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クラスごと召喚 〜自由気ままに異世界生活〜  作者: 剣玉
第四章 記憶ノカナタ
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第四十二話 記憶の彼方

 




 ◆





 叫んでも届かない。


 いつもそうだった。

 私の前にはいつも誰かがいて、私を守るために必死になっている。


 嬉しくないかどうかと聞かれたら嬉しい。私のためにそこまでしてくれるのだから。

 でも、そのせいで傷つく人を見るのは何よりも辛かった。


 叫んでも叫んでも届かない。


 目の前で大切な人が、じっくりと嬲られている。苦しみもがいている。


 涙が止まらなかった。嗚咽が止まらなかった。





 ―――それでも、足は動かなかった。





 私はただ、その悪夢のような光景に向かって叫ぶだけだった。泣き叫ぶだけだった。


 手を動かすことすら出来なかった。助けを呼ぶことすら思いつかなかった。


 本当に、本当にただ、感情のままに、恐怖のままに叫ぶだけだった。





 ―――己の無力を感じる暇さえなく、次の矛先が私に向いていた。





 ◇





 竜王国。


 なんだか厳つい名前だが、その実態は多民族国家だ。

 国を治めるのは竜王と呼ばれる国最強の竜人だが、国民は誰でも受け入れる。そして、国内での差別は絶対に許されない。


 唯一差別されるのが魔族だ。

 竜王国は国家として魔王軍と対立しており、頻繁に激突している。

 ゆえに、魔族そのものを敵と定めているのだ。


 そういった物騒な背景もあるが、しかし魔族でさえなければどんな種族でも平等に受け入れるのが竜王国であり、だからこそ国中が活気で溢れている。

 特に、現竜王は歴代最強の武人にして賢王だと言われているらしく、国民からの信望は厚い。


 そんな竜王国の唯一の入り口である大きな門の前に僕達は立っていた。


「……でっかいなぁ」


「だねー……」


 ガイウスとクリネアが門を見上げて驚いているが、それは僕達も同じことだった。


「まあ、私は見たことあるけどね」


 唯一驚いていないのはシャーラだ。彼女は驚いている僕達の隣で、なぜか勝ち誇って胸を張っている。


「奏多。ちゃんと招待状はありますね?」


「もちろん。これが無かったら竜王に会えないもんね」


 シャーラの父であるグレンさんは前竜王と親交があったらしく、その縁があって現竜王とも面識があるらしい。

 今回は僕達がスムーズに竜王と面会出来るように、わざわざ紹介状を用意してくれた。


 それにしても、


「本当に一緒に来ても良かったの?」


 僕はシャーラに尋ねる。

 シャーラも僕達の旅の仲間に加わった。最初はその予定はなかったのだけど、二年の修行を終えて竜王国へ出発するとなった時、突然同行すると言い出したのだ。


 あの時は大変だった。主にグレンさんのゴネ具合が。


「まだ言ってるの?私は強くなりたいのよ。最近はカナタに追いつかれたし、このままじゃ終われないでしょ?」


 とのことらしい。

 ちなみに、シャーラは僕のことを『バカナタ』と呼ばなくなった。

 初めてシャーラとの手合わせで勝ってからだ。

 いや、たまに呼ばれることはあるけどね。


 この二年で見た目が変わったのはガイウスだけだ。


 僕と悠と舞は勇者で、歳を取るのが遅い。

 その原因は分かっていないけど、勇者というのはそういうものらしい。


 シルフィ、シャーラ、そしてモグは長命な種族なので、見た目は変わらない。


 クリネアは力を取り戻さなければ元の姿にも戻れないらしい。


 ということで、寂しいことにガイウスだけが成長してしまった。

 出会った時はまだまだちびっ子だったのに、今では身長も僕とそう変わらない。


「早く行きましょう!」


 感傷に浸っていると、肩の上に座るシルフィが僕の頰をポコポコと殴りながらそう言った。

 例によって、全く痛くない。


「はいはい」


 二年の月日を経て、僕達は再び動き始めた。

 ダークエルフの里から竜王国までは大した距離はなく、道中これといったトラブルもなくここまで来れた。

 ダークエルフの里には本当にお世話になった。死ぬほどキツかったけど。


「すいませーん」


 門に立っている兵士らしき人に声をかける。僕達に気づいた門番はこちらへ寄ってきた。


「なんだ?」


「これ、お願いします」


 そう言ってグレンさんが書いてくれた紹介状を渡した。

 途端、門番の顔色が変わる。


「りゅ、竜王様のお客人でしたか。すぐに連絡して使いを出させますので、もうしばらくお待ち下さい」


「分かりました」


 竜王の使いが直接来てくれるらしい。


「クリネア。この先、なにがあっても能力は使わないでね」


「なんで?」


「もしクリネアの正体がバレた時、安全性が証明出来なかったら最悪敵対することになるかもしれない」


「そっか。分かった。その代わり、何かあったら守ってね?」


「もちろん」


 不安要素は二つある。


 一つはクリネアのこと。

 竜王国は魔王軍と対立しているから、魔族に対して容赦がない。

 もしもクリネアが魔族、しかも『時の魔将』だったとバレたら、間違いなく襲われるだろう。

 とりあえず今はフードを被らせてはいるけど、いつまで誤魔化せるかどうか。


 そして、もう一つは悠のことだ。

 悠の感情を取り戻す可能性があるとして、その力を貸してもらえるかどうか分からない。

 交渉は頑張るつもりだけど、こちらから提案できる交換条件がないから不安だ。


 しばらく待っていると、城下町の大通りを通って馬車がやってきた。

 その中から、一人の女性が降りてくる。


「お待たせ致しました。竜王様の元でメイド長をしております、プリムラと申します」


 優雅にお辞儀をするのは、ふわりとした茶髪の綺麗な人だった。

 メイド服を身につけ、フリル付きのカチューシャをつけている。

 やはり、メイドと聞くと胸を見てしまうが、残念なことにぺったんこだった。


「奏多?」


「……はい」


 もはや舞の声が怖い。


「……?では、行きましょう」


 プリムラさんに従って、僕達は馬車へ乗った。


 目指すは竜王がいる王城だ。





 ◇





 やはりと言うべきか、城内は煌びやかな装飾で溢れていた。

 過剰すぎるわけではないが、権力を示すためか少し威圧的な印象だ。


「こちらでございます」


 プリムラさんが先導となって、僕達は城内を歩く。

 既に竜王は王の間にいるらしく、僕達の到着を待っている状態みたいだ。


 プリムラさん曰く、現竜王もグレンさんに武術の手解きをしてもらったことがあるらしい。

 グレンさんが魔王軍とドンパチしていた時代は前竜王と戦友だったらしく、それもあって現竜王もグレンさんを慕っているとのことだ。


 グレンさんって凄いんだなぁ。シャーラが関わらなければ。


「この先にて、竜王様はお待ちです」


 プリムラさんが僕達に向かってお辞儀をした。

 その隣には、大きな赤い扉がそびえ立っている。


「案内、ありがとうございます」


 僕がお礼を言うと、プリムラさんは薄く微笑んだ。微笑むと更に美人だ。


 プリムラさんはその巨大な扉に手を向ける。すると、ゴゴゴと音を立てて両開きの扉が開いた。


「行こう」


 僕達は扉を抜けて王の間へと足を踏み入れる。中は大広間になっていた。

 入り口から玉座に向かっては赤いカーペットのようなものが敷かれており、その玉座には若い男の人が座っていた。


 そして――


「っ!」


 突如、とてつもない殺気が僕達を襲った。

 それだけで死を錯覚する、そんな質量をも伴うかのような殺気。

 それと同時に、玉座の傍らから四つの影が飛んできた。


 僕は即座にその場から跳びクリネアの前に移動する。既に、目の前には男がいた。

 その男の手には、一本の剣。右手に握りしめた剣を、躊躇なく振るうところだった。


 僕は男の剣を握る手を意識する。

 この場で相手を害するのはあまり良くない。なら、今すべきは迎撃ではなく無力化だ。


 軌跡を描く剣。それを振る右手。

 僕は一瞬でその間合いを詰め、男の右手の甲に手のひらを添えた。

 そして、剣が僕に到達する前に重心に力を込め、男の手の甲を地面へ向かって押した(・・・)。

 途端、男は体ごと地面へ伏す。

 反撃をさせないため、その男の首に『光の剣』の切っ先を向けて、僕は動きを止めた。


 背後に視線を動かす。

 僕の背後、つまりクリネアを襲おうとした他の三人も、舞、シルフィ、シャーラによって攻撃を防がれていた。


 ガイウスは少し悔しそうに唸っていた。

 あれ多分、乗り遅れたって感じの顔だ。


「……なんのつもりだ」


 僕が訊こうとしたことを、逆に問われてしまった。発したのは玉座に座る竜王だ。


「それ、こっちのセリフなんですけど」


 そう言い返して、僕は初めて竜王の顔をしっかりと見た。


 サラサラの金髪に、鋭い目つき。口にはびっしりと凶悪なギザギザの牙が、頭からは二本の赤い角が生えている。金色の目はギラギラと輝き、僕達を凝視していた。座っているから分かりにくいが、よく見れば尻尾も生えている。

 白と金の派手な服装だ。


 腹立つけど、めちゃくちゃイケメン。


「あ?こっちのセリフ、だと?」


「ええ」


「この竜王国に魔族を連れて来ておいて何言ってやがる。あ?」


「………」


 やべぇ、バレてた。


「……だがまあ、それ(・・)を守るために動いたのは褒めてやる。そいつらから守りきったこともな」


 竜王の言葉に、僕の前で伏した男を見やった。

 白髪混じりの茶髪に、少し鋭めの目。素肌には傷が目立っている。


 ……ん?


「あれ?覗きのおっさん?」


「……変なあだ名つけんじゃねぇ、坊主」


 男は、二年前に第五地区で一緒に覗き未遂をしたおっさんだった。


「……こんなところで何やってるんですか」


「俺のセリフだよ坊主。竜王様の前に魔族連れてきたら、そりゃ殺すしかねえだろ」


「なんだ?知り合いか?」


 僕とおっさんの会話に、竜王が眉をひそめる。


「いえ、違います」


「そうですよ。このおっさんはアルティアの第五地区で女湯を覗き見しようとしていました。最低な男です」


「なっ、てめぇ坊主!お前も一緒に覗こうとしただろうが!」


「……クズ」


「さ、最低です!」


「死ね」


 最初二つは襲ってきた残りの三人のうち二人の女性から、最後の直球な罵倒はシャーラだ。

 ガイウスとシルフィも冷めた目で僕を見ている。


「覗きとか死ねばいいのに。て言うか死になさい。私が殺してあげるわ」


 シャーラは本当に殺気を放ちながら剣を僕に向けた。

 やばい、これまじで殺される。


「待ってシャーラ。これは違うんだ」


「……なにが違うのよ」


「もう僕は舞にぶん殴られてる。罰は受けた。でも、このおっさんはしれっと逃げたんだ」


「……だから?」


「殺すならおっさんにして下さい」


「おい坊主!お前まじでふざけんな!」


「ドルシうるさい」


「ギャー!?」


 シャーラに攻撃を防がれていた女性がおっさん(ドルシという名前らしい)に向けてナイフを投げた。

 そのナイフはサクッと軽い音を立てておっさんに刺さる。


 ……これ、竜王と話し合いする前に女性陣に殺されるかも。







参考までに。


二年前時点での強さ序列(単騎の場合)


一位 シルフィ

二位 シャーラ

三位 舞

四位 奏多

五位 ガイウス

六位 クリネア(ただし力を取り戻した場合はダントツ一位)

番外 悠



ひとまず余震は落ち着いた感じですが、まだ何があるか分かりません。

備えは忘れないようにしておきましょう。

かくいう僕も水と非常食を確保しておきました。



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