13,試験開始
「始まりましたね」
会場内に設置されたスピーカーから試験開始の音が鳴り響く。今俺たちがいる森林エリアは視界が悪く、戦闘になればお互いの姿を見失う可能性が高いため、まずは開けた場所に出ることが最優先だ。
「それじゃあ2人とも、まずは移動しましょう」
俺はそう言って歩き出そうとしたが、突然楠木さんに止められた。
「八嶋さん、その前に1ついいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「その喋り方…辞めましょう!」
…彼は何を言っているのだろうか。訳が分からず聞き返す。
「…と、いうのは?」
「敬語なんて使わず気楽に喋ってください!そもそも俺たちより年上ですし、戦闘の際の会話は短い方がいいですよね?それに八嶋さん、なんだかずっと喋りにくそうなので…」
「……わかりま…わかった。…それならこの先は普通に喋らせてもらう。気遣いありがとう、楠木さん」
「それもですよ!」
「…?」
「楠木って呼び捨てでいいです。さんは要らないですから!」
「…だがそれは常識のある大人として…」
「いいったらいいんです!それに俺、せっかく同じチームになったんですから八嶋さんと仲良くなりたいんです!」
「……そうか、わかったよ。よろしく…楠木」
「へへ…はい、よろしくお願いします!」
楠木さん…改め楠木は、屈託のない笑顔を俺に向ける。俺と彼は今日会ったばかりの関係であるが、ここまで懐かれるようなことを何かしただろうか?思い出してみても心当たりがない。
(…あ)
先程の更衣室での会話を思い出す。
(楠木はもしかして…筋肉好きなのか…?)
実際のところ楠木は距離の詰め方が早く、ただ人懐っこいだけであるのだが…俺がそれを知るのは当分後のことであった。
「あ、あの、私も…よ、呼び捨てでいいですからね!」
「うん、わかった。ありがとう…坂田」
「ど、どういたましまして!あっ…」
坂田はまだ緊張しているのか盛大に噛むと、本日何度目かの赤面になり俯いてしまった。魔道具の王冠が落ちないように両手で抑えている。
(さて…)
気を取り直した俺たちは森林エリアを抜けるために歩みを進める。ここは会場内ということもあり一切の風が吹かない。そのため辺りに無数に生えた木々は揺れることがなく、逆に揺れるようなことがあれば何かしらが起こったサインとなる。
…慎重に、警戒しながら、その手に剣を握り進む。が、特に何も起こることなく外まで出ることが出来た。森林エリアの外は草原エリアとなっていて、所々に岩のようなものが見えるが見晴らしはとてもいい。
「まだ試験は始まったばかり、皆様子見をしているな」
「ええ、そうですね…。どこかで戦っているような気配もありません」
「…で、でも、気は抜かないようにしないと…!」
「ああ」
と、ここで俺たちの作戦について話しておこうと思う。
作戦名はずばり『ガンガンいこうぜ』だ。
…これを作戦と言ってしまっていいのか疑問ではあるが、内容は単純だ。前衛の俺と楠木が暴れまくり、後衛の坂田が魔法で支援を行う…それだけ。
ただ1つだけ特徴がある。それは前衛について。2人が前衛になるとは言っているが、配置としては前から先陣を切る楠木、王を守りながら楠木と共に戦う俺、王の坂田、といったように1列に近い形になっているのだ。
この作戦の良いところは、丁度俺たちの得意分野で役割を分けられたところだ。チームワークは戦っていくうちに掴むとして、その他の戦闘面においては普通に戦えばいいのだから。ちなみに最前線に楠木が配置されたのは彼の立候補があったからだ。そして状況把握が得意だった俺は中間位置に配置された。王の坂田はもちろん1番後ろ。
この試験の内容について振り返る。合格基準とされる大切なポイントがあったのを覚えているだろうか。
1,チームで協力をして戦うこと。
2,魔道具を有効活用すること。
この2点だ。
そう、戦闘系の試験なら俺が1人で終わらせることも可能なのだが、そういった場違いな行動は制限されているのだ。戦闘などの他にも、ここでは他者との協力やコミュニケーションといった人間性の部分を見られる。そのため協調性のない者は落とされてしまうのだ。
そう…協調性のない者は…
遠くから近づいてくる影。それはかなりの速度で走っているらしく、あと少しの距離になると大きくジャンプをし、俺たちの目の前に着地した。
「よう…1番にボコりに来てやったぜ」
目の前に現れたのは1人の男だった。色が落ちかけた金髪、耳には大量に付けられたピアス。その鋭い目付きからは彼の苛立ちが伺える。ジャージの色は赤。
「来宮 亮吾だ。覚えておけ、カス」
不良こと…来宮亮吾、その人であった。
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「…始まりましたね」
声を出したのは、長い黒髪と整った容姿が特徴的な少女。先程来宮と対峙していた者だ。
名前は神崎 結衣。
「いよいよって感じだネ〜」
続いて返事をしたのはまたまた少女だ。灰色の髪の毛は毛先に向けて黒色のグラデーションがかかっている。肩まで伸ばしたその髪型は俗に言うウルフヘアーだ。体型は細身で、尖ったネイルのラメをキラキラと煌めかせている。
名前を吉岡 雪という。
「皆で力を合わせて頑張りましょう!」
そして最後に声を出したのは人の良さそうな青年。癖のある茶髪を短く切りそろえており、犬のような雰囲気が特徴だ。
名前は日坂 誠。
彼らは青色のジャージを着ており、同じ3番チームとして海エリアからスタートしていた。魔道具は大きな杖のような物で、使用効果は不明。
「このエリアは会場の端のようね。恐らく中心に向かえば向かうほど激戦区になることが予想されるわ」
「そだネ〜結衣ちゃん。最初は森林エリアに行くんだっけ?」
「ええ、そうよ」
2人の少女…神崎と吉岡が親しげに会話する。
「森林エリアはここから西側らしいですよ!」
「ありがとう、日坂さん」
「ありがとネ!」
茶髪の青年…日坂は、各チームに配られた会場内の地図を見てそう話す。どうやら先導を行うようだ。
そしてそれぞれの顔を見て頷き合うと、彼らは1歩を踏み出すのだった。
「それでは…行きましょう」
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…ここは河川エリア。私の目の前には2人の男女がいる。
女性の方は宗方 桃子ちゃんと言って、年齢は20歳。桃色の長髪に水色の瞳が特徴的だ。そして何より背が高く…胸が大きい。
彼女はとても優しくて明るい性格で、こんなオドオドした私に対しても積極的に話しかけてくれる。ちなみに彼女の提案で、私たちは下の名前で呼び合っている。
男性の方は村田 智樹さんと言い、同じく20歳。黒髪を七三分けにしており、なんというか…私と違って自己肯定感が高い人だ。
そして最後…葉桜理子、17歳。私が何故ここにいるのか、その理由は2ヶ月前まで遡る。
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私たちの街を襲った虐殺事件から数日が経ち、私の通う学校は現在臨時休校をしていた。聞くところによると、この地域の安全性が確保されるまではしばらくお休みになるとのことだ。警察や協会などはこの事件の犯人は死亡したと公表しているが、捜査に漏れがないとも言い切れない。再び何かが起こる可能性も否定できないので、少なくとも1週間は自宅待機との連絡が来たのだった。
まあ、高校生に自宅待機をしろだなんて言っても真面目に守る人はあまりいない。ほとんどの人が休みに羽を伸ばし、遊びまくるだろう。
…私は違うけど。そう、私は。
「は、ハンターになる!?」
「うん、私もう決めたの」
「ええええ…」
私の目の前でそう宣言したのは、例の事件の後、再会した友達の彩花だ。彩花は現在私の家に遊びに来ている。
「…で、でも急にどうして?」
「私さ…あの事件の時、何も出来なかったの」
「…うん」
「街行く人から突然血が吹き出して、でも理由が全然分からなくて…、それに理子も見えなくなっちゃうし」
「…」
「でもしばらくして隠れていた時に、後から駆けつけたハンターが颯爽と解決してくれた」
「…うん、そうだね」
「後日協会放送で勇崎ハンターたちの戦いを見たの。…すごかった。わかってるの。私には異能なんて便利な物ないし、彼らみたいにはなれないって。でも…憧れちゃったんだよね」
「…」
「実際に戦った姿を見たわけじゃないけど、かっこいいなって思った。私も、あんな風に誰かの助けになれたらなって…」
「…そっか」
そう話す彩花の目は真剣で、その言葉が一時の感情に乗せられたものではなく、悩んだ末の結論であることがわかった。
「言いたいことは色々あるの…でもね、私…応援するよ。受かるかどうかは分からないけど…それが彩花が出した答えなんだよね?それにやってみなきゃ可能性は0のままだし!」
「理子…ありがとう!」
「当たり前だよ…私たち、友達でしょ?」
そう言って抱き合う私たち。実際、私は彩花に危険な目に遭ってほしくない。本音を言うとハンターを目指す彼女を止めたいと思っているのだ。でもそんなことは言えず、私は応援する側になってしまった。
(…ほんとのこと、言えないな)
彩花を抱きしめながら、私は心の中で謝罪をする。
…部屋に差す夕日が私たちを照らしていた。
「それで理子…1つだけいいかな?」
「…ん、何?」
「あのね…」
と、その後私は彩花からのお願いで一緒に試験を受けることになり、彼女は2次試験で不合格。なんだかんだで私だけが最終試験へと進んでしまったのだ。
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(…って、いやいやいや…!どうしてこうなったのー!!!)
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