15,見誤る
「えっと…篠崎さん、どうする?」
話したのは緑髪を長く伸ばした女性。その毛先は外側や内側に不規則に跳ねていて、黒縁眼鏡からは知的な印象が感じられる。
名前は須藤 三玖。
「どうしようもない。元より彼は俺たちと行動するつもりがないみたいだったからな」
答えたのは短い赤髪の男性。彼の顔には無数の傷跡があり、とても痛々しい。
名前は篠崎 玲。
彼らのジャージは赤色。来宮亮吾と同じ1番チームだ。試験開始直後に彼が飛び出してしまい、2人はその場に取り残されていた。
「ねえ…もしかしてこれ、チーム内で協力をしてないって判断されて不合格とかなる?」
「それはないと思う。協会側もそんなザル試験は作らないだろう」
「まあ確かに…1人の勝手な行動でおしまい、だなんてなったら馬鹿げてるわ」
「そうだな。今の俺たちにできるのは、残された2人で協力することだけだ」
「…そうね」
「チーム内の1人が勝手に抜け出し、人数的にも他チームと比べて不利になった。しかし残された2人で何とか協力し勝ち残る…その過程を見てくれると信じるしかない」
篠崎はとある物を手にして眺める。彼らの魔道具…透明なビンだ。これは1人1つずつ配られた。もちろんこれはただのビンではなく特殊効果がある。それは魔法を閉じ込めることができるというものだ。
詳しい使い方は以下の通り。
1,フタを開けた状態のビンに魔法を放ち、中に魔力が満ちているのを確認してフタを閉じる。
2,好きなタイミングでフタを開けると、その際にビンから魔法を発動できる。
そして使用回数の上限はなし。この魔道具の使い方は主に2つある。
1つ目は、相手の魔法を吸収して自身の手札にするというもの。
2つ目は、事前に魔法を入れておき、戦況に応じて不意を突くタイミングで使うというもの。
恐らく全チームの中で最も戦略の幅が広がる魔道具である。
「須藤さんは魔道具どうする?」
「んー、私は咄嗟に吸収するとか出来なそうだし、事前に入れておこうかな〜」
「わかった。では俺は空のまま持っておこう」
「悪いね、助かる」
全ての準備が終わり来宮の消えた方角へ進もうとした時だった。気のせいだと思える程度の違和感。小さな光…
「篠崎さんっ!」
須藤が叫ぶ。そして視界の外側から放たれた魔法攻撃…水が圧縮され、1つのボールのようになっている。篠崎はギリギリでそれを躱すとその人を見つめた。
「…奇襲ってやつか」
ーーー黒髪の美しい少女を。
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完全に意識外からの攻撃だったはずが避けられてしまった。相手は赤色のジャージ。数は2人…?
「随分と反射神経がいいのね、近接戦闘タイプかしら?」
「…答える義理はない」
「それもそうね」
私は彼らのことを改めて観察する。
(さっき遠目で見た時からそう…彼ら、魔道具を持っていない?)
いや、とすぐにその考えを否定する。もしかすると携帯するタイプの小さな魔道具かもしれない。
「雪、後方支援をお願いできるかしら」
「もちのろんっ!」
「日坂さんは私と一緒に近接戦闘を」
「わかりました!…でも神崎さんも前に出るんですか?」
「ええ」
相手の魔道具がもし携帯タイプなら、恐らく距離の離れた戦闘においては使用するタイミングがないと考えられる。私たちの目的はあくまでも魔道具の破壊。ただ戦うだけではないのだ。
相手の人数は2人。どちらが魔道具を持っているのかは不明。1人ずつ相手をしなければならない。
「来ないのならこちらから行くぞ」
そう言うと赤髪の男性は私に向かって走り出した。
「日坂さんは女性の方を。私は彼の相手をするわ」
隣で日坂さんが頷いたのを確認し、正面を見据える。彼との距離はあと10mほど。
(…『身体強化』)
瞬間、流れるような手さばきで彼から放たれたのは闇で形成された矢だった。
「『防壁』」
手をかざし、私を囲う水の壁を作る。私の異能の1つ『水属性魔法』だ。矢の攻撃は壁に弾かれ空中に消えていく。が、相殺されて同時に壁も壊れてしまった。
(…いない?)
彼が消えた。…いや、違う。
(上っ!)
私の頭上では跳躍した彼が蹴りの体勢に入っていた。先程の矢による攻撃は私の注意を逸らすためで、端から防がれることを前提としていたのだろう。
「っ!」
私は咄嗟に後方へずれて蹴りを躱す。そしてすかさず蹴りのカウンター。腕でガードをされたが『身体強化』で上乗せされた威力はそれでは消せない。みしっと嫌な音を立てて彼が後方へ飛ぶ。
だがそれだけでは終わらせない。私は空中の彼に高速で接近すると胴体を横から蹴り飛ばす。
「がっ…」
そして次の瞬間、蹴り飛ばされた彼を暴風が襲った。後方に控えている雪の『風属性魔法』である。その場に立っていられないほどの強風に吹かれ、彼の体が空中へと舞い上がる。
連撃、更に連撃。動く隙を与えない。彼をピンチに追い込み魔道具を使用させる目論見だ。
そしてそれは成功した。
「…え?」
最初に声を出したのは雪。それもそのはず、自身の放った魔法が意図せず消えたのだから。突如消えた暴風の中、もみくちゃにされていた彼が着地する。
彼のポケットに一瞬ビンのようなものが見えた。恐らくあれが魔道具。
(魔法を消す?あるいは吸収?)
効果は何にせよ魔道具が判明したのは大きい。あとはあれを壊すだk…
(…え?)
何が起こったのか分からなかった。気付くと私の視界は横向きになっていて、全身を巡る浮遊感に襲われる。直後、横腹に激痛が走った。
「っ、くぁ…」
蹴られた?いつ蹴られた?彼は動いていた?ありえない…油断はしていなかったはずだ。
(初動が見えなかった…)
地面を何回も転がり、全身に広がる痛みを抑えながら立ち上がる。目の前には彼がいた。
「わかっていただろう、俺が近接戦闘タイプだと。あの程度の肉弾戦で苦戦なんてしない」
声が出せない。最初のバウンドで背中を打ってしまった…
「何、最初は様子見だ。身体強化系の異能は使わずに戦ってみようと思ってな」
呼吸が荒い。視界も少し滲んでいる。ただの蹴りなのに想像以上の威力だ。これをあと何発も食らってしまったら私は気絶してしまうだろう。出来ればこの隙に雪が魔法を打ってくれると助かるのだが、それが出来ないということはお互いわかっている。
それは魔道具によって魔法を吸収される可能性があるからだ。
ただ魔法を消すだけならいいが、吸収されるとなると相手の手数が増えることになる。余計勝ち目がなくなってしまう。
彼が私に近づく。
どうする…
どう…
パリン!
「こっちは終わりましたよ。神崎さん」




