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異世界帰りの俺が魔王軍を殲滅するまで  作者: 霞犬
第1章 ハンター試験
20/21

19,惨敗




(痛い痛い痛い痛い痛い)



まずい、両腕の骨を粉々にされてしまった。尋常な痛みだけではなく、とてつもない気持ち悪さに襲われる。


あんな受験生がいるなんて聞いていない!


事前に私が見た試験データでは、特筆すべき受験者は数人程度だった。だがそれも、A級ハンターたちには及ばないほどの数値ではあったのだが…



(彼は何者だ?)



黒ジャージ…確か、楠木と言っただろうか?彼が所属しているチームだったはずだ。あのチームで磨けば光りそうなのは楠木、それと坂田の2名。目の前のこの男については注目していなかった。


…推薦枠、か?


それなら納得がいく。推薦枠の人間はそれまでの1次試験、2次試験を受けていないのでもちろんデータなど存在しない。唯一分かるのは名前や年齢のみ。



(…どうする私。A級ハンター…忌村(いむら) 葉(よう)!)



ーーーーーーー


ーーーーー


ーーー



「魔人のふりをする…ですか?」



私たちが今いるのは協会本部。試験についての会議に呼び出されてのことだった。呼び出されたのは私を含めたA級ハンター3人である。



「ああ、その通りだ。彼らが果たして魔人に立ち向かうのかどうか…それを合格条件にしたい」



私の疑問に答えたのは副会長の酒井さん。



「…副会長。だけどその話だと避難警報を出すんだよな?流石にそれは皆逃げるんじゃねえのか」



こちらはA級ハンターの佐倉(さくら) 円香(まどか)。長い金髪にかきあげた前髪が特徴的な女性だ。



「それもわかっている。人手が足りない今、協会にそんなことをしてる暇がないことも。だが…」


「だが?」


「最近の新人の殉職率があまりにも高い。魔人の件数はここ1年で増えるだけでなく、その質も上がってきている。今後の試験には今までよりも厳しさが必要なんだ」



例え合格者が0になろうとも、と…そう続ける酒井さん。



「…お話はわかりました。それで私たちはどのように潜入するのでしょう?」


「ああ、それなんだが…君たちには最初から、偽のチームとして試験に参加してもらう予定だ」


「偽のチームとして…」


「それで他の受験生たちを襲ってほしい。タイミングとかはそっちに任せる、良さそうな時に避難警報出すから」



そう言った酒井さんは、先程から黙ったままのもう1人に視線を向ける。A級ハンター…常磐(ときわ) 悠(ゆう)だ。ボサボサの黒髪で目元などをすべて隠している、なんというか…ミステリアスな男性。



「…そんなに見つめなくてもわかってる。ちゃんと協力するから安心しろ」


「どうだかな。お前は特に問題児だから」


「…」


「ま、頼むよ」




と、話の終わりにて…




「あ、そうそう」





「?」





「後遺症が残らない程度なら、どこまで攻撃してもいいから」



ーーー


ーーーーー


ーーーーーーー



「大丈夫ですか?」


「…ぁ、あ、ありがとうございます!だ、大丈夫…です!」


「なら良かったです」



目の前で話す男女。私は激しい痛みに悶えながらそれを聞いている。


今回の試験において、私たち魔人チームが負けるということは想定されていない。終了時間まで受験生たちが持ちこたえていれば合格。その時の私たちはほぼ無傷である想定だった。


今、それが崩れようとしている。



「…貴方、黒ジャージの貴方に質問です」


「なんですか」


「名前は?」


「…八嶋です。八嶋透。」


「そうですか…」



八嶋透。名前だけは受験者リストで覚えている。彼はやはり推薦枠か。


…推薦枠。


異能や身体能力、それらすべてが不明である推薦枠は、本来最も警戒すべき人物であった。何故なら副会長などからお墨付きを貰っているから。でも私が彼らを警戒していなかったのには理由があった。


それは単純なこと…コネ推薦があるからだ。


わかりやすい例で言うなら来宮亮吾だ。彼の父親は副会長であり、地位や権力がある。そういった者が子供や家族などを推薦し、優遇することはこの業界で珍しくない。現に今活躍しているハンターにもそういう輩は多い。


だから私は見誤ってしまった。



そして今からまた見誤ることになる。





私は知らなかった。







目の前にいる男がバ(・)ケ(・)モ(・)ノ(・)であることを。



「…っ!?危ない!」



宗方さんが叫ぶももう遅い。優先すべきは彼。私は『回復魔法』を使って骨折を治すと、『身体強化』をかけた体で接近し、彼の腹へと手を当てる。



(『ブリザード・バースト』)



瞬間。私の手の平から、20m先までをも凍らせる魔法が放たれた。辺りのすべてを氷が包み込む。


が、それも束の間。数秒で氷にヒビが入ると次の瞬間には吹き飛び、中から彼が出てくる。



「…回復魔法か」



彼は私の腕を見るなりそう呟くと、1度の瞬きの後…目の前にいた。



「!?」



(いや、いくらなんでも速す…)



…え?



目の前に広がるのは青色の空。私は顔面を蹴り飛ばされて海の上を飛行していた。あまりの痛さで鼻の辺りの感覚が消えている。


と、上から何かが降ってくる。


…彼だった。


瞬間。腹に大きな衝撃が加わり、私は吐血しながら海中へと沈んでいく。とてつもない威力で殴られたのだと理解するのは容易かった。


視界を埋め尽くす大量の泡…滲む青と赤。



(なん、なんですか…これ…)



私は曲がりなりにもA級ハンターだ。そして自他共にそう認められるほどの実力がある。ありえなかった。これではまるで…



(受験生の彼の方が…強い?)



…いや、彼を舐めてかかった私が悪い。最初から本気を出していれば勝てたはずだ。そう、この私が格下相手に負けるはずがない。


負けるはずが、ない!!!



(『ブリザード・バースト』)



先程と同じ技。しかし今回は形状を変え、私の周囲を囲うように球状に海水を凍らせる。


刹那、ヒビが入る氷。


そして数秒も経たず、氷を破壊した彼が落下してきた。外の海水が押し寄せるまでの短い間、ここには陸ができる。


そう、彼はここに来ると思っていた。


私は予め彼へと向けていた指先からお決まりの魔法を放つ。



(『ブリザード・バースト』)



「!」



今回は柱状に氷を生成すると、そこに彼を捉えることに成功した。だがそれで終わりではない。


未だ強化された体で跳躍し、彼の目の前まで行く。そして腕に力を込め、氷ごと彼を殴った。氷は当たり前のように砕け、防御も出来ないまま受けた攻撃に彼は大きく吹き飛ばされた。


砂浜まで飛ばされた彼が起き上がる前にその足元へと迫った私は、最後…残りの全ての魔力を使い、渾身の一撃を腹にぶち込んだ。



バキバギィ…



(…はは、は、はははははは)



不愉快な音と共に拳を襲う痛み。



なんで、なんで、なんで…



なんで私の拳が負ける?



ありえない…こんなの、ありえ…



ガッ!!!



(ああ、また…)



何かをされたのだろうが、もう体の感覚もあまりない。魔力を使いすぎた私は自分が殴り飛ばされたことにも気づかず…



そのまま意識を失った。





「…これ、倒せば勝ちでいいのか?」




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