第三話 それぞれの方針
◇
教室に入ってきたのは、二人の男女だった。美人と美男子だ。
「初めまして、皆様」
美人さんが声を発した瞬間、ざわつく教室が静まり返った。思わず聞き入ってしまうような、そんな力強く綺麗な声だ。
「私はこのアルティアの第一皇女、アリシアと申します」
淡い水色の髪を一つに縛り、それを前に垂らすアリシアと名乗る美人。背筋も伸びており、自然と国を背負う存在なのだと分からされる。
アルティアっていうのは、国のことかな?
「皆様は、異世界からの『勇者』として、この国に召喚されました。どうか、その力を我々のアルティアにお貸しください」
「ふざけるなっ!勝手に俺達を拉致りやがって!ぶっ殺してやる!」
大柄な男、郷田将生は叫ぶと、アリシアと名乗った美人に掴みかかった。それを、美男子が止める。
「……いくら勇者であろうと、アリシア様への狼藉は許せません」
「あぁ?」
右手を掴まれた将生は、左手を美男子に向ける。確か、将生のスキルは『対象を爆破する』ものだったはず。ちょっとまずいか。
「爆ぜろ!」
将生は叫ぶ。だがその爆発は、伸びてきた腕によって遮られた。
「……何のつもりだ?村田ぁ?」
村田光一。彼について説明するなら、重度の厨二病患者と言えば終了する。
自分の妄想が現実だと本気で思い込んでいた彼だが、しかし、この異世界召喚でそれは事実へと変わり、生き生きし始めたある意味可愛い男だ。
「ふっ、出会い頭に攻撃ってのは、俺的には見過ごせなくてね。悪いが、止めさせてもらうよ」
光一の能力は少し変わっているが、左腕に強力な魔獣が封印されている、というものだ。
最早スキルかどうかも怪しいが、事実として今彼は左腕で爆発を受け止め、平然としている。
「なにふざけたこと抜かしてんだ?お前から殺すぞ?」
ちなみにだが、郷田は物凄い短気だ。短気だけならばいいが、すぐに殺意を抱く。比喩表現ではなく、本当に。
今までも彼は幾度となく殺人未遂を犯している。実際に殺したことはまだないみたいだが、その時はいつきてもおかしくはない。
「ははっ、弱い犬ほどよく吠える。……相手をしてやろう」
光一は自前の眼帯を上にずらす。あれが異世界召喚前なら、出てくるのは普通の黒目。
だが、今は違う。
彼に与えられたもう一つのスキルは『魔眼』。これもスキルなのかどうか怪しいが、彼の左目は黄色く光っている。
「上等だコラァ!!」
一際大きい爆発が起きた。光一はそれを、再度左腕で防ぐ。そして、その左腕を床に添えた。
「深淵に沈め、愚か者が」
「っ、くそっ、なんだこりぁ!?」
紫の禍々しいオーラが、郷田に纏わりつく。郷田は爆破を連発するが、オーラはスルスルと彼の体を覆った。
光一は左腕を床から離した。それと同時に紫のオーラは霧散し、郷田は床に倒れこむ。見れば、気絶しているようだ。
「すまなかったね、君。彼の代わりに、俺が詫びよう。彼も、この状況に混乱していただけだろう」
「え、ええ。助けてくださってありがとうございます。私はケイ。アリシア様の護衛です」
おおーっと、クラスメイトから拍手が起きる。光一はそれを気持ち良さそうに受け取っていた。
「……だが、郷田の言い分は正しい」
郷田より更に大柄の羽田英明がずいと前に出る。
まだ暴力を行使しようとしていないからか、光一は腕を組んだまま黙っていた。眼帯を左目の位置に戻しながら。
「俺達をなんの断りもなく拉致したのは事実だ。あんた達に非があるのは明白だろ?」
英明は『超人』と呼ばれている。その名の通り、常人を遥かに超える身体能力を持っており、彼に関する様々な噂が絶えない。
例えば、一つの組織をたった一人で壊滅させた。人の首を素手で握り潰した。など、眉唾物だらけだが。
ちなみに、僕は英明ともそれなりに仲が良い。仲が良い、と言うよりも、ある秘密を共有している。
僕は、英明が抱える虚しさを。英明は、僕に欠けたもう一つの感情を。
お互いにそれを知りながら、それを胸の内に秘めている。
「それは……」
「そっからは、俺が説明するぜ」
再び、入り口から人が入ってくる。黒髪黒目の青年だ。あまりに、見慣れた特徴。
「日本人……?」
誰かが呟いた。
「そーそー。俺はお前らと同じ日本人だ。里村亮介。気軽に亮介先輩でいい」
先輩。つまり彼は、僕達よりも先に召喚された日本人だった。
◇
「結論から言おう。お前達はある条件さえ達成すれば、元の世界に帰れる」
亮介先輩の案内で教室を出た僕達は、大きな広間の長机に座っていた。一目見ただけで高級だと分かるような、綺麗な机と椅子だ。
『クラスE』の教室は、アルティアの王城の一室に転送されていた。つまり、教室から出たらお城の廊下。皆、開いた口が塞がらなかった。
「か、帰れるんですか!?」
常に何かに対して緊張している少女、橘鈴が嬉しそうに聞き返す。それは、亮介先輩が『帰れる』と言ったことに対してだ。
「ああ、ただし、その条件を満たす必要がある」
「その、条件とは……?」
「魔王を倒すことだ」
この世界には、様々な種族がいる。その中で共通の敵が、『魔族』。その姿は、僕達がイメージする悪魔に近いらしい。
僕達『勇者』は、その魔族を駆逐するのが主な宿命になる。だが、別に無理強いするわけではない。出来るだけ、こちらの意思を汲んでくれるみたいだ。実際に、平穏な暮らしを過ごしている『勇者』もいるらしい。
その代わり、魔王が倒されなければ、次々と召喚は繰り返される。
「そ、そんなの無理じゃないですか!」
「無理だと思うんなら、無理だろうな」
亮介先輩は、元の世界に帰るために戦っている『勇者』の一人だ。彼もかつては、こちら側の人間だったのだろう。
そして、『選んだ』のだ。帰るために。
「だから、お前達も選べばいい。これからどうするか。この国から逃げないなら、ある程度のことは許される」
唐突と言えば唐突な問いに、広間が静まる。
「……俺は、魔王を倒すために戦います」
最初に口を開いたのは快斗だ。快斗は覚悟を決めたような表情で、宣言した。
「俺は、あの世界に帰るために戦う!この世界のために戦う!誰か、俺と一緒に戦う者はいないか!?」
「……ふっ、それは、俺のことかい?同士よ」
「共に来てくれるか!光一!」
「もちろんさ。人々を脅かす魔王とやらを、俺は見逃せない」
快斗と光一が握手を交わす。その熱に当てられたのか、何人かがそれに続く。
「……ふん、俺は降りさせてもらう。魔王とやらは殺すが、群れるつもりはない。一人で行く」
皇は腕を組み、片足を机に乗せたまま言う。亮介先輩はその態度に一瞬眉を顰めたが、
「それも一つの選択だな」
と答える。
そんなイレギュラーもあったが、皇を抜いてクラスメイト達は二つの派閥に分かれた。亮介先輩達と共に、魔王を討伐するために戦うか、この王城で過ごし、国からの依頼をこなすか。
まあ恐らく、妥当な選択だろう。
「俺も、佐山達について行く。俺はより強い奴と戦いたいからな。その魔王は、強いんだろ?」
「もちろんだ。未だに誰も討伐出来ていないのが、それを明確に証明してる」
英明も快斗達について行くみたいだ。まあ、動機は流石と言うべきだが。
「俺は……俺も、快斗について行こうかな。この世界を色々見てみたいし、それなら旅するのが一番かなって」
「ああ、確かにそうだな。この世界のことを知りたけりゃ、旅に出るのが一番手っ取り早い。そりゃ危険は多いが、なんたって俺達は『勇者』だ。油断さえしなければ、そうそう負けるなんてことはない」
玲もどうやら、魔王討伐の旅に出るらしい。亮介先輩の答えを聞いて、更に目を輝かせていた。好奇心旺盛な玲らしい理由だ。
「じゃあ、私もそうしよっかな。旅には興味あるし。ちょっと怖いけど、これだけ仲間がいたら大丈夫だよね」
栞も行くらしい。結構みんな行くんだな。
「……奏多。お前はどうするんだ?」
ふいに、英明が聞いてきた。でも僕は迷わない。もう決めていたし。
「亮介先輩。このアルティアのどこかの家とかって、借りれたり出来ますか?」
「ん?借りるどころか空き家で良かったら貰えると思うが……」
「じゃあ、僕はその家で暮らします。この国の冒険者ギルドとかで依頼をこなしながら、のんびり過ごしたいです」
「なるほど、それもありだな。あんまりそんな選択をする奴はいないが、それでもいいだろ。たまにはこの王城に顔出せよ?俺達討伐組だって、定期的に帰ってくるしな」
亮介先輩はかなり面倒見がいいみたいだ。僕は素直に頷いておいた。
「奏多様。そこには、悠様も連れて行ってもらえるのでしょうか?」
「もちろん、そのための選択みたいなもんさ」
僕がそう答えると、舞さんは安心したように笑みを浮かべる。
「では悠様のこと、お願い致します」
「いやいや、舞さんも来なよ。悠と一緒にいたいだろ?」
「ですが……」
「僕は気にしない」
「……では、お言葉に甘えてさせて頂きます」
僕は舞さんの言葉に頷くと、英明に視線を戻した。
「ってことで英明。僕はそんな感じ」
「なるほど。確かに、お前にはそれがいいかもな」
英明は理解してくれたらしい。ありがたい友人だ。
と、今度は玲が心配そうな表情でこちらを見る。
「奏多……」
「なんでそんな心配そうなんだよ。僕からすれば、玲の方がよっぽど心配なんだけど」
「……それもそうだな。まあ、なんだ!心配すんな!」
不安を消し去るような声で、玲は言った。
こうして、僕達はそれぞれの方針を固めた。
今日中にもう一話投稿しますっ!!!




