17,異変
「もぉおぉ…!だから嫌だったんですよぉおー!私には荷が重いですってぇえ」
泣き言を叫びながらみっともなく逃げ惑う。現在私は2番チーム…白色ジャージの女性に背を向けて走っていた。そして何故か魔道具持ちを任されていたため、その両腕で抱きしめるように持っている。
パチッ…!バリィ!
後方より私を狙って放たれた雷魔法が、足元の数cm後ろへと当たる。
「ひぃいいぃ…」
私自身には当たっていないはずだけど、何故だか足先から痺れが広がる感覚がある。多分私の思い込みによるものなのだろう…幻触というやつだ。
「チッ、ちょこまかと逃げんじゃねーよ!」
バチバチと電気の弾ける指をこちらへ向けながら、金髪の彼女が口を開く。その風貌はどこか活発的というかなんというか…アクティブな人だと感じた。
「いやだって無理ですもん!私戦うとか無理ですもん!」
「じゃあなんでテメーは試験に参加してんだ…よっ!」
「…っ!」
引き続き攻撃の連続。
逃げる。ひたすら逃げる。
私は生まれてこの方喧嘩すらしたことがないし、人を傷つけるどころか泣いている人を見るだけでも悲しい気持ちになってしまう。
戦うなんてもってのほかだ。
(もう…帰りたい…)
「んだコイツ…足だけはマジで速いな…」
辺りに広がる草原。要所要所にある岩を盾にしたりして逃げる…けどそれも限界が近かった。
(もう…無理ぃ…!)
私は確かに勉強が得意だ。でも運動はてんでダメ。そんな運動神経でよくもここまで逃げられたものだろう。
「これで…どうだっ!」
「いっ…!」
彼女の放った雷魔法がふくらはぎに被弾する。大きな痺れにふらつき、その場で転んでしまった。
コロコロと、私の持つ魔道具が前方へ転がっていく。
(だ、だめ…これだけは!)
これだけは壊されてはならない。私がいくらやられても皆の迷惑にはならないけど、これが壊されたら私たちのチームは不合格だ。
足に力が入らず、這いつくばるようにして進んで魔道具に覆いかぶさった。
足音が近づいてくる。
…彼女だ。
「テメー、そんな戦い方でマジでハンター目指してんのか?」
「わ、私は別に…そんなんじゃ…」
「は?」
「い、いや、その…友達に誘われて…」
「なんだそれ…キモ」
「…っ」
「そんなん他のチームメンバーに失礼だろ」
「それ、は…」
「テメーみてぇな目標もない、遊びで来てるようなやつが同じチームでつくづく可哀想だな」
「…」
返す言葉もない。彩花が私を誘った理由は試験が不安だから。じゃあ彩花が落ちた後、私が試験を受ける意味はある?私はなんで辞退しなかったの?どうしてここにいるの?
昔からそう…私には自分の意見がない。
親の言う通りに勉強して、友達に意見を合わせて、服や髪型、お化粧も流行りのものを真似る。
どれも私が実際にしたいと思ったことじゃない。でもいつしかそれが私の中での普通になってた。
いつから?
わからない。
わからないよ…私には。
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光で形成された剣を握り、飛んでくる数多の氷の礫を叩き斬る。
「んー、キリがないね~…」
近づこうにもあの攻撃が邪魔すぎる。正確に私の動きを読んで打ってくるから余計タチが悪い。あの水色髪の男性…私を近づけさせないようにしてるってことは後衛専門?
(…理子ちゃんたち、大丈夫かな)
先程敵陣に囲まれた私たち4番チームは、現在2番チームと交戦していた。そして未だに何が起こったのか理解出来ていないが、瞬きをした瞬間にそれぞれが別の場所に飛ばされてしまった。
これが魔道具の効果なのか、あるいはそういった類の異能なのか今はまだ判断がつかない。そして誰が魔道具を持っているのかもわからない。
とりあえずは目の前の彼を倒すだけだ。
「…貴方は宗方ハンターの妹ですか」
「うん、そうだよ」
「ああ、通りで」
「何?髪と瞳の色のこと?」
「いえ…」
「?」
「何でもありません」
口を開いた彼は何かを言いかけるもすぐに黙ってしまった。少し気になるが試験とは関係ないことだ。無視しよう。
とにかくこのままでは埒が明かない。
(被弾覚悟で一気に近づいて攻撃を当てるしかない!)
集中…
(『身体強化』)
「はぁっ!」
足と接着していた地面にヒビが入り、砂埃が舞う。私は一瞬で彼の目の前に迫ると『光属性魔法』で生成した剣を彼の右脇腹へと振るった。
「ぐぅっ…!」
小さな衝撃波が生まれ、彼の軽い体は跳ねるように飛んでいく。そして私は大きく飛び跳ねて彼の真上まで行くと、トドメの魔法を放った。
「『天罰』!」
シュウゥウウゥウウウ!!!
天から落ちるような光の柱が彼を貫き、近くの私も視界が真っ白になる。
それが元に戻る頃、目の前にはボロボロの彼がいた。仰向けのままの彼が喋りかけてくる。
「ああ…結構やりますね、貴方」
「ありがとう。私、そろそろ戻るから」
「いやいや」
「もー、まだ何かある?負けたんだから終わりでいぃ…」
「負けるのは貴方ですよ」
…なんで?
私が後ろを振り返ると、そこには傷一つない彼が立っていた。
「貴方たち4番チームの戦い方はなんとなくわかりました」
「何を…」
「ここからが本番です」
ゾワッ
(…!?)
突如として背筋に走る悪寒。これは何?知らない。初めての感覚。
トドメを刺し、もうボロボロだったはずの相手が次の瞬間無傷で立っていた。しかしそれだけではなく、何かとてつもなくおぞましいオーラを全身で感じる。
ーーー怖い。
何か得体の知れないものを相手にしてるような…
「おや、どうしたんですか。そんなに怖がって」
「ひっ…」
「ああ、それじゃまともに戦えそうにないですね」
彼が少しずつ近づいてくる。
(駄目…足が動かない…)
「ああ…」
彼が、口を開いて…
「魔人を相手にするのは初めてでしたか?」




