20 冒険者たちの過ち
「ジール様って、口先番長じゃなかったのね! すごく強いじゃないの!」
「口先って、そんな風に思ってたのか! 嫌な本音聞いたな……」
トゥーリンが賞賛の声を上げると、
「ジール様つえぇー!」
「フェリさんもつえぇー!」
と、ロッカス亭の前は歓声が上がり、賞賛の声が続々と上がった。
「うーん、見世物じゃないし、勝ち負けの問題じゃないんだが」
「事後処理の仕事が、増えてしまいましたね」
勝利に価値を見出していないジールとフェリの表情に、トゥーリンは首を傾げた。
「2人が勝ってお終いじゃないの? この子たちも反省してるでしょ。若気の至りって感じで、許してあげなさいよ」
服についた泥を叩きながら、トゥーリンが近づいてくる。
「ホントにごめんなさいー! ちゃんと言い聞かせておくからー、ほらー、セイちーも謝ってぇー!」
マイネが泣きながら土下座を始めると、セイビアも隣に正座をして、しぶしぶといった感じで頭を下げた。
ロッカス亭の前の人々も、その姿勢に心を許し始めていたが、その空気を壊すように、ジールは淡々と話しを始めた。
「貴族を襲っても許して貰える。なんて噂が立ったら、どうなると思う? 貴族で大丈夫なら、商人を襲っても、女子供を襲っても許してもらえるって、自分に都合のいい解釈をする奴が必ず出てくるぞ」
「襲われる先が、ロッカス亭やここにいるみなさん、その家族や友人、そう考えたら、私は恐ろしいです。適切に法で裁かないと、この街は無法地帯になってしまいます」
フェリが続けた言葉で、この戦闘を見世物のように感じていた人々は、泥だらけになった自分や店先に目をやり、神妙な顔もちになった。
「まぁ、泥に石が混ざってなくてよかったよ。じゃなきゃその額に付いた泥が、赤い血の色になるところだった」
ショーウィンドウが割れていれば、焼き菓子はガラス片まみれで全滅だった。1つ間違えれば大惨事だったのだと、人々は改めて認識を変えた。
「じゃぁこの子たち、どうなるの?」
トゥーリンの問いに、ジールは少し苦い顔を返した。
「貴族相手の暴行は、最悪極刑かな」
「そんな大罪に!? 許してあげなよー」
「だから俺の感情は関係ないんだよ。悪さをしたらみんな平等に裁かれる。この国の法律の話をしているんだ」
「正論はわかるけどー、まだ若いじゃない、なんとかならないの?」
「さっきも言っただろ、俺ができることは少ないって。お前らも先に忠告したぞ、手を出したら重罪だって」
「でも極刑って、この子たちの将来はどうなるの?」
「将来? あるといいな」
「え……、もう、終わりなの? この子たちの人生……」
トゥーリンの憐れみと悲痛を込めた絶句に、事の重大さにようやく気付いたセイビアは途端に顔が青ざめ、今度は真剣に頭を下げた。
「頼むっ、アーシが止めなかったからだ、ルジャンは助けてやってくれ! マイネは何もしていない、捕まるのはアーシだけにしてくれ!」
黄色い前髪が地面の泥の色に染まるぐらいに、セイビアは地面に頭をこすりつけた。
「アタシがちゃんと止められなかったからなのー、お願いしますー!」
マイネも横に並んでもう一度頭を下げた。
「仲間思いのいい子たちじゃん。なんとかならないの、ジール様」
「こんなの演技でどうとでもできるからな、そういう事例はいっぱいあるぞ。同情を誘う演技なんて、娼館じゃ日常茶飯事だろ」
「見慣れているからこそ、この子たちは演技に見えないわ」
(んー、演技できる器用な奴なら、あんな馬鹿な特攻はしてこないか……)
「はぁ、後味悪いな……。こういうの引きずるんだよ俺、夢見が悪くなりそうだ」
「ジール様、貴族の特権を使うのですね。なんだかんだと言いながら情に流されてしまう所、ジール様らしくて私は好きですよ」
フェリの言葉がとどめとなり、ジールは意を決して口を開いた。
「あぁ、私刑にするよ」
「死刑!? アーシら殺されるのかっ」
「んねぇー、まだ死にたくないー」
「死刑じゃない、私刑! 貴族の特権で、貴族が自由に裁きを与えていいってやつ」
「なんだ、そういうのあるんじゃないの、脅さないでよー!」
「嫌いなんだよ、貴族だけは特別です、みたいなの。同じ国の国民なんだからルールも同じでいいだろ」
「あんたがアーシらを裁くって事か、何をすれば許してもらえるんだ」
「許す許さないって感情論は忘れろ。自分が起こした騒動の責任をとるんだ。とりあえず馬車に乗りな、そこのルジャンだっけ? と大剣も忘れずに」
「責任……。人から罰を受けるんじゃなく、自分でけじめをつけろって事か」
「その理解力、もう少し前に使ってれば、こんな騒動にならなかっただろうな」
セイビアはジールが目を向けた先へ視線を向けた。
ルジャンの剣であちこちが抉れて凸凹になった道路、その場にいる人々や店の泥汚れ、けが人が出てもおかしくなかった惨状を目の当たりにし、セイビアは浅慮な自分を恥じてうつむいた。
マイネは何も言わず、セイビアの服を引っ張ってルジャンを指差した。
セイビアも無言でうなずくと、ルジャンを肩に担いで馬車の中へ寝転がせた。
マイネは地面を引きずらせてルジャンの重い大剣を運び、最後はセイビアと2人がかりで馬車の中へ積んだ。
2人は終始無言で、黙々と作業に準じていた。
「――まで頼むよ、3人を降ろしたら、またフィッシャー園まで頼めるか」
ジールが御者に向かう先を指示している横で、セイビアとマイネは暗い面持ちをロッカス亭へ向け、深々と頭を下げた。
ショーウィンドウは店主たちが掃除をして、あらかた綺麗になっていた。
2人が馬車に乗り込むと御者は馬に鞭を打ち、大勢の人に見送られながら、馬車は段々と小さくなっていった。
「私こういう場面知ってるわ、子牛を乗せた馬車を見送る歌。こうやって出荷されて、二度と会えなくなるのよ」
「人聞きの悪いことを言うな、会いたきゃそのうち会わせてやるよ」
「ってジール様とフェリ!? 2人は一緒に行かないの?」
「ターラがパイを待ってるんだ。赤の他人の事なんて、後回しに決まってるだろ」
「冷めても美味しいですが、温かいのを食べてほしいですね」
「相変わらずシスコ、じゃなかった、ジール様の優先順位はブレないわね」
「じゃぁまたな、気が向いたら娼館にも顔出すよ」
これまでの騒動が些末なことかのように、平然とした足取りで2人は歩き始めた。
ジールとフェリの背中が小さくなっていくのを眺めながら、トゥーリンはため息をついた。
「気が向いたらってそれ、絶対来ないやつじゃない。あーあ、謝っても許してくれないタイプ。罰を受けた方が何倍もマシね……」
トゥーリンは、これから処罰が下される冒険者たちの行く末を案じた。
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