第四十四話 メイドでアイドルなんて最高じゃないか!
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「ふむ、マミヤ・ユウの感情を取り戻す……か」
「はい」
奏多はざっと現状を説明した。
悠が感情を喪ったことと、それが恐らく過大な精神不可に対する本能的な防衛措置の結果だということを。
「まず教えてください。竜王様の配下に、そういった症状を治せる能力者はいますか?」
奏多が訊くと、ファルグは無言で視線をルイゼに向けた。
それに気付いた彼女が答える。
「うちなら、なんとか出来る可能性はあります」
「ほんとですか!?」
「ひっ!」
ルイゼが、自分の言葉に食いつく奏多に怯える。
ぶるぶると頭を振って、なんとか取り直した。
「で、ですが、ユウさんの症状が怪我や病気ではなく精神的なものである以上、結局はユウさん本人がそれを望むかが肝になってきます」
「………」
「それにさっきカナタさんが言っていましたが、過去が原因になっているのなら、治療法としてはその過去を乗り越えられるかどうかです。結果がどうであろうと、ユウさんにとってとても辛いものになるのは避けられません」
「過去を乗り越えられるかどうか……か」
悠が感情を取り戻すことを望んでいるかどうかと訊かれても奏多には答えられない。
彼は正直な話、悠はそれを望んでいないような気さえしていた。
それに、ここで取り戻すことを選択すれば、悠はあの過去ともう一度向き合わなければならない。
感情を喪うほどの過去。奏多は又聞きしただけだから詳細は知らないが、だからと言って容易く向き合えと言えるわけがない。
「奏多……」
舞が奏多の元に寄ってきた。
他の仲間は奏多達から離れている。決断は奏多と舞に委ねるということだろうか。
「……奏多は、どうしたいですか?」
「僕は……」
会いたい。
もう一度、花のように笑う悠と会いたい。
それが彼の本音。
だがそれは奏多のわがままでエゴだ。
悠が本当に望んでいることを知る術はないのだから。
「私は、また悠様とお話ししたいと思っています。話したいことがたくさんあるんです。奏多はどうですか?」
「僕だってそうさ。でも、悠のことを考えたら……勝手には、決められないよ」
「………」
舞は黙り込んでしまった。
別に、煮えきらない奏多の態度に呆れたわけではない。
もしも立場が逆だったら、舞も結論を出せる自信がなかったから。
だが、舞は知っているのだ。
奏多が知らない事実を。
それは事件が起きる以前から悠と共にいた彼女だからこそ知っていること。
間宮悠が氷室奏多に対してずっと抱いていた想いを。
奏多はそれを知らない。
知る前に事件が起きたから。
しかしそれを知っている舞からすれば、悠も奏多との再会を願っているであろうことは予測できていた。
「奏多。悠様を信じましょう」
「舞……」
舞は笑顔を見せる。
その笑顔は眩しく、それに魅せられた奏多も決心した。
「分かった。僕も悠を信じるよ」
舞のその笑顔の裏に、悲しみと痛みが隠されていることに気付きもせずに。
◇
僕も決心した。
元々、悠は望んでいないかもしれないと思いつつ、それでもずっと感情を取り戻すために動いてきたんだ。
それに、本当に辛いのは舞かもしれない。
悠はあの事件の際に抜け殻になってしまったから、真実を知らない。
もしもあの日の真実を知れば、舞は悠に拒絶されてしまうかもしれない。
だが、舞はそれでもいいと言っていた。
全てを受け入れる覚悟は決まっていると。
それなら、僕は迷わない。
悩むなんて今更だ。
「じゃあ、ルイゼさん。お願いしてもいいですか?」
「は、はい!」
「いやいや、待て待て」
せっかく良い感じに纏まったのに、竜王が口を挟んできた。
「はい?」
「な、なんです?」
「こちらにメリットがない。つかルイゼは分かっておけよ」
ちくしょう、有耶無耶にできると思ったのに。
「ルイゼの力はこの竜王国、つまり俺のもんだ。しかも『竜将』。一方的に貸せるほど安いもんじゃない」
「あ、あのー……」
そこで、舞が恐る恐るといった様子で手を挙げた。
多分、さっきの出来事があったから少し気まずいんだと思う。
「なんだ?」
「先程『八竜将』と言っていましたが、残りの四人はどこにいるのでしょう?」
「良い質問だ」
これ、舞が頼んだら軽く力貸してくれるんじゃないかな。
「さっきも言ったが、『八竜将』は魔将共に対する戦力として編成した。つまり、生半端な実力じゃ認められないってこった。んな事やってると、すぐに殺されるからな。まあ要するに、今の『八竜将』はこいつらだけだ。前竜王の代にほとんど死んだ」
なるほど。つまりアレか。
なんだかんだで『竜将』より『魔将』の方が強いってことか。
「プリムラ」
「こちらに」
竜王がここにいないはずの名を呼ぶと、どこからともなくプリムラさんが現れた。
……いやほんと、いつからそこにいたんだ?
「プリムラはメイド長だが、実力で言えばこの竜王国で一番竜将の座に近い。ぶっちゃけ、ルイゼより強いかもな」
「ひ、ひどいですぅ」
「じゃあなんでルイゼさんが『竜将』に?」
「ルイゼは特殊な能力を持っててな。マミヤ・ユウの治療に必要な能力にも関係する。いや、そんなことはどうでもいい。プリムラお前、カナタと戦って勝てるか?」
「……どうでしょう。簡単には負けないと思いますが」
「よし、ならカナタ。今からプリムラと戦え。お前が勝てたら、いくつか条件はつけるがルイゼの力を貸してやる。だがもしも負けたら、即刻立ち去れ。あ、マイを置いて」
「舞は仲間だ。置いていくわけないだろ」
私欲剥き出しじゃないか。
それにしても急な展開だが、そんなことで力を貸してもらえるなら安いもんだ。
「今からって、ここで?」
「馬鹿かお前、ここは曲がりなりにも王の間だぞ?街に闘技場がある。そこを使え」
「分かりました。プリムラさん、よろしくね」
「はい、カナタ様。お手柔らかにお願いします」
「残念だけどそれは無理だ」
悠が絡んでるし、油断は一切しない。
「ふふ、正直な方ですね。では私は準備をしてきます。カナタ様も装備を整えておいてくださいね」
「はーい」
別に整えるものなんてないけどね。
「おい、カナタ」
……さっきから竜王がナチュラルに名前呼びしてくるんだけど。
「なんです?」
「お前、マイと付き合ってんの?」
「……はい?いえ、そんなことないですけど」
「そうか……」
竜王は安心したような、しかしどこか複雑そうな表情を浮かべた。
「俺は諦めてないけど……マイも大変だな……」
「……何の話か分かりません」
僕も、何の話か分からなかった。
◇
「カナタ。私と変わりなさいよ」
「嫌だよ。指名されたのは僕なんだし」
王城を出て闘技場への移動をしていると、シャーラが結構しつこくそう言ってきた。
多分、プリムラさんと戦いたくて仕方ないんだろう。
「それに、シャーラが本当に戦いたいのはシャルルさんでしょ?」
「なにを根拠に」
「さっき、シャルルさんだけに向かって殺気送ってたから」
「……あんた、本当に強くなったわね」
「強くなったというより、二年も一緒に修行してたらそれぐらい分かるよ」
散々僕に向けられた殺気だし。
もはや他人に向けられた殺気でも寒気を感じるよ。
こう、トラウマが蘇るような感覚で。
「ガイウスは戦いたいとか言わないのね?」
僕達の後ろを歩くクリネアの声が聞こえてきた。
「……戦いたくないって言ったら嘘になるけど、大将の気持ちは分かるからな」
「カナタの気持ち?」
「ああ」
ガイウスはアンのために強くなろうとしている。
だから、僕が悠のために戦おうとしている時はいつも僕を立ててくれる。
ほんと、立派に成長したよ。
「その代わり大将。絶対負けんなよ」
「もちろん」
言われるまでもない。
「ねぇねぇ、霊剣使う?」
「いや、竜王は僕だけを指名した。シルフィを使ったら一発でバレるからやめておくよ」
「はーい」
城下町を歩いていると、行きとは違ってどこか寂しい雰囲気だった。
人通りが少なく、活気がないからだろうか。
そんな、打って変わって閑散とした街を抜け、闘技場へと向かう。
しばらく歩いていると、イタリアのコロッセオみたいな建造物が見えてきた。
現物を見たことはないけど、多分コロッセオよりも大きい。
「お待ちしておりました」
入り口に近づくと、メイド服を着た人達に囲まれた。
その中にプリムラさんの姿はない。
「ヒムロ・カナタ様はこちらからお進みください。他の方々は私達が案内します」
みんなから激励の言葉をもらった僕は、メイドさん達に指示された通りの通路を歩く。
そして、少し長めの通路を抜けると闘技場に出た。正面にはプリムラさんがいる。
中はイメージ通りの造りだ。
ただ、熱気が凄い。
まだ戦いは始まってないのに、観客がヒくぐらい騒いでいる。
観客席の方を見渡すと、悠や舞達は最前列にいた。特等席に案内されたようだ。
「装備、整えていないのですね」
「……プリムラさんもさっきと変わらないように見えますけど」
「私はこれが戦闘服ですから」
そう言って、プリムラさんはスカートの端を摘んで優雅にお辞儀をした。
プリムラさんはメイド服のままだった。カチューシャもつけている。
どう見ても動きづらそうなのだが、大丈夫なのだろうか。
「ご心配なく」
とのことだった。
舞もそうだけど、プリムラさんにも心を読まれた気がする。僕ってもしかして顔に出るタイプなのか?
『さぁ!さぁさぁさぁ!始まりますよ決闘が!』
大きな声が闘技場内に響いた。
突然のことに、体がビクリと跳ねる。
『対峙するのはこの二人!我らがアイドル、もといメイド長プリムラと!勇者の客人、ヒムロ・カナタッ!!!』
竜王国の決闘には実況者がいるらしい。賑やかだ。
「それにしても、プリムラさんってアイドルだったんですね」
メイドでアイドルなんて、最高じゃないか!
「……その、皆様が勝手に言っているだけですので……」
ああ、そういうことか。
確かにプリムラさん美人だもんね。
胸はないけど。
「カナタ様?視線が私の胸に向かっているように見えるのですが?」
「……気のせいです」
『二人が何やら会話をしていますね。これは、既に舌戦が始まっているのでしょうか!?』
勝手に戦っていることにされた。
だが、それを知らない観客はどんどん盛り上がっていく。
うるさくて仕方がない。
見せ物にされるのはあんまり好きじゃないんだけどな。
『そろそろ仕合の開始です!!』
実況と共に審判がやってきた。
「さあ、構えて!」
プリムラさんがどこからともなく短剣を取り出した。
刃が少し反った、艶のある綺麗な短剣だ。
僕は体を半身にする。
霊剣は預けているから、武器はない。
「始めっ!!!」
「では、良い勝負にしましょう」
「ですね」
あ、そう言えば、勝利条件を確認するの忘れてた。
……少なくとも、殺したら勝ちかな。




