第二話 お披露目会
◇
目を開くと、僕は見慣れた教室にいた。さっきまでいた、『クラスE』の教室だ。
「……夢、か?」
確か僕は、さっきまでヴィーちゃんと喋っていたはずだ。確認のために、手のひらを見て意識する。ポワリと、光が灯った。
「奏多!」
玲が僕の名前を呼びながら寄ってきた。
「俺、さっき変な夢見たんだよ!なんか、異世界に行くとか行かないとか!」
「それで、スキルとかもらったの?」
「そうそう!……なんで知ってるんだ?」
「玲。そのスキル、今すぐ確認してみてくれ。誰にもバレないように」
教室内を見渡すと、誰もが玲と同じように狼狽えていた。その反応を見る感じ、恐らく異世界召喚とやらは現実なのだろう。
「あ、ああ。分かった」
玲はコソコソと確認する。その間にもう一度周りを見ると、同じように確認していた。ただし、隠さずに。
炎を出したり、植物を生やしていたり、ファンタジー感が凄い。
「……出来た」
玲が呟く。僕は視線を戻した。
「玲。君の好奇心が強いのは知ってるけど、色々スキルを試したり誰かに見せびらかしたりするのはやめておいた方がいい」
「え?なんでだ?」
「スキルがその能力通りの力を発揮できるのなら、これはかなり強力だ。切り札になり得る。つまり、スキルを人に教えるのは、自分の切り札を教えることと同義だ」
「……なるほど」
「玲。スキルはいくつ持ってる?」
「えーっと、一応二つだけど」
「………」
二つ?それだけ?
「奏多?」
「ああ、いや、なんでもない。多分この後、スキルを公開することになる。その時は、そのうちの一つだけを公開するんだ」
「分かった。ありがとな、奏多。俺のために、忠告してくれて」
「気にしなくていいさ」
多分、ここは既に異世界。その異世界がどんな世界なのかは正確には分からない。
だけど、予想は出来る。与えられたスキルを考えれば、恐らくこの世界における人の命は酷く軽い。簡単に人を殺せるだけのスキルが、たかだか学生である僕達に与えられるぐらいだ。そう考えるのが妥当だろう。
「さて……」
僕はどのスキルを開示するか。与えられた十のスキルを思い浮かべて、思考を巡らせた。
◇
「みんな、ちょっと集まってくれないか?」
正義の塊こと、佐山快斗の声かけにより、『クラスE』の生徒が真ん中の席周辺に集まる。
そこでの話し合いで、とりあえずここは異世界という認識で一致した。全員が同じような体験をし、スキルを授けられたからだ。
なにより、教室の外に出れなくなっていた。扉は開かず、窓も開かない。窓は曇ったようになっていて外の様子を見ることも出来ず、先程から何人かが早速スキルを使って破壊しようとしたが、ビクともしない。
「とりあえずみんな、スキルを教えてくれ!これから先、俺たちは協力し合わなければならない。そのためにも、仲間のスキルを知っておくのは重要だと思うんだ」
快斗の提案に、誰もが頷く。やはりこうなった。でも、これには僕も賛成だ。
みんながどの程度のスキルを手に入れたのかは気になる。もちろん、察しているだろう何人かは馬鹿正直には答えないだろうが、それでも何かしらは開示せざるを得ない。
この異常事態で協調性を欠けば、排除されるのは免れないだろうから。
「まずは俺から言おう。俺のスキルは『勇者の剣』。勇者が持つ聖剣を生み出せる能力だ。いくつか制限はあるようだけど、頼りにしてくれていい」
快斗は自信満々に言う。
なるほど、聖剣を生み出す能力か。確かに強力だが、その制限が気になるな。
「私は食べ物を無限に出せるスキル。へっへっへー、いいでしょー?」
中村彩音が嬉しそうに言った。彼女にはあらゆる欲がない。人間である以上、全くないというわけではないのだが、それでも何かに対する欲が非常に希薄だ。
ただ一つ、食欲だけが異様に強い。いつも基本的に何かを食べている。
それを抜きにしても、彼女のスキルは価値がある。どんな世界か分からないこの異世界において、食料の確保ができるのだから。しかも、無制限ときた。ちょっと羨ましい。
「わ、私は、バリアを出せるスキルと、風を操るスキル、です」
仁和寺風香がおどおど答える。彼女は気が弱く、意思も弱い。ただ、良いスキルをもらえたみたいだ。
更に言うと、スキルは基本的に一人一つらしい。大半の人は仁和寺の言葉に驚いていた。
一応、僕も驚いておいた。僕も一つしか開示するつもりはないし。
口々にスキルを公開していくクラスメイトを見ながら、考える。この先の展開を。
スキルを教え合った後は、この現状の打破になるだろう。公開したスキルを使い、破壊なりなんなりして脱出を試みるはず。
快斗の『勇者の剣』や、羽田英明が言っていた『剛腕』があれば、それは可能かもしれない。それならば、僕にも手段となり得るスキルがいくつかあるが、無理に公開する必要はない。
ただ、ここは慎重になるべきだ。ここで嘘をついていたことが知られれば、自分の立場を悪くする。僕は別に、クラスメイト達との関係を悪くしたいわけではないし、何か企みがあるわけでもない。単に、何があるか分からない異世界で、自分の手札を全て見せるのが嫌なだけだ。
「……俺のスキルは『武器創造』。言葉の通り、どんな武器でも創り出すことができる。もちろん、聖剣とやらも、な」
皇迅。自尊心が強い彼は、聖剣らしき物を生み出すと、快斗をチラリと見て鼻で笑った。確かに、皇のスキルは快斗のスキルの上位互換だ。
どんな武器でも創り出すことができる、か。それは凄いな。それがあれば、それこそ教室なんて木っ端微塵に出来るんじゃないか?
「ーーた!奏多!」
「ん?」
「次、奏多の番だぞ!」
「あ、はい」
いつの間にか、僕の出番になっていたらしい。
「えーっと、僕のは光を操るスキル」
僕は指を鳴らす。すると、教室が真っ暗になった。。ざわつくクラスメイト達を傍目に、もう一度指を鳴らした。すると、教室に光が戻る。
「……なんか、微妙だな」
「確かに」
僕の説明を聞いて、クラスメイトがそんな感じで呟く。
ふむ、本当は敢えてこの程度の説明にするつもりだったけど、これはちょっとまずいな。恐らく、今のクラスメイト達は僕がろくな戦力にならないと思っている。
それは問題ない。問題があるとすれば、今後だ。有事の際、僕が普通に戦ってしまえば、なぜ説明しなかったかと責められるだろう。それは良くない。
と、いうわけで、このスキルについては全て明かすことにした。
「『光の剣』」
僕が呟くと、手に光が収束し、光の剣が生成された。それを、机に突き刺す。特に抵抗もなく、さっくりと刺さった。
「こんな感じかな」
「おお!」
さっきとは違って、今度は多少盛り上がった。ちょっとビビる。
「俺の『武器創造』の方が強いがな」
「そうだね」
「……ふん。お前に噛み付いた俺が馬鹿だった」
皇に少し睨まれた。
僕には、優越感や劣等感がない。ない、と言うより、今までに感じたことがない。それは要するに『ない』ということなのだろうが、それは結局『悪魔の証明』なので、本当にないとは断言できない。
まあ、多分ないけど。今までに感じたことがないんだし。ゆえに、競争心もほとんどない。
誰かよりも優れていたいと思うことがないのだから、それも当たり前かもしれないが。
周囲の人達は、僕にそれを羨ましいと言う。優劣が気にならない人生なら、きっと気楽だろうと。
でも、僕は少し寂しく感じる。競争心がなければ、何事に対してもイマイチ本気になれない。それは、少し寂しい。
こうして、スキルのお披露目会は終わった。次は想定通り、この教室からの脱出。と、なったのだが……。
ガラガラと、あっさり扉が開かれた。
しばらくはのんびりとした話です。




