第六話 もわーんって感じ
説明回です。
◇
「じゃあ、ここまでで大丈夫?」
マリーを連れてアルティアの西門まで帰ってきた。彼女の家はどこか分からないが、街の中ならば危険はないだろう。
「はい!ありがとうございました!これはほんのお礼です!」
マリーはそう言って、鞄から布袋を取り出す。中身は分からないが、チャラチャラと音が聞こえた。多分、お金だ。
「いや、いいよ。これはボランティアみたいなものだし」
「ぼらん、てぃあ?」
「あー……、まあ、無償の人助けってこと。見返りが欲しかったわけじゃないし」
「……いいんですか?本当に?」
「ああ。それに、既にこれを貰ってるからね」
僕は泉の水が入った水筒を見せる。これは、水筒を二つ持っていたマリーから貰った物だ。泉に見惚れた僕を見て、欲しいんだと勘違いしたらしい。
でもこれは素直に嬉しいし、ありがたく貰い受けた。報酬と言うのなら、これで充分だ。
「そうですか……?分かりました。ありがとうございます。では、早速妹に飲ませてきますね!失礼します!」
マリーはニコニコして手を振りながら、走り去っていった。その姿はすぐに人混みに紛れ、見えなくなる。
最初は怒ってばっかだったけど、やっぱり妹思いの良い子みたいだ。
「さて」
僕も帰ろう。
◇
今日入手したばかりの家に帰る。少し不思議な感覚を味わいながらも、僕は中に入った。
「ただいま」
「おかえりなさい」
すぐに返事が返ってくる。ちょっとびっくりした。
「どうしました?」
いつの間にか玄関まで迎えに来てくれた舞が僕に尋ねてくる。僕は少し苦笑いを浮かべた。
「いや、『おかえり』って言われるの、何年ぶりかなーって思ってさ。なんか、懐かしくなっちゃった」
「そう……でしたね」
舞も、僕に両親がいないことを知っている。
僕が悠に初めて会ったのは七年前。その頃には既に舞は悠と共にいたのだから、知っているのも当然だ。
まあ、舞と僕が交流するようになったのは結構最近だけど。
「あ、別に嫌な意味じゃないよ?むしろ、帰りを迎えてくれる人がいるのは嬉しいし」
舞が少し申し訳なさそうな表情を浮かべているのを見て、慌てて訂正した。
多分、両親のことを思い出しているのだと勘違いしたのだろう。思い出したのは事実だけど、別に悲しんではいない。それはもう乗り越えたのだから。
「それは良かったです。ささ、中に入ってください。奏多が西の森へ出かけてる間に、購入した家具などの整理を済ませておきましたから」
「……凄いありがたいんだけど、やっぱり心配してくれないんだね」
「少しはしましたが、奏多ならなんとかするでしょう?」
「何でも対処できる自信はないけどね」
舞は少し、僕を過大評価してるみたいだ。
「そう言えばさ」
居間に大きなソファが置かれていた。さっきまではなかった物だ。座り心地もかなりいい。
……これ、いくらかかったんだろう?
「どうしました?」
舞は僕の正面に座る。そう、この高級そうなソファが二つもあるのだ。ちょっと怖い。
ちなみに、悠は僕の隣に座っている。
「舞のスキルってどんなの?良かったら聞いておきたいんだけど。あ、嫌だったら全然いいよ?」
さっきクラスメイト達がお披露目会をしていた時も、舞は悠のそばに控えたまま、こちらには参加していなかった。だから、僕は彼女のスキルを知らない。
今後のことを考えると、一応知っておいた方がいいと思う。異世界生活初日に盗賊とエンカウントしたんだ。念には念を入れておいた方が良いだろう。
まあ、断られたら仕方ないけど。
「いえ、大丈夫ですよ。私は三つのスキルを頂きました。一つ目は『千里眼』。遮る物さえなければ、どんなに遠いものでも見ることができるスキルです」
なにそれ、便利そう。めちゃくちゃ目が良くなるってことかな?
「二つ目は『反射』。攻撃を反射させることが出来ます。反射できる限界は、私の能力に応じるようです」
おー、それもいいな。護衛の舞にぴったりのスキルだ。
「三つ目は『雷帝』。これは奏多のものと似ていて、雷を操ることができます。これの原理はよく分かりませんが、実際に使えるようです」
舞はそう言って片手を持ち上げる。そこに、バチバチと紫電が走った。
「かっこいい!」
「そ、そうですか?」
思わず叫んでしまった。でも、仕方ないだろ。これはカッコよすぎる。
舞もちょっと嬉しそうだし。
それにしても、優秀だな。偵察、防御、攻撃のスキルが揃ってる。まさに勇者って感じだ。
悠に視線を移す。やはり、彼女に表情はない。
「悠は、どんなスキルを与えられたんだろうね」
「……それは私にも、分かりません」
悠も召喚されたのだから、何かしらのスキルを与えられていると考えた方が自然だろう。でも、それが何か分からない。
せめて、悠にとって役に立つものだったらいいのだけど。
「ところで」
今度は、舞が話題を変えるように口を開いた。
「奏多のスキルは本当に一つなのですか?私は一応、手の内を晒すのを避けるために黙っていましたが、奏多もそうなのでは?」
舞も同じ考えだったらしい。切り札は多いに越したことはない。
「そうだね。他にスキルを持ってるよ。まず、さっきも言ったけど『光の賢者』。光を操るスキルだ。それと『気配操作』。これは自分の気配を操るだけじゃなく、周囲の気配を察知するのにも使える。あと『必中』。これも名前の通り、発動すれば遠距離攻撃が必ず当たるスキルだ」
「なるほど。奏多もかなり強力なスキルを貰ったみたいですね。流石です」
流石ってなんだよ。
「あと『増幅』。スキルでも魔法でも、あらゆる能力を向上させることができる」
「それも強力ですね」
「これは便利っていうか、安心できるスキルだけど『自己再生』。一日一回、自分の怪我や状態を治せる」
「ふむふむ」
「『未来予知』ってのもある。発動すれば、一秒先の未来が視えるんだ」
「……なるほど」
「『身体能力強化』の限界は何倍かまだ分からないけど、とりあえず自分の身体能力を数倍まで引き上げられる」
「………」
「あと『スキル解除』は発動されたスキルをキャンセルできる。僕のでも、相手のでも』
「あの」
「それと、『も―――」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なに?」
途中で止められた。あとちょっとだったのに。
「か、奏多って、いくつのスキルを貰ったのですか?」
「十個」
「じゅっ!?」
おーおー、舞が口を開いたまま固まっちゃった。珍しい光景だな。写真撮りたい。
……あ、そう言えば、やっぱりスマホって使えないのかな?あとで確かめてみよう。
「……流石、奏多です」
「え、なんで?」
よく分からないけど、なんか納得したらしい。
◇
「とりあえず、私達のスキルは私達だけの秘密にしておきましょう。私も開示する時は『雷帝』だけにしておきます。『反射』は奥の手にして、『千里眼』はバレないように使いますので」
まあ、無難だろう。僕も似たような考えだ。
一番凡庸性が高いのは『光の賢者』だろう。強力なうえにありふれていそうなスキルだし。『必中』、『気配操作』、『増幅』、『身体能力強化』、『未来予知』あたりはバレずに使えばいい。
それ以外はこっそり使うか、奥の手として隠しておく。
出来たら、使わずに済むのが一番なんだけどなぁ。この世界も思ったより物騒な感じするからなぁ。
「ちょっと、『千里眼』を使ってみましょうか」
舞はそう言って、悠の方を向く。どうやら、悠の顔をドアップで見ようとしてるらしい。どうせなら遠くを見たらいいのに。
そして、舞の右目が緑色に輝いた。
「うぅ」
「大丈夫?」
すぐに舞が呻き声をあげる。見れば、右目を抑えている。
「いえ、まだ慣れてないのか、すごいぼやけて気持ち悪かっただけです」
「それ、遠くのもの見る目なのに近くを見たからじゃ……」
僕の呟きは黙殺された。どうやら、図星らしい。
「それに、なんか右目が緑色に光ってたよ?それじゃ隠せないかも」
「……もしかして、目のスキルは全部そうなのかもしれません。奏多も『未来予知』を使ってみてください」
「分かった」
『未来予知』を使うのは初めてだ。ちょっと緊張するな。一秒先の未来が見えるって、どんな感じなんだろう?
意識を集中し、発動する。その瞬間、吐き気が込み上げてきた。
「おぇ」
「奏多!?」
「……なんとか耐えたけど、やばい。これ酔う。なんか、こう、もわーんって」
ダメだ。初体験のことすぎてうまく説明出来ない。
「……頭に問題があるのでしょうか?」
おっと、僕の正気を疑われてる。
「それに、奏多も両目が紅く輝いていました」
「……ほんと?」
「ほんとです」
「………」
「………」
こうして、『千里眼』と『未来予知』を隠す作戦は白紙に戻された。
これあれだ。光一の『魔眼』と一緒だ。ちょっと恥ずかしいけど、かっこいいかも。
最近、大人気の某狩りゲームを買いました。
時間がなくてあまりプレイできていないのですが、ついにラスボスに辿り着きました。あのトビカガチとかいう電気ビリビリ野郎です。
僕の友達はラスボスじゃないとか訳の分からないことを言っていましたが、あれはラスボスです。断言します。ラスボスです。
もうボッコボコにされました。歯が立ちません。なんとか倒しましたが、もう二度と戦いたくありません。
まぁ、ラスボスなんで、そんな何回も出てきたりしないと思いますがね。
ご静聴、ありがとうございました。




