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クラスごと召喚 〜自由気ままに異世界生活〜  作者: 剣玉
第二章 灰色ノ世界ニ生キタ少年
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第二十話 危険なおとこ

 




 ◆





 父上から『光の勇者』ヒムロ・カナタ様のそばで、彼の本質を見抜く任務を言い渡された私(わたくし)は、次の日には第五地区へ来ていました。


 久しぶりの第五地区は、正直心が踊ります。

 私だってまだ十九歳。まだまだ楽しいことが大好きです。

 ですが、今回は遊ぶために訪れた訳ではありません。気を引き締めなければ。


 ローブを深く被り、正体がバレないようにします。カナタ様達にバレるのはいいのですが、街の方々にバレるのはまずいでしょう。


 まずは、街で聞き込みをします。カナタ様の特徴を伝え、見覚えがないか尋ねるのです。

 すると、お年寄りの方が見覚えがあると言いました。


『ああ、この少年なら見たなぁ。確か、温泉で覗きをしたとかなんとかで、女共に追いかけ回されていたっけ』


 勇者であるにも関わらず、覗き!


 この衝撃的な話を聞いて、私の中でカナタ様の危険度は上がっていきます。


 更には、


『幼女を噴水に投げ込んでたな。あの少年は外道に違いねぇ』


 などとも聞きました。


 なんと、幼女を公衆の面前で噴水に放り投げたというのです!


 もう許せません。これはそばで様子を見る必要もありません。排除するべきです。


 そう決断し、報告のために第一地区に戻ろうかと考えている時でした。


 路地裏の方から声が聞こえてきました。


『……ほら、財布出せよ』


『ひ、ひぃ……』


 どうやら、カツアゲのようです。

 私は路地裏をそっと覗き込みます。そこには、一人の男と少女がいました。

 少女の方はまだ小さく、幼女と言ってもいいかもしれません。


『おい、クソガキ。僕は財布を出せと言ったんだ。意味が分からないってことは、ないだろ?』


『う……で、でも……』


『でも?』


『ひぃ!!』


 下劣、としか言いようがありません。


 力がないからと言って恐喝する。そんな低レベルな者がいるだなんて、我が国ながら恥ずかしくなってしまいます。


『そ、その、わたしのむらはびんぼうなので、どうかみのがしてください』


『ダメだ』


『なっ、なんでですか!?』


『なんでって、それは僕のものだ。君の村は関係ないだろ?』


『うぅ……その、なんでもしますから』


『なんでも?』


『は、はいぃ。わたしの"からだ"をすきにしてもらってかまいません』


『……それ、誰から教わったの?』


『ままから、おそわりました』


『そうか』


 あの子の母親は、頭がおかしいのでしょうか?


 いえ、今はどうでもいいことです。

 あの男の目も、どこかいやらしい目つきに変わった、ような気がします。


 私はちょうど見回りをしていた自警団の方に通報し、そして路地裏へと突入しました。


「お待ちなさい」


 そこでやっと、気づきました。

 信じられないことに、たった今、恐喝していた男は、あのヒムロ・カナタだったと!


「あなた、何をしているのですか?」


「何って、見て分かりません?」


 なんとか冷静を装って尋ねた私に、この男は平然と聞き返してきました。

 お淑やか且(か)つお淑やかで、更にはお淑やかな淑女であるこの私にも、我慢の限界はあります。


「ええ、分かりますよ?あなたが小さい子に乱暴しようとしていることぐらい!」


 思わず声を荒げて取り乱してしまいました。ですが、仕方ありません。


「え?ちょっと……」


 ヒムロ・カナタが何かを言おうとしています。ですが、聞く必要などありません。


「黙りなさい!性犯罪者の言葉など、聞く耳を持ちません!」


 私は怒鳴りつけます。この国の第一皇女として、やる時はやらなくてもいけないのです。


「そんな小さい子に手を出そうとするなんて、恥を知りなさい!」


「ちょ、だから待てって……ん?」


 またも反論しようとするヒムロ・カナタが話し終える前に、近くで笛の鳴る音がしました。

 自警団の到着です。


「なんだ?」


「ふん、私がここの自警団に通報したのです。大人しくお縄につきなさい!」


「なっ、なにしてくれてるんだよ!!」


 ヒムロ・カナタの困った顔を見て、少し胸がすく思いです。


 ……はしたない、でしょうか?


「くそ!」


 私が自分の行いを少し鑑みていると、ヒムロ・カナタはそう言って逃走してしまいました。

 助走もなしに、屋根へ飛び上がり、そのまま屋根伝いに逃げてしまったのです。


 私を抱えて。


「ちょっと!なにをしているのですか!私まで巻き込まないで下さい!」


「え」


 ヒムロ・カナタはそこでやっと私に気づきました。


「しまった、つい」


「つい、じゃありませんっ!離しなさい!」


 馬鹿なのですか!?

 この男は馬鹿なのですか!?


「はい」


 と、突然私の体を浮遊感が襲いました。見れば、ヒムロ・カナタが私を手放したようです。

 私は慌ててこの男の腕にしがみつきました。


「ちょっ、ちょっと待ちなさい!こんなとこで離すなんて、何を考えているのですか!?」


 馬鹿です!

 この男は馬鹿です!!


 間違いありません!


「……どっちなんですか?」


「普通に考えて、どこかに降ろしてからでしょう!」


「僕逃亡中ですよ?それじゃあ、離すのはまたあとでってことで」


 そう言われては、今の私には何も出来ません。

 せめてもの抵抗に睨みつけましたが、ヒムロ・カナタはそれを無視して、もう片方の腕で担いでいた猫耳の少女の方を見てしまいました。


「………」


 それにしても、父上以外の男性に触れられるのは初めてです。


 ごつごつはしてませんが、それでもしっかりとした体躯。

 落とさないように強く、そしてどこか優しく私を抱きかかえる腕。


 少し冷静になると、今の私はヒムロ・カナタと密着している状態です。


 ………。


 はっ!

 私とした事が、ついうっとりしてしまいました。


 とにかく私は、この男を絶対に認めません!





 ◇





「はぁ」


 とりあえず、芸術街の方まで戻り、一番背の高い建物の屋上に降り立った。

 くねくねし過ぎてもはや何なのか分からない建物だ。


「とにかく、財布出してもらえる?」


「っ!あなた、まだカツアゲしようとしているのですか!?」


 ああ、この人がいるの忘れてた。


「……君は、人の話を聞くことを覚えた方がいい」


「なっ!犯罪者のあなたにそんな事を言われる筋合いはありません!」


「筋合い大ありですよ。僕がいつカツアゲしました?」


「たった今!目の前でしているでしょう!?」


「……はぁ。話にならない」


 思わずため息をついてしまった。


 僕の態度が気に食わないのか、ローブの女性が僕の胸ぐらを掴む。

 僕はその手を払いのけ、そのまま地面へと叩きつけた。


「かっ!?」


「僕は、この子に財布をスられたんだ。その財布を返せって言って、何がおかしい?」


「なっ……!」


 ローブの女性は絶句し、猫耳少女に視線を向ける。

 少女はおどおどしくも、確かに頷いた。


「そ……んな……」


「ほらね。最初から聞く耳を持たないから、こんなことになったんだ。ほんと、迷惑極まりない」


「くっ……!」


「まあ、確かにさっきの僕達の会話だけを聞いたら、悪者は完全に僕だったけど」


 僕はローブの女性をそのままに、猫耳少女の元へと向かう。少女は怯えて動かない。


「さて、返してもらっていいかい?僕にも予定があるし、こんなくだらないことにあまり時間はかけたくないんだ」


「……わかりました」


 少女は頷いて、財布を僕に渡してきた。

 これで一件落着だ。


「ちょ、ちょっと待って下さい」


「……なに?」


 女性が僕に声をかける。正直、この人とはもう関わりたくない。


「そ、そんな嫌そうな表情をしなくてもいいでしょう!?」


 女性は少し泣きそうな声音で訴えてきた。


「嫌なんだから、仕方ないだろ?それで?なに?」


「うぅ……その子の村が、その、大変なんでしょう?助けようとか、思わないのですか?」


「僕にそんな力はないからね。出来もしない事をやろうとするほど、僕は器用じゃないんだ」


「力ならあるではないですか。あなたは勇者でしょう?」


 ……なんで知ってるんだ?

 まぁ、今はいいか。


「関係ないよ。……本当に守りたいもの一つも守れない僕が、他のものなんて守れるわけないだろ?」


「あなたは……」


「話は終わりだ。僕はもう行く」


「あっ、あの、わたしもいっしょにおろしてください。ひとりではここからおりれません」


「……ん、そうだね。ほら、掴みなよ」


 そう言って手を差し出す。少女はおずおずと手を掴んだ。


「じゃあ、行こうか」


 少女を抱え、建物から飛び降りる。

 耳元で少女の絶叫が聞こえるが、無視だ。とてつもなくうるさいけど。


 ズダンッ、と音を立てて着地する。強化はしていたから痛みはないが、地面に蜘蛛の糸のようなヒビが入った。


「さて……」


「………?」


 どうしようか。


 ……流石に、このままこの子を放っておくのは違う(・・)気がする。


 ただ、どうするか。

 さっき言ったように、村を救う力なんて僕にはない。


「……これ」


「?」


 猫耳少女に僕の財布を差し出す。


「僕にはこんなことしか出来ないけど、あげるよ」


「っ!」


 猫耳少女の表情がパッと明るくなる。

 こう見ると、可愛らしいただの女の子だな。


「あ、ありがとうございます!」


 少女はペコペコと頭を下げる。僕は笑みを浮かべ、その場を後にした。


 ……あのローブの女性は、果たして一人で降りられるのだろうか。




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