第十四話 出発
◇
「仁和寺風香が、犯人でしたか……」
舞に事の真相を話した。どうせ黙っていても、そのうち知られることだし。
「それで、奏多が殺したと?」
「まぁ、そうだね」
「なぜ?」
「僕を殺そうとしたから」
「そうですか……」
舞はどこか苦い表情を浮かべている。はて、なにかおかしいこと言ったかな?
「それよりさ、ほら、第五地区に行く計画を立てようよ。なんか報酬金ももらえるみたいだし、お金の心配はいらないと思う」
いくら貰えるかは分からないけど、王様の依頼をこなしたんだ。期待してもいいだろう。
「……そう、ですね。ええ、そう!観光に行きましょう!」
楽しそうな声をあげる舞だが、その表情にはまだ少し影を残している。
「舞?」
「どうしました?」
「いや……」
追求するのはやめておこう。価値観を合わせる必要はない。
「出発はいつにしようか?」
「今から行きましょう!」
「いやいや、それは流石にきびしいよ。せめて明日とかじゃないと」
「じゃあ明日にしましょう!」
「……分かったよ」
なんだかんだで、楽しみなことに変わりはないらしい。見ていて微笑ましい。
悠の表情も、どこか穏やかだ。もしも喜んでくれているのなら、僕も嬉しい。
「第五地区は芸術と娯楽の都市でしょ?舞はどっちに行きたいの?」
「私はですね!どっちも行きたいです!」
「あ……うん。いや、それはいいんだけど、一応優先順位は決めておきたいじゃん?」
「ああ、そうですね……。なら、やはり芸術都市の方が行きたいと思います。芸術によって形成された街。楽しみです!」
確かに、芸術都市は楽しそうだ。何が楽しみかと聞かれれば、どんな街か想像がつかないとっていうところだ。
街自体が芸術作品のようだと聞いたけど、全くイメージがつかない。アート作品が至るところに置いているのか、建物なども全てアート作品のような形なのか。
「なにで行きます?」
「歩きでいいんじゃない?そんなに遠いわけでもないし」
「分かりました。今日のうちに荷物は纏めておきますね」
舞はそう言うと、僕の返事も待たずに居間から出て行ってしまった。どうやら、今すぐに準備に取り掛かるらしい。
ほんと、いつもとのギャップが凄くて反応に困るよ。
◇
翌日、冒険者ギルドで報酬金をたんまり貰った僕達は、早速第五地区へと向かうため、西門へ向かっていた。
隣で舞はテンション高く鼻歌を歌っており、悠も心なしか楽しそうに見える。
「氷室奏多!なんで!なんで風香を殺したの!?」
そんな時、背後から僕を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、そこには仁和寺さんと仲が良かった野村さんが立っていた。周りには、他の待機組の姿もある。
「……なんでって?」
「とぼけないで!あんた、風香を殺して『光の勇者』だとかなんとか言われて、良い気になってんじゃないわよ!この人殺し!」
うーん、つまり、なんだ?
仁和寺さんを殺したことを怒ってるのか?それとも、僕が『光の勇者』って呼ばれてることを怒ってるのか?
「確かに、僕は人殺しだけど……」
「なんで風香を殺したのよ!?」
ザワザワと、僕達の周りにギャラリーが集まってきた。ちょっとめんどくさい。早く出発したいんだけどな。
そう思って舞に視線を送ると、舞は目を瞑って少し悲しそうに頭を横に振った。
「今三上さんは関係ないでしょ!早く答えなさいよ!」
ああ、もう、うるさいなぁ。
「仁和寺さんが僕を殺そうとしたからだよ。そもそも、王城でメイドさんを殺したのは仁和寺さんのせいだって聞いたでしょ?逆に聞くけど、なんでその仁和寺さんを庇うのさ」
「風香がそんな事するわけないでしょう!?どうせ城での事件も、あんたがやって風香に押し付けたんでしょ!」
「なにを根拠に……」
「あんただって知ってるでしょう!?風香は特別気が弱いんだって!そんなあの子が、人殺しなんてするわけないでしょうが!」
それは、君が仁和寺さんに騙されてたからだよ。
……なんて言えない。
仁和寺さんは誰にも知られたくないから、自分を騙してまで二重人格を演じていたんだ。それを、今ここで僕の口から明かすのは違うと思う。
「知らないよ、そんな事。僕は事実しか話していない」
「っ、お前ぇぇぇぇ!!」
野村さんがナイフを手に、物凄い形相で襲ってこようとした。が、それを後ろにいた京一が止める。
「止めないで!石橋君!」
「落ち着きなって!少しだけ!少しだけでいいから僕に時間を欲しい!」
「時間……?」
「そう。少し、奏多君と話したいんだ」
「あんな奴と話しなんて……!石橋君は、あいつが怒ってないの!?クラスメイトが殺されたんだよ!?」
「……ごめん、僕に、その感情はないから」
「っ、……分かった」
京一の少し寂しそうな表情を見て、野村さんは口を閉じて手を下ろした。相変わらず、僕のことを睨みながら。
「やあ、奏多君」
「どうしたの?話したいことって?」
「……周知の通り、僕は怒りって感情を知らない。だから当然、君に怒りを抱いていない。けど、聞きたいことはある」
「なに?」
「君は人を、仁和寺さんを殺した。事実かい?」
「ああ」
ギリッと、歯を食いしばる音が聞こえた。野村さんだ。
「悪いとは、思わないのかい?」
「………?逆に、何が悪いのか教えて欲しい」
「お前っ!」
「可奈!」
再びナイフを握り締めた野村さんを、彩音が止めた。
僕は続ける。
「仁和寺さんを殺さなきゃ、僕が殺されるところだったんだ。仕方ないだろう?」
「……正直、僕も信じられないけど、ここは信じることにしよう。仁和寺さんがメイド殺しの犯人で、君を殺そうとした。これが真実だと仮定して、それでも、君は少しも悪いと思わないのかい?人を殺したのに?」
「うん」
当たり前だ。
「……一般的には、人を殺してはいけないっていうのは知ってるかい?」
「もちろん」
バレたら捕まるしね。
「じゃあ、なんで人を殺すのがダメだと言われているかは知ってるかい?」
「さぁ?」
肩を竦める。そこまで僕は賢くない。
「少し哲学的な話になるけど、『人を殺してもいい』となってしまえば、『自分も殺されていい』っていう事になってしまうからだ」
ふむふむ。確かにね。でもそれなら、
「じゃあ、やっぱり僕は悪くないよね?」
「……え?」
「仁和寺さんは僕を殺そうとした。なら、仁和寺さんが殺されても文句は言えない。そういうことだろ?」
「いや……それは、」
「そもそもさ、それはおかしいよ。その言い方だと、『人を殺さない』のなら、『自分も殺されない』ってことになるだろ?」
「それの何がおかしいのさ?」
あれ?なんで分からないのかな?
「だから……」
「屁理屈はもういい!今すぐ私が殺してやる!」
野村さんが彩音の制止を振り切って、僕に向かって走ってきた。とりあえず、彼女の足元を『光の賢者』の力を使って軽く爆ぜさせてこかす。
そして、京一に向き直った。
「だから、その理屈で考えるなら、僕の両親はどうなるんだよ?お父さんもお母さんも、誰も殺してないのに殺されたよ?悠の家族だってそうだ。誰も殺してないのに、殺された。それはどうなるんだよ」
「そ……れは……」
「ほら、答えられないだろ?別に僕は君の話を否定してる訳じゃない。『人を殺してもいい』なら、『自分も殺されていい』。大いに賛同するよ」
そう、それはおかしくない。当たり前の話だ。そんなこと、ずっと昔から知ってる。
「でも、それなら」
「ああ、僕は殺されても恨まないよ?もちろん死ぬのは嫌だし、怖いけど、それでも相手を恨んだりはしないさ。まあ、簡単に殺されてやるつもりもないけど」
見れば、京一は目を見開いていた。野村さんも、彩音も、他のみんなもそうだ。
「……な、なら……ここで、今!殺してやるぅぅ!!」
「……だから、簡単に殺されるつもりはないって」
突き出されたナイフを、後ろに退いて躱す。と、そこでナイフが凄い速度で伸びてきた。野村さんのスキルだ。
「『光の剣』」
左手に剣を顕現させ、ナイフを受け止めた。
周囲が少し騒めく。多分、僕が光の剣を生み出したからだろう。
ギリギリと耳元で金属音が聞こえる。野村さんは本気で僕を殺そうとしているらしい。いつの間にか、空いている手にもナイフが握られていた。
「……はぁ」
伸びてきたそのナイフを、今度は『光の壁』で受け止める。ナイフは壁にぶつかって半ばで折れた。
すぐに、左手で握っていた『光の剣』に力を込め、もう片方のナイフを叩き折る。ナイフはただの鉄だ。スキルで作った僕の剣には敵わない。
「………」
剣を構える。そして足を踏み出そうとして―――右足が石化していることに気付いた。
「……凛か」
津田凛。睡眠欲が非常に強く、基本的にいつも寝ている子だ。
彼女が野村さん達と一緒に来ていることには驚いたが、それ以上に僕を止めたことに驚いた。凛は基本、何事にも不干渉を貫いているのに。
「……奏多。公衆の面前で、流石にやりすぎ」
「それ、君に関係ある?」
「……『勇者』の立場が悪くなれば、私もただ寝ているだけじゃいられなくなる」
「なるほど」
とりあえず石化をそのままにして、再度野村さんに視線を向ける。
「なんなのよ……、なんなのよあんたは!なんでクラスメイトを殺しておいて、そんな平然としてられるのよ!」
野村さんは鋭い眼光を僕に向けて、そう叫んだ。
「さぁ?僕からしたら、その質問の意図がよく分からないけど」
「……は?」
「クラスメイトクラスメイトって、クラスメイト以外の人なら殺してもいいの?」
「そ、れは……!」
「それにさっきも言ったと思うけど、僕の中で人殺しは特別なことじゃない。だから、平然としてるのも普通だよ」
当たり前のことをした僕に、なぜ平然としてるのか、と聞かれても答えられない。それが普通だからだ。
「……なんなのよ、あんたは……」
野村さんは膝をついた。どうやら諦めたらしい。
「……ねぇ」
彩音が僕に声をかけた。彼女と話すのも久しぶりだな。
「奏多君はさ、本気で自分は悪くないと思ってるの?全く?これっぽっちも?」
そんなことを聞かれた。何を今更。
「当たり前だ。僕がそんなことを思うわけがない」
ついに、誰もが黙った。どうやら決着はついたらしい。
僕は右足の石化を『スキル解除』で解くと、西門の方へ振り返る。
「行こっか」
「はい」
舞に声をかけ、歩き出す。さあ、ついに第五地区へ出発だ。
「……返してよ……。風香を、返してよぉ……」
最後に、背後から野村さんの声が聞こえた。別に放っておいてもいいんだけど、期待してたらいけないから答えておく。
「野村さん。死んだ人は、何があっても帰ってこないよ?」
友達になりたくない系主人公。
このままだと主人公がただのサイコパスになっちゃうので、明日にでも彼の過去編的なものを投稿します。
いや、それでもあんまり変わらないかもしれないですけど。




