第三十六話 裏ある占い
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ある日、妖精族である少女は人間に攫われた。
妖精は例外なく全員が特殊な力を持っている。
ゆえに価値があり、高値で売れる。この少女も同じ理由で買われた。
そして転々と買主が変わり、ある商人に買われた時、少女は剣に封印されてしまったらしい。
妖精を剣に閉じ込めると霊剣となり、絶大な力を振るうことができる。
霊剣にされな少女には更に価値がつく。それこそが商人の狙いで、結果、ヘノム・ジョルジュという貴族に買われた。
しかし、少女は無理やり霊剣にされたのだ。快く力を貸すわけもなく、むしろ魔剣に堕ちそうになっていた。
そんな時に現れたのが、僕。ヘノム邸に置いてあった剣が、この少女が封印された剣だったのだ。
ということで、そんなつもりはなかったけれど、僕はこの少女の恩人らしい。
「……それで僕達は捕まったんですか」
どうやら、僕達が少女を剣に封印したんだと勘違いしたみたいだ。
「ほんと、早とちりしちゃって!あたしはカナタに助けられたのに!」
少女はユルドさんの頭をぺちぺちと叩く。全然痛くなさそうだ。
「本当に申し訳ない」
「だからもういいですって」
そう何回も謝られても。
「あたしはシルフィよ!よろしく!」
「え、ああ、よろしく」
差し出されたシルフィの手を掴もうとして、あまりのサイズの違いに触れておくだけにしておいた。普通に触ったら握り潰してしまいそうだ。
「剣の中であなた達の名前は聞こえてたから知っているわ!カナタ、マイ、ユウ、クリネア、ガイウスでしょ!」
「へー、妖精が剣に封印されてたのか。大将も凄えもん盗んできたな」
「結果オーライってことで」
もちろん、僕はあの剣にシルフィが閉じ込められているなんて知らなかった。
単に、武器を持っていなかったから拝借しただけだ。
改めてシルフィを見てみる。
サイズは僕の手のひらほどで、半透明の綺麗な羽が生えている。ティン◯ーベルみたいだ。
桃色の長髪を無造作に後ろへ流し、頭の頂点にはそれはそれは立派なアホ毛がそびえ立っている。こんなアホ毛は初めて見たけど、なかなか可愛い。
「なによ、ジロジロ見て」
「可愛らしいなーって」
「そう?よく分かってるじゃない」
ふふん、とシルフィは薄い胸を張る。
「それで、そちらの方は?」
僕はもう一人の厳ついおっさんに視線を向ける。
「わしはゴードン。鍛治師だ。さっきまでシルフィを剣から解放していた」
凄いな。鍛治師ってそんなことも出来るのか。
でも確かに見た目は鍛治師のイメージだ。筋骨隆々だし、立派な髭を生やしているし。
「結構厄介な封印だったが、なんとか解除できた」
「僕より全然功労者じゃないですか」
「いや、お前が連れて来なければ始まらなかった。ありがとう」
「シルフィは元からここに住んでいたんですか?」
「いや、違うみたいだ」
「……ねぇ、ちょっと」
ゴードンさんと話していると、シルフィが口を挟んできた。なにやら頰を膨らませている。
ちなみに、背後ではクリネアとガイウスが遊び始めていた。多分話し合いに飽きたんだと思う。
「なんであたしにはタメ語で、ゴードンには敬語なの?」
「そうは言われても、やっぱり歳上の方には敬語で話すでしょ」
「確かにゴードンはあなたより歳上だけど、あたしの方がゴードンより歳上よ?」
「……え?」
いやいやいや、そんなはずないよ。どう見てもゴードンさんの方が歳上でしょ。
「ああ、そこは妖精族の在り方が関係してくるんだが」
傍らにいたユルドさんが腕を組みながら口を開く。
「私達妖精族は歳をとらない。いわゆる、不老不死ってやつだ」
「不老不死……」
「そう、不老不死。更に言えば、子供というものは存在しない。妖精族は概念から生まれる。君達人間のように、性行為を必要としない」
概念から生まれる?よく分からない。
「シルフィは風から生まれた。ゴードンは鍛治から生まれた。私は大地から生まれた。概念そのものから生まれるのが私達だ。そして各々がその概念に関する能力を持っている」
「難しいですね」
でもなんとなくは理解した。確かに、妖精っぽい生まれ方ではあるし。
「要するに、妖精族に関しては見た目はなんの参考にもならないってことだな。生まれた時からその姿で、どれだけ時間が経っても姿形が変わることはない」
「……シルフィは今何歳なの?」
「千から先は数えてないわ」
「………」
そんなに生きているのか。
「シルフィ、さん」
「シルフィでいいわよ。ちょっと気になったから指摘してみただけ」
「そ、そう?良かった」
この見た目のシルフィに敬語は、逆に違和感が凄すぎる。助かった。
「ちなみにだが、妖精族には結婚という習慣がない。子供は生まれないし、ゆえに性欲なども全くないからな。妖精族同士が惹かれあったら、とりあえずは共に時間を過ごし、飽きたらまた別々に生きる。それの繰り返しだ」
「カルチャーショックって、こういうことを言うんだね」
「ですね」
人間との違いに驚くほかない。
「もちろん、殺されれば死ぬ。だがそれだけだ。寿命で死ぬことはない。妖精族の一生の終え方としては、殺されるか、自分の生まれた概念と一体となるか、だ」
「僕達とは本当に全然違いますね」
なんていうか、規模が違う。スケールが大き過ぎる。
「永遠に等しい時間を生きる私達だからこそ、同胞を何よりも大切にしている。重ねて礼を言わせてくれ。ありがとう」
こうしてその夜、僕達を歓迎した宴が開かれた。
◇
「もし、そこの勇者よ」
「………」
宴は大いに盛り上がっている。
最初は僕達も持ち上げられていたけど、途中からは妖精の皆さんが勝手にはしゃぎ出した。
もはやただのお祭りだ。楽しそうでなにより。
と考えながら、なんだかんだで興奮していた僕は少し熱を冷ますために、片手にコップを持って静かな端の方を歩いていた。
そんな時だ。声をかけられたのは。
「どうした?苦い顔をして」
「……あまり、勇者と呼ばれるのは好きじゃなくて」
声をかけてきたのは、黒いローブに身を包んだお婆さんだった。
椅子に座り、目の前の机に大きな水晶を置いている。占い師みたいだ。
「そうか、それはすまんかったの」
「いえ、別に。僕のわがままなんで。それで、なにか用ですか?」
「ああ、どうせだから一つ占ってやろうかと思っての。座ってくれないか?」
お婆さんが指を差すと、彼女の対面にあった椅子が勝手に動いた。
僕は大人しくその椅子に腰掛ける。
占いに興味はないけど、せっかくの厚意だし、異世界の占いなら当たりそうな気がしないこともない。
「ぬしは様々な運命を持っているな」
「……様々な運命?」
「本来、生物が持つ運命は一つ。じゃが、ぬしはいくつもの可能性を持っておる。運命を変える力を持っているのじゃ」
運命を変える力。響きはかっこいい。
でも、あまりしっくりはこないな。そんな大層なもの持っている自覚はないし、必要性もあまり感じない。
「それに、ぬしは近い将来、運命の出会いをすることになる」
ピクリと反応したのが自分でも分かった。
運命の出会い。ボーイミーツガールかガールミーツボーイか知らないけど、まあ、要するにそういうことだろう。
なるほど、僕にも運命の相手がいるのか。しかも、そのうち会える。
なんて喜ぶわけがない。
「それはつまり、僕はまだ運命の相手と出会ってないってことですよね?」
「じゃな」
「……そうですか。ありがとうございました」
僕は席を立つ。正直、不機嫌になっていた。
だってこれはつまり、僕の運命の相手は悠じゃないってことだろう?
「待て待て、落ち着くがいい」
「いえ、もういいです」
「……運命の出会いはあるが、その先どうなるかは分からん。全てはぬしの選択次第じゃ」
立ち去ろうとする僕に、お婆さんはそんなことを言った。それでも、もう足は止めない。
チラリと振り返ると、お婆さんの被っているフードから見覚えのある赤い髪が覗いていることに気がついた。
誰のかは思い出せない。
「まあいいや」
どこかで見たことがあるようなその赤い髪を、しかし無視して、僕は喧騒の中へ戻っていった。
◆
「はぁ、あいつ結構短気だなぁ」
奏多を占った老人は、その後ろ姿を眺める。
「あん時は散々私のことを弄ってくれたからな。ちょっとした仕返しだ。いやまあ、嘘はついてねぇからな?」
一人でブツブツと呟く老人の姿は、なかなかに不気味だ。
全身をすっぽり覆うローブを着ていることもあり、その雰囲気は尚更強調される。
が、その姿は徐々に変化していく。
すらりとした長身、真っ白な肌。足元にまで届くほど長い真っ赤な髪。そして、この世のものとは思えないほどの美貌。
完全に姿を変えた女は宴の賑わいとは逆方向に歩きながら呟いた。
「それにしても、十個目のスキルはまだ思い出せてないのか。先は長そうだなぁ」
ニヤリと、口に笑みを浮かべさせて。




