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クラスごと召喚 〜自由気ままに異世界生活〜  作者: 剣玉
第三章 旅ハ道連レ世ハ情ケ
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第四十話 親バカばっか

 




 ◇





「シャーラは俺達の制止を振り切ってこの里を一人で出て行った。強くなるためになどと言ってな。あれは……百年ぐらい前か」


「百年!?」


 そんな長い間迷子になってたの!?


「まあ、そこらの魔物に負けることはないし、森なら食料も調達できる。大した苦労はなかったわね」


 なぜか胸を張っているがシャーラ。ここは威張るところじゃないからな?


「俺達ダークエルフは長命だ。最初の十年ぐらいはただ待っていた。だが、なにせシャーラは重度の方向音痴。不安になって俺は周辺の木々に道しるべを刻んでおいた」


 ああ、あのナビみたいな文面のやつか。確かにアレを辿ったらここまで来れたな。


「しかしここら一帯は『迷いの森』とも呼ばれるぐらい広く、深い。もはやシャーラは帰ってこないのかと思っていたぐらいだ」


「……そう言えば、シャーラを拾ってから随分移動したよね。って事は、それだけ見当違いの場所にいたってことか」


「うるさいバカナタ」


「バカナタ!?まさかそれ、馬鹿と奏多が合体したとかじゃないよね!?」


「よく分かってるじゃない」


 なんてこった!名前を呼ぶついでに罵倒されてしまった!


「しかも何がタチが悪いって、シャーラ本人がその方向音痴をあまり自覚してないのよ」


「なるほど。確かにそうかもしれませんね。ここに向かう途中なんか、里になにかあったんじゃないかって本気で心配していたぐらいですし」


 まるで、あたかも自分は悪くないみたいな感じで。


「うるさいわね。別に生きてたんだからいいでしょう?」


「なんで開き直ってるんだよ……」


 その自信はどこからくるんだ?


「とにかく礼を言う。君達がいなければ、もうシャーラとは二度と会えなかったかもしれないからな」


「いえ……僕達も、本当にたまたまでしたし」


 と言うより、半ば強制的に連れてこられた。


「話は終わったわね。じゃあバカナタ。表に出なさい。もう一度戦うわよ」


「え?嫌だよ」


「そんな選択肢ないわ。ほら、さっさとしなさい」


 シャーラは問答無用で僕の腕を引っ張る。凄い力だ。


「嫌だって!せめてもう少し休ませてくれよ!」


「もう十分休んだでしょう?」


「どこが!?」


「あらあら」


 ギャーギャーと言い合っていると、僕達を見ていたティータさんが微笑ましげに笑った。

 その隣に座るグレンさんは、なぜが僕を睨みつけている。


「ま、舞の方が僕よりも強いよ!」


「奏多!?」


「へぇ、そうなの。じゃあマイ、戦いましょう」


「なぜすぐにそうなるんですか!」


 ほんとだよ!脳筋ダークエルフめ!


「それに、私は今からこの里を巡回するんです!」


 舞も舞で訳の分からないことを言い出した。


「たくさんのダークエルフを眺めるんです!」


 ……うん?


「……もしかして舞って、ダークエルフが好きなの?」


「うっ。……ええ、そうです。私はダークエルフという存在に憧れさえ抱いていました。そのダークエルフが、この里にはたくさんいるのです!我慢できるでしょうか!否!出来るわけがありません!!」


 舞を拳を固めて言い切った。

 なにが彼女をそこまで熱くさせるのだろう。


 シャーラが舞を指差して無言で僕を見てくる。けど、僕に何かを訴えかけられてもどうしようもない。

 僕だって軽くひいてるぐらいだし。


「あら、そこまで言ってもらえるのは嬉しいわね」


「うむ。俺の腕の中へ飛び込んでくるか?」


 しかし満更でもないのか、ティータさんとグレンさんは嬉しそうだ。

 グレンさんなんて本当に両手を広げて待ち構えている。


「あなた?」


「じ、冗談だ……」


 グレンさんは撃沈した。


「マイさん。こちらにいらして」


「はいぃ」


 舞はティータさんの元に素早く移動した。その速さは、シャーラが目を見開くほど。


「ハァ、本物のダークエルフ……!シャーラには触らせてもらえなかったですが、ティータさんの肌もとても綺麗で……!ハァ、ハァ」


 ティータさんの全身を撫でて堪能する舞の姿は、オヤジそのものだった。

 どう見ても興奮した危ないオヤジだ。


「あん!もう舞さんったら……ん、そんなところ、人前で触ってはいけないわ……あっ」


 ティータさんはティータさんで、くすぐったそうに顔を少し赤く染めている。どこか息遣いも荒い。

 二人の背景にはバラが咲き乱れているようだった。


「いつまで見てるのよ」


「痛いっ!?」


 そんな二人を凝視していると、シャーラに目を突かれた。

 なんて攻撃するんだ。


「マイとはまた今度やるとして、バカナタ。今はあんたの番よ」


「だ、誰かー!」


 僕は助けを求めるが、誰も助けてくれない。

 ティータさんと戯れる舞に、二人に夢中なクリネア。そわそわしながらもチラチラとそっちを盗み見ているガイウス。そして僕に手を振るシルフィ。


 と、


「待ちたまえ」


 グレンさんがシャーラを制止した。


「なに?」


「シャーラ。カナタ君との距離が近いんじゃないか?お前は女で、カナタ君は男。もう少しそのことを気にしてだな」


「はいはい。行くわよ、バカナタ」


「む、父を無視するつもりか?」


「別にどうしようが私の勝手でしょ。私は強くなりたいの。邪魔しないで」


 結構キツいこと言うなぁ。


「……ふむ」


 グレンさんは何か考えている。シャーラはその隙に家を出ようとした。


「なら、俺が相手をしよう」


 だが、その前に立ち塞がるのはまたもグレンさん。

 グレンさんは少し過保護な父親なのかもしれない。


「カナタ君の力を俺が試してやる。果たして娘にふさわしい男なのかどうか」


 ……え?シャーラとじゃなくて僕とやるの?


「……いいわよ。バカナタ、やってやりなさい」


「待つんだシャーラ。それはおかしいだろう?俺はお前の父親だ。ここは俺の応援をするべきじゃないか?」


「………」


 シャーラがグレンさんを凄い鬱陶しそうな目で見る。が、グレンさんはそれに気付いていない。


「よし、そうとなれば決まりだ。カナタ君、この家の裏手にある森に入ろう。少し行けば拓けた場所がある」


 と、こんな感じで、よく分からないまま僕はグレンさんと対峙することになった。


 グレンさんの言った通り、森を進むと拓けた場所に出た。

 周りは木で囲まれているのに、その広場のようなスペースには一本も生えていない。不思議な場所だ。

 風がとても気持ち良い。


「さあ、構えたまえ」


 ……目の前に木剣を構えるおじさんがいなかったら、もっとこの雰囲気を楽しめたんだろうなぁ。


「……では、いきます」


『光の剣』を握り、グレンさんに向かって突撃した。





 ◇





「ハァ、ハァ、ハァ」


「はっはっは、まだまだだなぁ!」


 数分後、僕は地面に大の字で倒れていた。


 まるで勝負にならなかった。どれだけ全力をぶつけても、全く歯が立たない。


「これに懲りたら、金輪際娘には近づかないでもらおう!」


「はぁ……まあいいですけど」


「ほう?物分かりがいいな」


 元からそんなつもりじゃなかったし。

 ここまでして関わらないでいて欲しいんなら、僕もわざわざ近づかないよ。


「なに勝手に決めてんのよ。ほら、大丈夫?」


「ありがとう」


 シャーラが倒れる僕に手を差し出した。僕はそれを素直に握り返し、立ち上がる。


「あー!言ったそばから!」


「私ももう子供じゃないの。なんでも勝手に決めるのやめてくれない?」


「し、しかし、俺の子供であることは変わりないだろう!」


 今度はシャーラとグレンさんが言い合いを始めてしまった。


 それにしても、グレンさん強かったな。

 シャーラも強かったけど、グレンさんはもはや格が違った。勝てるイメージが湧かない。


「あ」


 二人を見ると、グレンさんが後ろから来たティータさんに頭を叩かれているところだった。


「あなた、いつまでシャーラを束縛するつもりですか」


「だ、だって……」


「だってじゃありません。シャーラももう立派な戦士なんです。あまり干渉するのは良くありませんよ」


「うぅ……」


 あ、グレンさんがちっさくなった。

 ティータさんには頭が上がらないみたいだ。


「ごめんなさいね、カナタさん。うちの旦那が迷惑かけて」


「いえ、僕も良い経験になったので」


「うふふ、優しい人で良かったわ。これからもシャーラをよろしくね?」


「……?はい」


「お母さんもなに言ってんのよ……」


 シャーラが呆れたようにやれやれとしているのが見えたが、ティータさんは気にしていないみたいだ。


 ティータさんは僕に近付いてきて、手を差し出してきた。

 そして握手を交わす。


「っ」


 メキメキ、バキバキ、と嫌な音と共に、激痛が僕の手を襲う。

 見れば、僕の差し出した手が雑巾のように握り潰されていた。


 慌ててティータさんを見るが、彼女は笑顔のままだ。まるで、能面のような張り付いた笑顔。


「……うちの子を泣かせたら、許さないから」


「ひっ」


 穏やかな景色、爽やかな風が吹き抜ける中、僕の手から鳴るボキボキという音が、やけに明瞭に響いた。





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