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クラスごと召喚 〜自由気ままに異世界生活〜  作者: 剣玉
第二章 灰色ノ世界ニ生キタ少年
27/78

第二十三話 圧倒的な力

 




 ◇





 灰色の世界だった。


 目に映る物は全て色褪せ、何も感じさせない。水と血を見分けられず、肉が焼けているかどうかも食べてみないと分からない。


 白と黒だけで、世界は形成されていた。


 いつからだったか―――は、考えるまでもない。


 僕の世界が壊れた日。


 父と母(僕を守る人)を殺した犯人を僕が殺した日。


 あの日から、世界は色を失った。


 僕はただ、死ぬために生きた。


 形ある物全てがそうであるように、いつか訪れる終わりを待ちながら、ただ生きた。


 自分で死ぬ勇気もなく、ただ、屍のように生きた。


 何も感じない、感じれない、自分の犯した罪が、いつか白日の下に晒されることに怯えて、生き続けた。


 彼女と出会ったのは、そんな時だった。


 先に結果を言ってしまえば、彼女は僕の世界に色を取り戻してくれた。

 彼女との出会いが、独りだった僕を変えた。


 だから、その日から、僕は死ぬためではなく、彼女のために生きることにした。


 世界が色を取り戻しても、彼女の髪は変わらず白いままだった。


 初めて、白を綺麗だと思った。





 ―――初めて、世界が美しく見えた。





 ◆





「おい、お前らの名前は?」


「名前?」


「そうだよ、名前だ。オレは魔王軍の幹部で、お前らは勇者。名乗りってのは必要だろ?」


「はぁ……僕は氷室奏多」


「……私は三上舞です」


「カナタにマイか。……じゃあ、いくぜ?」


 シーファはそう言い、一歩を踏み出した。その一歩で、奏多の懐まで潜り込む。

 奏多は咄嗟に『光の剣』を作り出すが、シーファに腕ごと振り払われて飛んでいく。


「くっ……そ!」


「ほらほら!」


「ぐっ!」


 顎をかち上げられ脳が揺れた奏多は、力なくその場に崩れ落ちる。そこに追い打ちをかけるシーファの前に、するりと舞が割り込んだ。


「女に庇われるなんざ、情けねぇ男だなぁ!」


「まぁ、私の方が強いので」


 舞は淡々と答えると、豪腕を以って放たれた拳を躱して手を添える。


「お?おおっ!?」


 そのまま、シーファの力を利用して地面へと叩きつけてしまった。


「かっ!?」


 三上舞は間宮悠の護衛を自称している。

 自称、というのは、彼女が自分でその立ち位置を定めたからだ。誰かに命じられた訳でもなく、ただ、自分がそうありたいと決めたからだ。


 それは口だけではなく、実際に行動に移した。護衛と言うからには、まずは強くならなければならないと考えた彼女は、武術を習い始めた。


 空手、柔道、合気道、剣道、弓道などなど。


 その全てを達人レベルまで極めた彼女は、齢(よわい)十七にして敵なしとなった。

 幾度か奏多とも手合わせをした事があるが、結果は全戦全勝。度々奏多が舞に怯えるようになった要因の一つでもある。


 そして今、異世界に来たことにより、勇者となった彼女は全てのポテンシャルが上がっている。

 この世界でも奏多と模擬戦をしているが、『身体能力強化』を使用した彼でも尚、舞には敵わなかった。


「へぇ、おもしれぇな。今の、オレの力を利用したのか?」


「ええ」


 すぐに立ち上がって態勢を戻したシーファは、興味深そうに尋ねた。

 それに、舞は汗を流しながら答える。想像以上の威力に、恐怖を感じたからだ。


「っと」


 なんの前触れも無く、シーファがその場を飛び退いた。と同時に、上から『光の剣』が落ちてくる。

 それは、シーファが弾いたはずのもの。奏多はそれを、弾かれたように見せかけてシーファの上空へと放り投げていた。

 更に、それを投げると同時に『必中』スキルも発動させている。結果、『光の剣』は地面に落ちる事なく、不規則な動きでシーファを追随する。


「っ、厄介なスキル持ちか!?」


 シーファはそれを避けるために、舞との間に距離をとった。それでもなお追ってくる『光の剣』を、豪腕で粉々に砕く。

 シーファがその挙動を終え、体が少しグラついた瞬間、そこを見逃さず舞が飛び出た。

 傾くシーファの顔面に、拳を突き出す。シーファは当然、それを受け止めようと構えた。


 だが、


「『纏雷』!」


 舞がそう叫ぶと同時に、彼女の拳に紫電が走った。それを確認したシーファは、人外の速度で体を反転させ、紙一重で躱した。その足元へ、舞は下段の回し蹴りを放つ。足には同じく、紫電が走っている。

 無理な状態から無理な動きで初撃を躱したシーファは、それをも躱すために地面を蹴りつけ、宙へと飛び上がった。

 それが、舞の狙い通りだと分かっていながらも。


 足を地面から離したシーファを、奏多が襲う。

 スキルで身体能力を三倍まで上げた奏多は、その拳を握り締めた。

 そして、拳はシーファの頰を捉えた。


「があっ!!」


 豪速で地面に叩きつけられたシーファは、自分を覆う砂煙の向こう側が光ったのを確かに見た。


「『光の奔流(シャインストーム)』!」


 追撃に奏多が放ったのは、文字通り光の奔流。

 奏多は再び『必中』を発動させて、それを砂煙へと撃ち込んだ。


「……ふぅ」


 シーファはため息を吐いて、手のひらを光に向ける。

 すると突然、光は真反対の方向へと、つまり奏多へ向かって方向転換した。


「なっ―――!」


 完全に不意を突かれた奏多は反応出来ない。

 その固まってしまった奏多を、隣にいた舞が手を掴んで引き寄せることで光を回避した。


「ありがとう、舞。助かったよ」


 奏多はシーファから目を離さずに礼を口にする。そして、続いて疑問を口にした。


「……今、何が起きた?」


「何だと思う?」


 砂煙から歩いて出てきたシーファは、ケラケラと聞き返す。


「……奏多、今のは」


「ああ、僕の攻撃を返された。……舞の『反射』と同じか?」


「それなら、回数制限があるはずですが……」


「ねぇよ、そんなもん」


 奏多と舞の推測を両断したシーファは、続ける。


「これを使うことになるとは思わなかった。それは素直に認める。だが……もう、オレに攻撃は当たらないぜ?」


「っ、奏多!」


「『千刃』、『桜花繚乱』!!」


 千本もの『光の剣』が、それぞれ不規則な軌道を描いてシーファへと向かう。

 今の奏多に出来る、最大火力の攻撃だ。


 しかし、それでさえも。


「ほれ」


 シーファが手のひらを向けると、千本の剣は一切に向きを変え、奏多へと襲いかかった。


「おいおい、『必中』も使ったんだけど!?」


 奏多は自分に襲いかかってくる眩い剣に手を向け、『スキル解除』を発動する。

 その判断もある意味で博打だったが、『光の剣』は問題なく霧散した。


「支配、ではないか。やっぱり、反射か?」


「来ます!」


 舞の声と同時に、シーファの姿が消えた。少なくとも、奏多にはそう見えた。


『未来予知』と『気配察知』を同時に発動し、紅く光った目を右に向けた。

 そこには既に、拳を構えるシーファの姿が。


「はっ……!」


 シーファが拳を振り抜き、その場に爆音と爆風を残して奏多は姿を消した。


「奏多っ!」


「まずは自分の心配をしろよ、マイ」


「なっ!?」


 声と同時に、舞の視界をシーファの足が埋める。舞は咄嗟に左足を軸に体を回し、寸前で躱した。


「やるなぁ」


 だが、躱しきれなかった攻撃によって、少し遅れて彼女の頰に傷が走る。


「っ!」


「だが、甘い」


「うっ!?」


 ほぼタイムラグなしで腹を穿ったシーファの拳が、舞を軽々と宙へと浮かした。


「がっ、はっ!」


「おら、もう一丁!」


 再び放たれた拳に対し、舞は『反射』を発動。だがそれはシーファの腕を少し弾く程度に終わる。


「お?」


 シーファは自分の腕に目をやり、少しだけ笑みを浮かべた。

 その一瞬の隙を、舞は見逃さない。


「『雷天』!」


 未だ宙に浮き、苦痛に顔を歪め、それでも舞は叫ぶ。それと同時に、空が真っ黒な雲に覆われた。

 バリバリと帯電している空は、舞の真上に収束していく。


「『豪雷』っ!!!」


 雷鳴と共に、雷が落ちた。真っ黒な雷が。


「こりゃあ、やべぇな」


 その矛先に佇むシーファは、ヘラヘラと笑みを浮かべ、手を雷に向けた。

 それだけで、雷は直角に向きを変える。本来ならあり得ない動きに、舞は瞠目した。


 そして、


「ああああああああああ!!!」


 雷が直撃した舞は、絶叫を上げた。


「おーおー、えげつないなぁ」


 雷が消えた後には、全身が黒く焦げた人型の何かだけがあった。それは力無く地に伏す。


「……死んだ?死んだな。死んじゃったか。もうちょっと楽しめると思ったんだが……オレが強すぎたせいだな。よし、クリネア連れて行くか」


 シーファはぶすぶすと煙を上げる舞に背を向け、クリネア達が逃げた方角へと視線を向ける。


 シーファは不敵な笑みを浮かべ、少し歩いた。

 そして、


「っ!?」


 突如、全身が粟立つような殺気に襲われた彼女は、本能的(・・・)に背後に振り返った。





 ◇





 交差していた腕が、だらりと垂れた。力が入らない。

 多分、粉々に折れてる。


「いってぇ……」


 なんとか防御は間に合った。

 だが、身体能力強化だけでは受け止めきれず、こんなとこまで弾き飛ばされてしまった。


 挙句、両腕骨折。

 酷い有様だ。魔将、強すぎだろ。


「ああああああああああ!!!」


 絶叫が聞こえた。分かりづらいけど舞の声だ。

 見れば、雷に打たれた舞が倒れ伏すところだった。


 やばい。舞、生きてるか?


 それに、僕も舞もいなくなれば、次はクリネア達だ。あそこには、悠がいる。


 ……悠が危ない。


 シーファがクリネア達が逃げた方へ歩いて行くのが見えた。


「……ふぅぅぅぅ」


 息を吐く。


 シーファは確実に僕より強いけど、負ける訳にはいかない。


 悠を助ける。悠を守る。


 悠のために、戦う。





 ―――カチリと、音が聞こえた気がした。







お気づきの方がいるかどうかは分かりませんが、第二章のタイトルを決めました。あと、第一章のタイトルを少し変更しました。

なんか、この方がかっこいいかなーって理由です。深い意味はありません。



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