19,惨敗
(痛い痛い痛い痛い痛い)
まずい、両腕の骨を粉々にされてしまった。尋常な痛みだけではなく、とてつもない気持ち悪さに襲われる。
あんな受験生がいるなんて聞いていない!
事前に私が見た試験データでは、特筆すべき受験者は数人程度だった。だがそれも、A級ハンターたちには及ばないほどの数値ではあったのだが…
(彼は何者だ?)
黒ジャージ…確か、楠木と言っただろうか?彼が所属しているチームだったはずだ。あのチームで磨けば光りそうなのは楠木、それと坂田の2名。目の前のこの男については注目していなかった。
…推薦枠、か?
それなら納得がいく。推薦枠の人間はそれまでの1次試験、2次試験を受けていないのでもちろんデータなど存在しない。唯一分かるのは名前や年齢のみ。
(…どうする私。A級ハンター…忌村 葉!)
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「魔人のふりをする…ですか?」
私たちが今いるのは協会本部。試験についての会議に呼び出されてのことだった。呼び出されたのは私を含めたA級ハンター3人である。
「ああ、その通りだ。彼らが果たして魔人に立ち向かうのかどうか…それを合格条件にしたい」
私の疑問に答えたのは副会長の酒井さん。
「…副会長。だけどその話だと避難警報を出すんだよな?流石にそれは皆逃げるんじゃねえのか」
こちらはA級ハンターの佐倉 円香。長い金髪にかきあげた前髪が特徴的な女性だ。
「それもわかっている。人手が足りない今、協会にそんなことをしてる暇がないことも。だが…」
「だが?」
「最近の新人の殉職率があまりにも高い。魔人の件数はここ1年で増えるだけでなく、その質も上がってきている。今後の試験には今までよりも厳しさが必要なんだ」
例え合格者が0になろうとも、と…そう続ける酒井さん。
「…お話はわかりました。それで私たちはどのように潜入するのでしょう?」
「ああ、それなんだが…君たちには最初から、偽のチームとして試験に参加してもらう予定だ」
「偽のチームとして…」
「それで他の受験生たちを襲ってほしい。タイミングとかはそっちに任せる、良さそうな時に避難警報出すから」
そう言った酒井さんは、先程から黙ったままのもう1人に視線を向ける。A級ハンター…常磐 悠だ。ボサボサの黒髪で目元などをすべて隠している、なんというか…ミステリアスな男性。
「…そんなに見つめなくてもわかってる。ちゃんと協力するから安心しろ」
「どうだかな。お前は特に問題児だから」
「…」
「ま、頼むよ」
と、話の終わりにて…
「あ、そうそう」
「?」
「後遺症が残らない程度なら、どこまで攻撃してもいいから」
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「大丈夫ですか?」
「…ぁ、あ、ありがとうございます!だ、大丈夫…です!」
「なら良かったです」
目の前で話す男女。私は激しい痛みに悶えながらそれを聞いている。
今回の試験において、私たち魔人チームが負けるということは想定されていない。終了時間まで受験生たちが持ちこたえていれば合格。その時の私たちはほぼ無傷である想定だった。
今、それが崩れようとしている。
「…貴方、黒ジャージの貴方に質問です」
「なんですか」
「名前は?」
「…八嶋です。八嶋透。」
「そうですか…」
八嶋透。名前だけは受験者リストで覚えている。彼はやはり推薦枠か。
…推薦枠。
異能や身体能力、それらすべてが不明である推薦枠は、本来最も警戒すべき人物であった。何故なら副会長などからお墨付きを貰っているから。でも私が彼らを警戒していなかったのには理由があった。
それは単純なこと…コネ推薦があるからだ。
わかりやすい例で言うなら来宮亮吾だ。彼の父親は副会長であり、地位や権力がある。そういった者が子供や家族などを推薦し、優遇することはこの業界で珍しくない。現に今活躍しているハンターにもそういう輩は多い。
だから私は見誤ってしまった。
そして今からまた見誤ることになる。
私は知らなかった。
目の前にいる男がバケモノであることを。
「…っ!?危ない!」
宗方さんが叫ぶももう遅い。優先すべきは彼。私は『回復魔法』を使って骨折を治すと、『身体強化』をかけた体で接近し、彼の腹へと手を当てる。
(『ブリザード・バースト』)
瞬間。私の手の平から、20m先までをも凍らせる魔法が放たれた。辺りのすべてを氷が包み込む。
が、それも束の間。数秒で氷にヒビが入ると次の瞬間には吹き飛び、中から彼が出てくる。
「…回復魔法か」
彼は私の腕を見るなりそう呟くと、1度の瞬きの後…目の前にいた。
「!?」
(いや、いくらなんでも速す…)
…え?
目の前に広がるのは青色の空。私は顔面を蹴り飛ばされて海の上を飛行していた。あまりの痛さで鼻の辺りの感覚が消えている。
と、上から何かが降ってくる。
…彼だった。
瞬間。腹に大きな衝撃が加わり、私は吐血しながら海中へと沈んでいく。とてつもない威力で殴られたのだと理解するのは容易かった。
視界を埋め尽くす大量の泡…滲む青と赤。
(なん、なんですか…これ…)
私は曲がりなりにもA級ハンターだ。そして自他共にそう認められるほどの実力がある。ありえなかった。これではまるで…
(受験生の彼の方が…強い?)
…いや、彼を舐めてかかった私が悪い。最初から本気を出していれば勝てたはずだ。そう、この私が格下相手に負けるはずがない。
負けるはずが、ない!!!
(『ブリザード・バースト』)
先程と同じ技。しかし今回は形状を変え、私の周囲を囲うように球状に海水を凍らせる。
刹那、ヒビが入る氷。
そして数秒も経たず、氷を破壊した彼が落下してきた。外の海水が押し寄せるまでの短い間、ここには陸ができる。
そう、彼はここに来ると思っていた。
私は予め彼へと向けていた指先からお決まりの魔法を放つ。
(『ブリザード・バースト』)
「!」
今回は柱状に氷を生成すると、そこに彼を捉えることに成功した。だがそれで終わりではない。
未だ強化された体で跳躍し、彼の目の前まで行く。そして腕に力を込め、氷ごと彼を殴った。氷は当たり前のように砕け、防御も出来ないまま受けた攻撃に彼は大きく吹き飛ばされた。
砂浜まで飛ばされた彼が起き上がる前にその足元へと迫った私は、最後…残りの全ての魔力を使い、渾身の一撃を腹にぶち込んだ。
バキバギィ…
(…はは、は、はははははは)
不愉快な音と共に拳を襲う痛み。
なんで、なんで、なんで…
なんで私の拳が負ける?
ありえない…こんなの、ありえ…
ガッ!!!
(ああ、また…)
何かをされたのだろうが、もう体の感覚もあまりない。魔力を使いすぎた私は自分が殴り飛ばされたことにも気づかず…
そのまま意識を失った。
「…これ、倒せば勝ちでいいのか?」




