18,避難指示
ドサッ
「これで2チーム目ですね」
「ああ」
来宮を気絶させた後、俺は楠木たちと遭遇したチームを片っ端から倒して回っていた。
(これで…あとは待つだけでいいよな?)
この試験では他チームの魔道具を壊すという目的があるが、その魔道具というものは常に独特な魔力を放っているので、それを感知できる俺は狙うべき人・物が初見で分かる。
そしてチームでの連携も取れていて、魔道具も有効活用できている。
あとは時間までやられなければ合格条件を全て満たせるだろう。
唯一気がかりなことはと言うと…
「楠木…それ、やっぱり壊さないか?」
「いやいや!せっかく拾ったんですから有効活用しましょうよ!」
「拾ったんじゃなくて奪ったんだろ…」
「そうとも言います」
楠木が手に持っているのは透明なビン。気絶した来宮からかっさらった魔道具だ。彼はチームではなく1人だけで襲撃してきたので、魔道具がこれ1つなのかどうかはまだわからない。
楠木はルール違反ではないということからそれを奪ったのだった。
「…でももう戦う必要とかないし、下手に盗んだせいで失格扱いになったりしないかな…?」
「同意。あとは逃げれば勝ちだし使うこともないだろ。不安要素は取り除くべきだ」
「え~…、もう、そんなに言うならわかりましたよ…」
パリン!
楠木は空中に放ったビンを魔道具の剣で叩き壊した。
「うん、それでいい」
(さて…)
残り時間はあと40分程度…逃げ続けるには長い時間だし隠れるのが吉だろうか。と、考えを巡らせていた時だった。
ジリリリリリリリリリッ!!!
「…?」
『緊急避難警報!緊急避難警報!当施設内にて魔人の侵入が確認されました。階級は不明。試験は中止となりますので、受験生の皆様はただちに避難してください。繰り返します………』
「…魔人っ!?」
突然鳴り響いた警報に驚きの声を上げる楠木。坂田は表情が固まったまま青ざめていく。
(…まじか)
突如の魔人出現…実戦経験が0に近い受験生たちの相手としてはあまりにも不相応すぎる。迷っている暇はない。指示に従ってすぐにここから離脱しなければ。
「楠木、坂田、あれは持ってるな?」
「あ、はい!入口へ転移できる魔道具ですよね?」
「ああ、今すぐ避難するぞ」
「わ、わかりました!」
「…」
「坂田、どうした?」
「…ごめ、さい」
「…綾音?」
「ごめん…なさい。失くしちゃった…」
その返答に言葉が詰まる俺たち。坂田を置いて転移した場合、彼女は1人でこの場から脱出しなければならなくなる。
しかし肝心の彼女は魔法が得意と言っても戦闘経験なんてものはなく、万が一魔人と遭遇でもしたら命に関わることになってしまう。
…選択肢は1つ、俺たち全員が自力で脱出すること。
「楠木」
「わかってますよ、八嶋さん」
お互いを見て頷き合う。楠木も俺と同じ考えのようだ。
「綾音、皆で力を合わせてここを出よう。同じチームだろ」
「そうだな」
「2人とも…ごめん、ありがとう…」
自身の失態1つで他の人まで命の危険にさらしてしまった…彼女のその心情はとてつもなくぐちゃぐちゃになっているだろう。
だがそれのケアをするのは後だ。
(まずは位置の把握から)
集中し、広範囲に及ぶ魔力感知を行う。そして確かにこの施設内…いや、会場内に比較的大きな魔力反応を見つけることが出来た。
が…
(…いや、これ魔人じゃないよな)
その反応はどう見ても人間が放つそれであり、魔人とは全く違うものであった。それと数が3つある。これは一体どういうことなのか。
(…待て)
先程の警報を思い出す。何かおかしな部分があった気がする。
「あ」
「…?八嶋さん、どうしました?」
「2人とも…この建物にいるのって受験生だけじゃないよな?」
「え、はい…協会の人や掃除会社、設備点検の人とかいるんじゃないですかね?」
「だよな」
「それが何か…?」
「さっきの放送、どうして受験生だけに向けたものだったのか不思議に思ってな」
「それは…どういう…」
「今俺は施設内の魔力感知をしたが、結果から言うと魔人はいなかった」
「…え?」
そう、先程の放送内容には虚偽が含まれている。これが意図的なものであるのかまではわからないが、もしそうであるなら…
ここで俺たちが魔人に立ち向かうかどうかを見られている可能性がある。
「…えっと、つまり?」
「これも試験の一部かもしれないってことだ」
「「…!」」
今までやっていた試験内容が嘘ということはないだろう。しっかりそこも見られている…が、多分この先が最も重要視される部分になると思う。
「それ、は…ありえなくは…ないですね」
「数は3人。それぞれ西の森林エリア、東の海エリア、北の草原エリアだ」
「3人も…」
「1人…他よりも明らかに強い人がいる。海エリアだ」
「なら、その人から先に皆で…」
「いや、俺が1人で行く」
「え?」
俺が言ったことの意味がわからず硬直する楠木。
「二手に分かれるんだ。俺1人、そして楠木と坂田の2人チームに」
「それは何故ですか?」
真っ直ぐに、端的に質問する坂田。
「ここからは海エリアが1番遠い。そこから1人ずつ倒して回るとなると時間内には終わらない」
「…でも、安全面を考慮したら1人は危険です」
「それは問題ない」
「何が…」
「俺強いから」
俺の発言に本当かと疑うような視線を向ける楠木たち。
「いや…」
「んー、八嶋さん。それは理由になってないん…
「時間も迫ってる。楠木たちは西の森林エリアに向かってくれ」
って、ちょっ!八嶋…さ…?あれ…?」
俺はそれだけ言うと東に向かって走り出した。
(離れるのもチームプレイの一環…となるならいいが)
東にいるその人物は、単純な魔力量で言ったら他の2人と倍ほどの差があった。受験生はもちろんのこと、勇崎さんや宗方さんでも勝てるかわからないほどだ。
そのため楠木たちに相手させるわけにはいかない。
彼らに話した俺の離脱理由は意味のわからないものとなってしまったが…とりあえず今はいい。
勝てるところは勝てる人が相手する。ただそれだけ。
「………消え、た?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私が飛ばされた場所…海エリア。突如として鳴り響いた警報は、魔人が侵入したことを知らせるものだった。そして今、私の目の前にそいつがいる。
「どうやら協会の人間に知られてしまったようです」
…怖い。魔人を生で見たのはこれが初めてだった。
「…ふむ。恐怖で戦意喪失…といったところでしょうか」
逃げなければならない。今すぐ逃げなければ。
「ん、あ〜…確か貴方たちは転移用の魔道具を持っていると聞きましたが…どうします?使いますか?」
「…」
逃げる…?逃げるの?私は、何のためにここに来たの?
「ほら、今のうちですよ。私が貴方を殺してしまう前に逃げるのです」
「…んだね」
「…はい?」
「そんなの…ごめんだね…!」
震えて上手く動かせない手足で、それでも私は戦うことに決めた。私がここに来た理由は姉のような立派なハンターになること。
「ここで魔人から逃げるようなら…ハンターになんてなれるはずない!」
「…そうですか。ではご要望通り…貴方を殺して差し上げましょう」
(…やるんだ。私ならきっと勝てる。なんたって私は…宗方姫の妹なんだから!)
私は光の剣を再び握ると力強く地面を踏み込み、相手へと飛びかかった。先程同様に氷の礫が飛んでくるが、大きなもの以外は全て無視して突き進んでいく。
…本日2度目、彼の懐へと潜り込んだ。
「はあぁっ!」
そしてその手に持った剣を振るおうとした時だった。
ピキッ…パキッ…
「!?」
(何、これ…?)
小さな礫が被弾した腹や腕、肩や脚などから氷が広がって、私の体を固めていく。
…動けない。
全く動かすことができない。
「はい、これで終わりですね。威勢がいいだけで大したことなくて残念です…お疲れ様でした」
彼が私の顔面へ向けて手をかざす。その中心に魔力が集められ、徐々に氷を形作っていった。
「これを打てば、そこで貴方の人生は終わります」
「…」
「怖いでしょう?恐ろしいでしょう?私たち魔人はその恐怖に歪んだ顔が大好きなんですよ」
「…怖くなんてない。ハンターになるってのはそういうことだから」
「…そう、ですか」
その時、水色髪の魔人が何を感じたのか私には分からなかった。彼が西の方角にちらりと目をやった瞬間…
その眼前に黒ジャージの男性がいた。
「っ!?!?」
バギ!!!
咄嗟の判断…魔法で腕に氷をまとい防御をするも、一撃で粉砕された彼はとてつもない速さで波打ち際まで飛ばされる。
「…」
(彼も受験生…なの?)
彼が見下ろす先には顔を青くした魔人が悶絶しながらもぞもぞ動いている。そして顔を上げた彼が私に話しかけてきた。
「大丈夫ですか?」




