14,勃発
(まあ…断れなかった私も悪いけど…)
彩花の実家はお金持ちで、私は彼女の両親から試験費用の援助を受けている。というのも、親として娘のことが心配なのだろう…彼女の両親からも一緒に受験することをお願いされたのだ。形だけでもいいから、と。
確かに友達と一緒だと多少の不安は和らぐ。彩花もハンターを目指すとは言いつつも、1人では試験を受けに行く勇気がないのだ。そして私は友達としてそれに応えた、のだけど…
(まさか私だけ最終試験に進んじゃうなんて…)
思いもしなかった展開。私は今更試験を辞退することもできず、重い体を引きずってここにいるのだった。
というか…
(八嶋さんも…いるんだ)
八嶋さん。あの事件の時、私と共に行動していた男性だ。彼は私や他の皆を助けてくれた。でもその際の彼の行動に恐怖を抱いてしまった私はその場から逃げ出してしまい、未だにお礼すら言えていない。
さっき2ヶ月ぶりに彼を見た。そしてわかったのは、まだあの恐怖は消えていないということ。彼のした恐ろしい行為…殺人鬼の骨が折れる音や嗚咽が脳内にフラッシュバックして、顔をきちんと見ることができなかった。
でも、いつかは言わなきゃいけない。だって彼が私たちを助けてくれたのは紛れもない事実だから。ありがとう、とただ一言。もし言えるのであれば、この試験が終わった後にでも…
「おーい!理子ちゃん、ぼーっとしてるけど具合悪い?」
「ふぇっ!だ、大丈夫!」
少し考え事をしすぎていたかもしれない。私は桃子ちゃんに話しかけられて我に返った。
「ご、ごめんね…ちょっと考え事してて」
「そっか…もしかして試験が不安とか…?でもそれなら安心して!なんたってあのA級ハンター…宗方姫の妹が仲間なんだから!」
「うん、ありがとね…桃子ちゃん」
宗方桃子…彼女はその苗字からわかるように、A級ハンターの宗方姫さんの妹だ。特徴的な桃色の髪と水色の瞳は姉妹共通で、唯一違うのはその成長具合である。
姉の姫さんはかなり小柄だけど、妹の桃子ちゃんの方はとても大きい。身長もそうだけど…特に胸が。そのため彼女ら姉妹は、よく桃子ちゃんが姉だと勘違いされるのだとか。
「ふんっ、随分と自信があるようですが、この中で1番強いのは僕ですのでお忘れなく」
「もー、別に誰が1番かなんて今話してなかったでしょー!」
「勘違いされぬようにと、念の為に申したまでです」
「ほんと、村田くんは絡みずらいな〜」
「は、ははは…」
桃子ちゃんに文句を言ったのは村田さん。彼は自己紹介の時からずっとこの調子である。何かにつけて自身が上であることを示し、マウントを取ってくるのだ。そのため私は苦笑いをして返すことしかできない。
「大体…あなたの姉がA級ハンターだといっても、それとあなたの実力には何の関係もありませんからね」
「もー、わかってるって!さっきのは理子ちゃんを安心させるために言っただけだから!」
「ふんっ」
(流石に桃子ちゃんに突っかかりすぎじゃないかな…?)
思い返せば、私より桃子ちゃんにばかり自慢話をしていた気もする。
あ、もしかして…
(桃子ちゃんが気になってるとか…!?)
「なんかごめんね、理子ちゃん…」
「あ、いや!全然!むしろありがとね?嬉しかったよ!」
「ほんと…?それなら良かった!」
そう言って桃子ちゃんが抱きついてくる。
「えっえっ!ちょちょ…」
「あ〜理子ちゃんはいい子ですな〜」
「きゅ…急にどうしたの桃子ちゃん?」
「んー?ただぎゅーしたかっただけっ!」
「そ、そっか…?」
桃子ちゃんは会った時からこんな感じで、すぐに親しい友人のような雰囲気になった。パーソナルスペースが狭いというかなんというか…。私だけその雰囲気に置いてかれてる気がするけど…
と、こちらを羨ましそうに見ていた村田さんが声を出す。
「…お2人とも、そろそろ行きますよ。いいですか、足だけは引っ張らないでくださいね?」
「村田くんこそね〜?」
「ふんっ、それは僕に言うことではありませんね」
「ははは…」
ちなみに私たち4番チームのジャージは緑色だ。そして魔道具は私が持っているこの球体。
この球体の効果は…
「っ!理子ちゃん!」
「へ?」
突如叫んだ桃子ちゃんは私を引き寄せると、目の前に迫って来た何かを蹴りで砕いた。霧が分散するように壊れたそれは氷の塊のようだ。
「っ、ありがとう!桃子ちゃん!」
「危なかったー!怪我はない?」
「うん、平気!」
「…いきなり来たね〜」
斜め右…草原エリアの方角から放たれたその攻撃は、どうやらあの人の仕業のようだ。
水色の所々跳ねた髪と、隠れた目が特徴的な男性。ジャージは白。
「…当たらないか」
(…1人?…いや、違う!)
「桃子ちゃん…村田さん…」
「ええ、そうですね…。あなたたちのせいですからね」
「ははは…囲まれちゃったね〜」
さて、どうするか…
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殴る、振る、殴る、振る、殴る…
お互いの攻撃が止むことはなく、一瞬の油断もできない。
(…今!)
放たれたのは横薙ぎの一閃…が、しかし。大きく振り抜いた剣は避けられて空を切り、体勢を立て直すまでの隙を彼が見逃すはずもなく俺は腹を蹴られる。
「かっ…」
…体の動かし方に規則性がない。もちろん殴ったり蹴ったりする時の癖などはあるが、呼吸の暇、攻撃速度に角度、避け方などが毎回変わるため予測ができない。
彼…来宮亮吾は、俺が苦手な直感タイプの戦闘を行う者だ。どちらかと言うと俺は考えながら戦うタイプ。
直感タイプの相手と戦う際は、こちらもある程度直感に任せた戦闘を求められる。あれこれ考えてるうちに相手のペースに呑まれ、不利な状況になる可能性があるからだ。
(そろそろ一撃を入れたい)
俺はまだ来宮に一撃も入れられていない。ガードされてしまう。またそれに加えて彼は避けるのが異様に上手い。盛っていると思われそうだが、先程は剣を振る前に既に軌道を読まれて反撃を食らった。
「おいおい…くくっ、お前本気で戦ってんのか?」
「…っ」
(…じゃあこれならっ!)
俺は再び彼に接近する。
(『身体強化』)
と…ここで異能を使う。今まで何度も見せた接近パターンよりも大幅に速度を上げる。突然の急加速…これには反応できないはずだ。
振り抜いた青色の剣が曲線を描き、虚を突かれた来宮の胴体に直撃する。ちなみにこの剣の刀身は逆さになっていて、物などを斬ることは出来ない作りだ。
「ちっ…んだぁこれ…なんか気持ち悪ぃな」
「…なるほど」
「気持ち悪い」というのは攻撃を食らった時の感想として少しおかしい。普通は「痛い」と言うところだ。つまりはこの攻撃において普通ではない何かが発生したということ。
そしてそれが、俺たちのチームが知りたかったこと。
俺は後ろを振り返り、八嶋さんとアイコンタクトを取る。そして頷く八嶋さん。これでこの魔道具の説明にない仕様が判明した。
それは『衣類を隔てていても魔力が吸収できる』という点だ。
現在俺1人で来宮と戦っているのには2つ理由がある。
1つ目が今言った仕様の確認。俺が攻撃を当てたタイミングで、後ろの2人が魔道具が作動しているか確認する。
そして2つ目は綾音…王への奇襲を防ぐためだ。綾音だけが後衛のため、その他の2人で戦うとなると綾音への急な攻撃に対応できなくなる。八嶋さんは護衛役ということだ。
ということで魔道具の仕様も知れたので、ここらで終わりにさせてもらう。
「よそ見してんじゃねえぞカス…あぁ、お前何笑っ…!」
どうしてそれがわかったのか…反射的に上を見上げる来宮。だがもう遅かった。
バッシャァアァアアアン!!!
頭上からの大きな落雷。
「かっ…は…ぁ…」
その場に倒れる来宮。俺は彼が気絶していることを確認すると皆の元へ戻った。
「綾音、ありがとう」
「う、うん!と、ととというか大丈夫かなっ!?こ、こんな威力が出ると思わなかったんだけど!」
「…正直、それは俺も驚いた」
先程綾音が放ったのは雷属性魔法の『落雷』というもの。そう、元より最後は彼女の魔法で決める予定だったのだ。
そして『落雷』についてだが、本来あそこまでの威力は出ない。綾音の魔力量だと限界まで頑張ってもポ○モンの10万○ルト程度の威力で、相手を気絶させるには至らないのだ。協会によると、使用者の魔力量によって異能の効果は変わるという話がある。これは異能持ちが出始めて数ヶ月ほどで判明したことだ。
が…来宮の魔力を一度だけ、一瞬だけ吸い取り、魔力量が少し増えただけの綾音にあの攻撃が出せる道理がない。
もしかするとこの魔道具には…
まだ何か隠されているのかもしれない。




