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14 裏町の攻防

「ハイジールっ! ここに隠れているのはわかっている!」


 小編成に分かれた内の1つの部隊が、裏町の小さな倉庫の扉を破壊して中に突入した。


「な、なんだお前ら、国の役人か!? ちゃんと上には賄賂も渡しているぞっ」


 体格の良い屈強な男が数人、倉庫の奥に向かう扉の前を警護していた。


「賄賂だと!? 怪しいな、その奥にハイジールを匿っているのかっ」


「はいじ? 意味の分からねーことを、役人が偉そうにしてんじゃねー!」


 男たちは一斉に騎士に殴りかかったが、騎士の1人は焦るそぶりも見せず、杖を構えて男たちに狙いを定めた。


 杖のトリガーを引いた瞬間、先端の魔石から雷が放たれ、その場にいた男たちは皆感電して気絶した。


「数十人程度なら一斉に鎮圧できる制圧力。魔導装備は本当に素晴らしいな! この杖の威力ならハイジールもたやすく拘束できる!」


 騎士が倉庫の奥の扉を開けると、そこに現れたのは、ガラの悪そうな男と、身なりのいい貴族と思わしき男の2人。


 そして、その2人の間に置かれた机の上には、大きな魔石と、金貨の入った袋があった。


「これは!? 違法取引の現場ではないか! 魔石の取引はギルドか国の許可した店のみ、大罪であるぞ!」


「どうする、ハイジールを追わなくていいのか」


「我らは正義の騎士、ここで犯罪を見逃すなんて、フォルシャ閣下の顔に泥を塗ることになるぞ! この場にいる全員を確保するっ」


 フォルシャの名が出て、貴族とおぼしき男は顔が青ざめ、すぐさま金貨の袋を騎士に差し出した。


「も、もしやフォルシャ殿直属の騎士か、ここは1つこれで穏便に済ませてはくれないだろうか。あぁこいつは捕まえてくれて構わない、私は脅されただけ、被害者なのだ」


「てめぇ、裏切る気か! 役人さんよ、見逃してくれりゃあ他の貴族の悪事も話すぞ、そっちの方が手柄になるんじゃねーか!」


「我らを買収するだと! フォルシャ閣下を侮辱する行為だぞ! くそっ、ハイジールは他の部隊に任せ、こいつらの背後まで全て洗ってくれる」


 騎士たちは、ガントレットで身体強化をして、苛立ちを吐き出すように、目の前の男たちを身動きが取れなくなるまで捻り上げた。


 似たようなやり取りは、他の場所でも起きていた。


「そのキノコはなんだ! ハーブの栽培まで、違法薬物だらけではないか!」


 ある場所では、建物の各フロアに植木鉢や木材が並べられ、栽培している従業員もファッド国の民ではなかった。

 全ての証拠と容疑者の確保に、ここでは数十人の騎士の手が塞がった。


「昼間から何をおっぱじめている! 国の認可のない店で女遊びをするとはっ」


 またある場所では、裏稼業の運営する売春宿や酒場が摘発され、ここでも多くの騎士の手が塞がる事態になった。


 他の部隊がハイジールを捕まえるはずだ。


 どの小隊もそう考え、目の前の犯罪者たちを次々に摘発し、拘束していった。




「ジール様、魔素の動きが、あらかた止まりましたね」


「さすが軍の最高司令官の直属部隊だ。貴族と繋がってる裏稼業が相手でもガンガン捕まえるな。しかし、まだ動いているのが残っている」


 騎士たちがいる場所から離れるように移動している、小さな反応があった。


「捕まったのは、この裏町を根城にしている連中だろう。どうせ賄賂なんか渡して、自分の縄張りは安全だと、胡坐をかいてたんだろうな」


「では、まだ動いているこの反応は」


「高価な魔石を買える、とっても裕福だけど裏町の貧民街で暮らしてる変わり者。もしくは、この国の人間じゃないか」


「ッ……! 帝国のスパイですか」


「他の国の可能性もあるが、それでも怪しいのは確か。この反応を追うぞ」


 屋根の上から魔素の動きを伺うと、裏町の路地を走って移動している速度だった。


「こっちは屋根伝いに行くか、ショートカットして近づこう」


 ジールは狙いを定めた反応に向かって飛び出した。


「裏町の屋根、ぼろいのが多いな、踏み抜かないように気を付けないと」


「ジール様、作りも荒い場所が多いです。木片のささくれにも気を付けてください、ケガをしそうなくらい鋭利にとがっています」


「あぁ、ってやば、出っ張った釘がコートに引っかかってビリって言った! 帝国産の高価な生地なのに、後で縫い合わせられるかな……」


 ジールは釘で裂けたコートの裾を手で引きちぎり、ポケットにしまった。


「ジール様シッ、反応が近くなりました」


 ジールもレンズで反応を確認して、フェリと目を合わせて頷くと、ジャンプ移動をやめ、足音を立てないようにゆっくりと近づいていった。


「騎士たちがいい陽動になってるな。相手も魔素探知を使っているようだが、上に目を向ける気配が全くない」


 薄茶色のローブを纏い、フードを被った3人が、周囲を警戒しながら走っていた。


「ジール様、今なら隙だらけです、やりますか」


「待て、近くに他の反応もある。あれは――騎士隊の残りだ!」


 ローブの3人がいる路地と、建物を挟んで並行した路地に騎士の姿があった。


「動いてる騎士は残り4人か、よし、あのローブの3人の前に出る、あの角だ」


「はいっ」


 後ろを警戒していたフードの3人は、突然目の前に飛び込んできたジールたちに進行方向を塞がれ、地面とブーツの底を強く摩擦させて急ブレーキをかけた。


「な、何者だ、危ないではないかっ」


 対峙した声と背格好から3人とも男であること、体勢を崩していても、体幹のぶれない隙のなさは、相当に訓練されていることが伺えた。


「走ったルートを見るに、この裏町に慣れてない様子だな」


「……なにが言いたい」


「言いたいことは、そうだな――」


 ジールは胸いっぱいに息を吸い込むと、勢いよく大声を上げた。


「ハイジールを見つけたぞぉっ!! こっちだぁっ!!」


「は、はいじーる? なんだそれは、我らはそんな名では」


「そりゃそうだ、ハイジールは俺の名前だからな」


「はぁ? なぜ自分の名前を突然大声で、ファッド国の人間は頭がおかしいのか……」


「こんな頭のおかしいやつとは関わるな、引き返すぞっ」


 ローブの男たちは、反転して引き返そうとしたが、今度はその進行方向を騎士隊が塞いだ。


「ようやく見つけたぞ、ハイジールっ! そのローブを着た3人も仲間かっ、数を増やした程度でどうにかなると思うなよっ」


 ローブの男たちは、ジールと騎士隊に挟まれた形になり、苦い顔を見せた。


「待て、我々はその男の仲間ではない、勘違いだ」


「仲間ではない? さっき捕まえた奴らも同じ事を言っていたな、仲間割れは見苦しいぞっ」


「くそっ、ファッド国の奴らはなぜこう話が通じない、ぐぁっ!」


 ローブの男たちが、騎士に気を取られた僅かな隙を逃さず、ジールは一瞬でローブの男の背後に間合いを詰めた。


 ジールの接近に気づいた時には、すでに遅かった。ローブの男の1人は、ジールに全力で背中を蹴り飛ばされていた。


 ジールの蹴りで吹き飛んだローブの男は、騎士の前まで激しく地面を転がり、ローブがはだけた姿で横たわった。


(久しぶりに使ったが、2倍程度の身体強化でもかなり威力がでるな)


「そこの騎士、転がっている男の脇、帝国の紋章が見えるだろう」


 ジールが倒れたローブの男を指差すと、その男の脇には、黒い生地に、銀のラインが入った布切れが落ちていた。


「我らがそんなへまをするか、変装は完璧に――しまったっ!」


 ローブの男は慌てて口を塞ぎ、額に冷や汗を浮かべた。


「そうだな、スパイをする奴が、簡単に身バレする帝国の紋章を身に着けるわけがない。変装をしているなんてわざわざ自白してくれて礼を言うよ」


「ジール様の破れたコートの布切れ、生地は帝国産です。帝国で見慣れている方は、腕章のついた生地と見間違うのですね」


「冷静さを欠き、混乱した状態だと、普段なら間違えない行動をしてしまうものだ。人間誰でもミスはある、俺も気を付けないとな」


 その種明かしに、事態が呑み込めた騎士は、ようやくジールと、目の前のフードの男たちが別勢力だと納得し、剣を抜いて帝国のスパイへ向き合った。


「帝国のスパイめっ、我らを欺けると思うなよっ」


「見破ったのはお前の手柄ではないだろっ! くそ、何者なんだあの男は」


「そうだ、ハイジールも捕らえなくては――って、どこにいったんだ」


 騎士と帝国のスパイの、わずかなやり取りの隙を狙って、ジールとフェリはその場を離脱していた。


 両者は辺りを見回したが、自分たちの姿しか映らず、お互い仕切りなおすように一呼吸おくと、目の前の敵対者に集中することにした。


「帝国のスパイの首をもって、この失態の穴埋めをするしかない!」


「ファッド国の騎士程度が、我らを倒せると思っているのかっ」


 お互い魔導装備を取り出し、杖や剣からはバチバチと火花が散った――


毎日18時更新を予定しています。

よろしければ、お付き合いいただけると幸いです。


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