第五話 盗賊さん達
◇
「まったく、告白なわけないじゃないですか!常識的に考えて、初対面の人に告白するわけないでしょう!?」
僕は今、なぜか怒られている。
突然、『私と付き合ってください!』と告白してきた少女に、『ごめんなさい』と答えた僕。
『なっ、なんでですか!?勇者のくせに!』と反論してきた少女に対し、『勇者なら付き合わないといけないの?僕、他に好きな人がいるんだけど……』と聞いたところ、少女の顔はみるみる赤くなった。
なんでも、『私と付き合ってください!』は言い間違いで、『私に付き合ってください!』と言いたかったらしい。
これはむしろ僕は被害者だと思うのだが、少女的には僕が悪いらしい。よく分からない。
「もう、勇者様のせいで恥かいちゃったじゃないですか!大衆の面前でなぜかフラれた感じになって、もう、もうっ!ですよ!」
「………?」
いまいち何を言ってるのか分からないけど、やっぱり怒っているみたいだ。
「結局は付き合ってるんだからいいでしょ?」
「そういう問題じゃないんです!」
やっぱり、何が悪いのか分からない。……まあ、それはいつものことだしいいか。
「あー、ごめんね?」
「心がこもってません!」
とりあえず謝っておいたが、お気に召さないらしい。仕方ないじゃないか。何が悪いのか分からないんだから。
僕達はアルティアの西門から出てすぐの森に来ていた。なんでも、この森の奥地にある泉に用があるらしい。
だが、そこには魔物やら盗賊やらが潜んでおり、少女が一人で行くのは危ない。そこで、勇者である僕に護衛を頼みたかったらしい。
僕としては、別に同行するつもりはなかった。
だが、王城を出る際に亮介先輩が『お前達が勇者であることには変わりない。だから、何か頼まれたら出来るだけ力になってやれ』と言っていたのを思い出し、更に、街中で少女に大声で頼まれたことによる周囲からの囃し立てが物凄くて同行することになってしまった。
もちろん、悠を連れて行くわけにはいかないので、舞と一緒に留守番してもらっている。
あんまり心配してくれなかった。まあ、舞は僕のことをよく知ってるし、当たり前とも言えるが。
「ところで、その泉には何の用が?」
「むぅ。まあいいや。この森の泉には、ある特別な力があるんです。知らないんですか?」
「そりゃ、僕がこの世界に来たのは今日だからね」
「あ……そうなんですか。それは、申し訳ないことをしました」
「ん?なんで?」
「歴代の勇者様は、この世界に来ると最初は戸惑うって聞いたことがあります。元の世界に帰りたいとか、突然の事態に混乱したりとかで」
へぇ。僕よりも小さいのに、随分としっかりした子だ。
「すいません。今日は帰りますか?」
「いや、いいよ。ここまで来たんだし、もう行っちゃおう」
「でも、戦ったりできるんですか?勇者様は最初はあまり上手く戦えないものだと聞いたことがあるのですが」
「気にしなくて大丈夫。なんとかなるさ」
「そうですか……。それなら、お願いします」
少女は再び頭を下げた。ほとんど反射的に、僕はその頭を撫でる。
「な、なんですか?」
「なんでもないよ。それより、君の名前は?」
「そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね。私はマリアナといいます。14歳です。呼ぶ時はマリーでいいですよ。少し、勇者様のことを勘違いしていたみたいです。失礼しました」
「僕は氷室奏多。奏多でいいよ。よろしくね、マリー」
「よろしくお願いします、カナタさん」
マリーはもう一度、ぺこりと頭を下げた。
◇
マリーによると、この森の泉には『癒し』の力があるらしい。ファンタジー全開だな。
マリーには病気の妹がいて、その妹のために泉の水が欲しいとのこと。だが、両親は共働きで同行は出来ないし、冒険者ギルドに依頼するほどのお金はない。
一人で行こうかとも考えたが、それはそれでマリー自身が危ない。そうやって、どうするかと頭を悩ませていたところ、勇者っぽい僕を見つけたみたいだ。
それにしても、勇者に依頼する方が冒険者ギルドとやらに依頼するよりお金かかりそうだけどな。別にいいんだけど。
「妹はまだ5歳なので、私が守ってあげないといけないんです!」
と、マリーは薄い胸を張って言った。立派な姉だ。
「………」
マリーと談笑していると、茂みの方から複数の気配を感じた。
僕に与えられた十のスキルのうちの一つに、『気配操作』がある。
これは自分の気配を操作するだけでなく、周りの気配をより敏感に、正確に察知することが出来る便利なスキルだ。
その『気配操作』による気配察知に反応があった。盗賊だ。
「マリー。泉まではあとどれぐらい?」
「もう少しです。あと五分もかからないと思います」
泉はまだ見えていないが、この森は視界を遮るものが多い。それも当然かもしれない。
「じゃあマリー。先に行っててもらっていい?僕は少し用事があるから。大丈夫、すぐに追いかけるよ」
「分かりました!」
マリーは返事をすると、一人で先へ進んで行く。その背中が見えなくなってから、僕は振り返った。
「そこにいる盗賊さん達、分かってるので出て来てください」
両脇の茂みに向かって声をかける。これ、第三者から見れば頭おかしい奴だな。
「……へぇ、勇者ってのは伊達じゃないらしい。気配は殺していたつもりだったんだがな」
ガサガサと、草むらから男達が出てくる。十二人だ。さっき察知した人数より、一人少ない。
「何の用です?」
「分かってんだろ?持ってる金、全部置いてけ。勇者は国から支援金が貰えるって、知ってんだぜ?」
ゲラゲラと、下品な笑い声をあげる。
まったく、子供一人に大人がこんな大勢集まっていじめて楽しいのか?
「嫌だと言ったら?」
っていうか、僕の金貨は舞に預けてるし。
「あぁ?んな事、言われなくても分かってんだろ?痛い目見る前に言うこと聞いとけ。勇者とは言え、この人数相手に一人は無理だろ?」
「いや、別に大丈夫だと思いますけど」
「ガキが、強がってんじゃねえよ。これは最後の警告だ。大人しく金目のもん置いていけ。じゃなきゃ、お前だけじゃなくてあの小娘にも危害が加わるぜ?」
その危害を加えるのはあんたらだろうが。それを、あたかも僕の判断のせいみたいな言い方しやがって。
相変わらず、大人っていうのは汚い。それは異世界でも変わらないらしい。
「断ります」
ヒュッと、風を切る音が背後から聞こえた。隠れていた最後の一人が、僕に向かって矢を放ったからだ。
だが、それも知っている。気配は全て探知していたのだから。
首を右に倒し、矢を躱す。ここはもう戦場。戦場において、無駄な動きは致命的なミスに繋がる。だから動きは最小限に、だ。
「なっ!?」
盗賊の動きが一瞬止まる。隙ありだ。
「『光の剣・展開』」
僕の周囲に、光で形成された剣が六本浮かび上がる。
「『散開』」
僕の呟きに応じ、光の剣は高速で飛び出し、盗賊を真っ二つに切断した。
一本一殺。盗賊を六人殺した。
「『集合・散開』」
光の剣をもう一度僕の元まで戻し、再び号令。瞬く間に十二人分の死体が転がる。
あと、一人。姿を隠したままの奴だ。その気配が遠ざかっていくのが分かる。
「逃げたのか……。『光の弓矢』」
光で形成された弓に、矢をつがえる。そしてもう一つのスキル、『必中』を発動させた。
『必中』は文字通り、遠距離攻撃を確実に対象へと命中させるスキルだ。それがどこだろうと、誰であろうと、必ず。
「『貫け』」
矢を放つ。
矢は光り輝く一筋の線を伸ばしながら、葉を、木を貫通し、標的の背中に命中、そのまま胸まで穿った。
気配の消失を確認。戦闘は終了だ。
「………」
異世界産の盗賊十三人が、全く相手にならなかった。僕は一人で、たった三つのスキルしか使ってないのに。
……だから言ったんだ、ヴィーちゃん。悪魔かって。
どれだけ僕のことが気に入ったんだよ。それとも、本当は他の皆もこれぐらい与えられてるのか?
まあいいや。それを考えるのは今じゃない。
とりあえず、マリーを追わないと。
◇
マリーを追い掛けると、彼女はちょうど泉の水を水筒に汲んでいるところだった。
底まで見えるぐらい、綺麗な泉だった。泉の周りには木も生えておらず、太陽の光が何にも遮られずに泉に差し込み、キラキラと反射している。
幻想的だ。
思わず息を飲む。
「あ、カナタさん!どうですか?ここの泉、とっても綺麗でしょう?」
「うん、そうだね。……これは、見せてあげたいな」
「誰に?」
最後は小さく呟いたつもりだったのに、マリーには聞こえたようだ。苦笑して誤魔化しておく。
「あ、そう言えば。さっき好きな人がいるって言ってましたよね!もしかして、その人にですか!?」
……誤魔化せなかったみたいだ。やっぱり年頃の女の子は、この手の話が好きらしい。目が輝いている。
「さあ、どうだろ?」
「あーっ!誤魔化さないでください!そうなんですよね!ね!」
それからは、なんとか無難な答えで捌きつつ、帰路についた。わーわーと、なんとも賑やかな子だ。
もちろん、マリーには死体を見せないために、行きとは違う道で帰った。




