第四十三話 竜王と愉快な仲間達
◆
「ギャー!?」
シャルルが投げたナイフが俺の左腕に刺さった。めっちゃ痛え。
「まあいい。グレン殿の紹介だから通してやったが、魔族がいるなら話は別だ。今ここでそれを消す。死にたくなければそこをどけ」
竜王様はそう言って立ち上がった。
いつの間にか、竜王様の手には黒い靄のようなものが渦巻いていた。
『黒竜』だ。
これはあれだ。
坊主死んだな。
「……さっきからそれって、もしかしてクリネアのことを言ってるのか?」
だが、坊主は竜王様の殺気を受けても怯まなかった。
むしろ、一歩前に出ている。
「……クリネア?まさか、『時の魔将』か?」
……は?
『時の魔将』?
『時の魔将』っつったら、八魔将の中でも最凶クラスの相手じゃねえか。
あの嬢ちゃんがその『時の魔将』だって?
「だったら、なに?」
「確実に殺す」
竜王様が拳を握ると、黒い靄が爪の形を作った。
やべぇな。坊主、本当に死ぬぞ。
「やってみろよ」
坊主が手を掲げた。すると、そこに暴力的な光が迸る。
竜王様と坊主の殺気がぶつかり合い、拮抗した。
坊主の奴、めちゃくちゃ強くなってんな。まさか竜王様と拮抗するほどとは思わなかった。
二年前に会った時も、殺気は凄まじかった。だが、それだけだ。
ただ殺気が強いだけ。実力は大したことない。
そんな印象だった。
だが今は違う。
坊主は竜王様に張り合うぐらいの強さを手にしている。
現にこの俺を軽くあしらい、竜王様がすぐに攻撃をしない。
「僕はあんたと敵対するつもりはない。クリネアは絶対にあんたらに害を与えない。僕が保証する。それでもダメですか?」
「お前が信頼出来る要素がない。だから死ね」
竜王様がそう言った瞬間、黒と白が衝突した。突然にだ。
竜王様と坊主がほぼ同時に手を振って、二人の間で黒と白が火花を散らした。
俺にはそれだけしか認知出来なかった。
『二ノ竜』であるこの俺が。
「へぇ」
「信頼を得るために何をすれば?」
「ここで死ね」
「それ以外で」
また轟音が響く。
「じゃあ、仮にそれが俺達に害を加えたらどうする?」
「僕がクリネアを殺して、そして僕も死ぬ」
即答だった。
坊主は竜王様を前に、臆することなく即答した。
「……これを使え」
竜王様は少し黙った後、坊主に拳大の牙を放り投げた。金色に輝く牙だ。
あれは……『神竜の牙』だ。
「答えろ、ヒムロ・カナタ」
「なんで僕の名前知ってるんですか?」
「……グレン殿の紹介状に書いてあったからだ」
なに呑気にそんなこと訊いてるんだよ。そのアイテム、ヤバいやつだぞ?
『神竜の牙』。
文字通り、この国を創ったと言われる神竜が生やしていた黄金の牙だ。
それは真実を見抜く力を持つと言われ、その牙を持っている時に嘘をつけば、即座に魂を奪われる。
ほんの少しでも嘘をつけば、それで終わりだ。
「答えろ、ヒムロ・カナタ。お前はそれが暴走した時、本当に殺して、そして自分も死ぬのか?」
「ええ」
またも坊主は即答した。
そして、何も起こらなかった。
「……ク、ククク」
しばらく沈黙が流れたあと、竜王様の笑い声が響き渡った。
「はははははは!」
「なんですか?」
「いや、なに。お前、良い男だなぁ!うん。俺好みの男だ」
「僕にそっちの趣味はありませんよ」
「俺もねぇよ馬鹿。まあいい。それは見逃してやる。その代わり、お前が責任持てよ?」
「なら、クリネアのことをそれって言うのやめてくれません?」
「……おい、『時の魔将』。一つ答えろ。……お前はカナタのためなら命を張れるか?」
カナタ。名前を呼ぶと言うことは認めたということだ。
……思ってたよりやるなぁ、坊主。覗き仲間が立派になって俺は嬉しいぜ。
「当たり前じゃない。カナタと一緒にいるために魔王軍を離反したんだもの。今更よ」
「ぶっ!ちょ、ちょっと待て嬢ちゃん!魔王軍を離反?魔将が?」
「ええ、そうよ」
まじかよ。どんな経緯があればそんなことになるんだ?
俺が坊主と初めて会った時には既に嬢ちゃんは一緒にいた。ってことは、その前か。
まあ、どちらにせよ……魔将じゃないってんなら、少なくとも俺らが出張る必要はないか。
つか、この嬢ちゃんも竜王様に気に入られるタイプだな。
「そうか……非礼を詫びよう。クリネア。ここではリネアと名乗れ。この国でクリネアの名で通せば正体に気付く奴もいる。騒ぎを起こすのは本意ではないだろう?」
「分かったわ」
「ふむ」
……終わった、か。
「竜王様が魔族を認めるところ、初めて見た」
「俺もこうなるとは思わなかったよ」
「成長したね」
「うるさい」
シャルルが竜王様に気安く声をかける。
まあ、竜王様もお勤めモードから切り替えたみたいだからな。いつもの光景だし気にならねぇが。
「あー……この流れですることでもないかもしれないが、自己紹介するか」
竜王様が少し気まずそうにそう言った。
◇
竜王の雰囲気ががらりと変わった。
今は気さくなお兄さんって感じだ。
「俺はファルグ・ジルムンド。この国の竜王だ」
みたいな感じで、竜王は自分の自己紹介を軽く終わらせた。
そして竜王は自分の傍らに戻ってきた四人に視線を動かす。
「こいつらは『八竜将』。まあ名前の通り、魔王軍の魔将を倒すために結成された竜王国の剣だ」
魔将対策のための組織か。
本当に魔王軍と対立してるんだな。そりゃ、クリネアにも警戒するか。
……四人しかいないけど、残りの四人は用事でもあるのか?
「私はシャルル。『一ノ竜』よ。さっきはファルグがごめんね?」
「おいシャルル。客人の前だ。俺に恥をかかすな」
「はいはい」
シャルルと名乗った女性はエルフだった。
緑色の長髪を一本に纏めて前に垂らしている。おっとりとした目元に、きめ細やかな肌。一見優しそうな印象だけど、多分怒ったらめちゃくちゃ怖い系だ。
「俺はドルシ。『二ノ竜』だ」
「覗きのおっさんでしょ?」
「おい坊主。あとでツラ貸せや」
「……軽くあしらわれたくせに」
「聞こえてんぞシャルル!」
賑やかな連中だな。
それにしても、あの時のおっさんが竜王国の一級戦力か。
「ほれ、次」
「……俺は『三ノ竜』ゲルドラ。よろしく頼む」
「おーい、ゲルドラ。もっと元気よくいけ、元気よく」
「俺には荷が重いです、竜王様」
ゲルドラと名乗るのは不健康そうな男だった。見た目は人間と変わらないけど、気配からすると多分妖精族だな。
目の下には濃いクマが出ており、凄く眠そうだ。ボッサボサの赤い髪が特徴的で、身長が高い。腰に差す四本の剣が気になる。
「う、うちはルイゼっていいます!よろしくお願いします!」
「ルイゼは『八ノ竜』だ」
「は、はい!うち、これでも『八ノ竜』です!」
わたわたと忙しない女性が、少し涙目になっている。
ふわふわのプラチナブロンドの髪で、紛うことなき美人。ただ、その余裕のなさのせいで魅力が半減している気がする。
「お前らの名前はもう知ってる。グレン殿が名前とそれぞれの特徴を一緒に書いておいてくれたからな」
おお、やっぱりグレンさんはしっかりしてるなぁ。
「シャーラが絡まなかったら」
「……やめなさい。私も同じこと思ってたから」
僕がぼそりと呟くと、隣のシャーラが疲れ切った表情でそう答えた。
まあ、シャーラが一番感じてることだろうな。
「クリネア、大丈夫?」
「うん。ありがとね、シルフィ」
「いいわよ。何回でも守ってあげるわ!」
ふふんと胸を張るシルフィに、クリネアは微笑む。
それにしても、思ったより竜王の殺気が強かった。気抜いたら気絶してたな。
どれだけ魔族が嫌いなんだよ。
「奏多も大丈夫でしたか?」
「ん?」
「いえ、結構しんどかったでしょう?」
「……分かった?」
「これでもそれなりの付き合いですからね」
「だね」
敢えて冷静を装って対峙したけど、正直怖かった。
あれ、竜王が本気できてたら多分僕死んでただろうし。
僕もまだまだだな。
「つーか大将。あのおっさんと本当に知り合いなのか?」
「顔見知り程度だけどね」
「覗きで?」
「うん、覗きで……ちょっと待ってシャーラ。剣抜くのはやめて」
「ふん」
怖え。
「覗きなんてしてるから悪いのよ。私にはしなかったのが逆に腹立つわ」
「……え?なら今度覗きに行っていい?」
「……ダメよ」
なんだよー思わせぶりなこと言うなよー。
「あたしは見せてもいいわよ!カナタなら許してあげるわ!」
「いや、いいです」
「なんでよ!」
シルフィはなんて言うか……マスコットキャラみたいな感じだし。流石にダメな気がする。
「アタシは?」
「……バインバインになるのを楽しみにしてます」
「カナタって、案外煩悩まみれよね」
「自覚してるよ」
思春期の男の子なんだ。仕方ないだろ。
「奏多。その、私は……」
「いいの!?」
「っ、急に食いつかないでください!ダメに決まってるでしょ!」
くっ!僕の純情を弄びやがって!
「……おーい。なにイチャついてんだ坊主。竜王様の御前だぞ」
理由はどうあれ、急に殺しにきたくせによく言えるな。
まあ軽く撃退できたけど。
「フッ」
「あん?なんだよ坊主」
「いえ、別に」
「なんか腹立つな……」
おっさんを軽く挑発してから竜王へと視線を戻す。
そうだ、まだ本当の用事を済ませていない。僕は力を借りるためにここまで来たんだ。それなりに礼儀は尽くさなければ。
「それで……だ」
だが、僕が本題に入る前に竜王が話し出した。
竜王が急にもじもじしている。なんか、緊張しているように見えるけど。
「……なんですか?」
「……ミカミ・マイ!」
「はい?」
名指しで呼ばれた舞はキョトンと首を傾げる。
「おっ、俺と、結婚してくれ!」
「……え?」
突然プロポーズされた舞は目を白黒させている。
っていうより、竜王以外の全員が事態を飲み込めていない。
だが竜王の表情は至って真面目なもので、玉座から立ち上がって舞の前へと一瞬で移動した。
そして跪く。
「一目惚れだ!俺はお前が好きなんだ!だから、俺と結婚してくれ!」
またプロポーズした。もしかしたらあの竜王様、意外と常識を知らないのかもしれない。
「……ファルグ。あなた何してるの?」
「見て分からないのか?プロポーズだ」
シャルルさんに、竜王がさも当然といった様子で答える。
てか、それは見たら分かるよ。そういうことじゃないだろ。
「えっと……」
舞は少し困ったように僕を見た。
僕を見ても何も解決しないと思うけど。
「お気持ちは嬉しいですが、すいません。お断りさせてもらいます」
「そ……そうか……。でも俺は諦めんぞ!」
「ファルグ。見苦しい」
「うぐっ」
舞を見ると、少し顔を赤くしていた。
プロポーズされたんだ。それも当然かもしれない。
「あの、本題に入ってもいいですか?」
「いいよ」
「おいシャルル。なんでお前が答える?」
「うるさい。勝手に暴走してプロポーズした今のファルグに威厳はない」
「ぐぬぬ」
立場的には竜王の方が上でも、力関係的にはシャルルさんの方が上なのかな。
エルフは長生きする種族らしいし、そこら辺が関係してるのかも。
とりあえず、話の腰を折られる前に本題に入ろう。




