第四十七話 始まりは突然に
◇
三日が経った。
あれからは花崎香織達の襲撃もなく、ただただ平和な時間を過ごした。
と言うより、やる事がなさすぎて暇だった。
竜王国はでかい国だが、魔王軍との戦いに重きを置いているため観光地としては中の下ぐらいのレベルで、観光は一日で終わってしまった。
ということで、ダラダラと過ごした。
僕はこの三日間で竜王と話を詰め、僕の『四ノ竜』パレードと同時に悠の治療を開始してもらうことにした。
『八ノ竜』であるルイゼさんには迷惑をかけるけど、少しでも早く取りかかって欲しかったから僕としては嬉しい。
あと、シャーラが凄かった。
『一ノ竜』のシャルルさんが手合わせを受け入れた旨を話すと、シャーラは嬉しそうに笑みを浮かべて剣の素振りを始めた。
急にその場でやり始めるものだから軽く斬られそうになったが、全力でなんとか逃げ出した。
どうやら、シャーラは常識がないらしい。
とまあ、こんな感じの三日間が過ぎた。
そして、今日はパレードの日だ。
◇
「明日だ」
「え?今日じゃないんですか?」
任命式当日、呼ばれた僕は王の間に入ると同時に竜王がそう言った。
が、任命式は今日のはずだ。
まさか、ボケたのか?
「違う、任命式のことじゃない。出陣の話だ」
「……出陣?」
「魔王軍が動きを見せている。恐らく、軍の編成だろう。リネアがこちら側についたとはいえ、戦力差は未だにある。だからこそ、まだ態勢が整っていない間に攻め込む」
『人間』は打倒魔王軍を掲げている。だが、そのために行なっているのは勇者の派遣だけだ。『人間』自体はろくに動かない。
だが、『竜人』である竜王は違う。本気で魔王軍を滅するために生きてきて、チャンスと見ればこうして仕掛けようとする。
それに関しては素直に尊敬する。実際に行動に移せるのは凄いことだ。
ただ、今回はタイミングが悪い。
今日、任命式が行われれば、僕は晴れて『四ノ竜』になる。
そうすれば、明日の出陣に連れて行かれるのは必至だろう。
「………」
「は、なんて顔してやがる。逃すわけねぇだろ?」
つまり、そういうことだ。
こんな大事なことを伝えていなかったのは、悠の件が片付いたら僕が『四ノ竜』の座を投げ捨てると見抜かれていたのだ。
だがら先に逃げ道をなくした。少なくとも、明日からの戦いには参加させるために。
「初めから信用してなかったんですね」
「それをお前が言うか」
「……確かに」
「認めんなよ」
ちくしょう、めんどくさいな。
今日中に悠の治療が終われば明日までに逃げてもいいのだけど、ルイゼさんにはそれはありえないと言われた。
過去の強烈なトラウマが原因の心傷はすぐに癒えるものではなく、それこそ長い時間をかけて向き合わなければならない。
それも、悠は長年心を閉ざしてきたわけだから更に時間がかかる。
と、考えられるらしい。
実際に心を読めるわけではないので、細かいことは分からないみたいだが。
「露骨に嫌そうな顔するなぁ」
「嫌ですし」
「拒否権はないからな」
「分かってますよ」
悠を治してもらえるなら、どんな条件だって受け入れる。
例えどんなに嫌でも。
「じゃ、さっさと控え室に戻れ。一時間後には任命式が始まる。ここの貴族共も新しい『竜将』に興味津々だからな。遅れんじゃねえぞ?」
この国の貴族は、いわゆる騎士の家系だ。
権力に興味がある者はほとんどいなく、ただ力を求める脳筋の集まりらしい。
と言うより、この国において権力なんてものはあまり意味をなさない。ゴリゴリの戦闘民族が身を寄せ合って出来たような国だ。
もはや脳筋しかいない。
その実力は『竜将』に迫るほどで、事実、現『竜将』のうちシャルルさん以外は貴族出身だという。
だから新しい『竜将』に興味を示しているのだ。
果たして、『竜将』に見合うだけの器なのかどうかを見極めるためにも。
「ま、気楽にしてろ。ちょっかい出してくるかもしれねぇけど、適当にあしらえばいいから」
そんな脳筋がかけるちょっかいなんて決まってる。
「いや、気楽でいられないですよ。それ止めないんですか?」
「その程度もあしらえないようじゃ、『竜将』は務まらないってこった」
別に務まらなくてもいいんだけどなぁ。でも悠のためだ。我慢するしかない。
めんどくさくなったら襲ってきた奴全員殺せばいいし。
「殺すなよ?」
「……分かりました」
ダメらしい。
◇
「ヒムロ・カナタ!」
王の間から大声で名前を呼ばれた。それと同時に、無駄にでかい扉が開かれる。
扉が開ききると、目の前には赤い絨毯が敷かれていた。それは僕がいる入り口から、竜王の座る玉座まで伸びている。
竜王の傍には四人しかいない『八竜将』。そして赤絨毯を挟むように大勢の貴族が並んでいて、その全ての視線が僕に注がれていた。
その僕は、今は着慣れない服を着ている。
裾が地面を引きずるぐらいの長さの真っ白な服。胸元には竜の刺繍が施されている。
これは竜王国の『竜将』だけが着ることを許された伝統的な正装らしいが、正直動きづらい。
身体にぴっちりとしているのに裾は長いって、センスなさすぎないか?
腰には貸し出された宝剣が刺さっている。これは儀式に必要らしい。
「前へ」
『一ノ竜』であるシャルルさんの声に従い、絨毯の上を歩く。
と同時に、並んでいる貴族達からピリピリとした殺気を向けられた。
だから、僕も殺気を放ち返した。
「………」
あれ、誰も襲ってこない。
「ーーー」
僕の前で、竜王がダラダラと喋っている。
今頃、僕達が借りた屋敷では舞の立ち会いの元、ルイゼさんによる悠の治療が始まっているはずだ。
と言ってもずっと魔法をかけ続けるわけではなく、一度かければ結果が出るまで持続するものらしい。成功か、失敗か。基準は悠が諦めるかどうか。
ダラダラと話していた竜王が、腰から煌びやかな剣を引き抜いた。それに合わせて、僕も宝剣を抜く。
そして、お互いの剣を軽く打ち付けた。
「我ら、同じ剣の下に」
古くから伝わる儀式らしい。
関係は主従だが、剣を握る時は肩を並べ、そして果てる時は同じ戦場で。
たとえ王であろうと、戦では自ら先頭に立ち、そして竜将はそれに付き添うことを意味している。
正直、僕的にはどちらかと言うと『竜王』側の誓いに近いと思う。
あ、ダジャレじゃないよ?
「ーーよし、この時をもって、ヒムロ・カナタを『四ノ竜』とする!異論がある者は!?」
竜王の言葉に、貴族達は一斉に拍手を始めた。僕を祝福するものだ。
「……はぁ、これで終わりですか?」
「これで最後だ」
竜王はそう言って、右手を僕の左胸に添える。
そして焼けるような音と共にその手をどけると、無地だった白の胸元に赤い竜の刻印が刻まれていた。
「じゃあ帰っていいですか?」
「ユウが気になるんだろうが、この後はパレードだ」
「くっ……!」
「くっ、じゃねぇ」
「それにしても、あの人達襲ってこなかったですね」
「いやいや、お前が殺気放ちすぎなんだよ。見てみろ、壁にヒビ入ってるぞ」
竜王が指差した先を見ると、確かにヒビが入っていた。
「本気で殺気出しすぎだ。シャルルが攻撃しようとしてたじゃねぇか」
「カナタ、もっと自重するべき」
「気をつけます」
やり返しただけなんだけどな。
パレード、と言っても、単に街中を歩き回るだけだ。ただ、まあ、そこらの力自慢に手合わせを仕掛けられることはあるらしい。
そしてそれに応えるのが一種の伝統で、新『竜将』はそれを拒否してはならない。
「分かってるだろうが……いや、分かってねぇか。パレード中は殺気なんて出すなよ?挑ますのが伝統だからな」
という竜王の声を背中に、僕はドルシさんとゲルドラさんと一緒に街へと出た。
街は凄いことになっていた。
僕が王の間で任命式に出ている間に街中はお祭り騒ぎになっていて、所狭しと露店が出ている。
そしてそこら中で笑顔で殴り合いをしている。
「……こわ」
「まあ分からんこともねぇが、坊主。慣れろ」
「これに慣れたら終わりだと思うんですが」
正面から飛びかかってきた三人の男達を視界に収めながら答える。
ここの住人はほんとに脳筋ばっかだな。
「覚悟っ!」
まず、先頭の男が足元に斧を振り下ろしてきた。他の二人も既に剣を振っている。
連携か。
僕は軽く跳んで斧を躱す。空中で無防備になった僕に間髪いれず剣が突き出されたが、それを左の人差し指と親指で掴み、もう一人の剣は体を捻って躱した。
空中で体を捻れば、当然反転することになる。
「背中を見せるなんて甘いんじゃねえのか!!」
とか聞こえたが、僕は剣を躱して反転した勢いのまま回し蹴りを放った。
僕の踵は一人の男の脇腹を穿ち、くの字に曲がった男は斧の男にぶつかり、そのまま三人目の男も巻き込み、三人纏めて吹き飛ばした。
おお、と周りが騒めく。
「そう言えば、シャーラとシャルルさんってどこで戦うんですか?」
「闘技場だろ」
「僕も観に行って大丈夫ですかね?」
「観戦中に挑んでくる奴はいるだろうけどな」
「この国に常識は通じないのか……?」
もういっそ陰大陸に住めばいいのに。そしたら魔族と戦いたい放題だ。
「ほら、きたぞ」
「はいはい」
その後も、歩く僕達に飛びかかってくる筋骨隆々な男を千切っては投げ、綺麗なお姉さんは優しく気絶させつつ闘技場へと向かった。
ドルシさんによると、シャーラとシャルルさんの仕合はそろそろ始まるらしい。
そしてやっと闘技場に着いた時、遠くの方で大きな爆発音が鳴り響いた。
テストまだありますが知りません。
今日から投稿再開します。
つきましては、ストックを毎日投稿しようかと。
まあ、5話分ぐらいしかないですけどね…




