第241話:乗り込む
「.....父さん。」
「ああ。俺が出る。」
カチャリと剣の音と共にモルガンは立ち上がった。
城の前。ここでは魔術は出来るだけ使用したく無い。
魔術に反応し、襲撃を王宮全体に把握される可能性があるからだ。
「ん?おい!そこのお前!止ま.....」
ドサッと敵は地面に横たわった。
モルガンの峰打ち。風の如く、全身を使い、走る。
「ガルス流!急手!」
《光剣!》
体を柔らかく使うかと思いきや、爆発的な脚力で、一気に間合いを縮める。
「おまっ.....!!」
攻撃が兵士に反応する前に、襲撃の騒動を小さく、小さくするために。
「アリス流!」
そう言ってモルガンの進む先立つ兵士は剣を構えた。
この襲撃で初めて、剣を向けられた。
こちらの攻撃の前から、反撃のために動かれた。
だが、モルガンは動じない。それどころか、笑みさえ浮かべ、そのまま突き進む。
「アリス流!瞬技!」
《雷雷!》
モルガンは、振り下ろされる技を避け、冷静に、迅速に技を叩き込む。
ガルス流ではない。アリス流だ。
複数の流派を使用するスタイル。その一つ一つの練度もモルガンは高い。
『一つの流派で見れば、上段の上澄み。全流派で見れば、技巧級の剣士とも渡り合うでしょう。』
ただ、ブユレ村の戦いでモルガンは敗れた。それは恐らく......
『体力。複数の流派を使用するのには、心肺機能に大きな負担が存在し、体力が持ちません。シーアの諸刃の剣。敵の攻撃をトレースすることも、これに該当します。』
モルガンの剣技も、諸刃の剣に近い。ということだ。
もう殆ど、モルガンの行手を阻む敵の存在は見受けられない。
「行こう。」
「ええ。」
サナを呼びながら、走る。
時間が過ぎていく。
短期決戦。モルガンの体力、王宮への襲撃。
「さっさと終わらせよう.....!!」
ーーー
「ふーん。確かに、これは面倒さね。」
エミル・ミグルも感嘆の様子だ。
「家畜を飼うスペースが奴隷のいる中央壁の奥の前に配置されているぜ。だりいな。」
ジャガーも同じように感じていた。
ペットのせいで、敵に攻撃する前に感知される。
力技.....でも構わないが、それでは全面的に戦うことになる。
少数では、殲滅に時間がかかり、入り乱れた戦いで、望まない死人がでない保証はない。
可能な限り、今後の批判の的になる行動は避けたいのだ。
「魔力消費が増えるけど、これは仕方ないさね。」
迷いなき動作で、蒼く、ただし、翠も感じさせるような。透き通った杖を取り出した。
《イソレーション》
突如、家畜が消える。転移の予兆も、溜めもなく、消えた。それを確認した途端、間髪入れずにエミル・ミグルは続けて魔術を放つ。
《ソフィーナ》
その魔術の直後、家畜は元のように現れた。
「何をしたの?」
「全く違いが分からん。」
魔術を扱うルアとセルビアはそんな風に家畜の様子を伺う。
他の皆も、ただの家畜としてそれを見ている。
「あれは、実体のある幻影さね。」
幻影でありながら、物質世界にそれを顕現する。
世界構築と呼ばれる技は精神世界を物質世界に顕現し、己の有利な世界を作る。
それと似ている原理であるが、これは己の精神世界に関係なく、必要なものを揃える。
幻影魔術も似たもので、ただし、実体を持たせるには、魔力量、技量。これに天と地ほどの差が出る。
才能があったとしても、これを鍛錬や経験無しで行うのは不可能だ。
「これで、堂々と乗り込めるさね。じゃ、いくさ。」
《ムーブドウインド》
当然のように使用された無詠唱魔術の風に乗り、そして、草原を走った。
魔術が駆け抜けていた。




