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クラスごと召喚 〜自由気ままに異世界生活〜  作者: 剣玉
第二章 灰色ノ世界ニ生キタ少年
33/78

第二十九話 視線って結構分かりやすい

 




 ◇





「『スキル解除(キャンセル)』」


 範囲を指定し、発動中(・・・)のスキルを解除するスキル。

 自分のスキルは解除しないように、花崎香織の周囲を指定して発動する。

 どんなスキルか知らなくても、解除してしまえば関係ない。


 と、思いました。


「ひゃぁっ!?」


 花崎香織が間抜けな声を出す。それと同時に、彼女の姿は僕の視界から消えた。

 空中に立つことが出来なくなり、墜落したのだ。


 それで決着がつけば良かったのだが、彼女はジョルジュ邸の屋根へと着地した。どれがスキルだったのかを確認するためにも、僕もそれを追いかけて屋根に降り立つ。


 変化は一目見て分かった。


 まずは大剣。あの白い大剣が跡形もなく消えていた。あれもスキルによって作られていたんだろう。

 そしてどうやら、着ていた装備もスキルによるものだったらしい。

 それまで消えている。


 つまり、彼女は今僕の目の前で、武器も持たず、何も着ていない状態で立っていた。


 花崎香織は一瞬遅れてそれに気付いた。そして、慌てて手で前を隠す。


 しかし、遅かった。もう僕は、全部見てしまった。


「えっち!こんなスキル持ってるなんて!」


 全裸の花崎香織は少し涙目になって訴えてくる。


「ぃ、いやぁ……まさかこうなるとは」


 さっきまで本気の戦いをしていたと考えると、今の状況は物凄く気まずい。

 なにせ、その戦っていた相手の裸を見てしまったのだから。しかも、そんなつもりなく発動した僕のスキルで。


 気まずい。凄く気まずい。


 凄いと言えば、彼女の裸も凄い。うまく言えないけど、とにかく凄い。


「いやらしい目になってる!いやらしい目になってるよ氷室君!」


「な、なってない!」


 頭をブンブンと振る。


「それはともかく。まだやります?見た感じ、もう無理だと思いますけど」


 花崎香織は顔を真っ赤にしていて、既に戦意は感じられない。


「……殺さないの?」


「そう聞かれても、今の状況に拍子抜けしたと言うか、やる気を削がれたと言うか……」


 昔、僕が不良と喧嘩してたら、相手の懐から美少女フィギュアが出てきた時みたいな気持ちだ。

 ああいや、何考えてるんだ僕は。ちょっと動揺しているのかもしれない。


「釈然としないけど……私の負け、だね」


「あのクズ野郎は連れて行きますよ?」


「お好きにどうぞ。私は別にヘノムさんを守るつもりないし。さっきも言ったけど、君に興味があったから来ただけだよ」


 ……よく分からないけど、まあいいや。


 とりあえず、上着を脱いで花崎香織に投げ渡しておいた。

 敵とは言え、女性を裸のままにするのは男として最悪な気がする。


「……ありがとう」


「じゃあ僕は行きますけど……あー、その……次からは、下着ぐらいは履いておいた方がいいですよ?」


「分かってるわよ!」


 さて、目的を果たさなければ。





 ◇





 再び大講堂へ戻った僕を待ち構えていたのは、クラスメイトと大勢の兵士だった。

 花崎香織に思ったより時間を取られていたみたいだ。

 街中の騒ぎも少しずつ落ち着いてきており、あまり時間はない。


 ただ、勇者と兵士がここにこれだけいるのならソルのみんなは無事だろう。相手の戦力をここに釘付けにすればするほど、他は疎かになる。


「貴様は既に包囲されている!大人しく投降しろ!」


 兵隊長らしき男が僕に投降を促してきた。もちろん、大人しく捕まるつもりはない。


「……めんどくさいな」


 この数を相手にするのは厄介だ。

 誰も殺さないのは無理だな、これは。


「おい、氷室。てめぇ、あの一期の勇者に勝ったのか?」


「うん?ああ……まぁ、一応」


 郷田に答えると、兵士が騒めきだした。初代の勇者に勝ったなんて聞いたら、そりゃ驚くか。

 本当は間抜けな決着だったけど。


「幸い被害はそこまで大きくない。今すぐ縄につけば、そう悪くはしない。俺が責任を持ってやるから、もう馬鹿なことはやめろ」


 亮介先輩が剣を手に持って警戒したまま、それでも僕を気遣って声をかけてくれる。

 本当に後輩想いの優しい人だ。


 でも、それとこれとは別だ。

 僕は僕のためにも、ソルを見捨てる訳にはいかない。


 僕と同じように誰かを守れなくて苦しんでいる人を見捨ててしまったら、僕は今までの自分を否定してしまうことになる。


 それは嫌だ。


 それだけは嫌だ。





 ―――もう二度と、自分を否定したくない。





「気持ちは嬉しいですけど、投降するつもりはありません。なんで……そこ、どいてくれません?」


 この数相手に手加減なんて出来ない。どうにか本気の一撃を叩き込んでこの包囲網を抜け出す。


「『閃光弾《スタングレネード》』!」


 両手を合わせて、瞬間的に光を爆発させた。


 まずは目潰しだ。火力の高い攻撃を繰り出すには、とりあえず隙を作らないといけない。

 でも、そんなに簡単じゃなかった。


「奏多ァァァァ!!」


「っ、英明っ!」


『閃光弾』をどう回避したのか、目を抑える人達を乗り越えて英明が飛び出してきた。


「ぶっ潰れやがれぇ!!」


 僕のより二倍はありそうな拳を本気で殴りつけてきた。

 咄嗟に『身体能力強化』を使い、片手で受け止める。


「ぐっ、ぅう!」


 それでもかなりの衝撃が伝わってきた。

 衝撃は体を通って足へと伝わり、床に分散される。床は衝撃に耐え切れずひび割れ、僕の片足が床下へと抜けた。


「そんなもんかよ!」


 片足が床に固定された僕は自由に動けない。そんな僕の頰を、英明は思い切り蹴り飛ばした。


「ぶっ!?」


 痛い。痛いけど……シーファの時ほどじゃない。


 振り切った英明の足を掴む。そして、思い切り握り潰した。


「づぁ!!」


「邪魔をするなぁ!!」


 バゴンと音を立てて足を引き抜き、体を思い切り捻って英明を放り投げる。

 英明の襲撃からここまで、約十秒。そろそろ他の人達も復活してしまう。


「『軌道演算』」


 背後からそんな呟きが聞こえた。それと同時に寒気が走る。

 僕はすぐに予知を発動する。


「『飛翔』、『伸斬』」


 イナ○ウアー並みに体を倒す。そのギリギリのところを、ヒャンと音を立てて何かが飛んだ。


「今の躱すか。只者じゃねぇわお前」


「ありがとうございます」


 斬撃を飛ばしてきたのは亮介先輩だった。やはり、そういう系統のスキルを持っているんだろう。


「『軌道演算』」


 先輩の目が少し輝いた気がした。


 僕は体を床と平行になるぐらい低く倒す。斬撃を飛ばすスキルなら、出来るだけ的を小さくするべきだ。


「『追翔』、『伸斬』」


 両手両腕で床を押し出し、トップギアの速度でその場を飛び退いた。これで綺麗に避けれるはず。

 以前、仁和寺さんと戦った時、彼女も風を操って同じような攻撃をしてきた。それを躱し続けた僕だから、これで大丈夫だと確信した。


 そんな簡単な話ではなかった。


「なっ!?」


 躱したはずだった。タイミングも、スピードも問題なかったはず。


 なのに、斬撃は僕についてきていた。


「ぐっ、あぁっ!!」


 追ってきた斬撃は僕の背中を切り刻む。めちゃくちゃ痛い。死ぬかと思った。

 やっぱり経験の差はでかいな。


「そ、それ……借りますね」


「は?」


「『光の剣(フォトンソード)』、『軌道演算』」


「っ!?」


 目を見開く先輩の周囲に、無数の数字と白い線が浮かび上がる。

 ここから軌道を選ぶのか。


「『追翔』、『伸斬』」


「あっ、がっ!?」


 僕が放った(・・・・・)斬撃が、先輩の胸を袈裟懸けに切った。

 これ、便利だな。


 ただ……今、先輩の動きが一瞬鈍くなった気がする。


「お、前……」


「止まる訳にはいかないん、でっ!」


「ぐっ!!?」


 背後から迫ってきていた郷田を蹴り飛ばす。郷田は呻きながら弾きとんだ。


「奏多っ!お前は自分が何をしているのか分かってるのか!?」


 快斗が輝く剣を握ったまま僕を睨みつけていた。見れば、他のみんなも目眩しから回復している。


「……黙れ。問答はもういいんだよ。お前らにはもう、何も期待しない」


「奏多……」


「奏多君……」


「玲、栞。僕の邪魔をするんなら……お前らにも容赦しない」


 仲が良いとか関係ない。優先順位の問題だ。

 友情は大切だ。玲と栞のことは大切な友人だと思っている。


 それでもここは譲れない。

 他者の大切な人を理不尽に奪う奴を庇うなら、僕の敵だ。


「俺、は……」


「『屈折光』、『分身』」


 玲の答えを待たず、光を屈折させて僕の分身を生み出す。月明かりがあるとはいえそれは弱いもので、光が少なければ生み出せる分身の数もあまり多くない。

 しかも、分身は僕の姿を映したもの。僕を起点に全ての分身は同じ動きをするから、ほんの子供騙しにしかならない。


 それでも、多少の隙は作り出せる。


「『光の旋風(シャインウィンド)』」


 大講堂の入り口に向けて、渦巻く光の旋風を放つ。


 これは敵を倒すための技ではなく、逃げるための技。周囲の敵を吹き飛ばし、包囲網に穴を空けるための技だ。


「見えた」


『光の旋風』によって、入り口までの道が拓けた。僕は脚力を爆発的に上げ、更に『増幅』させて上昇させると床を蹴る。


「っ、と」


 たったの一歩で、扉へと辿り着いてしまった。あまりの速度にこけそうになったのを、なんとか踏み止まる。


 背後を振り返ると、僕に気付いた何人かが捕まえようと追いかけてくるところだった。中には、クラスメイトの姿もある。


「『軌道演算』」


『模倣』によってコピーしたスキルは、五分で使えなくなる。逆に言えば、五分は使い放題。


「『飛翔』、『伸斬』」


『光の剣』を振り、斬撃を追手の足元に飛ばした。斬撃は床に当たり、轟音と共に床を破壊する。


「―――!」


 誰かが何かを叫んでいるけど関係ない。舞い上がった木片や埃で追手の姿は見えず、つまり向こうからも僕の姿は見えない。


「行くか」


『気配察知』でヘノムの気配を探しながら、僕はその場をあとにした。







※注・『スキル解除』はスッポンポン魔法じゃありません。あくまでスキルを解除するためのスキルです。今回は運が良かっただけです。



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