第二十八話 初代の勇者
あと六話ぐらいでこの章は終わるので、頑張って毎日投稿する予定(←ここ重要)です。
◇
効果は薄いかもしれないけど、一応仮面をつけておいた。もしかしたら、僕だとバレずに済むかもしれないから。
第二地区に侵入して、屋根伝いにヘノム・ジョルジュの城へと向かう。
ガイウス君達は既に街中に散らばり、各地で混乱を引き起こしている。そして、この地の兵達もその対処に動き回っていた。
城が近くなると、僕はもう一度『光の奔流』を放つ。少しでも恐怖を与えるため、さっき壊したのとは違う部分の壁を破壊した。
そして、壁の穴に降り立った。
そこはちょうど、大講堂のような部屋だった。広い部屋に、でかい机が置かれている。
更にそこには、見覚えのある面々が揃っていた。
玲達、魔王討伐隊のメンバーだ。
失敗した。
事前に『気配察知』を使っておくべきだった。
とりあえず、まだ僕とはバレていないはず。
「どうも、誘拐犯です」
ひとまずそう言っておいた。誘拐犯と聞けば、まさか僕とは思わないだろう。
「……奏多なのか?」
あれ?
「その声、奏多じゃないか?」
「確かに、奏多君っぽい!」
玲に栞が同意する。その言葉を受けて、他のメンバーの視線も少し和らいだ気がした。
「おい奏多。何してるんだよ」
仕方ない。ここは必殺のミックスボイスだ。
「お、俺は奏多とかいう奴じゃない。誘拐犯だ」
おっと、これじゃあただの裏声だ。ミックスボイス使えないの忘れてた。
「は?なんだそれ。誘拐犯って名前なのか?」
次に声をかけてきたのは郷田だ。
そんなわけないのに、馬鹿だなぁ。でも今はそういう事にしておこう。
「そうだ。僕……俺は誘拐犯だ」
「え?なに?誘拐犯が名前なの?それとも誘拐しに来た人なの?」
し、栞さん。あまり追及しないでください。
「ていうか奏多。その仮面ダサいぞ?」
玲には完全にバレてるっぽい。
てかダサいとか言うなよ。
「なぁ?あの仮面ダサくね?」
「ダサいな」
「格好悪い」
「悪趣味」
「センスを感じない」
口々に罵られる。ここまで言われるとは思わなかった。
「うるさいよ!」
我慢出来なくなった僕は、仮面を引き剥がしてぺいっと地面に叩きつけた。乾いた音が虚しく響く。
「あ、やっぱり奏多だ」
「はぁ……そんなにダサかったかなぁ……」
少し気に入っていた仮面に、名残惜しさを感じる。つい捨ててしまったが、やっぱりつけておけば良かった。
「で、奏多は何しに来たんだ?討伐隊に加わりに来たのか?」
快斗の言葉に、僕は本来の目的を思い出した。そして気持ちを入れ替えて集中する。
「違うよ。言っただろ?誘拐犯だって。拉致しに来たんだ」
「誰を?」
「ヘノム・ジョルジュ」
そう答えた瞬間、チャリンと音が聞こえた。それと同時に何かが空気を切り裂いて僕に迫る。
僕は『未来予知』と『気配察知』を駆使し、それを躱した。それは僕の背後の壁に直撃し、横一文字の傷を作る。
「先輩!」
叫んだのは玲。僕に攻撃をしたのは亮介先輩だった。先輩は刀を振り抜いた姿で残心している。
「……斬撃を飛ばしたんですか」
「ああ」
「かっこいいスキルですね」
「だろ?」
そう言って、先輩は僕の懐に飛び込んでくる。僕は先輩の振るった一太刀を『光の剣』で受け止め、大講堂の中に入り込み距離をとった。
「へぇ、なかなかやるなぁ」
「それはどうも」
僕から言わせれば、先輩は隙だらけだけど。
攻撃に関しても、構えに関しても、気迫に関しても、シーファと戦った僕からすれば、彼のそれは甘過ぎる。
まあだからと言って、楽勝ってわけではないんだけど。
「第二地区に侵入した賊ってのはお前か?」
「ええ、そうですよ」
「俺達がいるのは?」
「予想はしていました」
「ははっ、随分舐めてくれてんなぁ」
「いえいえ、そんな事はないですよ。……ただ、怒りが勝っただけで」
「っ!」
怒気を殺気に混ぜて放つ。
「出来たら知り合いとは戦いたくないし、殺したくない。ここは大人しく退いてもらえませんか?」
「……俺に勝てると?」
「分かりませんけど、可能性はあるかなーって」
少しずつ、殺すための準備をする。
深く深く、体の奥底から殺意を粟立たせ、それを見に纏うイメージをする。
それだけで、僕が本気だということは分かってもらえるだろう。
「お……おい、奏多!お前なんのつもりだ!なんでヘノムさんを拉致するとか言ってんだよ!?」
「玲。君達は君達の信念に従って行動しているんだろう?僕も一緒だ。僕は僕の信念に従って動いてる。わざわざ説明するつもりはない」
「……街の侵入者は獣人だね。前の反乱の時と同じだ」
榎田千智の言葉に、空気が更に緊張感を増した。
そんな事より、なんで分かったんだろう。スキルか?
「お前……この国に叛旗を翻すのか?」
「いや、別にそんな事は考えてない。狙ってるのはあくまでヘノムただ一人さ」
「なんでヘノムさんを……!」
「なんでって……何も知らないんだね。まあ、良いところだけを見せられてるのかもしれないけど……事情を知らない、知ろうともせずにソルの獣人と戦ったのか」
そう考えると、目の前のクラスメイト達にもムカついてくる。
大切な人を取り返そうとしたみんなを邪魔したんだから。
「本気みたいだな。奏多」
「……英明か」
巨体の英明が、亮介先輩の横に並ぶ。その顔には笑みが浮かんでいた。
「俺はいつかお前と戦いたいってずっと思ってたんだ。まさか異世界でそれが叶うとは思わなかったが、相手してくれるよなぁ?」
「相手するも何も、退いてくれないなら全員僕の敵だ」
僕の背後に、無数の『光の剣』が浮かび上がる。『千刃』だ。
誰かが息を飲む音が聞こえた。
「おいおい……なんだこれ」
「敵に教える必要はない。最後に聞くけど……本当に退いてくれないのかい?」
誰も動かない。
僕に攻撃しようとはしないけど、逃げようともしなかった。
「……そっか」
別に殺しはしない。そこまでする必要はないから。
ただ、しばらく動けない程度の怪我をしてくれたらいい。僕がヘノムを連れ去る時間さえ作れたらいい。
そう考えて、背後に浮かび上がらせた『光の剣』を動かそうと手を差し出し―――
一番近くにあった『光の剣』を掴み、突き出された白銀の刃をギリギリで受け止めた。
「ごめんねー。それ、ちょーっと待ってもらっていい?」
「……誰?」
僕達の間に割り込んできたのは一人の女だった。
長く、艶やかな黒髪。少し鋭いが、柔らかい目元。天使を思わせる、芸術品めいた完璧なスタイル。
そして、ドレスのような白い服装に、胸当てと腰当てだけを付けた軽い装備。
凄い美人だ。
「第一期の勇者、花崎香織です。知ってる?」
「知らないですよ」
知ってるわけないだろ。
それにしても、第一期の勇者か。四十年程前に召喚された先輩で、初代の勇者だ。
経験の差も大きいに違いない。
年齢の差はそこまでないように見えるけど、この世界での勇者は歳を取るのが遅い。だいたい十年で一歳とかなんとか。
つまりこの美人なお姉さんも、実年齢はおばあさんだ。
「なんで邪魔するんです?」
「何でだと思う?」
「勇者だから?」
「ブッブー」
何がブッブーだ。可愛くないんだよ。
……いや、可愛いけど。
花崎香織はその背丈程ある大剣を細い腕で掴み、片手で軽々と持ち上げた。
「私は君に用があるんだよ。氷室奏多君」
「っ!」
そして、姿が消えた。
即座に『気配察知』を使い、背後に回り込んでいた花崎香織の一撃をなんとか受け止める。
だが、受け止めれたのは刃だけで、その細い体躯からは考えられないパワーによって僕の体は弾き飛ばされた。
「っ、つ」
僕の体は大講堂の壁に直撃し、そのまま壁を砕いて外に放り出される。
背中がめちゃくちゃ痛い。
「……うわぁ」
『光の回廊』で足場を作り、空中で体勢を整えた僕の視界に、夥しい量の武器が映った。
そりゃ、変な声も出るよ。
それらは僕が飛び出してきた穴から、物凄い速度で僕に向かって飛んできている。
「『光の波動!』」
手を突き出して叫ぶ。
それと同時に薄い光の波紋が走り、向かってくる武器を粉々に砕いた。
「『光の弓矢!』」
城から飛び出してきた花崎香織に対し、十本の光の矢を放つ。
だが、空中にも関わらず花崎香織は自在に動き、その全てを躱した。そういうスキルを持っているのだろう。
「そんな睨まなくてもいいんじゃない?」
「………」
「無視しないでよ」
「僕に用があるって言いましたが、どういう意味です?」
「そのまんまだよ。私達は君に興味がある」
「……達?」
「うん。まあそこはいいから、早く殺ろっか」
また姿が消えた。
背後に現れた花崎香織が振り下ろした大剣をなんとか受け止めようとして、そして、気付けば横から刃が頰に触れていた。
「っ!?」
なんとか体を後ろに逸らしてそれを躱す。
移動速度も速いが、剣さばきが早すぎる。大剣とは思えない程の速度だ。
「っ、くそ!」
速さについていけないため、『未来予知』を発動する。
薄っすらと影のようなものが動き、そこに重なるように花崎香織は動く。そうやって一秒先の未来を視てでも、なんとか攻撃を捌くのが限界だった。
隙を見つけて攻撃しても軽くいなされ、そのまま距離を取らずに反撃される。
そんな猛攻を仕掛けながらも、花崎香織は余裕の笑みを浮かべている。
「光を操るスキルって聞いてたけど、他にも色々持ってるんだねぇ」
「………」
「目が赤く光ってから動きがワンテンポ速くなったから、予測とか予知の類かな?」
……もうバレた。
「さて、私のスキルはなんでしょう?」
「……教えてくれたりします?」
「教えないよ」
「ですよね」
別にいいし。僕にだって奥の手がある。
僕はそっと手を前に出した。
「続き、やる?」
「ええ、やりましょう……『スキル解除』」
そう呟いた。
スキルが分からなければ、とりあえず解除したらいいじゃない。




