第三十三話 追放されたので旅に出ます
◇
「かくかくしかじかってことで、追放されました」
「……色々とツッコミたいですが、まずはちゃんと説明してください。かくかくしかじかってなんですか?」
あれ、これで通じないの?ファンタジーならこれで伝わると思ったんだけどな。
「えーっとね、だから――」
よく考えれば、舞はソルと第二地区のことを知らない。ちゃんと説明しなければいけないのは当たり前だ。
そして僕は説明を始めた。意味はないかもしれないけど、悠にも同席してもらって。
すぐそばでお菓子を食べながら聞き耳を立てているネビルとリエルが気になるけど、まあ、なんとか気にしないで話した。
「……なるほど」
「そんなわけで、僕はアルティアから出て行くよ。ソルにクリネアを待たせてるから、しばらくはクリネアと旅になるかな。
「……?私も一緒に行きますよ?」
「え、あれ?」
「当たり前でしょう?」
「いやいや、でも僕は……」
「私達は運命共同体ですよ。それに、奏多も悠様と離れるのは嫌でしょう?ですが、連れて行くのは不安。なら、私がいれば少しは心強いと思いますが?」
……確かにそうかもしれないけど。
「僕と一緒にいたら、反逆者の仲間として扱われるよ?」
「構いません。ね?悠様?」
「………」
悠も虚ろに頷いた。
「……でも」
「奏多は、私と悠様が同行するのは嫌なのですか?」
「そんなことはないよ。だけど、」
「私達も、あなたと一緒にいたいんですよ」
また、悠も頷く。
「……ありがとう」
感謝しかない。
僕は本当に嬉しかった。
◇
「旅!いいじゃない!楽しそう!」
悠と舞を連れてソルへ戻った僕は、早速事の経緯をクリネアに説明した。
反応はこの通り、同行が一瞬で決まった。
まあ、止めはしない。魔族であるクリネアは、アルティア領に滞在する方が余程危険だし。
だから今度はソルへの説明だ。
「カ、カナタ殿!どうじゃった?」
僕がソルへ戻った事を知ったジオラさんが、村の人達を連れて僕を訪ねてきた。
「大丈夫ですよ。もうアルティアはここにちょっかいは出しません」
「おお!」
ザワザワと驚きが広がり、少しずつ歓声が上がり始めた。
中には、涙を流しながら喜ぶ獣人もいる。それだけ苦しい日々だったのだろう。
「ありがとう。カナタ、本当にありがとう」
ルルさんが僕に抱きついてきた。
まあ、感謝しているんだろう。旦那さんも亡くなってしまい、一人で二人の子供を育ててきたんだ。こんな苦しい状況で。
うん、それは分かってる。
分かってるんだけど……こう、柔らかい胸が、当たって……
「痛い!」
後ろから舞に頭を叩かれた。反動でルルさんの頭に頭突きしそうになるのをなんとか耐える。
「なんだい?」
「い、いえ……なんでもないです」
舞は心を読めるのか?
「さいふのおにいちゃん、すきー!」
今度はナナちゃんが僕の足に飛びついた。体が軽いからか、反動はほとんどない。
「おい、大将!ナナに手ぇ出すんじゃねぇ!!」
またガイウス君が僕に指を指して怒鳴ってきた。けど、僕にはどうしようもない。
僕がナナちゃんに手を出したわけじゃないし、むしろナナちゃんが僕に抱きついてきたんだから。
だから僕に犯罪者を見るような目を向けるのはやめて欲しい。悠と舞、そしてクリネア。
いやまあ、ナナちゃんに好かれるのも嬉しいけどね?
「いやいや、私はいいよ。カナタにならナナをやれるさ」
「か、母ちゃん!?」
「カナタなら安心して任せられるだろ?」
「そういう問題じゃなくて!つか母ちゃんもいつまで大将にくっついてんだよ!!」
「いやぁ、カナタならいいかなーって。私も色々寂しいんだよ」
「俺は許さないからな!大将が父ちゃんになるなんて!」
「嫌かい?」
「嫌だよ!俺とそんなに歳変わらないじゃんか!」
「ちぇ、ちっさい男だねぇ。そんなんじゃアンちゃんに逃げられちまうよ?」
「母ちゃん!」
「………」
なんか勝手に話が進んでるけど、僕の意思は無視かな?
とりあえず、僕はまだ何も言ってない。
だから僕に蔑んだ目を向けるのはやめて欲しい。悠と舞、そしてクリネア。
確かにルルさんは綺麗だけど、未亡人に手を出す趣味はない。
「どうだい?カナタ」
どうだいってなんだ。本当に誘ってるのか?
「残念ですが、僕達はアルティアを出ようと思っています」
「っ、カナタ殿!それはもしや、今回の件が原因で!?」
「………」
流石村長、勘が鋭い。
「違いますよ。単に、せっかくだから世界中を旅してみたいと思っただけです」
「そ、そうか、それは良かった」
わざわざ本当のことを言う必要はない。
僕だって、長い間社会で『普通』に擬態して生きてきた。罪悪感を覚えるポイントぐらいはだいたい分かる。
「カナタ殿は儂らの恩人じゃ。旅に必要なものは出来る限り用意するから遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます」
翌日の朝、僕達は村を出た。
水や食料に野営道具などを大量に貰い、更には土竜まで譲ってもらった。
別れを惜しむナナちゃんには、再会を約束して納得してもらった。どんな危険があるかも分からず、そもそも目的がないこの旅にナナちゃんを連れて行くわけにはいかない。
僕はアルティアを追放された身。もうここには戻れない。
ナナちゃんとは守ることのできない約束をしてしまったけど、まあ、成長する過程で僕のことは忘れていくだろう。
こうして僕達は、大勢の獣人に見送られてソルから出発した。
◇
「もう知ってることだろうけど、魔王軍には八人の魔将がいるわ」
旅へ出る前日の夜、僕は悠と舞と共に、クリネアの話を聞いていた。
クリネアの正体の話だ。
「それぞれ司ってるものがあるんだっけ」
「そう。闇、血、力、鉄、死、炎、夢、時。力の魔将シーファと死の魔将ヴィラネドゥはもう知ってるわよね」
シーファ。
その名前を聞いただけであの戦いを思い出してしまう。もしかしたら僕は、あれがトラウマになってしまったのかもしれない。
「一応、全員の名前を挙げておくわ。いつ、どこで会うかも分からないし。
闇の魔将ノグラス
血の魔将トランドリグス
力の魔将シーファ
鉄の魔将グラントルファ
死の魔将ヴィラネドゥ
炎の魔将フラスゴー
夢の魔将メリトリス
……そして――時の魔将クリネア」
「………」
まあ、そうなんだろうな。
ある程度は予想出来ていたから、そこまでの動揺はない。それでも、実際に聞くと多少の驚きはあるが。
「……その様子だと、予想通りって感じかな?」
「まあ、ある程度はね」
「でもそれなら、クリネアはなぜ私達と?立場的には敵対するはずですが」
そう、そこがおかしいんだ。
クリネアが魔王軍にとって重要な存在だということは予想できた。ただ、それだと僕達といる理由が分からない。
しかもクリネアは、最初から僕達に好意的だった。
「……アタシは時の魔将だって言ったでしょ?文字通り、時間を操ることが出来るの。限界もあるにはあるけど、それでも大抵のことは出来る。だから、魔将の中でも実力は上位の方だったわ」
だった、か。
確かに、時間を操るなんてチートみたいなことが出来るんなら、ほぼ無敵だろうし。
でも、それなら今はなんで違うんだろう。
「初めて会った時、アタシ、最初からカナタ達のこと知ってたでしょ?」
「うん」
「アタシはね、以前、カナタ達に会ったことがあるの。……アタシだけね」
「それは……隠れて見てた、ということですか?」
「違う違う。そんな変態みたいなことしないわよ。……この世界はね、一度滅んだわ」
「……は?」
何を言ってるんだ?
「アタシはこの先の未来でカナタ達と出会って、色々あって仲間になって、そして……戦いに負けた。ユウとマイは死んで、アタシとカナタも瀕死。しかも、なぜか世界は滅びかけていた。だからアタシは力を出し尽くして時間を巻き戻した。カナタ達が召喚された頃に」
「なん……だ、それ」
「その時にアタシは力の大半を失って、今じゃもう絞りカスみたいな力しか残ってない。それでも協力したかったから、なによりまた会いたかったから、すぐに探し始めた。そして出会えた」
「いわゆる平行世界ってやつ?」
「ううん、少し違う。私は時間を巻き戻しただけ。だから世界そのものは変わってないわ」
……難しい話だ。
分かるような、分からないような。
「ならクリネアは、なぜ魔王軍に歯向かってまで私達に再び接触を?」
舞がそんな質問をぶつけた。
確かに、それも不思議だ。こうやって考えてみると、僕はクリネアのことを何も知らなかったな。
「……アタシは助けられたのよ。あなた達に。だからアタシは一緒にいたい。それだけよ」
クリネアは気恥ずかしいのか、少し頰を染めて顔を背けた。
「今はこんなだけど、見てなさいよね。アタシが力を取り戻したら、シーファにだって負けないぐらい強いんだから」
「……ほんと?」
「本当よ!それに本来は背ももっと高いし、胸だってバインバインなんだから!」
「バインバイン……」
いかんいかん、ニヤけるな僕。
「それで、力を取り戻す目処は立っているのですか?」
「………」
舞の問いにクリネアは無言で答える。どうやらないらしい。
どこまでが本当でどこまでが嘘か分からないし、正直時間を巻き戻すとか言われてもピンとこないけど、クリネアが信用出来る相手だということはこの数日で分かった。
だから、信じようと思う。わざわざ僕達を探してくれた彼女のためにも。
「これからもよろしくね。クリネア」
「うん!」
こうしてクリネアの正体を知った僕達は、目的のない旅に出た。
これにて二章完結です!
あと一話番外編を投稿したら三章に移ります!
次話投稿は明日!




