38 鉱山ツアー 後半
精錬所で不純物が取り除かれたトラム鉱石は、インゴット状の鉄塊に加工され、移動用の馬車の荷台に積み込まれていた。
ジールたちはその荷馬車を追う形で、精錬所からほどなく離れた加工場へ移動した。
「精錬されたトラム金属は用途ごとに加工場に運ばれます。皆さんの見慣れたカートリッジ類はこちらで加工していますよ」
プラーガの案内する加工場は、内側から溢れ出す熱を閉じ込めるように、鉄錆色のレンガ壁が重厚にそびえ立っていた。
荷馬車が到着するなり鉄の扉が開き、トンッカンッという鉄を叩く音とともに職人たちが外へやってきた。
「視察は今日だったか。好きに見学していきな」
「親方、お客様も来ているのですから、もう少し愛想がよくてもいいと思いますよ」
工場の親方はプラーガと目が合うと、素っ気ない挨拶を交わした。
職人たちは荷馬車に積まれた黄土色のインゴット状のトラム金属を、数人で台車に積み替え工場の中へ運んでいった。
工場の中は、幾人もの職人が重い槌を振り下ろす金属音と熱気で充満していた。
真っ赤に焼けた鉄鋼は叩かれるたびに火花を散らし、徐々に、だが確実に、冷たく硬い「道具」や「部品」へとその形を変えていった。
「知ってるヤツー! これに魔素が入ってるんだー」
「おぉ、昨日の騎士の嬢ちゃんたちか。この状態のカートリッジはまだ魔素は入ってねぇな」
職人はカートリッジをペンチで掴むと、机の上に置かれた小さな豆粒ほどの魔石と接触させた。
「見な。この魔石と接触させると、魔石の魔素エネルギーが、このトラム金属のカートリッジに吸収されてくだろ」
黄土色をした金属のカートリッジが淡い光を発した。数秒経ち光が消えると、魔石は色を失い灰色に、カートリッジは魔素の充填完了を示す銀色に変色していた。
「焚火の火種にもならない小さな魔石でも、複数個使ってカートリッジにエネルギーを注入すれば、でかい魔石と同じくらいのエネルギーを出せるんだ」
「すごーい! こういう仕組みになってたんだー!」
目を輝かせ純粋に感心しているマイネに、職人は得意げになっていくつものカートリッジに魔素を充填してみせた。
「こっちは? カートリッジとは随分違う大きさだな」
工場の各区画では別の加工も行っていた。
セイビアが見ているのは、円柱のパイプ状になったトラム金属だった。
腕一本ぶんほどの長さ、太さは片手で掴める程度の円柱のパイプが、十本単位で木製のケースに収められていた。
ジールも初めて見る加工品で、一本を手に取ってみた。一般的な鉄よりは重さがなく、それでいて剛性は高そうに感じた。
使用方法や用途がわからず、ジールとセイビアが首をかしげていると、プラーガと親方がやってきた。
「建築物などのフレームに使うんですよ。魔導王国では魔導を動力に使った物が多く開発されていて、うちのホテルの昇降機や領の門などにも、そのパイプがフレームとして使われています」
「魔導王国じゃぁ馬なしで走る馬車、いや、馬がいないから魔導車か、そんなのもあるんだってな。規格に合わせて色んな形状の発注も来る。職人泣かせなもんも多いがやりがいはあるな」
「おかげで連結する金具などの不随製品の発注も増えて、トラム金属以外の収入も増えています」
プラーガと職人の説明、パイプの入った木箱の数、それに伴った付属品の出荷量、ジールはそれらと用意された資料を照らし合わせた。
「資料で見た計算よりも、実際の収益の伸び率は高くなりそうですね。この生産量が帝国との講和の肝。プラーガさん、職人の皆さんの力、頼りにしています」
「役人にしちゃぁ殊勝な物言いだな。昨日の酒の奢りといい、こんな職人に頭を下げるなんて」
「ダンパ宰相のご子息ですよ。この物言いや顔、面影があるとは思いませんか」
プラーガの一言で、工場の職人たちの手が一斉に止まった。
工場中の視線がジールに集まる。
「……プラーガさん、父上の名前はあまり、それで注目されるのはちょっと……」
突然の注目にジールは困惑した目を泳がせ、ひとまず資料に視線を落とした。
話題を変えようと口を開きかけるも、職人たちは一斉にジールの元へ集まり、思い思いに言葉を浴びせていった。
「うちの子供が冬を越せたのはダンパ様のおかげだ! ありがとうよ!」
「母親の病気も今ではすっかりよくなった。惜しい人を亡くしちまったよ」
職人の無骨な手が、次々とジールの手を包み込み、力任せに振られた。
口々に投げかけられる感謝と激励の言葉は、炉の火のように熱を帯び、ジールに降り注いでいった。
「ジルちー凄いねー。って、ルっちーは何してるのー」
マイネは職人たちの波に弾かれて、ジールを遠巻きに見ていた。
その横でルジャンは難しい顔をして、トラム金属の加工品を物色していた。
「んー、このパイプの穴、おぉ、ズッポリはまった! 剣の柄にぴったりだ!」
円柱のパイプの穴にショートソードの束をはめて合体させると、ルジャンは槍を構えるような体制をとった。
それを見たセイビアはすぐさまルジャンの頭を叩き、ショートソードと連結したパイプを取り上げた。
「穴見たら指でも棒でも突っ込む癖やめなー!」
「ルっちーやらしー」
「え、やらしーってどういう意味?」
セイビアとマイネは顔を赤らめた理由は説明せず、ルジャンを糾弾し続けた。
「ガントレットの時も指抜けなくなって、壊したらどうすんだい! 売り物おもちゃにしてんじゃないよっ」
「同じ失敗しないって言ったのにー」
ルジャンたちの騒がしさに気づいたジールは、職人たちの波をかき分けて3人の元へ足を進めた。
そしてセイビアが手に持ったショートソードと連結されたパイプを見て、軽いため息を吐いた。
「ジールさんすいませんっ。つい、なんか見てたらやってみたくなっちゃって……」
「あの場の空気から逃げられたから助かったよ。でもごめんなさいはしような」
ジールはルジャンの後頭部を鷲掴みにして頭を下げさせた。
「ハッハッハッ! そういうアタッチメントもありかもな! 遊びから生まれるアイデアもある!」
「親方、若者に優しいんですね。私が初対面のときは相当おっかなかったのに」
「昨日飯屋で会ってるからな。バカでも気のいい奴らだってのはもうわかってる! それにダンパ宰相の息子さんの連れだしな」
「それもう他人ですよ!」
「ちがいねぇ! ガァッハッハッハ」
ジールの突っ込みに親方はもう一度大笑いした。
「せっかくだ。失礼ついでに、お前らも視察の仕事らしい質問でもしてみろ。親方、新人騎士の勉強に、もうしばらくお付き合い頂いてもよろしいですか」
「もちろんだ。俺たちゃ装備を作る側、使ってる側の話も聞いてみたいな」
(場も和んだし、こういう経験もしておいて損はないだろ)
ジールは自分への注目をルジャンたちに向けるために、壁側に下がった。
突然注目され、視線が集まったことに居心地の悪さを感じ、ルジャンとセイビアはそわそわとしていたが、マイネはマイペースな調子を崩さずに質問を投げかけた。
「んねぇー、この杖ー、魔石を交換するのじゃだめなのー」
マイネはポーチにいれていた自分の杖を職人に見せた。
「その魔石のサイズだと、20回くらいの発動で魔素が尽きてただの鉄の棒になるな。新しいのに買い替えるか、魔石を交換するか、どっちにしろ高額になっちまう」
職人はそう言いながら杖の柄の部分の蓋を開けて、カートリッジを出し入れして見せた。
「だがカートリッジなら交換が簡単だし、繰り返し魔素を充填できるから、半永久的に仕えるようになる。財布に優しい仕組みだな」
補足するようにプラーガも言葉を続けた。
「今までは魔石の魔素が切れたら、その都度魔石を交換しなければいけませんでした。その時に装備や用途に合わせたサイズに魔石を加工すると、半端な欠片が出てしまいます」
プラーガは加工時に出る、半端な魔石の破片を1つつまんで話を続けた。
「こういった魔石のロスや、加工する手間を減らせるのがカートリッジシステム利点です。これは魔導具の革命ですよ!」
「じゃぁー、魔導装備を作るならー、カートリッジシステムにした方がいいのー」
「カートリッジだけで動かす魔導具もあるが、装備なんかの強度が必要なものは、魔石とセットにして使った方が威力が上がるな。理由は知らんが」
職人は魔石の付いた剣を持ち出し、束の部分にカートリッジを数本はめた。
「カートリッジでエネルギーを増やすこともできるから、やり方次第じゃ、巨大な魔石並みの破壊力を出すこともできるぞ!」
「大型の火薬の大砲以上の威力を、今では手のひらサイズで出来てしまう。しかもカートリッジで充填可能となれば兵の数で戦闘力を測れず、戦略性は増します。近い将来、これは戦争も変えますよ」
「戦争なんかに使ってほしくねーけどな」
職人が不機嫌な顔で返すと、プラーガも眉をハの字にして返した。
「気持ちは私も同じです。ですが需要を考えるのも商人の仕事でしてね。いや、今は領主の立場で考えるべきでしょうか」
「どちらの視点も大事だと思います、俺も勉強になりました」
ジールが深く頷いていると、プラーガは声のトーンを落として、ジールの耳元でつぶやいた。
「……勇者の血を持つ者なら、魔石のエネルギーを倍化できるという話、本当なんですか? それが可能なら、杖1つで街1つを消し飛ばすことも可能なのでは」
「……王様は強いんだぞって、言い聞かせる方便みたいな物らしいですよ……」
(噂程度なら、結構広まってるのか? プラーガさんは信用できる相手だが、俺の口からは言えないな……)
一瞬難しい顔をしたジールの横顔を、プラーガは見逃さなかった。
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