43 横取り
帝国兵たちはゆっくりと、階段を下りるような足取りで岩場から降りてくると、鼻を鳴らして周囲を見渡した。
「それに比べて、この辺に詳しいと言うから依頼をした冒険者は役立たずにも程がある」
「囮にすら使えないとは。まぁいい荷物運びくらいはできるだろう。冒険者たち、早くその魔物を運び出せ」
「て、帝国兵さん。こんなでか物、俺らだけじゃ運びきれない」
「魔石とかツノとか、金になりそうなところだけじゃダメなんですかい」
「では依頼は取り消しだ。タダ働きご苦労様。いや、逃げ惑うだけで働いてすらいなかったな。フハハハハ」
倒れている冒険者を見下ろし、帝国兵たちは皆同じように冒険者たちへ嘲笑を浴びせた。
死闘を終えたばかりのルジャンたちは、目の前のやり取りにしばらく頭がついていけていなかったが、事態を飲み込むと同時に慌てて声を上げた。
「ちょっ、ちょっと待て! その魔物を倒したのは俺たちだ、勝手に持っていくんじゃねーよ!」
帝国兵たちは首を傾げ、あざ笑うかのように言い放った。
「この山脈は国境沿い。つまり山脈の半分は帝国領なのだ。そしてここはその半分より帝国側、つまりこの魔物は帝国の所有物なのだ」
「安心しろ、タダでとは言わない。とどめを刺してくれたことへの礼は言ってやろう」
「えぇっ、山の半分!? 俺たちそんなに進んでたのか?」
「わかんないー、結構歩いたけどー」
「騙されんな! 先に魔物を見つけたのはそっちかもしれねーが、倒したのはアーシらだ! 魔石の権利はこっちだろっ」
セイビアは強い剣幕で突っかかるが、帝国兵たちは物ともせずに、平然と言葉を返す。
「感情的な言葉を吐いても無駄だ。条約で正しいのは我々。その怒りを向けても無意味だ」
「この洞窟は帝国側へ伸びている。それが証拠だ」
「だからって横取りを許せるかよっ!」
「これ以上揉めるなら国際問題になる。文句を言いたいのならこのルールを作った自分の国へ言うんだな。冒険者どもさっさと魔物を運べ、金が欲しいんだろっ」
問答は終わりとでも言うように、帝国兵はセイビアへ背中を向けた。
「国際問題とか怖いよー。ルールとか言われてもー」
「アーシらの苦労をっ、それにその魔石はルジャンのっ――」
ルジャンはセイビアの胸の前に手を伸ばした。
「どうしたルジャン、止めんなよ!」
「魔石ならまた倒せばいい。ここで揉めて迷惑かけんのはダメだ」
「ルっちー、ジルちーみたいな事いうねー」
「アーシだってそれが正しいってのはわかる……。でも今回はっ」
「暴れる以外の解決策ってやつ、俺も少しは成長したいんだ。バカなりに」
「話の通じる人間もいるようだな。その男に免じて国境を無断でまたいだことも見逃してやろう」
セイビアとマイネの瞳は、悔しさと嫌悪の入り混じる、絶望にも似た色をしていた。
「アーシらが犯罪者みたいな言い方しやがって」
「でもー、下手に揉めたらヤバいよー……」
ルジャンの腕から、カタカタという金属が聞こえた。
拳に力を入れすぎて、腕が小刻みに揺れ、ガントレットの金属を繋ぐパーツ同士がこすれる音だった。
吐き出せない悔しさを噛みしめ、必死に耐えているルジャンの姿を見て、セイビアはルジャンの左の拳にそっと振れた。
冒険者たちが、目の前の魔物を引きずっていく。
その光景をただ眺めるだけしかできない自分たちの無力感に苛まれ、3人の心が淀んでいく。
その時だった。
「そこの帝国兵、所属を明かせ! どこの部隊だ」
洞窟中に響く声の主は、ジールだった。
芯のある真っすぐ通るその声は、帝国兵たちの背筋をピクリとさせた。
「……何者だ」
「ただの役人だ。野盗が帝国兵の制服を着て悪さをしていると報告もある。所属を明かせないなら、官職詐称および詐欺罪として、この場で拘束させてもらう」
ジールの堂々とした態度と、毅然と言い切る主張に、帝国兵の目は一瞬泳ぎ、眉をしかめた。
そして、そのわずかな仕草を見逃すジールではなかった。
毎日18時更新を予定しています。
よろしければ、お付き合いいただけると幸いです。




