49 ボアの不敵な笑み
「ねぇパパ、思い出し笑い?」
「うむ、ベインジャーちゃん。フォルシャの滑稽さを思い出しての。まさかわしの間者が、奴の派閥にいるとは知らずに教会を襲撃するとは。ククク」
夕暮れに差し掛かる薄暗い大臣室に、ボアの笑い声が不気味に響く。
「フォルシャの部屋に行ったときね! 私も笑い転げそうだったわ!」
「司祭を拉致すると報告を聞いたときは、気でも触れたかと思ったが。上手く利用すればこちらに益がある話。すべて知っておると、奴の目の前で襲撃の全貌を語ってやった時の顔といったら、ククク」
「なんで知っているんだ!? ってこの世の終わりみたいな顔してたわね! プククク」
ベインジャーはソファーに座りながら、浮かれたように足をパタつかせていた。
「人の顔というのはあんなに青くなる物なのだな。あまりにおかしくて、神への冒涜だのなんだのと、散々脅してしまったわい」
「脅しまくった後に、安堵させる提案をして要求を飲ませる話術。パパ得意よね!」
「黙ってやる、手を結ぼうと甘言を吐いたら、すがるようにコロっと信用しおった。この国の最大戦力がこんな簡単に手に入るとは、笑いが止まらん」
「ねぇパパ、保留にしていたシャウゼン殿下の頼まれ事も、これで進めていいのね」
「勅命さえ破棄してしまえば、講和を白紙にできる。フォルシャの軍を使い、プラネ殿下の軍へ侵攻し、力をそげれば、シャウゼン殿下もさぞお喜びになるであろう」
「勝つ必要はないのよね?」
「表向きはプラネ殿下への援護として、シャウゼン殿下がこの国へ侵攻し、我らが降伏する。それでこの国はシャウゼン殿下の支配地域になる。そういう筋書きだ」
「これでシャウゼン殿下が欲しがっていた鉱山が手に入るし、プラネ殿下は弱体化するから、次の皇帝はシャウゼン殿下で決まりね!」
「あぁそうじゃ。未来の皇帝に貢献した我ら功労者は、この国の支配権が与えられる」
「晴れてこの国は帝国の一部になるのね! これでシャウゼン殿下とさらにお近づきになれるわ!」
「フォルシャは戦争の責任を押し付けて失墜させ、エスタ王は侵攻中に戦死、そういう筋書きでよいだろう。プラーガや邪魔者たちの排除の算段もついておる」
「あの引きこもりはどうなっている? まだ駒として使わなければいけないのだが」
「女を使えば簡単だったわ。口の上手い娘を何人か送ったら、もうパパの事を信じ切ってるわ」
「裏切り者でも見るようにわしの事を避けておったが。これで王という権威はわしの手駒、フォルシャという戦力も手駒に。フフ、金はわしが十分に持っている。これで必要な駒は全て揃ったな」
「これでこの国はパパの物ね!」
「最後の仕上げがある。大きな花火を上げて、わしが力を持つことを民に見せつける必要がある。大規模な決起集会を開き――いやまて、1つ懸念が残っているか」
「なにか足りないものがあるかしら」
「ハイジール、やつの存在は少し邪魔だな。下手に担ぐ者が現れても困る。講和の使者の時のように、意外と優秀な面をもっているからの」
「今は逃げるみたいに鉱山に行ってるみたいよ」
「ふふ、王都が今どうなっているか、やつは知る由もないだろうな。城壁の門番には、ジールを発見し次第捕らえ、牢獄に送るように金を渡しておくか」
「あの子に味方している連中が、何か言ってこないかしら」
「罪状はたっぷりと捏造できる。大罪人として捕まるのだ、大きく庇うのは難しいだろう。流刑地にでも送って処刑すれば、誰も気に留めないであろう。ククク」
ボアの笑い声に被るように、大臣室にノックの音が響いた。
扉越しに衛兵の声が響く。
「恐れながら大臣閣下、至急お耳に入れたき伝令がございます」
「何かしら、今日の公務はもう終わっているわ。なに? 急ぎなの?」
「はい、先ほどハイジール殿が、鉱山で行方不明になったとの報告が」
ベインジャーはボアへ一度目を合わせ、ボアが首を振ったことを確認した。
「あっそう。いいわ、もう下がって」
衛兵の足音が遠のいた事を確認し、ボアは席を立った。
「捕らえる手間が省けたわね。パパ」
「タイミングがよすぎるのが引っかかるが。うむ、すべてが思い通りというのも面白味にかける。何か裏があったとしても、余興と捉える余裕はあるか」
ボアは大臣室の窓から、王都の街並みを一望した。
「王という権威、軍部の戦力、帝国という大国の後ろ盾、この国を動かす駒は全て私の元にあるのだ。どうせ生きていたとして、下級役人1人の力では何もできないだろう」
ボアの不敵な笑みが向けられた街には、影を落とすように日が暮れようとしていた。
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