け出したい気持ちを胸に押しとどめ、蔵の中を必死に調べて回った。
「ルジャン、待ってろっ!」
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