第七話 風呂と鼻血と来客と登城
◇
「………」
「………」
さて、突然だが、悠と舞の容姿について話そうと思う。
悠は言うまでもなく、可愛い。無表情でも可愛い。白髪も似合っていて可愛い。とにかく可愛い。世界一可愛い。
スタイルも完璧だ。俗に言う、ぼんきゅっぼんだ。……別にいやらしい目では見てないけどね?ほんとだよ?
胸もCぐらいはあるだろう。素晴らしい。
しかしそんな悠を、ある一点で圧倒する者がいる。それが舞だ。
舞もまた可愛い。悠には及ばないが、平均レベルを大きく超えているだろう。
そしてなにより、スタイルがやばい。舞の場合は、ぼん!きゅっ!ぼん!みたいな感じだ。正直、プロポーションだけを見れば悠では敵わない。
胸も多分、EかFはある。
さて、なぜこんな話をし出したかというと、だ。
その女体にしかない、神秘的で魅惑的な二つの果実が今、僕の目の前で顕になっているからだ。
事の経緯を説明すれば長いが、まあ要するに、お決まりのお風呂場エンカウントをしてしまったわけだ。
僕が風呂に入るために服を脱ごうと、洗面所のドアを開けると、そこには一糸纏わぬ姿の悠と舞がいたのだ。
もちろん、すぐに出て行こうとした。のだが、僕だって一人の男。
いや、漢だ。
ここで出て行くのはむしろ失礼だろうと、なんとか踏み止まった。
そして、たゆんたゆんと揺れるそれが、視界に入った。控えめに言って凄い。
残念ながら悠は舞に隠れて見えないが、正直、舞のそれに目が釘付けになってしまった。
いやぁ、お恥ずかしい。
「……奏多」
しばらく硬直していた舞が、ハッとして前を隠す。そして顔が真っ赤に染まり、少し涙目になった。
「はい」
良い返事をしておいた。
「……歯を、食い縛れぇぇぇぇっ!」
刹那、視界がブレた。一瞬遅れて左頬に鈍い衝撃を感じる。そのあまりの威力に、体が少し浮いた。
「ありがとうございますっ!!!」
吹き飛ばされながらも、お礼を忘れなかった僕を褒めて欲しい。
勢いのままに転がり、壁に激突する。後頭部を強打した。
「いてて」
左頬がぷっくら腫れてる。床を見れば、血が飛び散っていた。どうやら鼻血が出ているらしい。
舞め、ここまで全力で殴らなくてもいいじゃないか。
「あー、止まらん」
早く鼻血を止めなければ。このままじゃ、おっぱいを見て興奮したからと思われてしまう。それは不本意だ。
とにかく、ティッシュを探す。しかしここで、ある重要なことに気付いた。
―――ティッシュって、どこにあるんだ?
僕は、この家のどこに何があるのかをまだ知らない。つまりティッシュがどこにあるのか、そもそもこの家にあるのかどうかも分からない。
これはまずい。できることなら舞に聞きたいが、ここで風呂場に行けば、今度はスキルで迎撃されてしまいそうだ。
『未来予知』を使えばそれを避けれるかもしれないが、僕はまだ使いこなせていない。
くっ、どうすればいい?どうすればこの家を破壊されず、なおかつ僕も無傷のまま風呂場に入れる?
……ハッ!そうだ!僕には『スキル解除』があった!これがあれば、舞を完全に無力化することが可能だ。
舞はスキルがなくても強いけど、それぐらいなら『気配操作』で避ければいい。
完璧だ!完璧すぎて怖いぐらいだ!
これでまたあの素晴らしいおっ……、舞にティッシュの所在を聞くことができる!
あー嫌だなー。また殴られるかもしれないし、行きたくないなー。でも、仕方ないしなー。
よし。
さぁ、いざ行かん!風呂場へ!
―――チリンチリン。
僕が覚悟を固め、行動に出ようとした時、玄関の呼び鈴が鳴らされた。
◇
「はーい」
「あ、夜分遅くにすみまひゃわっ!?」
玄関を開けると、そこには鎧で身を包んだ女性が立っていた。ダークブラウンの髪をサイドで編み込んでいる、綺麗な顔立ちの女性。
まだ少し幼さが残るように見えるが、僕よりは年上だろう。
「どうしました?」
顔を見せるなり悲鳴をあげられた。なぜだ?
「あ……あの、鼻血が出てますよ?それに、頰も腫れてますし……」
「あ」
忘れてた。
呼び鈴のおかげで正気に戻れたことに安堵していたせいで、すっかり忘れていた。風呂場に行くわけには行かないけど、とりあえず鼻血はなんとかしないと。
「すいません、ティッシュ持ってませんか?」
「え?」
「いえ、鼻血を止めたいのですが、ティッシュがどこにあるのか分からなくて。良ければ、分けてもらえるとありがたいです」
「え、あ、はい、どうぞ」
女性はティッシュを手渡してくれた。助かった。
「ありがとうございます」
受け取ったティッシュを丸め、鼻に詰め込む。これで安心だ。
「お見苦しいところをお見せしてすみませんでした。それで、あなたは?」
「あ、私はセリアと申します。実は、陛下からヒムロ・カナタ様に登城命令が出てまして……」
「登城命令?僕だけに?」
「はい」
ふむ、なんだ?僕、なにかやらかしたか?
「理由とかって聞いてます?」
「いえ、私は何も聞いていません」
……はっきり言って、めんどくさい。
でも、勇者はこの国に所属してるんだし、こんな立派な家まで貰ってしまったんだ。無視するのもまずいか。
「ちょっとだけ待ってもらっていいですか?書置きを残しておきたいんで」
「ええ、もちろん。ご理解ありがとうございます」
「では、中に入ってください。外で待たせるのも悪いですし」
「私のことは気にして下さらなくて大丈夫ですよ?」
「遠慮はいらないですよ。ほら、どうぞ」
半ば無理やり家に招き入れる。その際、セリアさんをさり気なく盗み見る。
なるほど、武装の類はなしか。物騒な用ではないらしい。
「うひゃっ!?」
「………?」
セリアさんがまた悲鳴をあげる。視線がバレたか?
「こ、これって……」
震える指が指した先には、大量の血痕。まるで上から垂れた血が飛び散ったかのような跡があった。
まあ、僕の鼻血だけど。
「ああ、気にしなくて大丈夫です。僕のなんで」
それで理解したらしい。セリアさんは羞恥からか、少し顔を赤らめた。
「すみません、僕もまだこの家のことを把握しきれていなくて、お茶すらも出せなくて」
「いえ、本当に気にしないでください。お気持ちだけでありがたいです」
それは良かった。
とりあえずセリアさんにはソファに座っておいてもらい、紙とペンを探す。だが、どこにあるのか分からない。
なので、一緒に召喚された自分の鞄の中からルーズリーフとシャーペンを取り出し、『少し出掛けます』と書いたものを今の机に置いておいた。これで大丈夫だろう。
「お待たせしました。では、案内お願いします」
外に出る。空は既に真っ暗だが、アルティアの街並みは明るい。これはこれで、なかなかに美しい光景だ。
「ふふ、綺麗な街でしょう?アルティアはこの世界で最も平和な国と言われているんです。これも、勇者様の方々が尽力してくださったおかげですね」
そんな僕に気付いたのか、セリアさんが微笑みながらそう言った。
「僕達はまだ何もしてませんけどね」
思わず苦笑する。
『クラスE』は、人格、主に感情面に問題を抱える生徒が集められた特別クラスだ。ゆえに、Eはemotionsの頭文字だと思われていた。
だが、真相は違った。
この『クラスE』は噂通り、過去にも四回作られていた。それらは特に問題のない生徒で構成されていたが、それぞれ『クラスA』『クラスB』『クラスC』『クラスD』と名付けられていた。
つまり、『クラスE』はただの順番であり、推察は全くの見当違いだったというわけだ。
更に、この『特別クラス』は異世界召喚用に作られたもので、あの教室自体が召喚に用いられる媒体だったらしい。予め、この世界とあの世界で連絡を取り合っていたというのだから驚きだ。その方法は極秘らしいが。
この召喚術にはある契約がある。それは『召喚する対象の存在を、元の世界から消去する』というもの。つまり、僕達の存在はあの世界から忘れられたのだ。こうして、また次の『特別クラス』が作られるらしい。
今回、『クラスE』の構成メンバーが特殊だったのは、単なる気まぐれ。結局勇者召喚をしても変わらない現状を打開するために、少し変化球を選んだだけの話なのだ。
これらは全て、亮介先輩から聞いた。もちろん、クラスメイト達は理不尽な事態に激怒したが。それはどうでもいい。
要するに、僕達の前にこの世界に召喚された先輩達は四クラス分いるということだ。
既に、半分以上の先輩は死んでしまったらしいが。この世界では、勇者は歳をとるのが遅いらしい。
だから、初代の勇者だって普通に健在だったりする。つまり、死んだ先輩は寿命などではなく、『殺された』ということだ。
……この世界は決して甘くない。歴代の先輩達が築き上げてきたものを、僕達は上手く利用しなければならない。
近付いてきた王城を見上げる。僕は果たして、のんびりと日々を暮らせるのだろうか。
おっぱい大好きです(僕じゃなくて奏多君が)




