第六十六話 河原で殴り合ったら次の日からは友達
◇
「はああああああああああっ!!!」
「らああああああああああっ!!!」
「うーん……」
森から出てきた大量の魔物が、片っ端から肉片へと姿を変える。それを成しているのは二つの影だ。
ていうか、シャーラとイルナさんだ。
「暴れてるなぁ……」
魔物の相手は自分一人で充分だと言って群れに突っ込んでいったシャーラと、ダークエルフ一人にやらせるのはエルフの王族の名折れだと追いかけたイルナさん。
イルナさんの部下達も続こうとしていたが、二人の暴れっぷりに誰もついていけず、断念していた。
僕はわざわざ参加するつもりもないので、遠くからその様子を眺めている。
それにしても、
「シャーラ……相当溜まってたんだな」
暴れると言っても、二人の戦い方は対照的だ。
なにやら全身から薄緑色のオーラを発しながら剣を振るうイルナさんの姿は綺麗だ。美しいとも言える。
流麗な剣捌きで全ての攻撃をいなし、その一連の流れで確実に急所へ一撃をいれる。
一切無駄のない動きは、彼女が積んできた日々を思わせる。
対して、シャーラは野蛮そのものだった。
いつものシャーラなら、イルナさんと似た戦い方をしているのだが、さっき彼女が言っていたように、ストレスが溜まっていたのだろう。
シャーラは剣を一度も抜いていない。素手で全ての攻撃を受け止めている。そのまま身体強化魔法を使って手刀による攻撃を繰り出し、魔物を冗談みたいに真っ二つにしていた。
彼女の場合、インパクトの瞬間だけ魔力を込めて少しでも切り口を生み出せば、『肌をつやつやにする』スキルを使って摩擦をマイナスに発生させることで手刀を加速、大した力を加えなくても物を真っ二つに出来る。凶悪だ。
返り血一つ浴びていないイルナさんと、頭から血を被り真っ赤になったシャーラ。しかもシャーラは満面の笑みを浮かべているのだから、もはやホラーだ。
夜に今のシャーラと出会ったら確実に逃げ出す自信がある。ちびるかもしれない。
「あははははははははははははは!!!」
なんか哄笑が聞こえてくるもん。怖いよ、普通に。
なんであんな血塗れで笑ってられるんだよ、僕なら風呂に入りたくて仕方ないよ。
「あ、あの……カナタ殿」
「はい?」
イルナさんの部下である、なんたらさんが近づいてきた。
さっき自己紹介されたんだけど……忘れたな。軍曹とか言ってた気がする。
「その、放っておいて大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫じゃないですかね」
「で、ですが……イルナ様がダークエルフと共闘しているというのは、あまり……」
「んー……」
イルナさんのことは好きだけど、エルフではない僕からしたらその感覚がよく分からないんだよなぁ。
いいじゃん、エルフもダークエルフもかわいいんだから。かわいい子とかわいい子がじゃれあうのって、良いだろ?
「まあ、ちゃんと魔物と戦ってるんだし、いいんじゃないですかね」
「はぁ……」
軍曹さんはよく分からないといった様子だ。男なのに分からないのか、残念。
「……ん?」
しばらくすると、シャーラとイルナさんが喧嘩し出した。
もはや彼女達の視界に魔物は入っていないようだが、その魔物達は、二人の戦いの余波に巻き込まれて吹き飛ばされている。
イルナさんから立ち昇るオーラは濃くなり、シャーラも身体強化マックスでいつの間にか剣を抜いていた。
一合打ち合うたびに、周囲に尋常じゃない衝撃波が発生している。
二人の喧嘩は、割と洒落にならないらしい。
「か、カナタ殿!あのお二人を止められませんか!?」
「いやぁ……」
あれは無理じゃないかなぁ。僕も挽肉にされてしまいそうだ。
「軍曹さん」
「軍曹さん!?わ、私めの名前はステ…」
「あれは止められません。帰りましょう」
止めれないことはないけど、二人が無事じゃ済まない。
「どうせあの余波で魔物は駆逐出来てますし。原因の解明と打破は……」
僕はいまだに、というか更に激化する二人の喧嘩に視線を移す。それを見た軍曹さんも、疲れたようにため息を吐いた。
「ええ……また後日、ということで」
「ですね」
「良かったら、お茶でもどうですか?」
「ああ、良いですね。ぜひ」
軍曹さんと他の魔物殲滅隊の面々と一緒にお茶することになった。美男美女と一緒にいるのは多少の居心地の悪さはあるものの、眼福ではあるものだ。
エルフの国、ヘーダルムの王族が飲むものが、ヘーダルムの民も飲んでいたとしても何もおかしくない。
イルナさんに出されたお茶の味を思い出したのは、軍曹さんに連れられてお店に入ったあとのことだった。
◇
最初の魔物駆逐作戦に出てから、1週間が経った。
あれから、シャーラとイルナさんはお互いにボロボロになって帰ってきた。
僕が軍曹さん達と一緒にいた酒場に二人揃って来た時は、ここで第二戦が始まるのかと身構えたが、なぜか仲良く酒を飲み交わしていた。
種族を超えて仲良くなったのだ。
喧嘩して仲良くなるって、昭和の不良じゃないんだから、とも思うものだが。
血が騒いだのか知らないが、イルナさんもワイルドな感じで酒を飲んでいた。喋り方こそ上品だが、ぐいぐい酒を飲む。
まあ、それはそれでありなんで問題なしです。
イルナさんが認めてしまえば、あとは早い。
シャーラはダークエルフにも関わらずエルフ達から慕われるようになった。軍曹さん達が実際にイルナさんとの戦いを見て、その実力を裏付けしたことも大きい。
シャーラはそんなエルフ達を鬱陶しそうにしていたが、僕は知っている。彼女の口元が、必死に笑みを堪えていることを。
ツンデレだからね。
そんなことで過ごしやすくなったヘーダルムだが、この一週間、魔物の大量発生に関しては全く進んでいない。
僕達が交代で相手をすることで駆逐自体は簡単になったのだが、原因が分からない。
まあ、正直そっちはどうでもいい。
僕達の目的であるメリトリスも、見つけられていない。何の手掛かりもない。
シュトロノームは姿を消した。この国にはいるのかもしれないが、少なくとも最初に連れられた家からはいなくなっていた。
彼の場合、シェリルを守ることが第一優先みたいだったし、この国は危険だと判断したのだろうか。それとも、僕達に居場所を知られていることを危険だと判断したのだろうか。
最近は、悠と少しずつ話せるようになってきた。緊張も解けてきて、気楽に話しかけられる。
悠と一緒にいる時間は楽しい。一緒にいれるだけで良い。そう思える。
だけど……それはイルナさんにも同じことが言える。あれからも僕は度々イルナさんの自室に招かれているのだが、少しずつ距離が近くなっている気がする。
その時間は楽しいし幸せなのだが、悠のことを考えるとイマイチ楽しみきれない。
なにより、イルナさんは積極的だ。スキンシップも取ってくるし、結婚の話も定期的にしてくる。
重いなぁとも思うが、そこまでの好意を隠すことなく向けられるのは正直嬉しい。ただ、答えは出せないでいる。
そろそろ、結論は出すべきなのだろう。
舞のことも気掛かりだ。
最近の彼女はどう見てもおかしい。気丈に振る舞ってはいるが、笑顔にはどこか影がある。
なんとかしてやりたいとは思うが、大丈夫だと言う。何に悩み苦しんでいるのか、ある程度察しているだけに悠には頼めない。
こればかりは、時間が解決するのかもしれない。
まあとにかく、今は何も出来ない状態。八方塞がりなのである。
あまりこんなところで時間はかけてられないし、早くクリネアを見つけたい。いつまでも無事な保証はどこにもないのだから。
だから、
「大変!大変よ!神殿が爆破されたわ!!」
ヘーダルムの王族が住む、国の要でもある神殿。
その神殿が突然爆発した、というニュースをシルフィが持ってきた時、僕は驚くと同時に全てを察した。
悪意が、動き出す。




