第237話:守り続けて
先週、先々週と更新が殆どなく、すみません!
今週から平日更新を再開します!
夜。世界が闇に包まれる中、彼女は立ち上がった。
家の中にいる人を誰も起こさぬように、歩く。
音という音を消し、気配を消し、そして家を出た。
不安と罪悪感が彼女を襲う。
それでも、歩く。
やがて、深夜でも光を漏らす店へ着いた。
ここが、目的地だ。
「ふぅ.....」
深呼吸を一度。そして、足をその店へ踏み込んだ。
「遅い。」
開口一番。その言葉が投げられた。
「チッ。待たせるなよな、くそアマが。」
「申し訳.....ありません。エール様。」
エール。大大陸では、奴隷解放活動をしている。
世間一般では、褒め称えられるような人物。
だが、裏の顔は.....
「さっさと座れや。次の作戦や。てめぇ、次、俺の機嫌そこねりゃ、次、ねぇと思えよ。」
「.....はい。承知しました。」
私を操るクソ野郎だ。
ーーー
ミア・アルハイン視点
私は、ジャック王国で生まれた身だ。
そこまで、裕福でない家庭で、それでも、剣術だけは、疎かにしない。そんな家だった。
父は技巧級ガルス剣士。母は技巧級アリス剣士。姉も、技巧級アリス剣士だった。
父には口癖があった。
「この世界には、どうにもならない瞬間が訪れる。そんなとき、守れる力を持て。」
何度もそう言われた。
それでも、私の剣の腕は上達しなかった。
何度、剣を振っても、何度、稽古をしても。
私にとって剣とは劣等感の象徴だ。
次第に遠ざかる、同世代の剣士の背中は、忘れることがない。
不甲斐なさに潰されそうな私を支えてくれたのは、姉だった。
「きっと、きっかけだけだから。」
頭を撫でながらそう言ってくれた。
「人にはね、いつも以上に頑張れる瞬間があるの。私たちはそれをいつも出せるように稽古してる。」
同時に、鞘に収まった剣を撫でる。豆の出来た、その手が印象的だった。
「人より時間をかけて、じっくり育った。成長したあなたは、きっと、私たちの誰よりも強い人になっている。」
姉は、豆のある手。あるいは、豆の潰れた手。それで、私の頭を撫で続けていた。
必死に涙を堪える私の顔を見ようとはしなかった。
「大丈夫。守る物が出来た時、貴方は強くなれる。守る者は強いのだから。」
そう言った姉は、確かに強い人だった。
その三日後、姉は殺された。
私の目の前で。私を、私たちを、守って。死など怖く無いという顔で。戦い、死んだ。
魔神聖。それを擁する軍によって私たちの村は世間にも知らされず、ひっそりと焼き払われたのだ。
ーーー
「おい。聞いているのか?」
「.....はい。」
エール。ジャック王国の諜報機関の者だ。
私という存在を使い、ラーファルト家に潜入、そして機会があればラーファルト・エレニアを殺害するように命じられている。
だが、それは叶わなかった。ラーファルト自身が強いということ。そして、親という存在。
やはり、守る者というのは強い。姉の言う通りだ。
「さっさと殺して、次行きテェのによやお。チンタラチンタラ.....」
こいつは本当に、なんの大義も守る者もなく、生きてきたんだな。
「歯ぁ食いしばれ。」
俯き、そして目を瞑る。
刹那、風が私の顔を襲った。
衝撃は訪れない。
「.....さて、あなたがなんでここにいるんでしょうね?エールさん。」
私に向けられた拳を止めた人物。
守るべき者を守り続けていた人物。
それが、ラーファルト・エレニアだ。




