11,いざこざ
「あ゛ぁ?」
不機嫌そうな声を出して不良は青年を睨みつける。青年の方も負けることなく、まっすぐに彼を見つめ返す。青年の紫紺の瞳と彼の黄色の瞳、それぞれの視線がぶつかり合ってその場は均衡を保っていた。
「しかも女性相手だなんて恥ずかしいと思わないのか…!」
「はぁ…男とか女とか関係あるか?ムカついたから殴る…それだけじゃねぇか。恥ずかしいなんて思わねぇよ。つか手どけろカス」
「お前が大人しくするならな」
「誰に向かってそんな偉そうなこと言ってんだ?なあ?俺は副会長である父親から推薦されてここにいるんだぜ」
「ああ、そうだろうな。お前みたいなやつは1次試験すら受かるはずない」
「っ、てめぇ…」
直後、再び激昂した彼は空いているもう片方の手で青年に殴りかかった。彼の拳の速度は先程よりも早く、おそらく何かの異能を使っていると思われる。
青年は至近距離から放たれたその攻撃を顔面に食らうはずであった。が、いつまで経ってもその時はやってこなかった。青年の後ろ側に1人の少女が立っている。彼女は…
「だ、だめー!!!」
俺と同じグループのもう1人の少女だった。彼女は青年を守ろうと、異能を使って不良の動きを止めている。不良の体には電気が走り、バチッパチッと音を鳴らしていた。
「んだこれっ、おいクソアマ!邪魔すんな!」
「け、喧嘩は…良くない、よ!」
「クソが…動けねぇ…」
彼女が使っているのは魔法系の異能だ。ただこれを聞いて、異能=魔法ではないのかと疑問に思う人もいるだろう。結論、その答えはNOだ。図にするとわかりやすいが、魔法というものは異能という大きな枠組の中の1つとして存在している。なのでその他の能力も数多く存在するのだ。
例を挙げるとすれば『魔力操作』という異能。この異能があると自身の体内での魔力操作が可能となる。この異能は魔法を使う者にとっては必要不可欠な存在で、これがないとロクに魔法を扱うことが出来なくなってしまう。
不良に使用した魔法はおそらく、各属性に存在する基礎魔法の1つ…『付与』だ。この魔法はかなり汎用性が高く、人間の他にも武器や衣類などに使用可能である。
今回使用したのは雷属性魔法…ゲーム的に言うなら麻痺状態といったところだ。
「…2人とも感謝するわ。でも余計なお世話よ。この程度、私1人でどうにかなったわ」
「「い、いえ…」」
「そろそろ座りましょう」
不良と対立していた黒髪の少女は、不良の睨みを無視して自身のグループ席へ戻っていった。気付くと時計の針は10時に迫っていて、もうすぐで指定された時間になるところだ。
「蓮くん、大丈夫だった?」
「ありがとう…綾音。俺達も座ろうか」
お互いに名前を呼び合い、俺のいるグループ席へと戻る2人。2人はどうやら知り合いのようだ。
「てめぇら…、逃げんのかっ!」
「お前はそこでじっとしとけよ」
「クソ…っ」
体が動かない以上どうにもできず、不貞腐れて不良は静かになった。俺は帰ってきた2人に声をかける。
「2人ともお疲れ様」
「あ、ありがとうございます…!でも余計なお世話だったみたいですね…。お騒がせしてすみません」
「ありがとうございます…すみません…!」
「気にしないで」
そう言って苦笑いしながら頭をかく青年と、申し訳なさそうな表情の少女。
「「「…」」」
再び訪れる無言の時間。現在の時刻は9時55分…指定時刻の5分前だ。いよいよ始まる最終試験に緊張が高まる一同。室内にはもうかなりの人数がいて、受験生は全員揃っていると思われた。
そして時間まであと3分という時。
ガチャ…
まだ揃っていなかったのか、おそらく最後の受験者が室内へと入ってくる。長めの黒髪を後ろで結んだ、タレ眉の困り顔が特徴的な高校生くらいの少女。
(…葉桜さん?)
そう…葉桜理子だった。
ーーー彼女と目が合う。
「っ!」
声にならない声を出し、葉桜さんは目を見開いて驚く。その額には冷や汗がにじみ、彼女の頬を伝って落ちていった。
数秒経過。
扉の前でそうして硬直していると、続いて試験官と思われる人物が入室してきた。
190cmほどまで伸びた身長に白衣をまとい、その長い紺色の髪を真ん中分けにした、20代後半程の女性だ。口元のほくろが大人の女性としての魅力を引き立てている。
「…ん、君、どうしたの?」
「ぁ…あ!いえ!すみません!」
試験官の行く手を塞ぐように立っていた葉桜さんは話しかけられたことで我に返り、大急ぎで4番の机へと向かった。
(…俺の方を意識的に見ないようにしているな)
2ヶ月前のあの日…俺は彼女と共に行動していた。そして殺人鬼と遭遇した際、俺は彼女に必要以上に怖い思いをさせてしまった。きっとその時のことを思い出して固まってしまったのだろう。
(しかしどうして葉桜さんが?)
あの時の様子を見るに、彼女は他者へ危害を加える行為を恐れている節があった。その行為を見ることさえままならないのだから、自分がやるとなれば尚のこと無理だろう。そんな彼女がどうしてハンター試験などというものを受けているのか…とても不思議に思う。
と、いよいよ時間になり、部屋の前側…1つ上の段差に立った試験官が話し始める。
「…はい、10時になりました。皆さん揃ってますね…と言いたいところですが、そこの金髪の君。時間ですよ。座ってください」
「…!…う…動けねぇんだよ」
「動けない…?まあその口調への指摘は一旦置いておいて、何があったのですか?」
「チッ…、何か…異能、使われたんだよ…」
「ふーむ、なるほど。ああ…これは多分、雷の『付与』ですね…、でもなぜ?」
「…何でもいいだろ」
「…はぁ、まあ君のような人のことです。何か揉め事でも起こしたのでしょう。いいですか?今回だけ特別ですよ?………『解除』」
バチィイン!!!
勢いよく電気が弾け、不良はやっとのことで体を動かせるようになった。
「…っはぁ!」
「はい、これで動きますね。では座ってください」
「………わぁったよ」
予想と反して不良はあっさりと席に着く。その顔はよく見るとかすかに赤面しており、彼を見つめる試験官から顔を背けていた。
コホンと咳払いをし、気を取り直して試験官は話を再開する。
「えーっと、お騒がせしました。はい、おはようございます」
シーン…
「まあ緊張してるよね…当たり前だけど。それじゃあ時間もないので早速ですが、本日行う最終試験について説明をしていきます」
そう言って彼女が横にはけると、前方の壁一面にプロジェクターで試験内容が投影された。大きく作られた見出しの部分にはこう書かれている。
『魔道具を使用したチームバトル』
「皆さん見えますか?これが本日の試験内容になります。皆さんは一緒の机に座っている人と計3人のチームになってもらい、他のチームと戦って頂きます」
(…やはりチームになるのか)
「そして見出しを見ればわかるように、これはただのチームバトルではなく、魔道具を使用したものとなります。各チームにランダムで1つだけ魔道具を配布しますので、皆さんは他チームの魔道具を破壊してください。制限時間は90分。魔道具を破壊されたチームは不合格、終了時間まで残っていたチームが合格です」
(…)
「また戦闘の際は魔道具を有効的に使い、仲間同士で協力することをルールとします。そして最後に、他チームの魔道具を1つも壊せなかったチーム、他チームと協力したチームも不合格となります。以上を踏まえて何か質問はありますか?」
シーン…
「…うん、大丈夫かな」
淡々と説明を終えた彼女は、最後に思い出したようにこう言った。
「あ…そういえば自己紹介をしてませんでしたね。改めまして、本日試験官を担当する望月 瑠璃です。よろしくお願いします」




