第四話 まさかの告白(された)
◇
アルティアは賑やかな国だった。街は人々で溢れかえっており、活気に包まれている。
大きな道の端には出店が出ており、美味しそうな料理や珍しい物がたくさん並べられていた。
そんなアルティアの端、西門の近くに僕は立っていた。目の前には、二階建ての一軒家。かなりでかい。
「……これ、本当にタダで貰っていいの?」
「……さあ?」
僕の隣で、悠が座る車椅子を押す舞さんが答える。いや、答えと言うよりも、一緒に戸惑う。
「……奏多様。本当に、私もご一緒してよろしかったのでしょうか?悠様はきっと、奏多様と二人でいたいと思うのですが……」
「舞さん。舞さんだって今までずっと一緒にいたんでしょ?なら気にしなくていいよ」
悠に親はいない。そして、彼女には感情がない。
そんな悠を、舞さんはずっと支えてきた。身の回りの世話は舞さんが手伝い、常に行動を共にする。それは、悠にまだ感情があった頃の恩を返すためであり、いつまでも慕っているからだ。
それでも、
「舞さんも僕達と同じ年なんだからさ、もっと甘えてくれていいよ。僕にできることなら、何でもするから」
「……ありがとうございます」
舞さんは深々と頭を下げた。
「ってことで、とりあえず敬語はなしね。なんか固いし」
「それは……」
「舞さんに敬語で話されると、なんか距離を感じるんだよねー」
「……この口調は癖なので、許してください。奏多」
「ま、今はそれでいいか」
「奏多も、私のことは『舞』でお願いしますね?」
「……分かったよ。これからもよろしくね、舞」
「はい。では、入りましょうか」
舞の号令で、僕達は新しい住処へと入った。
家の中は、外観通り広かった。広い風呂場もあり、ちゃんとしたキッチンも完備されている。高待遇過ぎて怖いぐらいだ。
「勇者って凄いなぁ」
「……ですね。とりあえずは部屋の掃除、各部屋の用途の決定、あとは家具を揃えるところからですね」
「流石、しっかりしてるね」
「これぐらい当たり前ですよ」
そう言って、舞は掃除を始めた。僕は悠の元へ近付き、頭を撫でる。
「これからここで一緒に暮らすんだ。仲良くしようね」
「………」
もちろん、返事はない。でも、それでいい。今はまだ、それでいい。
「さて、僕も掃除しようかな」
「私がやりますから、奏多はゆっくりしていて下さい」
「いやいや、僕は舞のことお手伝いさんだとは思ってないから。対等な同居人だし、一緒にやるよ」
「……そうですか。なら、お願いします。半端は許しませんよ?」
「望むところだ」
その後、こってり絞られたのは言うまでもない。家事にはある程度の自信を持ってたんだけどなぁ。
◇
家の掃除が終わると、今度は部屋割りだ。悠と舞は一階の一番広い部屋で、僕は二階の部屋だ。
悠に感情がないと言っても、全くないわけではない。ほとんどそれを表さないが、たまに笑みのようなものを浮かべていることもある。
それに、習慣としていたことも多少なら一人で出来る。
歩いたり、トイレに行ったり、顔を洗ったり、着替えたり、お風呂に入ったり。
ただ、それら全ての行動は覚束ない。それこそ、見ていてハラハラする程度には。だから舞はいつも彼女のそばに控え、出来るだけ手伝うようにしている。そしてその方が、僕も安心できる。
出来ることなら僕が舞の立場にいたいのだが、流石にそれはダメだろう。僕は男で、悠は女だ。色々と問題が起きてしまう。
だから、悠と舞は同じ部屋にした。とりあえずこれで安心だ。
空き部屋は多いが、使い道もないのでしばらくは物置きとして使うことにした。その置く物も大してないのだから、実質ただの空き部屋のままなのだが。
そして僕は、ここである事に気付いた。いや、冷静になったと言うべきだろうか。
やはり僕も、異世界に来たことで少し取り乱していたらしい。こんな事に、今更気付くなんて。
「奏多?」
「ひゃいっ!?」
自室で悶々としていると、ふいに舞が入ってきた。変な声が出た気がする。
「ひゃい……?」
「い、いや、なんでもない。それで、どうしたの?」
「いえ、そろそろ家具を買いに行きませんか?」
「ああ、そうだね。すぐに降りるから、準備しといてもらっていい?」
「分かりました」
今更気付いた問題。それは、同級生の女の子二人との同棲生活が始まるということだ。
適当に考えすぎていたけど、これ、結構な問題な気がする。っていうか、確実に問題だ。
どうしよ。周りから見たら、今の僕って欲望の塊じゃないか?
……まあ、今更考えても仕方ないか。別に、やましい事は考えてないし。
「お待たせ」
一階に降りると、悠と舞は玄関に座って待っていた。悠はいつも通りじっと、舞は珍しくソワソワしている。ショッピングが楽しみなのかもしれない。
「じゃ、行こっか」
「はいっ!」
僕達勇者には、一人につき金貨を一枚ずつ与えられている。相場を聞いたところ、金貨が一枚あれば一家族が数ヶ月は暮らせるらしい。かなりの大金だ。
僕達にはそれが、三枚もある。家具を買い揃えても、しばらくは何もせずに暮らせるのだ。
家具を揃えると言っても、ベッドなどは元から家にあったし、かなり余裕がある。
ちなみに、魔王討伐組はもっと高待遇だ。金貨ももっと貰い、最高級の装備を一式与えられている。まあ、危険な旅に出るのだから当然か。
「えーっと、これがシャンプーで、これが石鹸……」
店棚を前にうんうんと唸る舞を見る。その隣には、彼女に手を引かれる悠。
悠は相変わらずの無表情だが、心なしか安らかな表情に見える。ように気がする。
うん、平和だ。
……僕は、元の世界に帰りたいとは思わない。あの世界に、僕の居場所はない。僕にも親はいない。そして、あの世界は普通と"違う"存在に酷く厳しい。
―――例え、世界が変わろうとも。僕は、君のために。
聞こえてくる、そんな誓い。僕の心持ちは変わらない。あの時から何一つ、変わっていない。変わるはずもない。
そう、だからこれでいい。僕はあの誓いさえ果たせれば、それでいい。
「あ、あのっ!」
「はい?」
ぼーっとしていると、一人の少女に声をかけられた。赤茶色の髪を切り揃えた、可愛らしい女の子だ。
「も、もしかして、勇者様……ですか?」
「……なんで、そう思うんだい?」
「だって、見たことない服を着てるから……」
そう言われて気付く。僕達が来ているのは、『クラスE』の制服だ。この世界からすれば変わった服装で、全く馴染んでいない。
服装の調達も必要だな、これは。
「……まあ、一応そうかな」
「やっぱり!」
女の子はパアッと笑顔を浮かべ、その両手で僕の手を取った。突然のことに少し戸惑う。視界の端で、舞と悠がこちらを振り向くのが見えた。
「あのっ、お願いがあるんです!私と付き合ってください!」
……ん?
◆
暗い森を歩く。この静けさは、悪くない。
『迅。お前は人の上に立つべき男だ』
皇財閥のトップである父から、毎日のようにそう言われてきた。
だが俺は、結局『クラスE』に入った。父から見捨てられたのだ。欠陥品である俺は。
俺は『クラスE』に来る前にいたある学校で、クラスメイト共全員を権力で従え、恐怖で支配した。だが実際、そのおかげでクラスの秩序は保たれた。
俺が、間違っているわけがない。
ガサガサと音が聞こえた。茂みに目をやると、人型の化け物が現れた。これは知ってる。ゴブリンと呼ばれる雑魚だ。
「創造」
片手に拳銃を生み出し、その額を撃ち抜く。この程度、ワケもない。
だが、少し手が震えた。やはり、人型の生物を殺すことに、この俺でも多少の罪悪感は感じるらしい。
『人の上に立つと言うのは、支配するという意味だけではない。他人の立場に立って、相手を理解し、その上で使うのだ。それが出来れば、組織はどこまでも大きくなる』
父のその言葉は、俺には理解出来なかった。支配する相手のことなんて、どうでもいいじゃないか。それに何の意味がある?
しかし結果的に、俺は父に見捨てられた。
愚かだ。
俺は選ばれた人間だ。俺は特別な人間だ。
この異世界召喚だってそうだ。他の奴らは多くて二つしか貰えなかったスキルを、俺は五つも与えられた。
文字通り、神に選ばれたのだ。この俺は。
俺は正しい。俺は間違っていない。
それをこの世界で証明してやる。
魔王を殺し、この世界を征服して、俺が正しかったのだと、証明してやる。
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