第四十八話 急襲
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「なんだ……?」
遠くから聞こえた爆発音に、ドルシとゲルドラが眉をひそめる。
奏多は最初、この国の脳筋共が原因だと思っていたのだが、その考えは一瞬で捨て去った。
ぞくりと、悪寒が走ったからだ。
「……北と東に百近い反応。これは……魔族です」
『気配察知』を全力で展開したところ、竜王国に大勢の魔族が雪崩れ込んできているのが分かった。
奏多の言葉に二人が反応する。
「坊主、本当か?」
「こんな嘘はつきませんよ」
「なんでここにいてそこまで分かるのか聞きたいんだが……今はいいか。ゲルドラ、お前は竜王様の元へ向かえ。俺は迎撃に……!」
「竜将、二人見っけ」
その声に三人が振り返ると、そこにはいつの間にか一人の少女が立っていた。
紫色の肌に、真っ黒な瞳。いかにもという雰囲気の魔族だ。
「……速いな」
ゲルドラが呟く。
そして、その通りだった。
爆発音が聞こえてからまだ一分も経っていない。それなのに、この魔族はもう竜王国の中心部である三人の元まで来ていた。
しかも単身で。
「行け。ここは俺がやる」
そう言って、ドルシはローブを脱ぎ捨てた。指の骨を鳴らして前に出る。
「でも」
「坊主。お前はあの嬢ちゃんについてやった方がいいんじゃねえのか?緊急事態だ、誰も責めやしないさ」
「っ!」
ドルシが言うのは悠のことだ。
今この国で一番危険なのは悠だ。そばには舞かルイゼが一緒にいるはずだが、本人が動けない状態である限り何があるか分からない。
既に街の至る所から戦闘音が聞こえている。ドルシの言う通り、今は緊急事態だ。
奏多がこの場を離れて悠の元に向かっても、誰も何も言わない。
「カナタ君、俺は竜王様の元へ行く。多分、君にも指令が下される。だがそれまでは自由にしているといい。連れの女の子を安全な場所に隠したりする時間はあるはずだ」
相変わらずの暗い表情のゲルドラはそう言うと、奏多の返事も待たずに走り去ってしまった。
「……うん?君のそれって竜将の正装だよね?もしかして君も竜将?」
急展開に驚いていると、魔族の少女が奏多を指差しながら訊いてきた。
それに対し、奏多は渋々と頷く。
「ふーん、増えたのかぁ……。めんどくさいなぁ」
「行け坊主!」
「……任せます」
叫んだドルシに答えると、奏多は一瞬でその場から姿を消した。
奏多とゲルドラがいなくなり、ドルシと魔族の少女だけが残された。
だが、魔族の少女は動く気配を見せない。
「……お前、俺たち竜将を狙ってるんじゃねえのか?」
「そうだよ?」
「じゃあなんで追わない?」
「必要ないから」
飄々と答える少女に、ドルシは眉を吊り上げる。
「あのねぇ、あんたらを殺すために来たのが私だけだと思う?」
「あ?」
「こうやって敵陣に侵入したんだよ?そりゃあ、戦力は揃えてるよ」
「ああ、それもそうか」
「……焦らないんだね?」
「心配してないからな」
元の戦力なら、そうはいかなかっただろう。竜将の欠員による戦力不足は否めなかったからだ。
だが、今は奏多達がいる。彼らの一味は一人一人が竜将レベルに達してることを、ドルシは既に察していた。
「へぇ……まあいいや。やろうか」
刹那、空気が変わった。
ジリジリと肌を焼くような圧に、ドルシは警戒を高めた。
「『炎の魔将』フラスゴーの眷属、ネル」
「……『二ノ竜』ドルシ。異物を排除する」
二つの影が、轟音を伴って激突した。
◇
「至るところで戦ってるな……」
屋根の上を跳び移りながら戦況を確認する。
既に、この竜王国が戦場と化していた。だが流石と言うべきか、国民の対応が有り得ないぐらい早い。
なにせ誰も混乱していないのだ。誰もが襲いくる魔族と戦っている。
「見えてきた……!」
竜王から借りた屋敷が見えてきた。あそこに悠がいるはずだ。
とりあえず悠を連れて安全な場所に逃げないと。
やっぱりお城かなぁ。
「よっ」
「え?」
突然、声が聞こえた。
ふと隣に視線をやると、跳んでいる僕の隣に男がいた。
有り得ないぐらいの殺気を放ちながら、拳を握っている。
「どーん」
「がっ!?」
その拳が僕に振り下ろされた。
ギリギリでなんとか受け止めるが、勢いは受けきれない。
僕の体はそのまま、かなりの高度から地面へと叩きつけられた。
『身体能力強化』でダメージは軽減したが、堪え難い痛みが全身を襲う。
「おお、凄え!受けやがった!」
男は僕の前に着地した。
ヒョロヒョロなガリ男だ。頰は痩け、はだけている胸元からは皮と骨しかないような肉体が覗いている。
そしてなにより、印象的だったのは燃え盛る髪だ。
「……危ない髪の毛ですね」
「だろ?超イカすだろ?」
「そんなこと言ってませんが」
僕はゆっくりと立ち上がる。
地面には大きな亀裂が入っていた。この衝撃でも死なないって、僕も人間離れしてきたな。
「お前が新しい竜将か?」
「……なぜ?」
知ってる?
「こいつに聞いたんだよ」
そう言って男は手をあげた。さっき僕に挑んできた国民の生首の髪を鷲掴みにしている。
「顔色一つ変えねぇのか」
「別にどうでもいいでしょう」
僕は腰から宝剣を引き抜く。パレードの途中だったから得物がこれしかない。
「そこ、どいてもらっていいですか?その先に用があるんですよ」
早く悠の元に行かないと。
「なら、どうする?」
「……あんたを殺す」
「ははっ、いいねぇ!その殺気!」
男は掴んでいた首を投げ捨てると、肩を回してゴキゴキと鳴らした。
「『炎の魔将』フラスゴーだ。よろしくな」
「………」
やっぱりか。
嫌な予感はしてたんだよ。
「『四ノ竜』氷室奏多」
次の瞬間、僕の視界を炎が覆い尽くした。
◆
「ファルグ様!」
バタンと勢いよく扉を開けたゲルドラの前には、玉座に座るファルグとその前に集まる大勢の貴族達だった。
ファルグは慌ただしく指示を出しており、ゲルドラの声は届かない。
「ゲルドラ様!」
と、そこにメイド長のプリムラが駆けてきた。
「状況は?」
「襲撃があってすぐに貴族の方々がファルグ様の元に集まり、それからはずっとこの状態です。ファルグ様も出たいみたいなのですが、今は国の被害を把握することを先決させています」
ファルグも一国の王。王である限り、やはり優先すべきは国だ。
戦場ならば話は別だが、今回はその戦場が守るべき国なのだ。まずは被害を抑えることを優先しなければならない。
それを出来るのはファルグだけだ。一癖も二癖もあるこの国の民達を纏められるのは竜王だけで、だから彼は自分は出ずに指示を出し続けている。
「……うずうずしているな」
「ですね」
とは言っても、それは役目の話であって、本人の感情は別だ。
ゲルドラとプリムラの目には、ファルグが戦いたくてうずうずしているのが丸分かりだった。
「ゲルドラ様はどうしますか?」
「俺は……そうだな、襲撃地に向かう。さっき対峙した魔族の言動からすると、奴らの狙いは竜将だ。俺がここにいるのはまずいだろう」
「……私もお供します」
「いや……そうか、分かった。行くぞ」
「はい!」
結局、ゲルドラはファルグに声をかけることなく城を出た。




